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16話 王城の一夜

使用人用の隠し通路を通って晩餐会会場に近い近衛隊の事務局に出るとリュディス様の案内で、晩餐会会場に入る。


入り口に居た白い式典用の服を纏った人が直立不動で拡声器に向かって叫ぶ。


《クロスディア辺境伯第2子アレクシード=クロスディア様、並びに第1近衛隊隊長リュディス=ビジュー子爵様、ご到着ぅう!!!》


大声にびっくりして固まってると、リュディス様が手を引いて父上の所まで連れて行ってくれた。

が、当然エメラダ親子もいて、私は早速バカの子のように笑顔でアレクに迫った。


「兄上!見て頂けましたか⁈私も少しは強くなったでしょう?」


「…アレクシード?そのことで、お前のお祖父様のラスター伯爵がお話したいとおっしゃってたから、母上と行ってらっしゃい」


「兄上が一緒じゃないと心細いです!」


私に何させる気だ?コイツら。

アレクの背後から黄色の式服に近衛騎士でもなさそうなのに金のモールを付けた派手で趣味が悪い服を纏ったでっぷり太った中年貴族が来た。


「アレクシード!!!試合観たぞ!」


「……誰?おじさん」


眉間に思い切りシワを寄せて、冷たい声を出した私にエメラダ様が慌てて取り繕う。


「いやぁねー!あなたのお祖父様のラスター伯爵よ!

お父様ごめんなさい!あまり、里帰りしなかったからアレクも混乱してるのよ!」


「……まず、私ではなく父上に先に挨拶すべきでしょう?そんな礼儀知らずがお祖父様だなんて、私は恥ずかしく思います!

父上、お祖父様の無礼お許しください」


父上は笑うのを堪えて私の頭を撫でた。

それが気に入らなかったようで、父上の耳元で何か囁いて父上をへこませると、ベラベラしゃべり始めた。


「悲しくて胸がよじれそうだ!そういえば、アレクシードは騎士学校に行きたいそうだね?」


誰がチクリやがった!!!


「お祖父様、心配しないでください。父上が行かせてくれるそうですから」


「御前試合に勝ったプレゼントをワタシも持って来た!なんと!キスカ帝国幼年騎士学校への転入書だ!」


一瞬にして激怒した父上が椅子から立ち上がる。


「……おっと!グレイシード様、感激のあまり大声でも出してはいけませんよ?私の孫ですからね!やっぱり名門に行かせたい訳ですよ!!!

何とかコネクションを利用してやっと転入願書を受け入れて頂けました!

行かなかったらあちらから怖いお迎えが来ますから、素直に大地の月までにはキスカ帝国の首都カルトラに到着して下さい!住む場所はあちらが用意してくれるそうです!

お祖父様のプレゼント喜んでるんだね!ではね!アレクシード」


父上はテーブルを手加減無しで叩いて壊した。

本気で怒った父上を見た事がなかったのだろう。

アレクシードが股間を濡らしている。


周りの貴族達が面白い見世物でも見るようにうわさ話に興じている。


騒ぎを聞きつけた近衛騎士達が、団体様で父上を取り囲んでいる。事情を聞くといい父上が連れて行かれた。


エメラダ様がアレクシードを連れて退席した。


私の周りに物見高い貴族の大人たちが事情を聞きに群がる。

隠すことでもないから、聞いた通りに言うと皆さん強張った顔を隠さずぎこちなく去って行って家族で情報の共有を行う。


私は壊れたテーブルを給仕達が片付けて新しくテーブルを運んで来るのをボンヤリ見ていた。

去ろうとする給仕7人に労いの言葉を掛けてチップに金貨1枚を渡す。

彼らは簡易礼で礼を言うと急いで壁際に戻って行った。


食事が運ばれて来た。誰も手を付けない。

グラスを片手に持ち玉座を見つめている。

なるほど!そういえば私のパーティーも主催の私が演説してから飲み食いしてたなぁ。


《国王陛下のおなーり!》


陛下は紫に金糸で刺繍した見事な仕立てのローブに身を包み右手には虹色に輝く魔石が嵌め込まれた錫杖を持っている。


師匠の魔石、お祖父様の錫杖になったんだ!

師匠、満足してるかなぁ?

嬉しいような、悲しいような複雑な気分。

お祖父様の挨拶が始まった。


《今日は、皆、集まってくれてありがとう。尊い使命を持って生まれた2人の騎士と王家の安泰を願ってカンパイ!》


挨拶が終わると社交が始まった。父上がいないなら、私が行かなきゃいけない。先ずはお祖父様に挨拶?

皆行ってない。

ビジュー公爵家からご挨拶。大人達に阻まれて中々挨拶出来ない!

するとリュディス様が私を発見した。


「……父上、私の新しい友人を紹介したいのですが?」


「珍しい事があるものだな、連れて来なさい」


リュディス様の父上はグレーの髪の苦みばしった顔の武人で、好きか嫌いか票が割れるタイプの貴族様。

リュディス様が、私を子供抱っこして私をビジュー公爵の前に連れて来ると今度は公爵様の膝に座らされた。


「グレイシードは困ったものだな。食べなさい。美味しいよ」


「父上の代わりにご挨拶に参りました。クロスディア辺境伯が第2子アレクシード=クロスディアと申します。今後ともよろしくお願いします」


「「この子が跡取りならなあ…」」


ため息をつかれてしまった。


「リュディス様、聞きたいことがあるんですけど」


「言って見なさい」


「ラスター伯爵から、御前試合で勝ったご褒美にプレゼントをもらったのですが、聞いた途端、父上はテーブルを破壊して騎士達に連れて行かれたのです。キスカ帝国幼年騎士学校への転入って、そんなに大変な事なのですか?」


