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38話 謀略

昨日はゆっくり観るヒマもなかったが、宮廷騎士学校は大きい!

ドゥルジ市国のチェルキオ聖教の大聖堂くらいある。何百人も並べる長い廊下を案内役のおじさん教師の後について歩いていると途中にある部屋から5〜10人くらいの子供達が私の事を見ていろんな話を膨らませていて聞き苦しい。

お父様とお母様の事を面白おかしく話してるのを聞いた時にはぶっ飛ばしてやろうと思って、そちらを見たら何故か男も女の子達も赤くなり、きゃあきゃあ騒ぎ始めるのだ。

ここは、そんなに男子に困窮してるのだろうか?というか、何故男も赤くなる!

女性化するのか⁈

宮廷騎士学校コワイ!


私がコワイ考えに怯えている間に部屋へと着いた。

私に与えられた部屋には何故か奇っ怪な馬を模した乗り物や、私の身長くらいの小さな家の模型などがあり私を当惑させた。


「遊んでいていいですよ?先生が来たら椅子に座ってください」


遊ぶ?こんなものより本物の馬と、幻惑森林の方が余程面白いし、これでどう遊ぶんですかね?

私はイスに座り、担当の先生が来るのを待った。


案内役のおじさん先生はずっと書類とにらめっこしていて、私達は無言で時が経つのを待った。


お昼に突入してやっと昼食の時間だ。

私はおじさん先生に連れられて食堂に来た。

短い幾つかの行列の後ろに並んでいると前にいた子供から一番左の列に並ぶように言われて、ああ、行列が少ない方に並ばせてくれたんだ!

親切な子だなぁ!名前を聞けば良かった!


待ち時間無しでたどり着いたカウンターの上には高位の貴族が食べるようなゴージャスな3人前くらいある食事が出てきて食堂のおじさんににっこりしながら手を出された。


「大金貨1枚ね」


私を騙した子供達が大笑いしている。

大金貨1枚とチップの銀貨1枚を食堂のおじさんに渡すとおじさんが気を効かせて私では運べない量を運んでくれたが、高位の貴族が集まってるテーブルで、私は仕方なく大きな声でハキハキと皆様にご挨拶した。


「昨日、幼稚舎に入学致しましたヘキサゴナル国クロスディア辺境伯グレイシードが第2子アレクシード=クロスディアと申します!皆様よろしくお願い致します!」


「……礼儀も知らないのか?ヘキサゴナルの貴族は」


「そうですよね、ブラーナ様。帝国の公爵家の跡継ぎである、ブラーナ様に1番に挨拶しないとは無礼です!私が思い知らせてやります!」


聞こえてますがね、問題はこの量をどうやって消費するかだよね?


「……ペル先生来ないかな?」


そんな都合が良い事あるわけがない。

食堂内を見回して食事を取らずにお腹を空かせている子達のテーブルに料理の乗ったトレーごと転移した。


「すみません、一緒に料理を食べてくれませんか?1人じゃ食べられないんです。手伝ってください」


そう言いながらキャサリン達の見よう見まねでパンをランタナに新しくもらえたナイフで縦に切れ目を入れて照り焼きした丸ごとのホロホロ鳥を解体してパンにサラダと一緒に挟んで空いたトレーにパンが無くなるまで続けて寝たフリをしてる3人の真ん中に置いた。


「食べないなら捨てますから!」


誰1人としていない古いテーブルに今度は自分の分だけ取って転移した。

やっと腹へりさん達は食べ始めたようだ。


そして、冷めたスープを飲みながら私は食堂に明日から来ない事を誓ったのだった。


教室に戻ると、3人の腹へりさん達が何故か騎士服に着替えて来ていた。


「食事食べるの手伝ってくださってありがとうございます!先輩方。騙されてあんな量を食べることになったので、大変助かりました」


3人の腹へりさん達は相談してその中の体格が一番いいお兄さんが私に言った。


「騎士の試練に挑む覚悟はあるか!」


騎士の試練?何それ!面白そう!ヒマだしいいか!


