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20話 猛勉強

この山小屋にはカーメルさんとカーメルさんの成人になったばかりの双子の兄サテルさんと、妹のハンナさん、カーメルさんの弟のヒュージさんが暮らしていて皆さんシトロエン様の事を「ミュンテルおじさん」と呼んでいる。

ちなみに何故か私は4歳という事になっていて、今、帝国語の勉強を一日中実践形式で教えられながら、ヒュージ流剣術を基礎から午前中に習い、午後からは帝国語の書き取りの練習を私の新しい名前からしている。

フォンダ。

帝国語で強い、という言葉で良くある男の名前らしい。

ヒュージ流剣術を1週間立たずに使って見せたから、そんな名前になったのだが、私はちょっと後ろめたかった。

師匠はどうも、違う流派の剣術も私に意図的に教えていたようだ。

師匠と、遊んでいた時に使っていた剣技が、ヒュージ流のものだったのである。

師匠は他にも遊ぶ時にしか使わない剣術をいくつか教えてくれている。

…ひょっとして失伝した流派の剣術もあるかもしれない。

むやみに使うのは控えよう。


2週間目にはやっと帝国語の文法がわかった!師匠に習ったのと同じだ!

私は発音をサテルに聞きながら古典語より随分と発音が楽だったので単語をとにかく書いて話して覚えてカタコトの日常会話程度なら出来るようになった。

ハンナはそんな私からヘキサゴナル国の流行りの服や、アクセサリーの事を聞きたがり夜遅くまで離れない。

寝室までついて来てカーメルさんに怒られてやっと自分の部屋に戻って行くのが、ここ毎日続いている。

ちなみにハンナは服飾職人だ。

カーメルさんのオシャレな狩衣はハンナが全部糸から作った完全オーダーメイドでもう顧客を50人ばかり抱えている売れっ子職人らしい。


3週間目からは誰でも知ってる帝国の歴史をおとぎ話の代わりにサテルに叩き込まれる。

5000年前の歴史なんて出て来なかった。

古くてせいぜい3000年前だった。


「サテル兄さん、古典はいつからの授業なの?」


もうこの頃にはハンナの事情聴取のおかげでおかしくない帝国語が話せるようになっていた。


「古典は高等科の選択授業でしかやらないから、無視していい。

さてと、1700年前、氷山が溶けて旧王都ユルデリアを含めた26の街や村が飲み込まれた。

この大災害を予知して皆を今の王都カルトラに一瞬で避難させたのは誰だったかな?フォンダ」


「アイアルス魔導帝と112人の宮廷魔導士達です」


「よく出来ました!はあ、お腹すいて死にそうだよ!フォンダ。なんか食べよう!」


「えっ?サテル兄さん。さっきお昼食べたよ?私はいらないからね!」


「そう言わずに付き合えよ!」


その結果、家事がやっと終わって一休みしていたハンナに死ぬほど怒られた私達だった。


そんなこんなで無理矢理歴史と生活するのに必要な法律を詰め込まれる毎日が続いた。


1カ月経つとやっと雪が降らなくなり、畑が出来るようになった。

私の魔法の先生が山小屋まで来るようになった。


キスカ帝国では魔法の家庭教師を幼年舎に通わせる5歳までに必ず雇わなければならないのが法律で定められている。

雇わないと一生をかけて支払わないといけない罰金刑が教育には常について来る。


「魔力量の測定をします。才能が無いなら、無いで別の技能を身につけて行かなければならないですから、はい、力を抜いて」


私は恐ろしくて震えていた。また、魔物扱いされるんじゃないかと。

カーメルさんが私を背後から抱きしめた。


「大丈夫だ。魔力量が多かったら、先生が喜ぶだけだ」


すると家庭教師の女性は微かに頬を赤らめて、私にうなづく。


「ええ!貴方の魔力が高いのは麓に来た時にわかってますよ!…でも、属性が何かが肝心です!」


「聖属性じゃないと、ダメなのかな?」


「オホホホ!そんな事言うのはチェルキオ聖教の教徒だけです!聖、火、水、風、土、光、闇、無、何でもよろしいのです!」


やっと私はホッとした!品揃えだけは豊富だ。

でも、無って何?


