28話 頑張る日々③
幻惑森林3日目。
まず、魔法を使い木に樹液を出させる。
あ、ヤバッ!着替えてなかった!
後悔先に立たず。
仕立ての良い貴族の服は早速穴だらけに。
もう、開き直って蝶々を捕る!
今日はパフュームバタフライだけじゃなくアゲハ蝶みたいなめちゃくちゃキラキラした綺麗な蝶々がいて5匹それも獲ったが疲れたのか、フラフラする。
これは良くない!とりあえず森から出よう!
森の外へ転移したら、動けなくなった。
「……困ったな、ゆう、しょく、までに、かえる、って……」
私の意識は途切れた。
☆☆☆☆☆
目が覚めたのはラムズ公爵家の自分の部屋だった。
もう不快な倦怠感は無い。
「起きたか?ルーキー」
私の額の汗を拭いているのは黒髪にリーゼントの親切な人だ!
「……あ!その節はお世話になりました!」
「いやいや、メシのお礼を言おうと思ったら幻惑森林だって聞いたから、外で待ってたらルーキーが転移して来ていきなり倒れたから、またなんかやらかしたんだろうと思ってその場で診察してたらアイテムボックスの中身がドサッと出たから俺のアイテムボックスの中に入れてたら、ポイズンバタフライを5匹も素手で獲っただろう!!!この馬鹿野郎!」
「ごめんなさい!ご迷惑をお掛けしました!」
「金になるからって何でも獲ってると死ぬぞ?ポイズンバタフライは特殊な手袋をして獲らないと鱗粉が猛毒だから普通は即死だ!」
「……毒には身体を慣らしてありますから良かったです」
「……ルーキーよ、これからは調べてから行けよ?それから、これが今日の換金表で、お金は治療代に半分貰った。明日の朝には起き上がれるようになってる。
俺は中町の医者でユーマという。
普通は冒険者ギルドなんぞ行かないから、何かあれば診療所に来い!
それから金はルーキーの執事に預けてある。
バースデートーチを獲ってて良かったな。あれのアク取りした茹で汁には強い解毒作用があるんだ。
昼に冒険者ギルドに買いに行ったら、酒場に連れて行かれて食事を食わされた。
久しぶりのマトモな食事だった。ありがとうな!
じゃ、もう峠は越えたから、少しずつ熱も治る。
あとは食えるだけ食って寝ろ!」
「ありがとうユーマさん!」
「……感謝は差し入れでもらう!直ぐに食べれるものを持って来い!」
転移して居なくなった。
忙しいのかもしれない。
ベッドサイドの魔法灯に換金表を照らして見る。
******
アスム街冒険者ギルド所属
Dランク
冒険者名 ケイトス
【魔獣名/ランク/討伐数/換金額】
○パフュームバタフライ/C/536匹/公用金貨6枚/大金貨4枚銀貨3枚大銅貨2枚
○ポイズンバタフライ/S/5匹/公用金貨5枚
【合計*公用金貨11枚大金貨4枚銀貨3枚大銅貨2枚】
なお、重篤な毒状態だったので治療をして下さったユーマ医師に治療費公用金貨6枚を支払いました。
******
「……手袋買おう!」
懲りて無いと言われようが、ちゃんとした剣は金食い虫なのだ!
ベッドを抜け出しクローゼットから適当な服を出して来て食堂まで転移したら真っ暗でした!
仕方なく部屋に転移したらヘインが私を拘束して服を脱がすと部屋着に着替えさせてベッドに入れた。
枕元からいい匂いがする!
ヘインが椅子に座って文机に置いて居た食事をスプーンで食べさせてくれる。
ポテトサラダの中にコリコリした食感の甘いものが刻んで入れてあったのが美味しくて、お代わりした。
「今何時?ヘイン」
「あと少しで0時です。奥様と旦那様には汚れているから、部屋で食事をすると言ってありますからお気になさらないでください。
明日もまた幻惑森林へ行って来るのですか?」
「良い剣は最低でも公用金貨500枚はいるからね!」
何故かヘインは頭を抱えている。
「……帝国の王都でも、そんな恐ろしい値段の剣は売ってませんからね?王都1番の工房が頑張っても、せいぜい公用金貨50枚くらいですよ?貴婦人のドレスの方が高いくらいです!」
そう言えば、ドルク様の作るのは魔剣だったね。
「じゃあ、すぐ買える良い剣っていくらかな?」
「……そうですね、子供用の剣なら公用金貨10枚あれば良い物が買えますよ?」
「大人用のロングソードは?」
「腰に付けたら引きづりますよ?カッコ悪いですね」
「……」
あの剣帯、普通じゃないのか。
「わかった!子供用の剣を2つ買う」
「予備の剣ですか?」
「いや、私、双剣使いだから。本気出さなきゃ勝てない魔獣とか襲って来て死んだら悔いが残るでしょう?」
「じゃあ、頑張って公用金貨20枚貯めて下さいね」
「了解です!」
寝る前に薬湯を飲まされたが甘くて美味しかった!