「はい!受けます!どうしたらいいか教えてください」


「私達と、全力を尽くして戦うのだ!」


おお!熱いよ!このお兄さん達。


「アレクシード=クロスディアと申します。よろしくお願い致します!」


「……もし、お前が試練に打ち勝つことが出来たならその時に名乗ろう!」


「ハイ!着替えるので少しお待ちください!」


アイテムボックスから鞄を出して騎士服に着替える。今日もキャサリンがガチガチに編み込みをしてるから、服の脱ぎ着ごときでは髪型は崩れない。


赤毛のお兄さんは強いね。

勝てるかな?エトレ流剣術で。

お父様にエトレ流剣術以外騎士学校では使っちゃダメだって言われたんだよねー。今朝。

やっとお父様にボコボコにされなくなったと思ってたらそれ。

お父様が何考えてるのかサッパリわからない。

…でも、それが私の為だと信じてるから、私も受け入れている。


「剣は、木剣ですか?真剣ですか?」


「真剣に決まってるのだろう!」


「教えてくださってありがとうございます!」


剣帯を付けて剣を左側に提げる。


アイテムボックスに鞄を入れていざ、出陣!


赤毛のお兄さんを観察する。

剣は提げてない。

体術だとしたら負けるなあ。

栗毛の小柄なお兄さんは魔法使い。

結構魔力が有り余ってる感じ。

黒髪短髪のお兄さんは剣士。

3人ともこの学校入学出来たのだから強いに決まってる!

私、バカだ。

せめてルールを聞くべきだった。


私は知らなかった。

これもまた仕組まれた事だったと。


競技場と呼ばれる建物に入ると真ん中が訓練場のぐるりを客席が囲っている施設だった。観客は全校生徒と先生達。

私が訓練場に降りた途端、大爆笑がヤジと一緒に私を襲った。


「ちびってんじゃないか⁈今ならまだ皆の前で土下座したら、許してやってもいいぜ!!!」


「貴族の私達に草むしりなんかさせた罰よ!サッパリ丸刈りにされなさい!」


「没落した公爵家の養子がどういう負け方をするのか、ちゃ〜んと見ててやるからな!ハハハハハ!!!」


バカか?コイツら。肉塊になるまで拷問された私が丸刈りくらいでヘコむか!

やるからには本気でかかって行く。


エトレ流剣術の型をさらって身体を温めると黒髪短髪のお兄さんから試合だ。


審判はあの叫ぶ女性教師だ。


「……始め!!!」


黒髪短髪のお兄さんもエトレ流剣術だったが、お父様より格段に弱かった。

この歳では突出して強いとは思うのだが、悪いけどこの悪ふざけに付き合ったツケは払ってもらう!

