45話 負けてはいけない賭け
アスターのベッドで一緒に寝た。
悩み相談出来てスッキリした。
しかし、朝にはアスターがいなかった。
仕方なく家に転移して帰るとお父様がまだ帰って来てないという。
さすがに心配になったが、エイリーン兄上が食事して、アスターを待つよう言ったので、早めの朝食を食べ自分の部屋でアスターを待ってたら転移して来た。
右手には書類の束が握られていて、左手にはサンドイッチが握られていた。
書類の束を私の前に置いたアスターはアイテムボックスから色々食事を出しテーブルの半分を占拠すると席について食べ始めた。
「書類を読んで下さい」
1枚目は馬場の建設に着手した報告だった。
どちらかと言えば遊ぶ為に特化した施設で子供や観光客の為の動物達とのふれあい牧場になるようだ。
馬の他に牛や羊、ウサギ、モモンガ、リスや、オウムなどの美しい鳥達も飼育して馬には乗ったり、乳牛には乳しぼりを体験させたり、他の動物達には触れてエサを与えてみたりするらしい。
さすがアスターの考えた施設。面白そう!
あとはパンや簡単なお菓子を作ったりする厨房も用意するようだ。
そしてメインは大きな食堂。
朝から夕方までの営業で酒は果実酒の様なオシャレで軽い飲み物しか提供せずに食べ物が作り置きしてあって好きな物を大銅貨2枚払って好きなだけ食べられるという不思議な食堂らしい。
シェフはドラゴンフレーバーから専属の料理人が来てもう、従業員寮その1の厨房で研修を開始したらしい。ルメリーさんはやる事が早い。
あとは帝国の伝統的な衣装や流行りの服を着たり、買ったり、剣や武器を購入出来たりする総合商業施設で建築費や諸々の経費などで公用金貨15億枚かかりそうだと言う見積り書に私の署名をする。
なお、お金はサインしてから私の冒険者ギルドの口座から引き落としになるという。
2枚目は飛空艇乗り場からその総合商業施設までの幌馬車隊を編成すると言う予算と許可。
もう幌馬車隊は馬と幌馬車を5台分ほど購入したと言う報告。2億枚渡してる中からとりあえず公用金貨5000枚程使ったらしいので、その分の引き落としと承認。署名した。
3枚目はチェルキオ語の施設内のガイドと施設内で働く従業員達の名簿の提出。
これはお父様が管理しているのでお父様が帰って来てからになる。保留。
4枚目はバランからアスターへの報告。
アスムの街は1カ月足らずで税が倍に上がり街に元からいた人以外は街から逃げ出しているような有り様になりラムズ公爵家治安部隊を名乗るならず者達がちょっと現在の公爵家の在り様を騎士達に言いつけると、翌朝には死体になって広場に晒されているらしい。
ラムズ公爵家内にいた見目のいい使用人達は、奴隷として売り飛ばされていて、酒場の酌婦などが公爵邸に出入りするようになり、現ラムズ公爵家の中を我が物顔で歩き回っていて酒場で自慢してるのをバランが見たと言う。
そこでハンナ達が王都に移り住みたいと言ってるので引っ越しを手伝って欲しいと言うお願いだった。
街から出るには1人公用金貨100枚が必要で資金援助を頼むと追伸で書かれていた。
「アスター」
「……お茶をもらって来ます。書類には全部目を通してくださいね?」
5枚目はルメリーさんから私への報告書。
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ケイトスくんへ
アスター様とお知り合いだったなんて驚きましたが、これでいろいろ頼みやすくなりました。
総合商業施設はロトムが考えた案ですが、広い土地が安く入手出来なくて半分諦めていました。
実現に向け頑張りましょう!
ふれあい牧場とバイキングレストランは7月までに開業を目指しています。
それから屋敷の件はもう着手しました。アスター様に早く仕上げて欲しいと頼まれたので魔法建築士にも頼んで10日後には改築終了するそうです。
他にもたくさん案があるので無理しない程度に頑張りましょう!