魔力判定紙が私に触れたら燃え始めた。白い紙がいろんな色になっていてそれを見た先生が、メモに夢中になって危うく火事になるところだった。

私が水魔法で消した。


「ミモレット=アカザと申します。魔法は何歳から使ってるの?怒らないから言って下さい。フォンダくん」


「……3歳から内緒で使ってました。ごめんなさい」


「先生が教えられる魔法はひとつだけね。隠蔽魔法よ。ただし、魔法判定紙が燃えるのは止められないの。10万の魔力で燃えるから10万300くらいにごまかして、属性魔法を2つくらいに絞りましょうか。ちょっとおかしなくらい属性があるからね。バレたら誰かにどこかに売られちゃうわ。何の属性魔法が一番得意なの?」


「風魔法です!」


「じゃあ、1つはそれで、もう1つの魔法は、無難に無属性魔法にしておく?」


「ミモレット先生。無属性ってなんですか?」


「俗に言う生活魔法よ!隠蔽魔法もこれなんだけど、稀にアイテムボックスや、転移が使える人もいるけどね、転移能力者は帝国では少ないから使ってるところを見られただけで攫われて奴隷にされちゃうの」


気分悪くなって来た。


「……アイテムボックスだけ使えるように見せることが出来ますか?」


「あら、生活魔法は使えないの?」


「制御が難しいんです」


「さすが10万超えね〜。じゃあ、それも教えましょうか!あら?剣は持ってないの?せっかく当代ヒュージ流剣聖の直弟子なのに?」


「私は木剣でいいんです!」


私が1人増えたせいでサテル兄さんは私のお守りで街に出て仕事を探せないし、カーメルさんは、1日中山に猟に出て、5人分の食糧を確保するのに、忙しい。ヒュージさんは午前中は私と模擬試合をして稽古をつけて、午後からは畑に行く。

ハンナは家事が忙しくなって予定の納品数が作れてない。

それにミモレット先生に支払っている授業料がトドメになった!

剣を買ってくれなんて言えないよ!

つまり、貧乏なのだ。

それを聞くとミモレット先生は笑ってこう言った。


「じゃ、冒険者ギルドに加入して稼ぎましょうか!さあ、隠蔽魔法を覚えましょうね!」


幸い常時魔力がいるタイプの無茶苦茶魔力を食う魔法だった為、苦労することなく自分自身にかけられた。

ミモレット先生が、もう一度魔力判定紙で判定したら紙も燃えず、以下の事が表示された。


******


名前 フォンダ/ 男 (4歳)

出身地 キスカ帝国・銀冠山脈

HP 30000

MP 10300

レベル 57

技能 ルーサス流弓術/ヒュージ流剣術

魔法属性 風/無


******


「「何だ⁉︎これは!!!」」


判定紙を覗き込んだカーメルさんとヒュージさんが騒いでいる。

ミモレット先生は赤いインクで魔力判定紙に書いた。


HP 30000→50

レベル 57→2


「どこの武将ですか⁈

レベルが2あるだけでもおかしいけど体力ごまかすには最低50は無いとおかしいから、直してください!」


ミモレット先生の威圧を込めた目力も私には効かなかったが、涙目になってるカーメルさん達が可哀想になり、もう一度魔力判定紙で隠蔽魔法を確認した。


******


名前 フォンダ/男(4歳)

出身地 キスカ帝国・銀冠山脈

HP 50

MP10300

レベル 2

技能 ルーサス流弓術/ヒュージ流剣術

魔法属性 風/無


******


「よろしい!では毛糸の帽子を被り行きましょうか!」


「「今からかよ!泊まって行けよ!」」


「いえいえ、麓のサレタ村の宿に戻ると言ってありますし、明日は乗り合い馬車でアスムの街にある冒険者ギルドで冒険者登録しますから、サレタ村に居ないと痛くない腹を探られるわけです」


「……だが、髪の毛がまだ半分くらいしか伸びてないからな」


「宿に成長促進剤があるので、ちょっと工夫してみます」


それまで口出しせずに見ていたハンナが公用金貨を6枚ミモレット先生に差し出して頭を下げた。


「それじゃ足りないでしょうけど、フォンダの事お願いします」


「ハンナ姉さん!ありがとうございます!」


椅子から立ち上がってハンナの腰に抱きつくと、ハンナが低い声で私に囁いた。


「貸すだけよ?大きくなって倍にして返してちょうだい!」


やっぱりハンナはハンナだった。

ミモレット先生は私がハンナの作ったポンチョという真ん中に穴の空いた長方形の織物を被ると目を細めてポンチョに見惚れていた。

居心地が良くなった山小屋を皆に見送られて出て直ぐに、ミモレット先生は何故か山頂へと転移し、来慣れた様子で洞窟へと入って行く。

そして光魔法の「灯火」で、洞窟内を照らすとあらかじめ描いてあったと思われる新しい大きな魔法陣の真ん中に私を座らせた。


「1時間そうしてて下さい!私は宿に一旦帰って食事をフォンダくんの分も持って来るから!」


「はい!」


ミモレット先生は魔法陣に自分の魔力を流して魔法陣を「発動」させると転移した。

薄くボンヤリと光る魔法陣をよく見ると、岩盤をくり抜いて魔法陣を刻んであるのがわかった。


大変だったろうなミモレット先生。

でもさ、これは今朝来るまでにやれた事じゃないよね?

