34話 起業
何で私が色っぽいドレスの注文をするに至ったのかを説明すると、大きくため息をついてルメリーさんは言った。
「色っぽいドレスは、もうちょっと何とかしなさい!他は悪いことじゃないから、物件を探しておく。
お兄さんが行くような高級店は飲み食いじゃないからね。男の人が求めてるのは癒しなのよ。
普通の顔の胸が大きい子なら結構いると思うわ。
その子たちがかわいい服を着て給仕をする普通の飲食店ね。悪くない!
ちょっと凝ったワンピースを作れるお店に依頼しておくけどエイベルさんが描いてるデザイン画はいつ仕上がるの?それにもよるわよ」
期限切ってなかった!しまった!
「……で?給仕の女性たちのアテはあるの?」
「転移で村を訪れて探して来ます!」
「……ま、誰か連れて行くように!5歳児に付いて行くようなおマヌケさんは帝国の村には居ないわよ」
「……ハァー」
早く大人になって父上と一緒にアンデットと戦うんだ!
そしてもうアンデットが出て来ないようにするんだ!
アンデットの魔石が出なくなった時の為の商売!!!頑張れ!私。
その日はもう下町の家に転移して、自分の部屋で寝た。
翌朝からは朝稽古から始めた。
一応エトレ流剣術もお父様から習うことにした。
エトレ流剣術の剣聖候補の一人だったという父上は強かった!
何でも極めれば冴えるのだなと、ボコボコにされながら思った。
エイリーン兄上も朝稽古に参加してそれ程見苦しくないように負けていた。
悔しかった。
朝食はいつもより美味しくて、おかずばかり、3回お代わりした!
そうだ!買い物のお金を渡さないと!とりあえず一カ月で大金貨3枚あれば足りるかコックのヨランに聞くとこう返って来た。
「そんな贅沢平民はしません!」
「……大人5人ならいくらぐらいかな?」
「月に銀貨7枚あれば充分ですから!!!」
メイドのキャサリンに生活費を聞くと食費もまとめて大金貨1枚でやりくりしますと言われて大金貨1枚を渡した。
コックのアテがない!ルメリーさんに相談しよう!
というわけで昼から冒険者ギルドに転移して来た。窓口にいるお姉さんにルメリーさんにコックさんを何人か用意して欲しいと伝言を頼んだ。
そして職を探してるお姉さん達はどこに行ってるのか聞いたら商業ギルドらしい。
場所を聞いて、商業ギルドに歩いて行く。
商業ギルドは昼間でも人でいっぱいで手続きをするのに、随分待たされた。
「……初めてのご利用ですね。お客様、商業ギルドの依頼板をご利用するのにはギルドに入会していただかねばならず、公用金貨10枚を預金してもらうようになっております」
冒険者ギルドのお姉さん、ちゃんと教えておいて下さい!職務怠慢ですよ!!!
公用金貨10枚をカウンターの上に出すと、口座を開設する為の書類を渡された。
「冒険者ギルドと違って、本名で書いて下さい。出身地は必要ないですが、現住所と、身元保証人が必要です」
なるほど、アレクシード名義で身元保証人をアスターにしておく。住所はクロスディア魔石直売店の名前を書くと受け付けのお姉さんが青い顔になり、投げやりだった態度がいきなり丁寧になった。
「本日はどのようなご依頼を出しに来られたのでしょうか?」
「飲食店の給仕をする女性の求人に来ました。夜勤もあるので成人してる30歳までの女性をお願いします」
「……それはお酒を出すような高級な接待をするお店のことでしょうか?」
「いえ、居酒屋さんです。どちらかといえば食事とお酒を楽しんで頂く為のお店です。だいたいそういうお店のお給料はいくらぐらいが普通ですか?」
「……担当を変わります!こちらの会議室にどうぞ」
入った会議室には、壁側に出稼ぎに来たと思われる若者たちであふれかえっていた。皆埃っぽい服を着てお腹が空いているのか、お腹を押さえている人も結構いる。従業員が住む場所も必要だよね。
とりあえずこの人たちにクリーン掛けて、スタイルの良さそうな人に声をかける。
「お姉さん、居酒屋さんで給仕しませんか?住む場所とお給料の保証はしますから」
「今日から住める⁉︎」
「とりあえず私の家に今日は泊まって下さい」
すると俺も俺もと、割とカッコいい成人したばかりの青年達が名乗りを上げる。
ふーん。昼間はお姉さんたちが食事に来るお店にすればいいか。
磨けば光る人材を男女取り混ぜて14人雇った。
そこに、担当者が来て説明。
給料は1カ月だいたい大金貨1枚くらいだと言われたので大金貨1枚と銀貨2枚にした。
従業員宿舎が欲しいと言うと今月潰れたばかりの宿があると言うので即金で買った。
公用金貨500枚の宿は見た目はボロいが中身は綺麗で清潔な状態で布団やベッドもそのままそっくりあったので、ありがたく使わせて貰うことにした。
ただ雨漏りがするようで、屋根の修理に公用金貨10枚ほどいるらしい。
直ぐに修理を依頼した。
とりあえず、食べ物のお世話をしなきゃいけない。
店が開店するまでのお小遣いを全員に大金貨1枚渡してすませた。
夜までもうちょっと時間があるので、幻惑森林で魔獣討伐を剣でしてたが、つまらないので魔法を使った討伐に方針転換を図ったら出るわ出るわ、いっぱい出て来た。誘き出して、後は剣で切って切って斬りまくった!
