36話 手が届く範囲
カルトラの冒険者ギルドに行くと昼間だから冒険者もポツポツしかいない。
私は窓口でルメリーさんに至急会いたいと伝えたが、2〜3日出張で居ないようだ。
商業ギルドに行き公用金貨1000枚で宿を買い、どんな状態か確認したら、高いだけあって部屋も多いし、50人くらい入りそうだが、場所が歓楽街に近く騒音がすごい。
土地と建物の登録を私の名前で済ませると、家に転移した。
ダイニングに行くと疲れた顔のお父様が頭を抱えていた。
「……お父様。とりあえず50人分の宿を確保しました。後はどんな仕事ができるか、来てから確かめましょう」
「……アレク、すまない!また、余分な金を使わせたな」
「いいのですよ。お父様。でも、こんな事は今回限りです。お母様に優しくお願いして下さいね」
「アレは、王家に返す!」
「お母様も、さすがにわかったのでは無いですか?今回は私の顔を立てて許して差し上げて下さい」
「…アレク。恥ずかしい事だが、私達夫婦はお前が食事代にくれた大金貨3枚では足りない店で食事を済ませて支払いの際に見知らぬ貴族に支払ってもらったのだ。嘲り笑われながら!」
「お金を返しに行きましょうか?」
「そう私が言ったら、平民に貴族街の関所は通れないからいいと言ってまた私達を店中の笑い者にしたのだ!…それなのに、エイベルは分からないのだ!!!蔑まれてる事が!!!ニコニコ笑いながら私と店を出てまた、高級なカフェに入り大食して近くにいる貴族に、支払いを[お願い]したのだ!」
「……」
お母様バカ?
「エイベルは、他人にお金を支払わせる事にためらいがない」
「まぁ、でも、お金を稼がなければならない事は理解してるみたいですし、平民の価値観を少しずつ教えて行けばいいのではないかと思ってます。
お父様、お母様が大切なら私と相談しながら頑張りましょう?
私だって平民の価値観が今一つ分からないので、ヨランとキャサリンにたしなめられてますからね」
すると、お父様はご自分で両頬を叩いて私に頭を下げた。
「エイベルを許してくれてありがとう。私にエイベルが必要なことを思い出させてくれてありがとう」
「フフ、お父様はお母様が大好きですから、いなくなったら、きっと抜け殻になってしまいますよ?さ、仲直りして下さい!」
お父様は、2階への階段を上って行った。
さてと、キャサリン達は、どうなってるかな?
道場へのドアを開けてみればキャサリンがお客様役で椅子に座っていて、いろんな文句を言って給仕係を困らせている段階に教習は進んでいるようだ。
「持ってくるのが遅いから帰る!」
「……わかった!帰れば?」
ディニ、その返事はヤバいよ?
案の定、ディニはトレーで頭を叩かれてる。
ほらね。
「……じゃ、アレク様!やってみて下さい!」
「……」
こうして巻き込まれる事数回、何となく給仕が大変な仕事だと言う事を認識した私はお給料を少し上げた方がいいかもしれないという気になり、教習が終わったキャサリンに相談したら、大金貨2枚は上げ過ぎだから、ちゃんと考えないと破産して路頭に迷いますよと言われた。
ディニとサリナとユーリとミルルの4人は夕食を遠慮なく食べ尽くして私が宿に転移して送って行った。
お父様とお母様はすっかり仲直りし、甘い雰囲気を醸し出していた。
問題の50人は夜更けにやって来た。
道場に2〜3人ずつ下働きから使用人までさまざまな仕事をしてる人が76名も訪れたので、従業員寮にも洗濯係と掃除係。料理人総勢14名を入れた。
後はあの、騒音が酷い宿に全員連れて行った。
綺麗な顔立ちの女の子が何人か居たので、明日からキャサリンの教習に問答無用で突っ込んで食事は逃げて来たコック達に作らせるのになったからヨランご用達の夜でもやってる食料品店で、ヨランに言われるまま大量に食材を買い、うるさい宿の厨房と従業員寮の厨房に食材を分けて置いてきた。
私は道場の隅に酒樽を積み上げ食器や調理器具が入った木箱も全部出した。
アイテムボックスの中が少しずつ新しい店の物に占領されてたので転移するのが、大変だったのだ。
長い1日が終わり、着替えようとして、ザトー子爵にもらった新古品の貴族服を思い出し青くなった。4月まであと1日。ピンチ!
とりあえず部屋の中に服が入った木箱を出して置く。
そして着替えて寝る!
翌朝、寝不足で起きて道場に朝稽古に行ったらお父様がまだ来てない。
「……ま、型さらうだけだし」
いいかと思って朝食まで続けて着替えて従業員寮に転移したらもう厨房で料理してる!