本当に親切でこんな事をしてるのか?

本当に成長促進の魔法陣なのだろうか。

また、肝心な時に私は眠くなる!

一生懸命に頬を手で叩いていると、ミモレット先生が戻って来たが1人じゃない。

私は魔法陣を出て、洞窟から転移しようとしたら何かが頭から降って来た!


「いやぁああ!だから、魔法陣から出ないでって!言ったのに!」


ミモレット先生が叫ぶ。

私は頭から降って来た白い糸の束を引き千切るつもりで手に絡めたら私の頭皮にダイレクトに刺激が来た。


「駄目よ!伸び過ぎた分は切っちゃえばいいから、乱暴な事しないでください!自分の髪の毛でしょう?」


私の髪の毛?


「……なんで白髪?」


「初めて見た時から綺麗な白髪だったわよ。そうか!鏡がないから、自分の顔なんて見られないわよね。

綺麗な白髪に紫の目よ。魔術的にイケメンだわ!」


私は、もうクロスディアには戻れないかもしれない。


そう思うと悲しくなってたくさん泣いた。

ミモレット先生はわからないながらも私をその豊満な胸に抱きしめて頭や背中をさすって泣き止むまで待ってくれた。

私は泣き疲れミモレット先生の胸を枕にして眠った。


翌朝、私が起きるとミモレット先生はニコニコ笑って自分の正体と焚き木を囲んでいる騎士達2人を紹介してくれた。


「ごめんなさい!実は私は宮廷魔導士の1人でカーザ=アスコットという法衣男爵です。この付近で魔力が輝いて見える程の魔法使いが住み着いたとこの宮廷騎士団所属の遠征に銀冠山脈に来てたラムズ騎士とバフォア騎士に聞いてフォンダくんを1週間見張ってました!」


「……それで私をどうする気ですか?」


また、ロクな目に遭わないんじゃないかな。


「剣聖相手に10本に3本は勝ってたでしょう?か〜っこ良かったよ!フォンダくん!!!」


ヒュージさんのプライドを折らない為にかなり手抜きして戦っていたのを見られていたとは!


「帝国宮廷騎士学校に行って見ませんか?入学式までにお金を魔獣討伐して貯めて入ればいいから、行こうよ!!!」


「……学校卒業後に絶対騎士団に所属しなきゃならないとかでしょ?イ、ヤ!!!」


「「「絶対無理強いしないから、入って見よう?」」」


3人共、必死だ。


「何でそんなに必死なの?」


赤毛の頬にそばかすがある騎士ラムズ様が後ろめたい様子だが、はっきりと言った。


「宮廷騎士学校には騎士団がヘッドハンティングして来た優秀な者しか入れない!

年に10名いたら豊作だ!!!

しかし、今年は宮廷騎士学校始まって以来の不作の年!!!ヘッドハンティングして来た騎士達にはなんと公用金貨1000枚が下げ渡されるのだ!」


「……お金って大事だよね」


3人はうなづくと私に平伏しながら自分の実家がいかに貧乏か対決を始めた。


ミモレット先生改めアスコット男爵は、もう食べ物が後1週間分あるかどうからしいし、プラチナブロンドに水色の瞳の体格がいい騎士バフォア様は剣に限界が来たので買い替えたら、何故か妻が大量にドレスを作って金貨200枚の借金があるといい、ラムズ様は大切に蔵に保管してた小麦や野菜全てが1夜にしてアサシンラットの群れに食べ尽くされて、売れるものは全部売って今年の収穫期までは何とかしたらしいが、買い戻せるなら買い戻したい先祖代々から受け継がれた剣などがあるらしくて3人共お金が必要のようだ。


「本当に軍属なんてしない?」


「しないよ。僕の実家に賭けて誓うよ!」


「ラムズ様は公爵家の跡取りなの。今の陛下と従兄弟よ」


「契約書を書いて下さい!」


「……本名を書かないといけないけど?」


そうでした!

沈黙した私に当座の資金調達を手伝うと3人が約束してくれたのでカーメルさん達にお礼が出来て入学金が稼げるならいいかと、うなづいた。

3人共抱き合って喜んでる。


「幼年舎騎士学校とどう違うのですか?」


「……あんなワイロが横行するような下賤な学校と一緒にするな!!!気分が悪いワ!」


バフォア様に怒鳴りつけられた。


「よく知らなくてすみません。来年から行く予定でした」


ラムズ様が私の頭を撫でる。


「良かったな、知らずに行ってたらどこかの商会に売られてたな」


「では、アスムの街へ入りましょう!」

本日はこれでラストです!

お読みくださりありがとうございます!

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