帝都カルトラの冒険者ギルドは依頼を終えた冒険者でごった返している。
40分程窓口への行列に並んでやっと窓口についた。
「魔獣討伐しました!」
1枚の紙が渡された。
解体受け付け窓口に行く。
ギルドタグと紙を渡して搬入口に討伐した魔獣を投入した。
窓口にいたおじさんがいつの間にか、血みどろのお兄さんに代わっている。
解体待ちの人でそこら辺いっぱいだ。
でも、処理が早いのか15分待つとやっと名前が呼ばれたが、個室へ案内された。
階段を2階分上がってやっとたどり着いたその部屋には一目で高ランカーだとわかる鍛え抜かれた肉体のシンプルな貴族服の中年男性が立派な机の前にどっしりと座っていた。
帝国に多いダークブラウンの髪に水色の目をしたこれといって特徴の無い男性は良く通る声で自己紹介した。
「カルトラの冒険者ギルドのギルドマスターをしているバラムだ。
今日提出した魔獣は幻惑森林の物だな?
いつ、獲ってきた?」
「……昼からですけど?何か問題がありましたか?」
「いや。指名依頼するから、2〜3日予定を空けてくれ。宮廷騎士学校にはこちらから入学が1日遅れる事を伝えておく」
「……えっ!騎士学校もう始まるんですか⁉︎」
「……のんびりし過ぎだろう?アレクシード=クロスディア」
いろいろバレ過ぎだよ!!!
「ギルドの中でも私と私の秘書しか知らないからそう嫌がるな。…あー!そうか!帝国の暦が分からないのだろう!3月からは、30日しかないから1月と2月の寒雪休みの45日と考えてたなら今日はもう帰ってから学校に行く支度をしろ。
これが今日の報酬だ。学校の支度が分からないなら、ルメリーに聞け」
指名依頼書と報酬の書類を受け取ったら、報酬を持って事務員さんたちが部屋に入ってきた。
ご苦労様です!
このキツい階段を重い荷物を持って上がって来るなんて可哀相に。
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帝都カルトラ冒険者ギルド所属
Cランク
冒険者名 ケイトス
【魔獣名/ランク/討伐数/換金額】
○パフュームバタフライ/C/340匹/公用金貨6枚/大金貨8枚
○ヘブンズマンティス/B/58匹/公用金貨1枚/大金貨1枚/銀貨6枚
○ブラッディウルフ/B/412頭/公用金貨4枚/大金貨1枚/銀貨2枚
○アングリーアント/A/1076匹/公用金貨53枚/大金貨8枚
○ミラージュバタフライ/S/36匹/公用金貨3600枚
【合計*公用金貨3665枚/大金貨8枚/銀貨8枚】
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「……バラム様。虫がメチャクチャ高いんですけど?」
「ミラージュバタフライはオークションに出品しようかどうか迷ってたら、待ち屋が1匹公用金貨100枚で即買いしたから、まあ、いいかと思ってな。
待ち屋っていうのは、掘り出し物狙いでギルドに高い場所代払って解体場内でただひたすら掘り出し物が来るのを待ってる商売をする奴らの事を言う。ウデのいい待ち屋は1カ月で公用金貨1万枚以上儲ける。
そいつらに目を付けられるような冒険者になれ。
それで虫系魔獣はカルトラでは珍しいからな。アングリーアントはしばらくは要らないぞ。
パフュームバタフライはたくさん獲ってきてくれると助かる。
ヘブンズマンティスは、今回だけの買い取りになるかもしれん。用途が草刈り鎌だからな。都会ではいらんし。売れ行き次第だな。
で、指名依頼は読んだか?」
「今からです!」
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【指名依頼書】
依頼主 ロンブルー=ザトー子爵
指名者 カルトラ冒険者ギルド所属Cランク/ケイトス
○依頼内容 依頼主をラムズ領サレタ村から帝都カルトラまで運ぶ事。
○期限 4月1日までに。
○報酬 公用金貨10枚
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「今から行ってきます。直ぐに帰ります」
「……大丈夫か?」
「サレタ村ですよね?大丈夫です!」
むしろこんな簡単な依頼で公用金貨10枚ももらえるなら、気持ちは弾む!