朝昼晩の食事をとりあえずうるさい宿の分もお願いしたら4〜5人そちらに連れて行くよう言われ転移。
宿の前にガラの悪い奴らが居た。
その中でも体格の良い奴が私に言った。
「経営者が変わっても宿として営業出来ると思うなよ!」
「宿じゃないですよ!従業員寮です。うるさいの何とかなりませんか?」
すると男達は話し合ってこちらを向いた。
「宿じゃないならいい。うるさいのは今日から聞こえなくなるからな」
そういうと去って行った。
「……何だ?アイツら?」
「……さあ?朝食を50人分お願いします!」
「「「「任せといて下さい!」」」」
んー、困ったな。こっちの50人。特に仕事が無いんだよね!
とりあえず家に帰ってお父様とキャサリンに相談して見よう!
朝からオシャレな定食を食べてたら、ヨランが従業員寮その1に連れて行くように言ったので食事を終えて直ぐに従業員寮その1に連れて行き、ヨランを料理人達に紹介した。
「新しい食堂のメニューのレシピを作ったヨランです。あなた達に新しい食堂の厨房で働いて貰うのでヨランにレシピを教わって下さい。1カ月に大金貨2枚で働いてもらいます。
条件が合わないと思った方は商業ギルドへ職探しに行って下さい」
「あと銀貨2〜3枚でいいから高くならないですか?」
ヨランを見た。軽くうなづきながら助言してくれた。
「ずっと料理作りっぱなしは結構キツいですから、お給料をあげてもいいと思います」
「では、大金貨3枚にします」
「「「「「「「「「「「おお!」」」」」」」」」」
「じゃ、ヨランよろしく!」
家に転移して、お父様と会議だ!
なお、キャサリンはお母様と一緒に怒りながら私の服になったズボンの裾上げをしている。
どうして昨日出さなかったと言われても、キャサリンが食器を購入させてたじゃないかとは言えない。
師匠が言ってた。
レディが理不尽な理由で怒ってる時は絶対正論で返してはならないと!
ちなみに服を着てみてわかったのだが、メフィーは顔がいい上に足が長く胸筋まで立派らしい。
うらやましい限りだ。
何故か筋肉が付きにくい私は師匠に栄養が足りて無いからだと慰めてもらったが、今も付かないとは何故だ!!!
1日3食毎日食べてるし、おかしいだろう⁉︎
「どうした?アレク」
「い、いやぁ!50人もどうしようかな、って。もう一軒店を建てても良いけど何の店にしようかなぁって!」
「資金はあるのか?」
「公用金貨1500枚程あります」
「侍従が10人程逃げて来たから、代筆屋をするといいだろう。平民出の女官は居酒屋で引き取ってくれるのだな?」
「はい」
かなりありがたい!綺麗な女の子来て良かった!
「代筆屋って儲かるのですか?」
「……有力な貴族が出してる店ならそれなりに」
「……やめましょうか?侍従って、チェルキオ語も出来ますか?」
「ああ、ラムズ公爵家の侍従はできるぞ」
「……じゃあ、チェルキオ語圏から来た観光客の通訳をするのはどうでしょう?」
「平民のか?」
「飛空艇で帝国に来るお客様はお金持ちです。平民かどうかにこだわらなくてもいいでしょう」
「なるほど!それなら店も要らないし、飛空艇乗り場で待ってるだけでいい!いいぞ!アレク」
「それに観光名所になる穴場を知ってるといいですね。これで後30人。んー!随分と厩関係の人達が逃げて来てますね?土地を購入して馬場を作って馬が買えない貴族や、平民の遊び場的な値段で馬に乗れるようにしたらいいんじゃないですか?」
「……しかし、馬が高いだろう?」
「帝都では、1頭公用金貨100枚でまともな馬が買えるそうです」
ちなみにラムズ公爵領では公用金貨1000枚した。
「……土地はアテがあるのか?」
「聞いて来ます!」
ローザ工房へ、ザトー子爵を訪ねると忙しいにもかかわらず相談に乗ってくれた。
「馬場か!工房跡地がある。この近くだから、行ってみよう!」
幌馬車で移動すると、すぐの場所だった。
ちゃんと均した土が剥き出しの場所でしかも広い。
高そうだなぁ…
勇気を出して聞いた。
「いくらですか!」
「……払えるだけで売るよ!」
「えっ?いや、それはちょっと!」
「夜な夜な凄い数のスケルトンが出て退治するんだけどね、もう、4回目何だよ!まだ、出るからこれ以上は予算の都合で出来ない!好きな値段で売るからスケルトンは自分で何とかしてくれるか?」
「……今までいくらかかったんですか?」
「公用金貨800枚もかかったよ!!!聖魔法使いも10人も雇ってたのに、全くの役立たず!!!憤懣やる方ない!!!」
父上達は討伐出来てるけど何が違うのかな?
「……申し訳無いんですが、公用金貨1500枚しか土地には使えなくて」
「……うん!売るから!後は頼んだ!!!」
ローザ工房に帰ってザトー子爵に公用金貨1500枚をお支払いして土地の権利書をゲット!
「馬房を建てるんなら紹介出来るから、スケルトンが何とかなったら来なさい」
「はい!その時はお願いします!」
今夜はスケルトン狩りだ!