37話 夜明け
家に帰って早めの夕食を食べ夜中までぐっすり寝て紅い騎士服に着替えて2つの剣を剣帯に付けて馬場予定地に転移する。
ウヨウヨいるスケルトンの大半がリッチで僧侶なのに気付いて思わず苦笑い。
……そりゃ、そこら辺の聖魔法使いを何人揃えたところでムリでしょ?自分が生き延びるので必死だっただろうな。
敷地内に入った途端全てのスケルトンが私を見つけ襲い掛かって来た!
だいたいスケルトンは粉々にしてファイアーウォールでお焚き上げ!
戦う時も常に弔う気持ちが大事。
僧侶達はリッチになりやすいのでチェルキオ教の聖句と共にお焚き上げしてあげれば、あっという間に昇天する。
これはクロスディア家に伝わる特別な討伐方法であるが普通は火魔法じゃなく、聖魔法で葬送る。
暇があれば父上は聖句を書いて保管してたから、大切な人にあげるものと勘違いした私は師匠に持って行き危うく昇天させる所だった。
古戦場や荒らされた墓地にいるアンデット達は手強い相手だ!
一瞬の隙が一生の後悔になる。
魔鉄鋼の剣にウインドスラッシュを載せて大地から湧いてくるスケルトンを一閃で何十体も粉々にし直ぐにファイアーウォールを放ってリッチの僧侶が「復活」を唱えるヒマを与えない。
リッチの僧侶を先に討伐すればいいと思うだろう。
普通のリッチは自分が強いと知っているから、余程のことが無い限り自分から襲いかかって来ないのだが、下位のアンデットが数百討伐されると下位のアンデットを呼び覚まし敵と戦わせ始める。
しかし、リッチになった僧侶はまずアンデット達を死の眠りから目覚めさせて敵に総攻撃をかける!
生きている時の経験からリッチでも討伐される事を知ってるからだ!
まず、数の暴力で敵を追い詰め敵が弱るまで、下位のアンデット達を呼び覚ますことに余念がない。
そして、殺して食べちゃうのだ。
自分の手駒にする為に。
しかし、ここの荒らされた墓地跡地は見事に僧侶ばかり埋葬してたみたいで、1時間経ってスケルトンがいなくなったら、仲間割れが起こって誰が私と戦うか揉めている。
うん、今の内に殺ろう!
魔石の部屋に保管してあった父上が聖句を書いたお札を10個残してあるだけゴッソリ持って来た甲斐があった。
さあ、リトワージュ流剣術で、ズタボロになったら父上の聖魔法がたっぷり乗ったお札でお焚き上げしてやる!
あの世に行きなさい!
ファイアーウォール!!!
焚き上げたお札の数だけ天に召された。
父上の聖句で昇天するリッチ達の顔は穏やかだった。
それを見てた他のリッチの僧侶が私の足元にひざまづき、祈りをする姿勢を示した。
ああ、全うに天に召されたいのだ。やはり。
お札を1人に1つ手渡したら、それだけで昇天して行くリッチの僧侶達。
なかなか逝く事が出来ないでうめいてる高位のリッチの僧侶には剣で引導を渡してファイアーウォールで弔ってやったら、お礼なのかチェルキオ十字のロザリオと自分の魔石を私の手に置いて天に旅立って行った。
聖職者のアンデットの魔石が紫色なのは知ってたが、こんなに濃い紫色の魔石は初めて見た。
チェルキオ十字のロザリオも上質な銀製の物で、ここに眠っていたのは相当身分の高い方達だったのだろう。
私は夜明けまでにアンデットの魔石を必死になって集めた。
討伐より時間がかかり大変だった!
お父様に起こされる前に騎士服を着替えて道場へ行くと壁際に置いてある酒樽などを見つけたお父様にお説教されて、その日は正座しての見学をさせられた。
何度か寝落ちしそうになってお父様にゲンコツで起こされた。
足の痺れが完全に退かないまま、そろりそろりと家の階段を上がって朝食前に部屋に戻ると、キャサリンがアンデットの腐っているような臭いがする脱ぎ散らかされた騎士服をつまんで私の帰りを待っていた。
ヤバッ!剣の手入れもして無い!!!
