24話 楽しみいろいろ
私が父上に連れられソレルの所に行くと、ソレルは油断仕切ったニヤニヤ笑いでお父様に進言した。
「私の誇りを汚されたのですから、全力でご子息には指導させていただきますよ?あと、私が勝ったら金貨100枚ほど慰謝料としていただきますね」
お父様が魔獣みたいな顔をしてる。
私が答えた。
「慰謝料なら私の稼ぎで払います!お父様にご迷惑はおかけしません。その代わり、私が勝ったらお父様に毎日かならずひざまづき礼を尽くしなさい!」
「はい!わかりました。公爵ご子息様」
さっき私がボコボコにしたエトレ流剣術の騎士が審判すると言った。
私とソレルが木剣を構えて向かい合ったその間の邪魔にならないあたりに陣取った。
「地面に倒れたら負けです」
アイツ頑丈そうだから急所狙って行くか。
「……始め!!!」
ソレルが苛烈に攻めて来たが、身体強化してるので全部受け流し、隙が出来た左脇腹を一閃してすれ違い振り向く。
脇腹は大きく趣味の悪いサテンのシャツが大きく破れていた。
「……この、クソガキが!!!」
思ってた通り、不利になった途端リトワージュ流剣術にスイッチした。
ちゃんと技になってないから簡単に躱せるし、カウンターも食らわせられる。
その度に裸に剥かれていくソレル。
もうズタボロのおパンツ一丁だ。
意外にも白だった!
「キ、キサマァー⁉︎わざとか!!!」
「……だって、私に不利なルールだもの。どう考えても殺さないと倒れないでしょう?模擬戦でそこまでしてもねー?」
私は無慈悲におパンツの腰紐を切った。
「「「「「「「「「「「あっ」」」」」」」」」」
ご開帳。
「フゥン!父上より随分と小さいんですねー」
騎士達皆がソレルのお股を覗きに来た。
ソレルは木剣を放り出し両手でご子息を隠して走り出す。それ片手で隠れるからまだ戦えるよ!
「き、キサマ!!!覚えてろよーーーーぉおおお」
「「「「「「「「「ソレル様あ!」」」」」」」」」」
追いかけて行くニヤニヤ軍団。
残った騎士達の大爆笑!
「審判の判定お願いします!」
「君の勝ちだよ」
騎士達、皆が手荒に私の頭を撫でて行く。揉みくちゃにされた私をエイリーン兄上がサルベージする。
エイリーン兄上が銀の懐中時計のフタを開けて説明する。
「この短い針が時刻、長い針が何分か、指してる。今は8時30分。そろそろ朝食だよ!父上さっき馬車でハイドンと帰ったから、どうする?」
「兄上は、どうするの?」
「このまま騎士団の食堂で食べてそのまま仕事だね」
「私はそこら辺の食堂で食べます。美味しい所ありませんか?」
「俺が連れてってやるよ!今日は外回りだからヘブンズに行こうか。エイリーン様、弟君預かりますね」
「食堂で一緒に食事してあげて。これ、少ないけど」
「いいよ!兄上、私が出すから」
「ここは貰っとこうぜ!俺、ミテルっていうんだ!」
「ケイトスです。昨夜兄上の弟になりました。冒険者をしてます!…兄上、ありがとうございます!」
「今日は一日楽しんでくるといい」
「はい!」
結局、朝食代貰っちゃった!!!
騎士団の馬房に行って栗毛の馬を出して来たミテルさん。
私を馬に乗せ、自分もその後ろに乗り、出発!
馬車の列の後ろに並び馬車と同じ速さで駆ける。
表通りに出る前の道を曲がると行列のできてる白い塗料が塗られた店があった!
馬を馬屋に括り、世話をしてる私よりお兄ちゃんな子にチップを渡すミテルさん。
ん⁈そのお金見た事無い!
大銅貨より小さい銅貨。
これが10枚で大銅貨1枚かな?
列に並んでる間にミテルさんに聞くとやっぱりそうだった!
