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29話 涙

カーメルさん宛てのシトロエン様からの手紙を受け取ったエイリーン兄上はサッとその場で目を通して、私を抱きしめた。


「人払いをするから、色々話して欲しい。フェンの為に」


「ハイ!頑張って話します!」


「ミュンテル氏は君を逃して大丈夫なのか?どうやって銀冠山脈を越えた?」


「……ごめんなさい。ミュンテルさんの命に関わることだから、絶対言えないけど、小さな物しか運べないし、下手したら命が無くなる危険な方法なんです」


「……ホワイトベアか⁉︎良く生きてたな。ミュンテル氏にお礼をしなければな!」


あの魔獣そんな名前なんだ?割と普通だったな。


「……他にも内緒にしたい事は無いか?」


「私がどこの誰かは聞かないでください。そう言うお約束で全部話します」


「……アレクシード=クロスディア様が帝国内を大捜索されているそうだ。まさか、飛空艇から捨てられて生き延びたら、魔物と言われ2週間も拷問された挙句助け出された先でもまだ、命を狙われてホワイトベアの腹に入れてからの亡命。さぞかし、心細かった事だろう」


何だ、お父様言っちゃったんですね。私の素性もバレてるし。


「そんな方がいらっしゃるのですね。でも、その方は自分の幸運に感謝してると思うのです!

それでもまだ生きているのですから」


エイリーン兄上は、それ以上何も言わずにバフォア様の寝室への扉を開けた。


そこには着替えが自分で出来ないバフォア様がいらした。

私は服に絡まってるバフォア様をレスキューし、髪のお世話はエイリーン兄上がした。


「悪い、侍従たちって凄いんだなあ!悪口しか言わないから腹が立ってたけど、こんなのも出来ない俺じゃ何言われても仕方ないか」


その諦めた笑みは昔の私を思い出させた。

ベッドの端に座っているバフォア様の両頬を平手で挟んでグリグリ回す。


「そうやって諦めさせるのが侍従たちの仕事です!」


「にゃにしゅる!ヘイホフ!」


「自分1人では、ベッドから出られないように躾け貴方の翼を折って行くのです!平民の服なら小さな子供でも着れます!でも、平民の服は平民として生活することと同じですから、まずは確実な味方に貴族の服の着替え方を教わってください!ほら、エイリーン兄上が側にいる間に!」


「……ケイトス、話が先だ。フェン、この手紙を読め」


カーメルさん宛ての手紙を読んだバフォア様は嫌悪に顔を歪ませていた。


「お前の数ヶ月後の立場と同じのが、ここにいるケイトスだ。聞きたい事は何でも聞くといい」


「旧マルカン公爵領ってどんなところだ?」


「海があって平野部があって、ロンデル川の川岸に接しているんですが、今までは税が高くて何かしらと言うと賄賂が飛び交っているようなロクでもない領地でした。兵は強いのですが、品性下劣にして卑怯者の集まりです!」


「細工物なんかは工房があるんじゃないか?」


「半分以上が潰れたでしょう。何か優遇でもしないとあの領地で工房をやろうと言う細工師はいないでしょうね」


「……病死で跡継ぎがいなかったから、俺に白羽の矢が立ったらしいんだが、本当は何があった?」


そうやって全部隠せると思ってるのか?お祖父様。


「……ヘキサゴナル国内には不可侵の領域が3つあります。ドゥルジー市国、銀冠山脈の直轄地、クロスディア辺境領。これら3つに武力を持って踏み入った場合は如何なる場合、如何なるものであろうとも極刑を課す。と言う法律があるのですが、マルカン公爵は己れの欲の為に大霊害中でしかも辺境伯がドゥルジー市国に行くよう仕向けて留守にした間に夜襲したのです。

幸いノロシが上がった事で留守を預かってた騎士達が夜襲に気付いたので防げましたが、事はすぐに露見しマルカン公爵家は取り潰しになり、品性下劣な騎士達を束ねられる貴族もおらず、冗談でしょうが、クロスディア辺境伯家の5歳の次男に贈られる予定だったらしいです」


拷問された時に何度も言われた言葉の意味をよく考えたらそんな結果になった。

今ではラスター伯が血まなこで孫である私を必要として直轄地を探しているらしい。

現金なヤツだ。


「だから、その祖父のラスター伯爵が貴方の命を狙ってますから、気をつけて下さい。実の孫を念入りに3回も暗殺しようとした奴ですし、手段は選ばないんで確実に殺されると思って下さい!頭だけはいいんです」


バフォア様は腕組みして人差し指で腕を叩きながら考えているらしい。


「そのラスター伯爵とやらと領地を代わってやればいいんじゃないか?」


私は手加減無しでバフォア様の鳩尾をパンチした。

手首を掴まれてベッドに俯けに押さえつけられた。


「体術では負けないぞ!で?どこが悪かった?」


「そんなことが現実になったら、クロスディア辺境伯領はまた、襲われて敵も味方もアンデットだけしかいない危険地帯となり襲われるのは隣の領であるラスター伯爵領ですよ!

今、ヤツがクロスディア辺境伯領に手を出して来ないのはそれを手にする手段があるからです!」


「……おかしな話だ。確か次男と同い年の長男はその危険物と血が繋がってないのだろう?何故、血が繋がってる次男を暗殺する必要がある?普通は逆だろう?」


エイリーン兄上頭いいな。と、言う事は私の素性に気が付いてる貴族もいるかもしれないって事か。

どうしたら、父上が罰せられないように出来るかな?