お腹がいっぱいになると私は直ぐに眠りについた。
翌朝、爽快に目覚めて朝食をお父様達と一緒に取り、9時半から初めての魔法の授業。
先生はスケルトンの絵を描いたチュニックと黒の革の手袋とコートとズボンの聖魔法使い。
「……よろしくお願いします!ケイトスです!」
「俺様は他に並ぶ聖魔法使い、イラックス様だ。それなのに、なのに!何故、生活魔法を教えなくてはならない!」
思うに、威張ってるから、相手にされなくなって仕事を選べなくなっちゃったんじゃない?
「でしたら、結構です!お帰りください!」
ヘイン容赦ないな!
イラックスさんはどうにか笑顔を浮かべて生活魔法を一から教えてくれたが、とってもわかりやすかった!
細かな魔法が使えなかった私が何と、クリーンを覚えたのだ!しかし、自分だけに掛けたつもりが屋敷中になってしまったが些細な事だ。
お昼になったから昼食を一緒に取り、また明日も来てもらう様に約束してたら、お父様が生活魔法をあらかた覚えるまでは屋敷に滞在してくれるようにイラックスさんに言った。
イラックスさんは号泣していた。
…おそらくお金が無いのが深刻な問題だったのだろう。可哀想。
ヘインに飲み会までには帰って来るし、参加するから夕食はいらないと伝えて、カンソ服飾店まで転移して安い服を上下5着買い、更衣室で着替えてた。
いざ、幻惑森林へ!
今日は雨が降っていたからダメかと思ってたらいつも通りの展開に。
一生懸命にパフュームバタフライだけを捕る。
いつも以上にたくさん獲れて満足して森から出ようとしたら、馬車ぐらいの大きさのクモさんが私に向かって突進して来る。
思わずぞわぞわして最大規模のウインドスラッシュをお見舞いしたら魔獣収獲祭に突入!
ブラッディウルフの大群もヘブンズマンティスの群れも号泣しながらウインドスラッシュで殺戮し尽くした。
全部アイテムボックスに入れてアスムの冒険者ギルドに転移して搬入口に投入して支払いはあすでいいと告げて外に出る。
2軒隣の酒屋さんに駆け込みビールを10樽と白ブドウ酒と赤ブドウ酒を10樽、強いお酒を2樽買ってラムズ公爵家の小ホールに転移したら飲み会は始まっていた。
エイリーン兄上が進めてくれてたらしい。
私は小ホールの壁際にアイテムボックスから出した酒樽を積み上げた。
「右からビール、白ブドウ酒、赤ブドウ酒、強いお酒、です。好きなだけどうぞ!」
バフォア様が私を抱っこして食事が乗ってるテーブルへと移動。
イラックスさんも夢中で飲み食いしてるその横でお父様とお母様が、フライドポテトにケチャップを付けて食べていらっしゃる!
「お父様、お母様、夕食は召し上がられたのですか?」
「「今、食べている」」
「お口に合いますか?」
「合うから食べてるんだ、ケイトスもバフォア様も座りなさい」
公爵に様付けで呼ばれるバフォア様。
うん!余分なことは考えたくもない!
エイリーン兄上の友達でいいじゃない!
バフォア様は盛り付けて貰わないと食べられないらしい高貴なお家育ち。
私が盛り付けてあげよう!
ハンナん家でのおかず争奪戦は、自分から行かなきゃ食べられないのだ!
「バフォア様、どれだけ食べたいの?はっきり言わなきゃ皆に食べられちゃうよ!」
「どれだけ…。じゃ、ケイトスのおすすめ全部!」
「お腹すいてる?バフォア様。スゴい量になるよ」
その発言に愛想笑いしてゴマかすバフォア様。
決定!この方、殿下の1人だ。絶対!