私は持てる技を全て使って叩きのめした。


黒髪短髪のお兄さんは起き上がってこれない。

叫ぶ女性教師に冷たく私は促す。


「判定は?」


「……し、勝者、クロスディア!!!」


どよめきとヤジと少しの拍手。


「おい、おい!ヤラセじゃないか!ワザと負けたんだろうドロント!!!」


「……それはないだろう?ドロントには後がない」


黒髪短髪のお兄さんはその場で治癒をされて私の足元にひざまづいて、頭を差し出した。


「髪を剃っていい」


青い顔でそう言って目を閉じている。


「……代わりに私に剣を捧げなさい!」


会場はシーンと静まり返った。


「出来ないならこの場で首をはねる【覚悟を見せよ】」


殺気を漲らせてそう言うと腰の剣を私に捧げた黒髪短髪のお兄さんが口上を述べる。


「我ロベルト=ドロントは、アレクシード=クロスディアの剣となり、貴方と共にあり、我が命貴方の物とする。この誓い我が剣にかける!」


「【許します!】」


ロベルトの剣を抜いてその肩に置き、鞘に収めて返す。

会場ではどよめきが収まらない。


カード型拡声器を手にしたグレーの髪の上品な紳士が会場席から関係者に話しかける。


《謀略に力を持って制しただけだ。何を狼狽える?くだらない勝負が本物の【騎士の試練】になったのだ!アレクシード=クロスディアの試合続行を認める!》


次の相手は優れない顔色で競技場に出て来た。


「……悪いけど手加減できなくなった」


栗毛の髪のお兄さんは、そう言って魔力の塊を練り始めた。

私はうなづくと、叫ぶだけしか能が無い女教師を見た。


「ヒィ⁈は、始め!!!」


お兄さんは開始と同時に闇魔法の「ドレイン」を使った。この魔法は敵の魔力を吸収するので魔法使いには対応策がない。

だから私は剣で倒しに行った。

「ドレイン」で魔力を吸われるくらい何程でもない。骨折した足を石でジワジワと潰されるあの痛みに比べたらヌルいくらいだ。

それに、私の方が魔力量が多いので、早く倒してあげないと、魔力の過剰摂取による飽和状態を招いて身体が爆散してしまう可能性が高い。

私は身体強化で一気にお兄さんと距離を縮めると剣の柄で栗毛の髪のお兄さんの顎先を掠めた。

お兄さんはフラフラ身体を泳がせた後地面に倒れた。

叫ぶ女教師を私はジッと見た。


「し、勝者、クロスディア!」


皆が騒めく中、治癒魔法使いが栗毛の髪のお兄さんを癒す。お兄さんは魔力の過剰摂取で身体が腫れていて、ヒドイ状態だった。

近づいて行って「ドレイン」をするとムクミが収まっていく。

栗毛の髪のお兄さんは目を覚ますと治癒魔法使いを見て、試合が終わったことに気づいたらしい。

自分の杖を腰から外して私の前にひざまづいてさっさと誓った。


「我、リンディー=サーキュラスはアレクシード=クロスディアを我が主とし、我が魔力尽きるまで共にいることを誓う!」


「……魔力が尽きても側にいてください。友達として過ごしましょう?【覚悟は見たり!誓うことを許します!】」


杖を取りリンディーの頭に触れさせ杖を返す。


「……リンディー、不躾な質問をします。聖魔法か、火魔法は持ってますか?」


「はい!僕は聖魔法が得意です!」


「……ホーリーアローなんかは出来ます?」


「ヘブンズラダーまで、詠唱できます!」


ヘブンズラダーとは、ホーリー系最強の呪文で天から光のハシゴが降りて来て天の御使がアンデット達を殲滅する広範囲浄化呪文だ。


「ありがとう!リンディー!貴方が私の騎士になったのはきっと神様の采配によるものです!私の出来る事なら何でもします!お昼は一緒にお弁当を食べましょう!では、次の方を待たせてるので行ってきます!」


「アレクシード様、僕ら3人とも貴方の騎士にしてください!」


「頑張ってみる!」


最後の1人。赤毛のお兄さんは、大剣使いだった。

師匠が遊びで見せてくれた大剣の流派は、ラドル将軍とハベル軍曹だったっけ?

何十回も吹っ飛ばされた記憶しか無いけど、3歳の時からは少し身体も大きくなったし、頑張るしかないかな。


「始めぇえ!」


耳障りな開始の合図で、赤毛のお兄さんは大剣を振り上げ地面に叩きつけた。

その剣圧で地面が割れ私の騎士服が裂けた。


うん!これ、ラドル将軍の「衝撃波」って技だね。


赤毛のお兄さんは言う。


「……今ならまだ許してやるから、棄権しろ」


「しません!敵がどんなに強くても向かって行くのが騎士です!」


「今のは手加減してる!戦い始めたら手加減できなくなるんだぞ!!!」


「それで殺されるなら私はそれまでだったということです!」


「……後悔するなよ!」


本物の「衝撃波」をウインドシールドで防ぎながら近づいて行く。まだ、お父様から習って無いけどエイリーン兄上がお父様相手に何度か使ってたから覚えている技がある。

エトレ流剣術「星くずし」

相手の懐に入って剣を持っている利き腕を下から上に斬りあげる技だ。

私は何のためらいもなく技を振るった。

赤毛のお兄さんの驚いた顔。


「……負けました!治癒魔法使いをお願いします!」


そう宣言した赤毛のお兄さんの両腕が落ちた。

血柱が上がると会場は大騒ぎになった。


私は治癒魔法使いの後ろから赤毛のお兄さんを心配して見つめていたのだが、叫ぶ女教師に引き離されて反省房とやらに閉じ込められた。


後で反省文とやらを書けと言われて、新入生歓迎の為の公開処刑を台無しにしてしまったことを詫びる体で皮肉った文章をある紙全部使って書いた。

叫ぶ女教師は激怒して魔法使いの手枷を付けようとしたので、私は反省房から転移して家に帰ってお父様に事の次第を詳細に報告した。


お父様は正装に着替えて私と共に宮廷騎士学校へ。



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