転移してサレタ村で一つしかない民宿に迎えに行くと、ザトー子爵に怪訝な顔をされたが、荷物の染色した大量の布を幌馬車ごとアイテムボックスに入れるとヤル気になったようで馬を2頭納屋から引っ張って来た。
カルトラの正門まで転移して幌馬車を出してその中の桐箱に鮮やかに染色した布を入れてザトー子爵は馭者に私は幌馬車の後ろを護衛しながら歩いて2時間。
検問だ。
ザトー子爵が貴族門から入ると幌馬車の中を騎士が不審な物はないかあらためて、無事通過した。
幌馬車の荷台に乗って、帝都内の工房地区に到着した。幌馬車内の染色された布が入った桐箱を全部アイテムボックスに入れて、ザトー子爵の後ろからついて行く。
ローザ縫製工房と書いてある木の看板は文字が擦れていてお世辞にも綺麗とは言えない店構え。
「帰ったよ!お前達は、何の注文を受けたんだ?同じ服ばかり何着も作ってどこに卸す気だい?」
「「「「「「「旦那様!!!」」」」」」
工房内は古いが清潔に使っていて、今、作業台には明るい優しい色の首元が大きく開いたドレス風ワンピースが何着も作られていた。
その一つをザトー子爵が手にとって胸元のフリルが重ねられた所や、平民が着るにしても短い裾丈や、透けて見えるふんわりと膨らんだ袖の縫い目を確かめている。
「エイダ、着て見せてくれないか?」
4人いる女性のお針子の中でも一番若い子にザトー子爵が試着を頼んだ。
「いえ、今着てもらってますから、お荷物降ろすの手伝います」
そこでザトー子爵はやっと私を思い出した。
「ケイトス、ここに全部重ねて出してくれませんか?」
「ケイトスくん、来たの?どう?似合う?」
いきなり聞き覚えがありすぎる声が聞こえて、そちらを見る。
ルメリーさんだった。
破壊力バツグンなダイナマイトボディーに可憐でちょっと色気のあるブドウ酒色のドレス風ワンピースを着ての登場に工房の男たちの鼻の下が伸びる。
「それって私が出してた依頼のワンピースですか?ちょっと裾が短いけど、女の子達は着てくれるでしょうか?あ、もちろんルメリーさんにはとても良く似合ってますよ!素敵です。デザインはこの工房にお願いしたのですか?上品かつ可憐で、女性らしい美しさが全部出てます!」
「貴方のお母様が、私に提出したデザインなのよ。私もこれくらいなら品があっていいと思う。
ただね、ちょっと高くなっちゃった。大丈夫?」
私とルメリーさんが話してるのを物ともせずザトー子爵はルメリーさんが着てるドレス風ワンピースのチェックに余念がない。
お針子さんたちもそんなザトー子爵と相談しながら細かなところを調整してる。
「1着幾らくらいですか?」
答えはザトー子爵から返ってきた。
「大金貨3枚はかかるな。ここまで細かな仕事だと」
「何だ!公用金貨10枚とか言われるのかと思ってました。じゃ、支払って行きますね」
公用金貨500枚が詰まった袋を作業台の上に出し、数えていると、ルメリーさんも手伝ってくれた。
ザトー子爵とお針子さんたちのア然とした視線が私に突き刺さる。
「魔獣討伐して来たの?」
「はい!高く買い取ってもらえたので、店舗代も払えそうです!」
「店舗はちょっと難航してる。場所がねぇ、それに、売りたがるのに値を吊り上げてるから、段々と腹が立ってきてね!」
「……商業ギルドに頼みます?」
ルメリーさんが私の襟をぎゅーっと締めた。
「値を吊り上げてるのが商業ギルドなの!!!」