44話 私の騎士達
夜明けに道場に行くとお父様も一張羅を着て道場の真ん中にいた。
「騎士の誓いを正式に行う!アレクこちらに!コリンズくん達は向かい合うように立ちなさい」
私は東に立ちお父様が審判のように真ん中に立った。
「誓いを立てよ!」
「「「「はい!ラン先生!」」」」
お父様は自分の事を弟子達に「ラン先生」と呼ばせている。割と小さい子が多くて、夜は大変らしい。
3人同時に誓いを立てるようだ。
私の前に横並びにコリンズ、リンディー、ロベルトの順で座った。
ロベルトの髪はもう切れないくらい短いがコリンズも、化粧の刷毛くらいしか残ってない。
無理矢理 鉄管で留めてる感じだ。
その鉄管を外して来ている。
「髪切らなくてもいいからね?」
私がそう言うと3人は驚いた顔をしている。
「大事なのは心、だから。今のウソのない気持ちで誓って下さい」
帝国風に相手から誓って貰うスタイルにするみたいです。
お父様が司会兼立会人だ。
剣は捧げられたらさやのまま肩に触れてそれでお終いらしい。
だから、ヘキサゴナルのスタイルで誓いを述べさせるのは帝国的には嫌がらせと捉えられたようで、多くの生徒がショックを受けたようだ。
言葉を交わさない誓いの儀式は5分足らずのうちに終わった。
「……これから正餐会に移る!居間に移動せよ」
うわ!嬉しい!お腹空いてたんだ!
しかし、食事は豆の味が極端に薄いスープと1つの小さなパンだった。
まず私が騎士達にパンを等分して与えて騎士達はそれを食べるという儀式でスープもまず騎士が飲んでから
主が飲むという回し飲み方式。
「貧しい時もお互いが尊重し合えるようにという意味がある。さあ、正餐が終わったら名付けの儀式だ」
要するに愛称を付け主人が終生それで呼ぶという儀式だが、現代ではそんなに長い名前を付けるのは帝王陛下ぐらいでそれぞれの名前を私が呼んで騎士達が返事してお終い。
「次は戦支度の儀式だ」
まだまだ朝は寒くて息が白い時期にさむ〜い道場で騎士服に着替えさせられるとか修行かな?
3人の騎士に着替えさせられて、剣帯と剣も着けられブーツとマントまで着けられた。
「今日は家に帰るまでその格好でいるように!」
「ええ!風邪引いちゃうよ!」
ロベルトがお父様に抗議してくれた。
「……仕方ないだろう毛皮の裏打ちのあるマントなど買えなかったのだから」
「ありがとうございます。お父様。大切にします」
あの時、飲みに行くんじゃなくて、マントを買いに行ってたんだ。
お父様あの日遅かったもの。
「今日は真っ直ぐ帰って来なさい!学校には間に合うように走って行くように!」
完徹して腹ヘリマラソンとか!パン!!!パン食べたい!!!お腹いっぱい!!!
しかし、3人は慣れてるっぽい。
4人でお腹をグーグー鳴らしながら登校し、私の教室で私を護衛しながら立って勉強してる!びっくり。
相変わらず私の担任は決まってないので私は自習。
年の近いロベルトに聞くと幼稚舎では、遊びながら文字を覚えたり、絵を描くのが1日のルーティーンで勉強と言えば絵本を読むことらしい。
昼まで算数の授業をリンディーにしてもらって、かなり、上手に解けるようになった!
リンディー先生!昼からもお願いします!
そして待ち望んでたお昼の時間!私は転移して食堂の大量の料理を食べられる列に2番目に並び騎士服を着替えてから来るようにと、誰かの騎士さんに親切に言われた。
「……すみません。礼を欠いてしまっているのなら謝罪しますから、今日はこの格好で許してください」
「……ひょっとして騎士の誓いの日?ですか」
帝国人の貴族には多い金髪に水色の目の穏やかな騎士さんは私に目線を合わせると人数とお腹の空き具合を聞いてからコックのおじさん達に騎士の儀式の日のメニュー、お腹いっぱい版を注文してくれた。
「熱くて重いから、自分の騎士に持たせるんだよ?」
「ありがとうございます!お兄さん!私はアレクシード=クロスディアです!」
「……君がそうなの⁈僕はクローネ=ラカン。高等科の2年生で生徒会の副会長をしてます。よろしくね」
「はい!よろしくお願いします!ラカン様」
「クローネ!!!お腹空いてるから早くーー!!!」
「はーい!!!じゃ、またね!本物の騎士様!」
ラカン様は、あの超重い3〜4人分の豪華料理を軽々と1人で持つと呼び声の方へと駆けて行った。
今日は銀貨4枚でいいと言われた。
ロベルト達が走ってやって来た。
「……置いて行くなよ!せめて一緒に転移な?」
「でも、食堂の列に並ぶの1人でいいでしょ?」
コリンズが私を小脇に抱えて歩いて昨日のテーブルではない所に席を取った。
「いいですか?騎士を持つ主人は世話をされることに慣れましょうね?」
「はい、ごめんなさい」
「走ったら余計にお腹が空いて来ますね。でも、騎士服で来ると1つの皿を人数で割られてしまうので、いつもお腹いっぱい食べらないのです」
銀貨4枚分の一皿に賭ける!
