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21話 冒険者ギルドと勝負

アスコット男爵の転移でアスムの街への正門の貴族用入り口からお邪魔した私達4人はアスコット男爵の転移で冒険者ギルドに来た。

ヘキサゴナル国の王都の素材採取組合くらい大きく、それよりも不潔だ。

冒険者の周りをハエが飛んでいて、誰もが見て見ないふりをしている。


「ラムズ様」


「ん?この水晶玉に手を当ててくれる?」


「はい?」


「ギルドタグ作るから」


「ギルドタグって何ですか?」


受付嬢がラムズ様に色目を使いながら私に説明する。


「簡単に言うと身分証のことよ。討伐した魔獣や、採取した薬草のランクによって冒険者ランクが上がるの、フゥ〜、今日は暑いわぁ」


その程度しか無い胸で誘惑出来ると思ってるのか!

アスコット男爵を見習え。

胸のボタン1つ外して無いのに周り中の漢の視線を集めて居心地悪そうだぞ!

貧乳のボタン外し攻撃に鼻白んだ様子のラムズ様がイラッとした口調で受付嬢の言葉を無視して私に言った。


「後は私が説明する!はい、触って!」


水晶玉に触った私は「ケイトス」と念じながら身分証が出来るのを待った。

洞窟にいる時に本名じゃないなら絶対変えた方がいいと食事しながら3人に言われたのだ。

「フォンダ」は教室に40人居たら10人はいると言う。

良くある名前過ぎて貴族なら名字があるからいいのだけど平民ならクラスの組番号と合わせて例えば1年2組の3番目の椅子に座るフォンダくんは「123番」と番号で呼ばれるそうだ。

罪人みたいだ。


ラムズ様がカッコいい名前を考えてくれた。


「ケイトス」は古典語で「意志を貫く者」を意味する。

現代帝国語の当て字でどう書くかも教えて頂いた。


実は名家の貴族様に「命名」して頂いたらお礼金を払わなければならないのだ。

付けてもらってから気づいた!

最低でも金貨10枚は掛かる。

ラムズ様はいいからと、鷹揚に構えているが、貴族に付けてもらった名前だと丸分かりだ。

後払いすると言ったので身分証が出来たらすぐに狩に行く!!!


その身分証がちっとも出来て来ない。

もう1時間経つのに!

ラムズ様だけが呼ばれて奥の部屋に入って行った。


そして10分後、ラムズ様が冒険者の身分証、ギルドタグを手にして出て来た。

無言で冒険者ギルドを出てアスコット男爵にカーメルさんの山小屋に行くように言ったラムズ様は無表情でそれでいてめちゃくちゃ怒っているのが分かった。


カーメルさんに何を言うのか不安に思っているとカーメルさんの前にひざまづき、こう言った。


「フォンダくんを私の息子として育てます!力及ばずこうなった事申し訳ありません!」


カーメルさんはうなづくと昼食だけでも最後に一緒に取りたいと言い、ハンナが食事の支度をする中ラムズ様による説明が行われた。


「……実は冒険者ギルドでは先日から細かな判定が出来る魔導具が導入されたそうで、フォンダくんが転移魔法とアイテムボックスが使えることがはっきりと判定されていました。

その上、ルーサス流弓術が2段、ヒュージ流剣術に至っては師範代だそうです」


皆から魚が腐った様な目で見られて他にも何かやらかしたのでは無いかと背筋が寒くなったのだが、無事それ以外のヤラカシはないようでホッとした。


「じゃあなんで1時間も待たされたのですか?」


「ギルドの新規登録者の担当者が、フォンダくんをいくつかの商会に競らせて奴隷にする所だったが、もう1人の担当者が不審に思い、私を連れて会議室に乗り込んで寸前で取り引きが無くなり、フォンダくんを守る為私と養子の手続きを済ませました」


「……なるほど、な。フォンダは何という名前をいただいた?」


「【ケイトス】です。カーメルさんお礼は必ずします!時々内緒できます。また、直ぐ会えますよ!」


「お礼は良いから会いに来なさい。私達はケイトスの訪れを待っているよ」


ハンナがシチューの鍋を持って来た。匂いでわかる。


「田舎料理ですけど、どうぞ!たっぷりあるからお代わりし放題ですよ!」


食べて驚いた!牛肉が入ってる!!!