「昨日までお金見た事無くて。兄上に聞いたら大銅貨から教えてくれたから」
「今まではどうしてたんだ?」
「ヒュージ流の師匠の家に居候してたから私はタダ飯ぐらいだったんです」
「冒険者は?」
「昨日登録したばかりですが、宮廷騎士学校の入学金払えました!」
胡乱な目でミテルさんに見られた。
行列がやっと少しだけ進む。
「どこで、そんなに稼いだんだよ!」
「幻惑森林ですよ。ブラッディウルフ以外はおとなしかったんで、たくさん狩っちゃいました!」
「……そうか!剣で狩ったのか!」
「ハァー、それが剣買うお金無かったから、魔法でスパッとしてたら、木の樹液でさっきのソレルさんみたいになって、バフォア様にマント借りちゃったんです」
行列が更に進む。店の中に入って行くと木の板に書かれたメニューを見て思わずミテルさんに囁く。
「バフォア様からブラッディウルフのお肉は美味しくないと聞いたのですが、ここではステーキになってますよ!あ、幻惑リスも?あれってお肉食べれるんだ!さすがにデススパイラルスネークは毒あるから、ないよねぇ」
「……お前、今、金持ちだろ?」
「お世話になった方にほとんど差し上げたんで、後は師匠に牛買うくらいですね」
「……今度大金が入ったら酒奢ってくれ!」
「大人ってお酒好きですね!わかりました!任せてください!騎士団の皆様に奢りますよ!」
抱きしめられて、額にあごひげジョリジョリ押し付けられた。思わず「ひゃーっ」って声が出た。
待ち時間30分の間に私のことを随分と話したので幻惑リスのシチューを食べながら武器屋の話を聞いてみた。
ちなみにミテルさんはブラッディウルフのガーリックステーキをモリモリ食べてる。
「武器屋かぁ、防具屋はAランクの店があるんだけどな。武器屋はアスムはイマイチなんだよなぁ。
今すぐ欲しいのか?」
「……欲しいけど、お金がない!」
「どのくらい無いんだ?」
「……今からの買い物で無くなると思います。師匠の家の牛と食糧食べ尽くしちゃったから、幻惑森林で獲る物あったら指名依頼してくれる人いないかなあ?」
「……そうねー。まだしばらくはあるから、また、ブラッディウルフのお肉が欲しいわ」
上から降ってきたご婦人の声の方を2人で見た。
ふっくらとした母性あふれる金髪に茶色の目のご婦人給仕がエプロンで手を拭きながら話を続ける。
「はじめまして!小さな冒険者さん。私はこの店のオーナーのメリノと言います」
出されたふくよかな水荒れした手を握って握手する。
「アスム冒険者ギルド所属のDランク冒険者ケイトスと申します。今日から7日間幻惑森林に依頼で行くので、もし、お肉が欲しいならギルドの方に一報ください。夜には必ず行くので」
「あら、頼もしいわねー!ついでで良いんだけど木の芽が食べたいの。あと、ハチミツがすごく欲しいの!ついででいいからお願いね!」
「木の芽ってどんなのですか?」
「大人の親指くらいの大きさで先端が赤いの」
ミテルさんが私の手を叩いた。口パクで何か言ってる。
や、め、と、け
でも聞いたし!
「可能な限り集めますが、見つけられなかったら申し訳ありません」
「ふふ、ありがとう!楽しみにしているわ」
メリノさんが厨房に入って行くとミテルさんが頭を掻きむしって私を責めた。
「何で受けたんだよ!バカ!!!やめろって言ったろ!バースデイトーチ採るなら着替えて行けよ!どうなってもいい服に!それから着替えを森の外に置いて置け!…それから、必ずギルドを通して卸せ!あんなもん採って実績にならなかったら馬鹿みたいだからな!」
「そんなに気難しい依頼なの?」
「今日のソレルみたいに一つ採るごとになるだけだ」
「剣なら?」
「……魔法で炙るか、切るかしないと切れない魔木なんだ。幸運を祈る」