19話 極刑
残酷なシーンがあります。
朝早くに起こされたかと思うとユージンがニヤニヤと笑って、私を言葉で反抗的な態度を取るよう誘導する。
「魔物、もうすぐ足が腐って落ちるな?再生したら困るから魔封じさせてもらう!!!」
しかし、魔物じゃないし。と思ってたら、声を封じられた!
まずは答えなかったら、骨折して腫れてる足に一枚づつ板状にした岩を載せていくという拷問をされて、声が出ない私は半日で足が潰されて痛みに何度となく気絶した。
もう痛みを感じることが無いと思った。
足の指の爪と肉との間に長く細い縫い針を刺されて新たな痛みに涙と鼻水が止まらなかったが、声は出ない。
「お前の仲間の魔物は何人いる?まだ、首を横に振るか?おい、針を増やせ!」
「ユージン、今日はもうここら辺にしようや。もう突き刺す場所がねー!」
「チッ!仕方ねぇ、目を刺そう!」
私は生きることを諦めた。
貴族として、見苦しい振る舞いはやめようと決意した。
まるで実験のように振るわれる残虐な行為に何の意味がないとわからない私ではなかった。
彼らは楽しんでいるのだ。
私という「魔物」を痛め付ける行為を。
残飯のような食事すらノドを通らなくなると、当然死が近づく。
拷問から10日目、異空間蔵の荷物が全部出た。
アンデットの魔石のたくさん入ってる木箱10個とお祖父様からの手紙に父上からの手紙が出て来た。
私はもう、肉の塊に近い状態だった。
奴らはアンデットの魔石を分配して、手紙を隠した。
何故かというと、公式文書だった場合無くなったら書いた本人に「報告」という生活魔法の上級魔法がかけられていて送り主と違う者に渡ったと知らせるからそれを防ぐためだ。
そして14日間の取り調べが終わり、私の公開処刑が、始まった。
私は誰かに治癒魔法の神級位魔法、「復活」を唱えられて、今まで受けた拷問の痛みをもう一度味わう羽目になった。
一応人間の形をしている肉になった私は助かったのと勘違いした。
目の前にいる枢機卿の緋色の肩掛けをした黒髪に赤い目のローブ姿の青年が、口を開く。
「最後に言いたいことはないですか?」
口を開いて喋ろうとしてまだ、声が封じられてる事に気づく。
ノドを手の先を失った腕で示すと、解呪しようといくつかの魔法を試してみて尽く失敗した若き枢機卿は震える声で「まさか」というと、人間への魔法封じを外す呪文を唱える。
呪が解けて掠れた弱い声が出る。
「……ありがとうございます。枢機卿様。父上に、クロスディア辺境伯グレイシードに先立つ不孝をお許しくださいと、お伝えください。
あと、あなたの父上のラフネ男爵に、全部の技を伝えられなくてごめんなさいと、言って下さい。
それから、私は何もしてません。
これで、心残りはありません。どうぞ。殺して下さい」
若き枢機卿は大きく目を見開いた後鋭い声を出した。
「……ワルゲンを呼べ!!!今すぐにだ!!!」
「え?ワルゲン大隊長なら遠征でここ1カ月留守ですよ?許可した書類がありますよ?」
「私は許可した覚えは無い!誰が留守を預かってた!」
「……そ、そんなあ、じゃああの話は本当なのかよ⁉︎」
「留守を預かってた幹部達を1人残さず捕縛せよ!!!ごちゃごちゃ言う間にいけ!」
「はい〜〜〜!!!」
若き枢機卿はこちらを向くと平伏して今までの私にした事を詫びた。
「申し訳ありませんでした!何でも望みを叶えますから、どうかお許しください!」
「……私の身体を元に戻してください」
「それは当たり前です!他にはありませんか?」
…この人か!当代の聖魔法の神級位魔法「再生」使える枢機卿って!!!
あー、だからヨザック兄上詳しく教えてくれなかったんだなぁ。
「元に戻ったら直ぐに動けますか?」
「1カ月は掛かるかと。…それに御髪は再生魔法では、何故か伸びないのです。何ヶ月か、ここで過ごして頂くことになりそうです。髪が剃られているのは罪人の印ですので」
弱ったな。でも、今すぐしてもらわないといけない事がいくつかある。
1つ、虹証の失効手続きと、再発行。
1つ、父上からもらった手紙と魔石の奪還。
1つ、お祖父様の手紙の奪還。
1つ、帝国に到着したアスターとバラン達への連絡と指示。
1つ、私への帝国語のご教授。
ま、最後のは直ぐにじゃなくていいかな。
枢機卿様は私が望みを伝え終わると立ち上がってチェルキオ聖教の正式な礼をして自己紹介した。
「私はブランクルスと申します。この直轄地の代官と兼任で枢機卿の「総括」を務めさせていただいております。よろしくお願い致します当代リトワージュ様。ご不自由お掛けしますが、「再生」魔法には多少準備が必要ですので1週間程下さい」
「わかりました。ブランクルス様、よろしくお願い致します」
「……ただ、残念ですが虹証の失効手続きをして再登録しますと、赤証からの出発となります。私でも組合に働き掛けることが出来ません」
「どうって事ありません。盗られた私がマヌケなのです」
幾ら眠いからって、飛空艇の機関室で寝るなんておかしくないか?
