26話 頑張る日々①
「ハンナ様のお店が出来るまでカルトラ本店からこのバランをいろんな契約の事務員として差し出します。優秀な男ですから、頼りにしてください。店の資金はバランに預けて行きますから要望があれば何なりとお伝えください」
アスターは、カルトラかあ。へこむな。
「……家族で暮らしたいのよ、アスムで!出来れば家と工房と店の一緒になってる所が良いんだけど?」
ハンナの声が尻すぼみに小さくなる。
言ってる間に不安になって来たらしい。
「……たったそれだけですか?他の方は別荘や、王都への出店、果てはヘキサゴナル王都への出店を希望なさいましたよ?」
「……王都かあ、やってみたいけど数が作れないのよねー!」
今度はバランがにこやかに提案する。
「お弟子さんを紹介することも出来ますよ?」
「……私の事、馬鹿にしたりしない人がいいわ」
「ヘキサゴナルの職人でも良いですか?」
「……いいわ!帝国語が話せるといいんだけども」
オーダーしたハチミツがけホットケーキが4人の前に紅茶と一緒にサーヴされ、しばし、皆が夢中で食べる。
アスターが私の頬にべっとりついたハチミツを自分のハンカチで拭く。
「ありがとうございます!アスター様」
「フフ、子供はそういうものですよ。美味しく食べたらいいんです」
「……ハンナ姉さん、公爵家の私の部屋に泊まりなよ。私、宮廷騎士学校に行くのに、勉強しなきゃいけないから、店作るのに付き合って転移したりさせたり出来ないから。話し合うのにバラン様も泊まれば?」
「「公爵家に泊まるなんてとんでもない無礼です!」」
バランん家ではそういう事したらいけなかったんだ。
「カンタンに考えすぎました!すみません!」
「いい?ウチじゃ無いんだから、ホイホイ簡単に招いちゃダメよ?ケイトス」
「気をつけて下さい。では、また明日のこの時間にここでお待ちしてます!」
こりゃ、勉強、午後は休みにしてもらわないとね!
急いで市場の露店で残ってる野菜を買ったら、辻馬車が待っている辺りに行き、馭者の青年を見つけて安い服屋に連れて行ってもらいハンナが素早く選ぶ服に着替えてハンナん家の山小屋へ転移。
台所に残らず出して、幻惑森林へ飛ぶ。
もう夕方でどうやって蝶々を集めようかと悩んでると視線を感じた。
そちらを見ると幻惑リスが3匹倒れた木の上に並んで私を睨んでいる。
「……今日はいいよ。巣に戻って寝なよー」
しかし、蝶々が現れないので仕方なく相手してあげることにして振り向くと9頭になってた。
ウインドスラッシュでブラッディカーニバルだ!
そしたら木から樹液が飛ばされてまた、服に穴が開いたが蝶々が飛んでる!
よく見たら樹液を吸ってる!
一生懸命両手でそっと捕まえた。
ウハー!大量ゲット!
暗くなったから無属性魔法の暗視を目に掛けたら樹液にカブトムシが吸い付いてる!
でも、私の上半身くらいあるから、ウインドスラッシュで頭を切り離してゲット!いっぱい獲った!!!
あと、幻惑リスが襲って来たので驚いてウインドスラッシュ!あーつーめーろー!
ブラッディウルフが1000頭ぐらい現れたので再びブラッディカーニバル!
「……フゥ〜、夜は危ないかな?面白いけど!」
あと、銀色に輝く毛皮のモモンガが群れで襲って来たのでブラッディカーニバル第3弾!!!
悪いがブラッディウルフは焼いて埋める!1000頭入れてたら銀色のモモンガ入らないし。
ヘブンズ食堂のオーナー、メリノさんも要らないって言ってたしなぁ。
あ、ハチミツはやめとこう。蜂が巣の中だ。
バースデートーチ、だっけ?
あー!これかあ!いっぱいある!
炙って取れだっけ?
「ファイアーウォール!」
だって、そこら辺中バースデートーチだったんだもの!
ちなみに樹液は降って来なかった!
私は焼けた大きなアスパラガスみたいなバースデートーチのあれだけ火で焼いても焦げてない芽をひたすらに朝まで取り続けてたが辺り一面が白んでくると白鳥のデカイのが群れになってバースデートーチの芽を食べてる。
お仕置き決定!
ブラッディカーニバル第4弾。
日が昇ってきたので転移してアスムの冒険者ギルドに入って行くと皆が私の格好を見て笑ってる。
「おい、ルーキー。お前の大事な所見えてるからな?」
踵まである髪を前で三つ編みして隠した。
「今度はケツが見えてるぞ?服着てねぇのわかってねーなら帰って寝てから来いよ!」
バースデートーチめ!!!もう2度と採らない!!!