それに、ラカン様良い人だったもの!
期待して待とう!
ロベルトがひと抱えある鉄鍋を持って来た。
何入ってるのかな!ワクワクする!
リンディが取り皿とスプーンを持って来たが、3人の表情が暗い。
「よりによってソレか!」
コリンズの表情が険しい。
私は鉄鍋のフタをリンディーが布巾を挟んで開けたのを身を乗り出して覗き込んだ。
「うわぁ!鳥ガユだ!」
ヘキサゴナルの王都の屋敷でリョウちゃんが作ってくれた鳥の中華ガユは、ほんとうに美味しかった!
私はランタナにもらった解体用ナイフで鳥を捌き、4人に体格の順に多く入れたらコリンズとロベルトがマジ泣きしながら食べている。
小柄なリンディーは幾分か、ホッとした顔でしかし、覚悟を決めて食べて泣いた。
私は謎に思って一口あ〜んと食べて、生臭くてやられた。
「……ねえ、3人の中で料理したことがある人はいない?調味料を入れたいんだけども私は味オンチだから、誰か入れてください」
生臭くて食べれない時は塩か辛さで誤魔化すようリョウちゃんは言ってた。
ドラゴンフレーバー印のヘキサゴナルの王都のお土産、激辛キムチ!
ロベルトが瓶の蓋を開けて一口食べて水をガブガブ飲んだ。
「むちゃくちゃ辛いから入れて見よう!味わかんなくなるって!」
ロベルトは大盛りにした。
コリンズは少しだけ食べて美味しかったらしい!
端に寄せて積んで粥とキムチを交互に食べてる。
リンディーと私は瓶の底に少しだけ残ってる汁を半分ずつ粥に掛けて食べた。
マシにはなったが食べた気がしない。
午後からは皆お腹を壊して、トイレと教室を往復して過ごした。
下校時間になったら、4人で家まで転移して帰ってまた、道場で正装させられた。
そしてようやく、本物のご馳走を食べさせて貰ったが皆お腹が痛くて食べられない。
お父様が下町の救護院から治癒魔法使いを連れて来た。
「食あたりですね。一晩寝て様子を見ましょう」
4人で公用金貨4枚と良心的であった。
お母様が治療費を取りすぎだと怒っていたので、思わずポロっと言ってしまった。
「カルトラに来る前にお母様が熱を出した時には公用金貨1000枚取られましたよ?それを思うと安い物です」
「……だから、お金がないって言ってたのか!すまなかった!アレク」
お父様に謝られて困っていると、お母様はとんでもない事を言った。
「まぁ、でも私の命が助かるんなら安いものですわ」
プツリと何かがキレた音がする。
お父様は出掛けてくるといいエイリーン兄上は道場へお父様の代わりに稽古に行く。
私の騎士達は私を促して2階の部屋へ連れて行って着替えさせるとベッドに寝かせて布団を掛けて出て行った。
「……お母様、ご自分は特別なんだね」
エメラダ親子を思い出し嫌な気持ちになった。
涙を堪えていると部屋にいきなり誰かが転移して来た。
「……まだ、治ってらっしゃらないのかな?」
私は懐かしいその声の主にベッドから出ると抱きついた。
「アスター!アスター!!!わぁああああああん」
「……私の部屋に行きましょうか?」
うなづくと革の鞣した匂いがする部屋に転移した。
アスターが香草油を焚く。
フワリといい香りに包まれる。
明かりが灯ると部屋の片側の天井からフォレストウルフの革を鞣した物がたくさん干してあった。
他は平民の家と変わりなかった。
ちょっとだけアスターの実家の居間に似てる。
アスターはフォレストベアの毛皮を掛けたソファに私を座らせ、隣に自分も座った。
「2日前にお訪ねした時には魔力枯渇で眠ってらしたんで、帰って来たんですが、屋根裏の狭い部屋ではないではないですか!」
私は思わず笑った。また、お腹が痛くなる所だった!