それにこれでも私は寝てる間に木箱に入れられて捨てられる程鈍い方ではないはずだ。
精神操作系の魔法は効かないから、物理的に何かされたんだな。
アスターとバランの2人に任せておけば飛空艇内の不審な者達は一網打尽にしてくれるだろう。
処刑は取り止めになり、私の世話係には牢に入れられた初日に親切にしてくれたシトロエンさんがなってくれて、ホッとした。
護衛に後4人の兵士が廊下の外に朝番と夜番の交代で立っている。
とりあえず「再生」魔法を掛けるまでは食っちゃ寝して、私は体力の回復に努めた。
慣れなかったのはトイレだ。
手足の先と性器が拷問で失われているから1日に3回、「浄化」魔法で小用は済むのだが、大の方は赤ん坊のように抱えられてさせられるという恥辱を味わう羽目になった。
我慢して漏らしたら、シトロエンに怒られた。
「恥ずかしいのは解りますが、今後我慢なさるなら、一日中トイレに座らせますよ?ええ!もちろん私が後ろから抱えます!」
「……ごめんなさい。これからは行きたい時にちゃんと言います。お願いしてもいいですか?」
「もちろんです!ご迷惑をお掛けしているのは手前共です!不自由なき生活を送っていただけるよう尽力致します」
「ありがとうございますシトロエン様」
起きている時間に事情聴取されて、私が念入りに3度も殺されかけた事から生きていることを伏せて暮らすのになった。
もちろん父上とアスターには生存を報せた結果、騎士学校を卒業するまで別人として生きるのが一番いいだろうという結論に至った。
ヨザック兄上とお祖父様には申し訳ないが生死を伏せた。
シトロエン様はブラスト国から亡命した暗部部隊の隊長さんで普段は帝国に密偵として潜り込んでいるのだと話していた。
帝国籍を用意して帝国語の勉強と帝国で流行ってる剣術や風習を教えてくれると約束してくれた。
どこから話が漏れてるのか、刺客が絶え間なく来るのでブランクルス枢機卿に誰にもナイショで「再生」魔法を施して貰い、適当な刺客を返り討ちして私の死体に加工してシトロエン様に一芝居打っていただき私の死体として、防腐魔法をかけられてクロスディア辺境伯家へと送られた。
私はこの吹雪の中、シトロエン様に紹介状一つを渡されて銀冠山脈を越えろと言われて死んだと思った。
積雪10メートル、気温は1時間 外にいたら確実に死ぬほど寒く、更に視界は1メートル程しかない。
シトロエン様がテイムしてるフォレストベアという5メートルもある白熊の魔獣のお腹にあるポケットに入れて貰ってぬくぬくにあったまってる内に時速60キロくらいで、滑るように積雪と吹雪を物ともせず移動するのに、これならいいと、一安心した。
私はのんびり寝たい時に寝て、起きている時に生肉の塊を白熊くん「スノー」に1日1回やり、自分は袋の中にあるスノーのお乳を飲んで飢えを凌いで、1カ月後、やっと雪が降ってない日に雪のあまり積もってない山に入った。
私はスノーがとある山小屋の前で止まって咆哮したのでエサが足りないのかと思ってポケットから顔を出したらスノーに頭を抑えられてポケットの中に逆戻りした。
しばらく山小屋の前で待ってると人の気配が近づいてきてスノーが甘えた声でその人に突進して行った。
そしてスノーと抱き合ったその人はおもむろにスノーのポケットに手を入れて来て私の頭を掴んで出して凍っている。
雪焼けした肌は浅黒くギョロリとした大きな灰色の目は見る者を威嚇するのに充分な怖さを持っていた。
短く切られた銀髪は肩で切り揃えられており、一房だけ銀冠で留めてあった。
歳は35〜40歳くらいに見える。
背中には矢筒を背負っていて腰にはロングソードを剣帯に付けている。
着てる物は全部手作りだと思われる。
南東諸国連合国の手織りの民族衣装によく似ていた。革のマントをその上から羽織っていてカッコいい!
「…********?」
何言ってるのか、解らないけどスノー知ってるなら、この人にシトロエン様からの紹介状を渡してもいいだろう。
紹介状を異空間蔵から出し手渡すと封蝋で誰かわかったらしい。
私はスノーのお腹から引っ張り出されて目の前にある山小屋の中に案内された。
小屋の中は暖かくてホッとした。
私は男性がシトロエン様の手紙を読んでいる間、異様な臭いがするのが気になり臭いの元を辿れば私だった!!!
慌てて山小屋の外に出て待とうとすると、片手で頭を掴まれた。
仕方なく私は自分を匂って鼻をつまんで顔をしかめたら、男性は大爆笑している。
私のあまり髪が伸びてない頭を撫でて男性は自分の顔を指差してゆっくり発音した。
「カー、メ、ル」
「カーメル?」
カーメルさんはうなづくと、また私の頭を撫でた。
良い料理の匂いがする。
ぐーごきゅるるる!
大きく鳴った私のお腹に近くの椅子に私を座らせたカーメルさんは、匂いがする方へと早歩きして行った。