「旦那様ぁあああ!アレク様がドブさらいしてたみたいですよ!今、さっきまで!!!」
お父様が私の部屋に上がってきてブーツを見て、騎士服を検分し、剣を2つとも検めてため息をついた。
「怒らないから言って見なさい。どこで誰と戦ってた?」
「馬場を買ったのですが、夜な夜なアンデットが出ると言うので討伐してました!ごめんなさい!」
「何故私も連れて行かないのだ!!!1人で行っては危ないではないか!今夜は私もついていく!」
「……えっと、もう、討伐しましたし、お気持ちだけいただいておきますね。ありがとうございます。お父様」
「……馬鹿な子だよ!アレクは!!!心配しているのだ!!!噛み付かれたりされなかったか!」
「えっと、私は腐ってもクロスディア家の者ですから、そんな事はさせませんでしたよ?」
初めて討伐に出た時からそんなヤワな攻撃は許した事はない。
そう言うと、お父様はやっと安心したようで、私の身体を力一杯抱きしめてから離れた。
「さあ、入学式に遅れるぞ!支度して朝食をとりなさい!」
「ハイ!お父様」
キャサリンがお勉強道具を鞄に詰めていく。騎士服1着も詰め込まれて結構かさ張る。
お母様とキャサリンが入学式はコレ!と決めていた気品溢れる青の貴族服を着せてもらって剣は普通の方を1本持って剣帯を着けて左側に剣を下げる。
キャサリンは私が朝食を食べてる後ろで私の髪を複雑に結う。
「……あんまり、結ってると女の子みたいだよ?」
「気合いですよ!!!アレク様!美しい者が勝つのです!!!」
訳がわからない。女の子じゃないんだから三つ編みでいいのに!
それに私は緊張してて、あまり食事の味がしない。
なんと、今年の入学生は私1人だけで、全校生徒の前で新入生代表挨拶をする事を今、お父様から聞いて卒倒しそうなのだ。
いつもはたくさん食べるパンも1つ食べただけで胸がいっぱいだ。
宮廷騎士学校には辻馬車に乗っていく。
まだ場所知らないし、転移じゃいけない。
乗り心地の悪さに乗り物酔いした私は眠気と空腹と緊張も相まって具合は最悪に。
辻馬車を降りた途端吐いて大勢の生徒の前で醜態を晒したが何故か立ち上がれない。
掃除夫と先生が走ってきてベッドがある個室へ。
ベッドに寝かされた。
「……ちょっとだけど、霊害に似た症状にかかってるわ。面白がって曰く付きの場所に行かなかった?」
「……行きましたね」
「アンデットの魔石とか拾ってないでしょうね?」
「……拾ってますね」
「出して!奪ったりしないから、正直に出しなさい。埋葬された人がアンデットになった場合、魔石になっても穢れがついてて、特別な方法で浄化しないと霊害の元になるの!」
私は即座にアイテムボックスの中の魔石を全部出した。
「イヤァアアアアーー!!!誰か!誰か来て!!!」
ベッドを覆い隠すような量のアンデットの魔石は学校に没収され、私の最近あった出来事を洗いざらい話すことになった。
その後夕方までベッドで寝かされてる間に霊害を浄化してくれたようで、身体が軽い。
お腹が空いてきた。
元気になったので起き上がろうとしたら、窓の外から子供達の話し声が聞こえて来た。
「今年の幼稚舎への新入生、凄く怖がりでアンデットの魔石見て吐いたから、入学式無くなって草引きになったみたいだよ!」
「アンデットの魔石の価値も知らないなんて、どこの大貴族の子供なの?草引きさせた分、お父様の手の物に調べさせて晒し者にしてあげるわ」
「……それがさぁ、あの没落したラムズ公爵家の子供みたいなんだよね」
「「「ウソ〜〜〜!!!面白い!」」」
ちっとも面白くも楽しくもないですが?
私はフテ寝して夜になって朝叫んでた女の人に起こされた。
「すみません。お待たせしました。
ご両親や各ギルドに問い合わせたりしてたのでこんな時間になってしまいました」
「……は?」
何故に私の言った事で満足しないんですか皆!