バフォア様が私を押さえつけてる手を離した。


「さてと、ここで見聞きした事は我が誓言魔法により我が死なぬ限り口にすることは出来ぬ!

我が左手にその右手を重ね真実の名を名乗れ!我が名はフェンリル=ロータス=フォン=バフォア」


「……エイリーン=ロータス=フォン=ラムズ」


2人の視線が私に集まった。私は震える手でエイリーン兄上の手の甲に右手を重ねて泣きそうな気分でか細く言った。


「……ルークシード=クロスディア」


「「何ィ⁉︎」」


「……聖魔法の適性がない長男を持った場合はクロスディア辺境伯家は取り潰しになるのです。父上の選択は致し方ない事でした。父上も私もつい2〜3カ月前まではそう思って口を噤んでおりましたが、義母の産んだ子供が父上の子ではなかったのです」


「それで形振り構わず暗殺か、フェン、頑張って来いよ!」


「おうよ!俺に任せておけ!ケイトス!」


「それはいいのです!敵対しないよう弱みを握られないよう慎重に行動なさって下さい!私のことはお祖父様が何とかなさって下さるそうですから、ご自分の事を第一に考えてご自分の大切な物を守って下さい」


「俺の大切なものはエイリーンが全部持ってるから大丈夫!ケイトス、お前もその一部だぜ!腹減ったな!メシ食おう!」


抱っこされて食堂に行くと、お父様とお母様がどんよりしている。

その手前の席でイラックスさんは快調に食べ続けている。


エイリーン兄上はイラックスさんが食堂を出て行くのを待ってお父様に事情を聞いた。


「父上も母上も、どうなさいましたか?」


「……実はまだ言うつもりではなかったが、我が公爵家は破産した!」


「お父様、どれだけお金が必要ですか?」


「ケイトス、もういいのだが、1週間以内にここを出て行くように言われた。私はどこかの大家に士官しようと思う!エイリーン、お前も身の振り方を考えなさい」


「……えっと、つまり、平民になるって事?」


お父様は暗い目をして目玉焼きを見つめながら先祖の交わした旧い契約書を出した。


「今から1700年前のご先祖様が、あのユデリアの大災害の際に旧ラムズ領の領民を逃す為に宮廷魔道士の1人と約定を交わしたのだ!毎年家族に公用金貨100枚を支払い続けると!!!」


端金だね。


「今年払えなかったの?」


「……うちの父が先日、こんな契約書があったと慌てて持って来た時には遅かったのだ!!!もう何代も支払ってなくて総額公用金貨60万枚!督促状が来て今週末までに払えなかったら約定通り公爵家とラムズ公爵領を没収すると!」


60万枚か、ちょっと無理かなあ。

バランに相談して見よう。


バランの宿が分からないから、ハンナの店の前で待ってると、馬車がゆっくり目の前を通った。ガラス窓にはハンナの泣き顔。

一生懸命ガラスを叩いている。

ウインドスラッシュで馬車の輪を横に切った。

馬車が音を立てて止まる。

私は転移して、馬車から降りてきた男どもが人質にしてるハンナを貰い受けた。

ウインドスラッシュで男達の上半身をきりとばして。

ハンナは破られた服を必死にかきあわせてはだけた胸元を隠している。

私はアイテムボックスから私の上着を出しその上に置いた。


身体強化でハンナをお姫様抱っこして山小屋まで転移してカーメルさんにハンナを届けたら、殴られた。


「お前だからこそ預けたのにこんな事か⁉︎ハンナを会わせない!!!この家にもアスムにも、もう来るな!」


「……申し訳ありませんでした。お世話になりました」


アスムの街に転移したらもう昼だ。

バランの宿を探してたら、憲兵隊に捕まった。


「……困るよ!出頭してくれないと」


「知人女性を攫われたので手加減出来ませんでした!どうぞ、お連れください」


「……なんか誤解してない?ま、兵舎で説明しようか。名前は?」


「ケイトスです」


「ギルドタグ預からせて貰うよ?はい、良い子だね」


少し離れた場所にある兵舎は男臭かったので「クリーン」で爽やかに。


憲兵さん達はお菓子と香草茶を入れてくれた。


「……これが最後の食事ですか?」


「それなんだけど奴等にはいっぱい罪があって、100回死刑になっても足りないくらいだから、君が殺人したと思うのはいい事だけど、今回は評価されて罪人の討伐に当たるから…アレ?あれぇ?え⁉︎君って冒険者ギルドに登録してまだ4日目なの⁉︎」


「はい、そうです!」


「弱ったなぁ。ランク上げられないよ!Dランクに上がったばかりだろう?ランクが上がって2週間は次のランクに上げられないんだ。ふむふむ、スゴい高値が付く物ばかり討伐してるね。

そうか、それでかぁ!お金持ちの冒険者ばかり狙ってる誘拐脅迫殺人団だったんだよ。

今まで殺人される側になったことが無かったんだろうね。

ちょっと脅したら全部の犯行を吐いたよ。

中町広場で処刑するから、コッソリ殺しに来ちゃダメだよ?殺人もギルドタグに討伐として記載されるからね。ただ処理して無いと【殺人*名】って記載してあるから検問に引っかかるね」


「……実は今週末に王都に行くんですが、何とかなりませんか?」


「これでもおじさん憲兵隊長なんだ。一筆書いてあげるよ!…まともな騎士に当たることを祈ってるよ」



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