「じゃあ一緒のお皿で食べっこしよう!」
2人分皿盛りして、フォークで食べる。
最初は1つの皿を分け合うことがわかってなかったバフォア様は、自分の分が無いのかと勘違いしてたから、バフォア様の手にフォークを持たせると同じ皿の料理を突き刺す。
やっと食べっこの意味がわかったらしい。
楽しそうにたくさん食べていた。
「バフォア様の領地はラムズ公爵領の近くなの?」
「アホか!俺の領地なんてあるか!ここには騎士として赴任したんだよ!あー!お前変なこと聞くと思ったら、ラム酒なんか飲んでるんじゃねーか!」
「……これ、お酒なの?身体がポカポカして気持ちいいね」
スゴく眠い。
「あーあー!お目々が蕩けてるじゃねーか!」
バフォア様に抱っこされて、寝落ちした私は頭が痛くて目が覚めた。
「……だからってよう、ヘキサゴナルに領地貰うとか、俺、どんだけ嫌われてんだよ?」
すぐ右隣りからバフォア様の声が聞こえる。
「フェン、君もこの子と同じように国外へと逃げた方が良い。ヘキサゴナルは君の母上の国じゃないか、ここより危険は無いと思う」
「兄上…」
「どうした⁉︎起きたか!」
「……オエッ」
私は食べた分だけ戻しました。バフォア様の上に。
バフォア様が、ギャアギャア騒ぎ何故か騎士が2人突入してきて、騒ぎの元がわかるとヘインを呼んで来てくれた。
エイリーン兄上がお世話してくれたので、バフォア様は汚物を退けられお風呂に入ることに。
エイリーン兄上が手を洗ってる間に私は口をゆすいだ。
香草茶を入れてくれたヘインにお礼を言うと、こめかみにグリグリされた。
「お酒を飲む悪い子にはコレです!」
「イタァ⁉︎頭が痛いからやめてください!」
面白がって余計にグリグリされただけだった(泣)
ヘインが部屋から出て行く。
エイリーン兄上に素早く聞いた。
「バフォア様、ヘキサゴナルのどの領地に行くんですか⁉︎」
「……確か、お取り潰しになった公爵領だとか」
旧マルカン公爵領か!
「頑張って、って伝えて。びっくりするようなお土産物があったら、いいと思うよ。
ブラストに行く船着き場がある場所だから」
「……詳しいのだな?」
ギクリ。
「サテル兄さんに教えてもらって、近隣の国には詳しくなったんです」
よし!これでいいです!フゥ〜。
「ほう、話をしてみたいな」
だ、ダメダメダメェーー!!!
「ダメ!エイリーン兄上は私の物なの!私がお話する!!!」
しっかりと筋肉がついたエイリーン兄上の身体にしがみつく。
しかし、エイリーン兄上は誤魔化されてくれなかった。
明日の朝、朝食前にサテルを連れて来るように私に命じたのだ。
エイリーン兄上のバカァア!!!
私は兄上とバフォア様が部屋から出て行くと自分で着替えて、サテルのベッドまで転移。
同じ部屋のカーメルさんとヒュージさんが飛び起きたが、サテルの布団の上からサテルに抱きついて泣いてるのが私だとわかると抱っこしてダイニングまで持って行き理由を聞いた。
「勉強で解らない事でもあったか?」
「わだじのヘマでザデル兄ざんが、エイリーン兄上に呼び出ざれぢゃう〜!!!うわぁああああああん」
「……どのぐらいのヘマだ?」
カーメルさんは、外出着に着替えながら私に聞いた。
バフォア様が王家の一族らしいこと。疎まれてヘキサゴナルの旧マルカン公爵領を下賜される事を伝えるとカーメルさんがテーブルを叩いた。
「後手後手の対応では無いか!クソ!だから貴族派は!!!」
「……兄さん!ケイトスが驚いているよ。ケイトスが悪いんじゃないからな」
「……うん!わかってる。父上も私が帝国に行く事になった時、テーブル叩いて壊してた」
「で?サテルはどこで話に出て来るんだ?」
座り直したカーメルさんに問われて目を外らす。
「バフォア様、大変だから、マルカン公爵領で特別なお土産を売り出すとブラストに行く船着き場があるからいいかもしれません的なことをサテル兄さんから聞いたって言っちゃって」
カーメルさんからゲンコツされた。
イッターーイ!!!
「サテルはヘキサゴナルの事など知らん!だから、私が行って話をしよう。さ、連れて行きなさい!」
「……兄さん!」
「ヒュージ、後は頼んだ!」
「……やっぱり、私が知ってるって言うよ!」
「ダメだ!ケイトスの話は詳し過ぎる!話してもいい事と、悪い事は私が判断する!」
「……えっと、皆、ハンナ姉さんから話を聞いてないのかな?皆でアスムに引っ越すんだよ?」
「「それを早く言え!!!」」
ヒュージさんとカーメルさんは2人で内緒話をしている。
サテルがやっと起きた。
4人でいろいろ話をした結果、私がシトロエン様からカーメルさんへと託された手紙を見せる事になり、自分の事以外は話してもいいと諦められた。
その手紙を預かってラムズ公爵家のゲストルームの前に転移すると騎士達に囲まれた。
「私です!エイリーン兄上とバフォア様にお話があります!」
「次からはここには転移で来ないように!」
「ハイ!申し訳ありませんでした!」
部屋に入ると、従者の控えの間の長椅子にエイリーン兄上が寝てる。
「……兄上ぇ〜、起きて下さい。もう8時ですよー」
たったそれだけでエイリーン兄上はサッと起き上がった。
「……兄上、ごめんなさい。私は嘘をついてました。詳しくはこの手紙をお読みください」
エイリーン兄上は私から手紙を受け取った。