18話 急転
チェルキオ語で書かれた試験用紙は、意外と自由度が高い物だった。
簡単な算学は、私でも出来たし、詩歌を作るのはバラン仕込みなので問題ない。
帝国の歴史を詳しく書けという難問には仕方なく知ってる事を全部書いた。
帝国語での作文は師匠に教わった古典の言葉で書いた。
だって、それ以外知らないし。
内容は飛空艇に初めて乗った感想文。
100文字書いたらいっぱいになった。
「貴族として大切なことは何か、か」
民を魔獣や盗賊などの危険から守り、飢えさせない事。税を重くしない事。子供達に教育の機会を与えてあげる事。あー!思いつかないよ!
あえなく試験時間は終了し、教養のダンスの試験はいつの間にか、レッスンになっていた。
剣術の試験の先生もレディ、ソリューだった。
やっと、私の得意分野である。
剣の柄に手を添えたその時だった!
いきなり飛空艇が揺らぎ、立ってる事も困難な人達でホール内はいっぱいになった。
アスターが私の隣に転移して来た。
「アレク様!!!大丈夫ですか?」
「レディ、ソリューが、立てないみたいだから、安全な場所に連れて行ってあげて!」
アスターがそれを聞いてレディ、ソリューと一緒に避難した。
1人の添乗員が、拡声器を片手に持ち柱にすがりながら、叫んだ。
《お客様の中に風魔法使いはいらっしゃいませんか!》
ただ事ではなさそうだ。
私は即座にその添乗員の元に向かった。
他にも数名の魔法使いが壁伝いに捕まり歩きして移動していたので転移でその人達を添乗員の元へと連れてきた。
「付いて来てください!」
私達5名の風魔法使いは、グラグラと揺れる不安定な中どんどん狭くなる通路に案内されるまま入り、機関室に足を踏み入れた。
そこにはスカルドラゴンの魔石よりも2回りは大きな魔石が設置されていて、それが飛空艇の動力源らしいが、魔力が空になっているのを10人の乗務員達が魔石に魔力を付与することで無理矢理動かしている。
「誰か、付与魔法陣が描ける方が居ないか聞いて来てくれ!」
魔石の下にあるはずの魔力付与の魔法陣は焼けて切れ端だけになっていた。
ダントさん!!!
私はダントさんのいるホールへ転移した。
ダントさんは自分のトランクに潰されそうになりながら、なんとか意識を保っていた。
「ダントさん!!!」
「……やあ、私達は死出の旅に出るみたいだね」
「今持ってる魔法付与陣の中で一番大きなのを後払いでください!皆の命がかかっているんです!」
ダントさんは急いでトランクを開けると私に折りたたんだ魔法付与陣を差し出す。
「助かるなら、タダでいい!助けてくれ!」
「ありがとうございます!」
機関室へ転移すると乗務員達10人は魔力枯渇で倒れていた。
代わりに風魔法使い達が4人で魔石に魔力を無理して付与してる。私は魔石の下の空洞部に広げた魔法付与陣を敷いて魔石に大量に魔力を付与した。
「「「「おお!」」」」
魔石に魔力が少しだけ溜まった。
飛空艇の墜落が止まって、上昇し始めた。
私は無理しない程度に魔石に魔力を注いで行く。
他の風魔法使いも残存魔力を注いで魔力枯渇になる寸前の状態でやめて、乗務員達を介抱し始めた。
1人、2人と抜けて行き私の他の4人の風魔法使いが、離脱。
残りは私1人になった。
「大丈夫か?無理してないか!」
「平気です。あと半分以上、魔力残ってますから」
「……スゴい魔法使いなんだなあ、君は!私達は今から寝て魔力を回復するよ。魔力枯渇までしてはいけないよ!」
「はい!お気遣いありがとうございます!」
皆が魔力を注いでくれたので、魔石の半分以上は魔力が溜まっている。
今、私は思いもよらない敵と戦っている。
「……お腹空いた」
朝からずっと何も食べてない!
こんな事になるなら、試験中にでも食べておくのだった!
ぐーぐー鳴る自分のお腹の音をBGMに私は魔石が魔力でいっぱいになるまで頑張って、眠くなったので機関室の床に横になって眠った。
ぐっすり眠って起きたら私は木箱の中に閉じ込められてスゴいスピードで落下していた。
隙間から吹き付ける風がそれを証明している。
木箱から飛空艇に転移しようとしたが、出来ない!
それならば木箱を壊そうとウインドスラッシュを放つが魔法が消されて発動しない。
仕方ないから剣を抜こうとしたら剣帯ごと貴婦人が無い!
こうなれば、身体強化を一応試してみてダメなら諦めるか、と身体強化してみたら出来た!
見事に木箱を壊して外に出て見たら銀冠山脈の針葉樹林帯の上で地上はもうそこだし、吹雪で空は見えない。
地上まで転移しようとしたらウインドスラッシュが地上から集中放火された。
ヤバい!こんなに攻撃されたら、死ぬ!
ウインドシールドを下から前方に残る魔力を全部注ぎ込んで展開してたら、積雪してる地上に激突して痛みのあまりに意識を無くした。
足の痛みで起きたら牢の中で師匠に見せてもらった負の遺産、「魔法使いの拘束枷」が両手首をガッチリまとめてハマっていた。
ケガは積雪とウインドシールドのおかげで、両足の複雑骨折ぐらいで済んでいるが、激痛が絶え間なく走る。
身体強化も出来ず仕方ないから牢の汚い床に横になって寝た。
筋トレやってても私は所詮、5歳児。
おとぎ話の英雄でも何でもないんだから、鉄の枷を引きちぎるとか、出来るわけないワ!!!
キレ気味に脳内で叫んで寝る。
あー、お腹すいた。
「……おい!起きろ!メシだ!」
メシ?ハッ⁈それはご飯のこと!つまり、食事!!!
カッと目を開くとお腹が鳴った。
ゴギューゴゴゴゴ!!!
私はご飯を目で探した。目が覆われた。
私は布で目隠しされた状態で口を開いて待った。
「……まるで人間の子供みたいだなぁ、ユージン」
「魔物だから油断はするなって言われてるだろう?シトロエン」
誰が魔物だよ!!!
「私の上着の内ポケットに虹証があるから、確認してください!!!私はアレクシード=クロスディアです!!!」
「お前なあ、魔物が虹証持ってるわけないだろ?実際何も無かったんだから、ウソつくな!」
虹証が無い⁉︎大変だ!!!身元の証明するものもお金もない!
「しかも、クロスディア辺境伯家を名乗るな!
落ちこぼれの第2子を演じてる芸の細かさには感心するけど、お前の魔力量と聖と光の属性が無い性質から魔物だとわかったんだよ!
お前は直轄領を襲った。死刑だが、魔物に聞きたい事もあるから聞き出した情報によっては生かしておく。素直になれば痛い目に遭わなくてすむ」
また、私は聖魔法と光魔法の属性が無いせいで酷い目に遭わなくていけないのか……
悲しくて涙がこぼれたのを演技が上手いと褒められてユージンという男を睨み付けると骨折してる足を踏みにじられて絶叫した。
「止めろよ!ユージン!」
「……ケッ、魔物相手にお優しい事してるとお前も仲間かと思われるぞ?」
シトロエンはそれでも私を蹴ったり殴ったりしなかった。
雑炊のマズイのを食べさせてくれて、毛布を2枚掛けてくれた。
「……ありがとうございます」
しかし、翌朝から地獄が待っていた。