「エイリーン兄上と同じ部屋で暮らしてるから呼べなかったけども、屋敷を買ったんだ。古いから直してからになるけどアスター来ない?」
「行きます!いつぐらいになりますか⁉︎」
「冒険者ギルドでルメリーさんに聞いてみないとわからない」
「ルメリー嬢ですか!聞いておきます。…バランも一緒に住んでもいいですか?
平民の文化に中々慣れないみたいでこの借宿の生活に困ってるんです」
「……お母様と一緒なのかなぁ?バランも」
気持ちが沈んでしまう。
「話して見ませんか?」
アスターの甘やかしに私はアスターの手を握ってお母様のヤラカシを話して聞かせた。
自分の判断だけで、元ラムズ公爵家から逃げて来た使用人76人を道場で寝かせて私からのお小遣い兼アルバイト代公用金貨10枚で養うつもりだったこと。
また、今日 食あたりで治癒した治療費に公用金貨1枚払ったら、高すぎると騒いでたくせにお母様の風邪の治療費が公用金貨1000枚だった事を話すと私の命が助かるなら安かったと言ったのを話すとアスターはア然としていたが、直ぐに答えを出した。
「ご実家に帰した方が良いです!金銭感覚と価値観がおかし過ぎます!!!バランと一緒にしてはバランが可哀想です!」
「うん…それがね、お父様の赤ちゃんお腹にいるの」
「責任云々と言われたら後日引き取ってしまえばいいです!エイベル様がいる限りラムズ公爵家からの避難民は止まりませんよ?」
それもある。
「今いる人の雇用は何とかしたんだ。潰れた宿を買って馬場になる土地を購入して、今ルメリーさんに頼んでいろいろ建てたり買ったりして貰ってる所。
お金は魔獣討伐で公用金貨50億枚儲けたからいいけど、もうこれ以上知らない人の面倒見切れないよ!
お金のことはお父様とお母様には言ってないから内緒にして。アスター」
そう、もう私は自分の事でもいっぱいいっぱいなのだ!!!
「頼って来る人の面倒も見れない私はイヤな子だね?アスターは私が嫌いになる?」
「馬鹿な事を考えるんですね?私はあなたの頑張り屋さんな所も好きですけど、頑張り過ぎるから、時々見ていて痛々しいと思ってました。イヤな子じゃないですよ。貴方は他人の気持ちが解る優しい方です。
明日からは私もお手伝いいたします!」
アスターは私を甘やかすダメな騎士です。
でも、実家のベッドみたいでくつろぎます。
「……そんな事よりもずっと大事なことを聞いてませんが?」
はうっ⁉︎アスターがなんかコワイ!
「騎士を3人も養ってるそうですね⁉︎」
「そ、それは!お父様から出された宿題なの!」
アスターは、地の底から湧き出るような声でお父様から全部聞いて知ってると追い込みをかけてきた。
「……何でも、私が甘々だから、対等な立場の騎士を増やしてクロスディア辺境領に持って帰るように言ったそうですね?」
「……アスターは私の兄上みたいで最高の文官だよ!いつも私を助けてくれるヒーローだよ!」
アスターはちょっとだけ機嫌が直った!
ここでお腹に抱きつき攻撃!
「今日だってアスターがいなかったら、私はダメになってたと思う。自分のしてる事がなんかもう全部無駄だったんだって!泣きたかったら、来てくれた!
大好き!」
どうだ!これで機嫌が直ったか⁉︎
「……はいはい。私が大人げなかったです。大好きは将来のお嫁さんに取っておきましょうね。
居酒屋を作ってるそうですね?」
アレ?思ってた反応と違うけど水を向けられたから話す。
「10日の11時から開店なんだ。昼は大銅貨2枚からだけど、夜は一皿小銅貨5枚からだから一緒に行って食べよう!他の騎士もアスターに紹介するから!」
「よろしい!では日曜日の11時に家に行きますからそこから皆で参りましょう!」
「……それからね、幼稚舎では学ぶことがないみたいなの!先生も決まらないし、どうしたらいいかな?」
「明日の朝私も一緒に登校して、仮担当の先生か、もっと偉い人とお話ししてみます。事業を展開する事もある程度話しますから1年くらい通学しなくても籍を置いてもらうようにしますね」
「そんな事出来るんだ!」
「……フフ、入学金と授業料の支払いしてるなら大丈夫ですよ」
アスター頼りになるなあ!