受け付け窓口のお姉さんも片手で顔を隠して私に応対してくれたが、何故か指のすき間から覗き見してる。
「見たいなら見れば?」
「おい、ルーキー!受け付け嬢には優しくな!」
「はい、申し訳ありませんでした!先輩」
「だから!!!礼をしたら、ケツがプリッと丸見えだろうが!!!服は無いのか!服は!」
「あるけど、どこで着るのですか?」
「……お前、夜の幻惑森林で何獲って来た?まさか、バースデートーチには手ェ出して無いだろうな?」
「いっっっぱい採ったよ!」
「……ルーキー、着替える前に解体窓口で出して来い!アレはアイテムボックスに入れててもおかしくなる代物だから、原因を排除して来い!ええい!付いてってやる!!!」
「おかしいな?メリノさんはそんな事言ってなかったけどなぁ」
今はあまり流行って無い髪型、リーゼントでキメた黒い髪に水色の目の青年は大きな体をしてるクセにメリノさんの名前を出した途端、怯えた顔をした。
そして私の両肩に手を置き、忠告した。
「あのおばさんの依頼は絶対受けるな!心が死ぬぞ!木の芽と、ハチミツだけは受けるなよ!」
「……もう遅いよ」
「……そうか、すまない!力になれなくて!」
解体受け付け窓口まで行ったらガハト様に笑われた。
「何だ!昨夜来なかったって言ってたから今朝行ったのか?搬入口に出せよ」
アイテムボックスを搬入口にくっつけて中身を全部出すと頭がスッキリして代わりに心がヤラレた。
「もう、お婿さんにいけないです」
裸で大勢の人前を堂々と歩いた!ヘンタイだ!私は!
しゃがみこみウツが入った私にここなら着替える事が出来ると言ってお兄さんがマントでギルド内の視線から目隠ししてくれた。
ありがたく貴族服に着替えたら、リーゼントのお兄さんは私のどうでもいい三つ編みを、サイドを三つ編みにした後更にそれをまとめて編み込みにしてくれただけじゃなくススだらけの顔を濡らしたタオルで拭いてくれた。
お礼に銀貨3枚渡すと2枚返して来た。
「貰っとく!ありがとな!じゃ、早く家に帰らなきゃ家の人が心配してるんじゃねぇか?」
そう言ってマントを着けながら踵を返して駆け出すお兄さんに名前を聞いてなかったと、思ったのはもうお兄さんがギルドから出て行った後だった!
解体受け付け窓口には血しぶきを顔に付けたお姉さんが今日も立っている。
「すみません!15時頃取りに来るので後で受け取る事って出来ますか?」
「出来る。ギルドタグ預かったままになるがいいか?」
「大丈夫です!あ、それから、ガハト様に牛のお金だと言えば分かります。これを渡して下さい!」
公用金貨2枚渡すとお姉さんはうなづき預かってくれた。
ラムズ公爵家に転移する。
玄関ホールにいた侍従が、お父様の執務室まで、私を急ぎ足で連れて行く。
お父様は書類と戦いながら、ため息交じりに言った。
「メイベルが心配して寝てないから、顔を見せてあげなさい。それから、夜には冒険者稼業は禁止する!」
「お父様、ご心配をおかけしました。夜は冒険者稼業はしません。お母様にも謝ります!」
「よろしい!今ならまだ、食堂にいるだろう?私もお腹が空いて来た。一緒に行こう!」
「はい!お父様」
お父様に幻惑森林の夜の様子をダイジェスト版で話して聞かせると胡乱な目で見つめられたが私は特に気にしてなかった。
しかし、銀色に輝く毛皮のモモンガの話をすると一つ直売りして欲しいと、お父様と執事長のケインズさんに懇願された。
「いいですよ!いっぱいあるんで1つくらいいいでしょうし」
「ありがとう!ケイトスこのお礼は必ず!!!」
私は銀色に輝く毛皮のモモンガがどれだけ貴重な物かこの時はよくわかっていなかったのだ。
だから、父上にも送ってあげようと軽〜く考えていた。
食堂に着くとお母様が私を見て椅子から立ち上がるとドレスを摘んで早歩きで私の前に立って私の頬を体重が載った平手打ちしてギュッと私を抱きしめた。
「私が勝負パンツの話なんてしたから、夜遊びで朝帰りしたのでしょう!4歳で夜遊びしてはいけません!ケイトス!」
あれ?そういう心配なの?ま、いっか。
「……お母様ごめんなさい!夜遊びして私は悪い子です」
お父様がお母様をなだめる。
「エイベル、君の思うような悪さじゃなくてね、冒険者として仕事してたから帰らなかったんだ。だから、夜の外出は禁止にしたよ」
「……まあ。腕白盛りなのね?どこへ行ってたの?」
「幻惑森林でバースデートーチを採ってたら大きな白鳥に横取りされたんで、ウインドスラッシュをお見舞いして持ち帰りました!」
「まあ!!!バースデートーチ私も大好きなの!今度依頼するから、採ってきて!」
悪夢再び。
しかし、こんなに嬉しそうなお母様をガッカリさせたくない!
「わかりましたお母様。依頼しなくても、お母様の頼みなら採って参りますよ」
裸になるくらい何だ!1度でも、2度でも一緒だ!
「きゃ!嬉しい!たくさん採ってきてね!一度採ると10年生えないんでしょう?」
それはそう言って採るのを延期してバースデートーチを知らない人に採りに行かせる為の方便です!だって採ってたら生えて来ましたから!
「朝食を食べようか?美味しそうだ!」
朝から牛フィレ肉のステーキ。フライドポテトも美味しい!
今朝はフワフワのパンが付いている。
いっぱい食べた!
「お父様、すみません!昨日から1週間幻惑森林での採取依頼を受けてるので、午後から授業を休みにして下さい!」
「……夜に行かれたくないから許可するよ」
「それから、朝、練兵場に来てる騎士団の方、全員を私が飲み会に招きたいのですが、使ってない大きな部屋とコックさん達に簡単なお酒のおつまみを作って欲しいのです。ちゃんとコックさん達にはお礼しますから、お願い出来ませんか?」
「私共、侍従もそのお小遣い稼ぎをさせていただきたいです」
執事長のケインズさんがお茶目にウインクして言った。
あー!そうか、給仕がいるね。
「是非、お願い致します!ケインズさん」