学校の事は冒険者ギルドから学校に相談する方がいいので今日バラム様が言ってくださるそうです。
多分、大丈夫ですよ。
今夜22時に冒険者ギルドにアスター様と訪ねて来て下さい。
新規事業の提案をさせていただきます。
ルメリー。
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6枚目はハンナから私への手紙だった!
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ケイトス、ちゃんと食べてるか心配してる。
アミュレットありがとう。
作り方がわかったから作って見る!
私達も王都に行く事が決まったわ!
…と言っても、アスムのこの店みたいな何でも揃った物件は高くて、バラン様達でも無理だと言われた。
顧客には挨拶廻りしたわ。
皆、王都に移り住むそうなので店が決まったら連絡する手筈にしたりしてるんだけど工房と店見つかるか心配で仕方ないよ!
ケイトス、皆アンタの事まともに食べてるか心配してる。
お父さんなんか毎日こんな事になるなら養子には行かせなかったのに!って言う。
ヒュージおじさんはそんなお父さんに今度会ったら謝れって言ってるし。
私がさらわれたのは、私の油断だから、それに助けてくれた。ありがとうね!
サテルがケイトスの家庭教師になるんだって聞かないから、ひと月大銅貨5枚でこき使ってやって。ハンナ
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「サテル兄さんの家庭教師!アスターいくらくらい払ったらいいかな?」
ティーセットを持って来たアスターに聞くと香草茶を入れながら答えてくれた。
「何を教えてくれるのかにも、よりますけどね。どうぞ、お飲みください。…そうですね、帝国の歴史や国語なんかはバランにも教えられない事があるので相場より少し高めのひと月大金貨3枚くらい差し上げていいんじゃないでしょうか。
貴族としての作法とリトワージュ流体術はバランが教えますね。
私は数学とヘキサゴナルの歴史と国語で筆記体の練習を教えますね」
「アスターとバランにはいくら支払ったらいい?」
「私は商会からお給料が出てますし、貴方に養ってもらっていますから、そのお礼に教えるだけですから、いりません!バランは公爵家出身ですから、公的な場では嫌ってほどお金がかかるのでひと月大金貨5枚あげて下さい」
「…アスター私が今日の午後予定が空いたら、連れて行きたい所がいくつかあるから予定を空けていてくれない?」
「わかりました!午前中に仕事を済ませて店で待っています。他にも何かありますか?」
ギルドタグのネックレスをアスターに渡す。
「公用金貨1000枚引いて来て」
「かしこまりました。しかし、素敵な仕立てのいい服を着てらっしゃいますね。アレク様。とても良くお似合いです」
「それがね、仕立て屋さんからの全部貰い物で200着ぐらいあるんだよ。お礼しないと悪いからアスター協力してお願い!!!」
「……ズルい言い方をなさるようになりましたね!わかりました!でも、大人の物は高いですから2着で良いですからね。サインはなさいましたか?」
「……うん!ありがとう!ハンナの手紙嬉しかった!」
「アミュレット大変喜んでるそうですよ。もう少しでチェルキオ聖教の教会を作れますから、そうしたらアミュレットも売れるようになりますからね?」
壮大なスケールの販売店だなぁ。
やっぱりアスターだね。
アスターがティーセットを持って1階に降りた瞬間に勢いよく玄関のドアが開いた。
そこから1人の貴婦人が突進して来て咄嗟にアスターは2階の私のいた廊下に転移して来た。
登校の時間になったからお母様に挨拶してから行こうとしたのだが、貴婦人はそのお母様の座って食事をしてるその姿を見て号泣してる。
「……マリサ、泣かないで?どうしたの、お父様が亡くなったの?」
「姫様が一人で給仕もされずに酒場の女のような服を着て、こんなあばら家の玄関で乞食の食べる物を食べてるからです!さあ!!!ドレスに着替えて綺麗に支度をしましょう!」
宝石が縫い付けられた水色の見るからに高そうなドレスを女官達2人が持ってくるとお母様は食事を忘れて立ち上がった。
「……まあ!!!素敵!どこに行くの⁈」
「……着いてからのお楽しみでございます」
お母様は女官達とお父様の部屋に入って行った。
玄関には疲れ切ったお父様の姿があった。
2階の吹抜けから下を見ていた私達2人の所へ階段を上ってきたお父様は私に外出した理由を言った。
「……あれを、エイベルを王宮に半年ほど返す事にした」
そして、どうするのだろう?