私はトイレに行くフリをして裏庭の牛舎に行く。


あぁ、私が来た時には3頭いた牛がもういない。


買って返す!


決意して、食事に戻るとバフォア様が何杯もお代わりしていて、ヒヤリとした。アスコット男爵は2杯食べたらハーヴティーを飲んでた。

ラムズ様は遠慮してたが、ハンナがもう1杯食べさせていた。


私もお腹いっぱいになったし、これからの予定を立てようとしたら冒険者ギルドのランクの事をラムズ様が説明してくれるらしい。


「Fランクから始まってE→D→C→B→A→S→S Sの順番で上がって行く。終わり」


「ランクで出来る仕事が決まったりしないのですか?ラムズ様」


「私たちは親子なんだから、父上、もしくはお父様、親父。さあ、好きにお呼び!」


父上、は呼ぶ度、父上を思い出して寂しくなりそうだからお父様、だな!


「お、親父!」


しまった!緊張してあり得ない選択をした。


「上等だよ!ただ、人前ではお父様と呼ぶように」


「はい!お父様」


「よろしい!今は親父でいい。ランクによっての明確な仕事の格付けは一切無い。何故ならば帝国に出没する魔獣は皆Cランク以上の魔獣しか出て来ないからだ。ん〜、あ!魔獣1頭を何人で討伐出来るのかが明確なランク付けかな」


アスコット男爵が大体の人数を羊皮紙に書いてくれた。

******

○Aランクの魔獣1頭を討伐出来る人数○


S S・ S・A→1人 B→3人 C→7人

D・E・F→死ぬから逃げて!


******


「……Dランクから下って、そんなに弱いのですか」


これにはカーメルさんとヒュージさんが兄弟仲良く声を揃えて言う。


「「雑魚だな!」」


「ヒュージ流の剣聖達から見るとそうかもしれないけど、アスコット男爵が書かなかったのはAランクの魔獣相手に人数だけ多くても、それぞれの動きが阻害されて動けないし、そんなに人数の多いクランは居ないからの『死ぬから逃げて』だしなぁ」


バフォア様が苦笑してそう補足を入れた。

アスコット男爵は喜色満面でヒュージさんに聞く。


「お2人が雑魚扱いしてるってことは、ケイトス様はお2人が認めたウデなんですから、Cランク以上ってことなのですね!」


「……いや、4歳にしては強いが、まだまだだな。よくてEランクか。それに俺が師範代と許した訳じゃないからな!!!」


うわ、なんか面倒くさいのになった!

皆の視線に負けてうつむくと右肩にヒュージさんの手がポンと乗り、左肩に親父様の手がポンと乗った。


「話そうか?」


「おかしいとは思ってたんだよ、吐け!」


仕方なく口を開く。


「3歳の時から教わってる師匠がヒュージ流剣術を教えて下さったんですが、私を守る為に亡くなってしまって、師範代は遺言みたいな形でした」


あまりに重い話に皆が静まり返る。


「……でも、な。それだけか?レベル55もあるのは何故だ?」


あー!それ言うとややこしくなるよ!!!カーメルさんってば!


「師匠の家がものすごい田舎の山の中にあったんですけど時々魔獣がわあっと、襲ってくることが年に何回かあって手伝ってたらレベルが上がってたんですよ!」


「ハイ!ウソついた!!!お父さんケイトスどうする?」


しまった!サテルは看破のスキル持ちか!


「ウソじゃないけど、魔獣じゃなくて人間だったから私処罰されちゃうかなって。ごめんなさい」


「何でそんな田舎に人間が?」


「……実は貴重な石が採れる産地でそれを狙って師匠を盗賊や、冒険者、果ては貴族の騎士団が襲って来て師匠は、私と村の人達に報せる為に狼煙を上げてる間に殺されたんです。戦える人が私しか居なくて、というのも採掘場がスタンピードが起きて皆そっちで精一杯で…」


涙が突然出て止まらなくなった。私は今やっと、師匠を永遠に失った事に気付かされた。

アスコット男爵が何も言わずに胸を貸してくれた。


「うわぁああああああっ!!!」


師匠、師匠、何で逃げなかったの⁈

それは私がいたからだ!