突然不機嫌になった私に謝るでもなく話を続ける女性。
「魔石は然るべき処置をした後、手数料を引いた分を貴方に返すと約束します。奪ったりしませんよー」
「……それはそれは、ご迷惑をお掛けしました。全校生徒の皆様も不快な思いをされたようですし、皆様の前でお詫びした方がよろしいでしょう。
朝、一番早く来る生徒さんは何時頃いらっしゃるのでしょうか?」
「何でそんな事聞くのかなあ?」
「1人残らず謝罪をする為に明日の朝、校門の前で待ち伏せします」
「やめて!お願い!!!そんな事を貴方にされたら私の教師人生はお終いよ!謝罪は貴族の序列を考えて上の方から順番に行わないと大変なことになるから、お願いだからそんなワケの分かってない謝罪なんてしないでください!」
この人が先生?
しかも私の、先生っぽい。
心の底から却下する!!!
「……先生は、私の、先生ですか?」
「残念ながら違うんだよ、問題児で努力家くん」
突然、ベッドの脇に黄緑色の短髪の白いローブ姿の美青年が現れ、叫ぶ女教師をどこかに転移させた。
サファイア色の瞳を好奇心いっぱいに輝かせてまず、私にひざまづき、深く頭を下げて謝罪した。
「勝手に貴方の事を調べたりして申し訳ありませんでした。アンデットの魔石の事も事後承諾になり、気分を害された事と思います。2度とこんな真似をさせたりしないと誓います」
「……分かってくださったならいいんです。全校生徒を待ち伏せして謝罪したりしませんから安心して下さい。初めまして!ヘキサゴナル国クロスディア辺境伯グレイシードが第2子アレクシード=クロスディアと申します!ベッドの上からで申し訳ございません。
貴方が私の先生ですか?」
黄緑色の髪の先生は立ち上がると私の頭を撫でた。
「フフ、まだ、決まって無いんだけど、君の先生になったら楽しそう!名乗りを上げて見ようかなあ。
名乗らずごめんね。私は自分だけの主に会うまで名乗らないと偉い人に誓わされてるんだ。好きな名前で呼んでください」
じゃあ古典語で黄緑色って意味の「ペルベル」の前だけ取って「ペル先生」だな!
「よろしくお願いします!ペル先生!」
ペル先生は何やら面白そうな顔で私を見た。
「語源は『ペルベル』から取ったのかな?」
「はい!髪がとても綺麗だったので!」
「おやおや、この青い瞳は目に入らなかったのかな?」
「帝国では珍しいかもしれないけどヘキサゴナルでは結構いますし、あ、気を悪くなさらないでください!とても綺麗な青い瞳ですよ?」
ペル先生は気の抜けた顔をしてる。
「……いや、皆何だかこの青い瞳にご執心でね、ウンザリしてたんだ。素敵な名前をありがとう」
ホッとした。怒ってないならばそれでいい。
ベッドから降りてペル先生の前に立つとペル先生は私の手を取って私の家に転移した。
「……来たことがあるんですか?」
「私は君の転移したことがある場所へ君に触れて居れば転移できる能力があるんだ。ごめんね。嫌だった?」
「スゴイです!ペル先生」
そんな事を出来る人を知らない。
「……君にもすぐに出来るようになるよ。でも、きっと私の事を嫌いになるだろうけど…」
落ち込んでるペル先生を家の中に引っ張り込み無理矢理一緒に夕飯を食べる。
ペル先生は最初は遠慮していたが、お父様達に私の帰りが遅くなった事を詫びてる内にヨランがポットパイとテーブルパンを用意すると、気が変わったらしい。
食べて行った。
超ねこ舌で、ポットパイを食べ切るのに苦労していたが美味しかったようで、お代わりを5回した。
パンは余ったのを見てたので、お土産にフレジのジャムの小瓶を付けて持たせてあげたら戸惑っている。
「……その、私はお金がないから、お礼が出来ない」
なんて言うのだ!
「できるよ?"ありがとう"でいいの!!!お金なんて出したら許さないんだからね!!!」
ペル先生は私の事を抱きしめて耳元で小さく「ありがとう」と呟くと転移して帰った。
お父様とお母様は「また連れていらっしゃい」と心配そうに私に言った。
もちろんです!!!
お腹を空かせている人を放置しておける訳がない!
ガンガン食べさせちゃうんだから!