「エイベルは王宮に帰ったら身分の高い男の所に嫁がされるか、離宮で優雅に暮らせるが幽閉されるか、私達の所へ戻るか、半年かけて選択を迫られる。だから、笑顔で見送ってくれるか?」
「お父様がそう言うなら」
あの貴婦人の失礼な発言も宝石の付いたドレス一つに喜んで聞き流すような人には平民の暮らしは難しいだろう。
お母様は1時間後、まるでお姫さまみたいに着飾って私達に視線を寄越す事もなく王家の馬車に乗って出掛けて行った。
お父様が廊下に崩折れて泣いている。
私はお父様に我慢して偉かったねと呟いて私も泣いた。道場から朝稽古が終わって家に帰って来たエイリーン兄上がアスターから事情を聞いて私達の所へ来て決然と言う。
「父上、母上が私達に思いがあったなら帰って来るでしょう!母上に決断をする事を押し付けた私達はどっちにしろ泣いてはいけないのです!」
「……すまない!私はもう賭けに負けてしまったのだ!もうエイベルは2度と帰って来ない!」
お父様は涙ながらに語った。
「エイベルがマリサ夫人にドレスを着せられて馬車に乗せられたなら、今後一切関わらない事を契約させられた!帝王陛下に!」
「どうしてそんな真似をしたのです!母上には赤ちゃんが居たのに!」
お父様はエイリーン兄上と私に笑って言った。
「エイリーン、それはアレがついた嘘だ。もう私には子供を作ることが出来ないんだ。性器を病気で切ってしまったんだよ。エイリーンがまだ赤ちゃんの時に」
お父様はエイリーン兄上と私の頭を撫でて言った。
「……それもあってな、エイベルの元王女として相応しい相手に嫁がせてやれるなどと言われても私はドレス1枚と馬車1つでエイベルは変わらないと信じていたのだ!エイリーン、すまない!」
また泣き始めたお父様にエイリーン兄上はその肩を貸して気がすむまで泣かせてあげていた。
私は今日はズル休みする事にした。
今はお父様とエイリーン兄上の2人きりにしてはならないと思ったのだ。
お父様は泣きまくった後、寝るからベッドを貸して欲しいと私に言ったので、どうぞと返して気が付いた。
お父様の部屋にはお母様の物が溢れている!
「……兄上、泣く前にお父様の部屋を片付けよう!そしたら兄上も住めるし!午前中に片付けるよ!」
「アレク抱っこさせてくれ!」
「どうぞ!そのままお父様の部屋に歩いて行ってくれる?兄上」
1階に降りたらお母様の物を片付けてるキャサリンとヨランとアスターの姿があった。
平民としては豪華なドレス達は近所の下位貴族の奥さん達に配り、アクセサリーはキャサリンが売り捌きに行ってしまってお母様が居た証拠はベッドとダイニングの椅子だけ。
アスターが、自分の部屋から毛皮やキルトで作られた椅子の背もたれのカバーなど持って来て全く知らない部屋に模様替えしてしまった。
よっ!さすがアスター!
アスターがバランの冒険者仕様の服も持って来ていてエイリーン兄上に着せたら、冒険者ギルドへ転移だ!
預金の引き出しをしてローザ工房でお買い物だ!