オシャレでレディに弱くてお茶目で武芸が大好きだった師匠!聖魔法使いが近くに来ると何かと理由をつけて去って行った師匠。


「わだじがいだがらじじょうば、じんだ!わだじのぜいだ!」


いきなりアスコット男爵から剥がされたと思ってたら、ヒュージさんが木剣を私に渡した。


「そうまでして師匠様が守りたかった技を見せてもらおうか?君がその師匠の弟子に相応しいか判断させてもらう」


私達は鍛錬に使ってる山小屋の前の広場で木剣を構えて向かいあった。

周りで皆が心配そうに見ている。

師匠が守りたかった物は私だけに伝えられたもの。

ヒュージ流剣術の初動の構えからの手加減無しの攻撃を受けて、私の心は無になる。

払いからの攻撃の型でヒュージさんにはわかったのだろう。10合打ち合いヒュージさんが離れた所を追撃する脇腹、左腕、首。


あぁ、師匠は私の中にいた!


ピタリと木剣の切っ先が眉間に当てられたヒュージさんは負けを認めて一礼する。


「美しい型のリトワージュ流剣術だった!ケイトス、君は師匠様の自慢の弟子だよ。でもね、兄上と試合して勝たないとヒュージ流剣術の師範代はあげられない」


カーメルさんが戦ってるところ、観たことないからわからないけれど挑戦させてもらおう!


「お願いします!カーメルさん」


「休まなくていいか?」


そう言いながらもう、戦闘モードになったカーメルさんは2〜3回木剣でヒュージ流剣術の型をさらうと私と同じ構えで向かい合った。


リトワージュ流が変幻自在な攻守共に優れた剣術なら、ヒュージ流は攻撃に特化した剣術。

つまり、引いた時点でヒュージさんの負けは決まってたのだ。


「参る!」


ヒュージ流独特の滑るような足さばきで近付いて来たと思ったらノドに突きが来た。鳩尾、丹田と三連突きを木剣で左に受け流して右肩を打つ!木剣をずらして柄で受けられて楽しくなる。

お互い一歩引いて態勢を整える。

また初動の構えからだ。


今度は私から攻めて行く。

初動の構えのまま待ってるカーメルさんの木剣の切っ先をほんのちょっとだけ弾きその隙に右足に身体強化して素早く剣を一閃しながら後ろに宙返りする。


カーメルさんの前髪が剣圧で切れて舞う。

そこからは激しい鍔迫り合いとなった。

お互いが繰り出す技を同じ技で相殺する。

秒単位での判断が、2人の命を守っていた。


攻める事苛烈に、守る事を恥とせよ!


私はヒュージさんから初代の格言を聞いた時、「気狂いか?」と思っていたが、デキる武人と戦ってる今、ああ、なるほどね!と頭の片隅で思っていた。

攻めてないと殺られちゃうのだ!この流派は!!!

30分戦ってまだまだ元気なカーメルさん。

私は独特の足運びに慣れてない所為で足の裏のマメが潰れて靴の中で足が踏ん張れなくなったので、次の攻撃を最後にする事にした。


「ハァアアア!!!」


しかし止められた!2人の木剣が砕け散る。

するとカーメルさんは柄を後ろに放り投げて構えて私が攻撃して来るのを待っている。

私は壊れた柄を握ったまま一礼した。


「負けました!私は体術は習ってないのです!申し訳ありません!」


「はぁ、久しぶりに血が滾ったな!体術が出来ないのが惜しい。習いに来なさい。楽しかった!ありがとう!」


カーメルさんはそう言って初めて見る爽やかな笑顔で私の足元にしゃがみ込んで私の足を靴から出して足の裏を見て顔をしかめてる。


「……だから、勝負に出たのか?足を洗って布を巻いておこう。ハンナ、ケイトスの靴を持って来てくれ」


「……あら、これ穴が空く寸前じゃない。直してあげる!」


「ありがとうハンナ姉さん」


「……後で払いなさい♪」


やっぱりか。ま、いいや。

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