リュディス様は、顔をしかめてやはり、テーブルを殴った。

ビジュー公爵は幾分呆れた声でいろんなことを教えてくれた。


「騎士には素晴らしい学校なんだけどね、転入?それが一番おかしい。キミは何も知らないようだが、転入するにはかなり優秀な成績を収めないといけないんだよ。つまり、事前に試験を受ける必要がある。

幼稚舎でも同じ事。貴族としての作法やダンス、キスカ帝国の簡単な歴史などの試験がある。あと、帝国語の読み書きもあるね。キミは帝国語できるのかな?」


「簡単な書き物と会話なら師匠に習いましたが、ダンスは組んで踊ったことがありませんし、歴史も5000年前までの事しか習ってません!」


「それは危ないね。

それから、これが一番の問題だけど銀冠山脈をこの雪の降る時期に越えて行かなきゃいけないって事だよ!

死ねって言ってるようなものだよ」


「……大地の月までにはカルトラに到着するよう言われました」


「「それはムリだ!炎の月でも2カ月かかるんだぞ!」」


氷月→霜月→大地の月となっていて、今は氷月の7日目。もう2カ月切ってる。


「……やめられないかなぁ?」


「「莫大な違約金の支払いが必要になる!例えばアンデットの魔石を何兆個売っても追いつかない金額だ。しかも、罪人として手配されるおまけ付きだ!」」


リュディス様が怒りに身を震わせてこう言った。


「これは明らかな暗殺だ!」


周りにいた貴族達がこちらを向いてギョッとした顔をする。


「……リュディス、落ち着くんだ」


「アイツら、アレクシードを殺すつもりです!」


「キスカ帝国で、忠誠の誓いを強制されるかもしれないから王族の誰かに忠誠を誓っておきなさい。いいね?」


「はい!ご忠告ありがとうございます!」


《では、褒賞の授与式に移ります。グレイシード=クロスディア辺境伯、並びにアレクシード=クロスディア様、玉座の間までご移動お願いします》


「リュディス、私達も行くか!」


「はい、父上」


ビジュー公爵に子供抱っこされて、玉座の側まで高速移動。


「私達はここから見てるから、行きなさい」


「ありがとうございます!ビジュー公爵、リュディス子爵様」


床に下されて2人にお礼を言ってお祖父様の前に進んでひざまづく。


《グレイシードはどこにいる?》


私に拡声器の襟留めがつけられる。

私が口を開こうとしたその時、ラスター伯爵が私の横でひざまづいた。

お祖父様は、ニッコリ笑って言う。


《親代わりという訳か!それにしては出て来るのが遅かったな?ラスター伯爵》


うわぁ!スゴいお祖父様怒ってる。

ラスター伯爵は得意げに自分がいかに孫思いであるかをベラベラしゃべった後に付け足した。


《騎士学校に行くのが夢だそうだから名門キスカ帝国幼年騎士学校に行けるよう手続きが完了したのですが、何が気に入らないのか、グレイシードは暴れましてね、近衛騎士達に連れて行かれたのですよ!全く、信じられない陛下への非礼です!》


「この極寒の中、銀冠山脈を越えて行けと言われたら、まともな親なら怒り狂うに決まっているだろう!!!」


ビジュー公爵閣下。最高の野次ありがとうございます!


《それなら御前試合で勝った褒美にキスカ帝国の首都まで、飛空艇で送ってやろう。

それなら、1週間で到着する》


《な⁈それは辞退させていただきます!》


《ラスター伯爵、お前には聞いてない。黙っておれ!アレクシードはどうだ?》


《ありがたき、幸せ!いただきます!》


《アレクシード、もっと身になる物が貰えるかもしれないぞ?辞退させて頂きなさい。父上も悲しむぞ?》


私はラスター伯爵の忠告を無視した。


《では、明後日の朝4刻に出発する。それまでに準備を整えておきなさい。下がってよろしい》


最後に一礼して下がる。

いきなり、ラスター伯爵に頬を叩かれて腹が立ったので、足を払って会場から去る。喚き声が聞こえたが知るものか!

王城の玄関で父上とアスター達が待っていたので陛下に飛空艇で騎士学校に送って貰えることになったと言うと、父上は私を抱きしめて「良かった」と何度も繰り返して言った。

アスターとアミルも話を聞いたのか、憤懣やるかたない顔をしていた。

父上を屋敷に誘うと反対に明けの星亭に誘われた。


「渡したいものがある」


行くの決定。

アミルとは宿の前で別れて父上の泊まっている部屋にアスターと一緒に行くと、木箱がベッドの脇に10箱ほど積まれていた。


「魔石だ。これを帝国に持って行きなさい」


「……父上、売るために持って来たんじゃないのですか⁉︎」


「それはいい。明後日には帝国に行くのだろう?明日の内に、アレクの身仕度をしなさい」


「父上、王家の誰かに忠誠を誓った方が良いとビジュー公爵がおっしゃってくださったんですけど、誰に忠誠を誓ったらいいですか?」


父上が唸ってる。


「私は父上に忠誠を誓いたいのですが」


「気持ちだけ受け取っておく。ありがとう。無難なところでアレクのお祖父様だな。後は面倒なことになるから、今夜の内にそっとお会いしよう」


父上は手紙を書くと、生活魔法の上級版「伝達」で手紙をお祖父様に送った。

返事は半刻後に送られてきて「11刻に例の礼拝堂に来なさい」と書かれていた。

後四半刻も無いので父上の手を掴み、転移した。

いつもの転移より、魔力を多めに使った。

肩で息をしていると、父上が治癒してくれたが魔力を一気に使い過ぎたせいなので治らない。


「座って待っていよう。アレク、御前試合で勝利した事、我が事のように誇らしく思う、が。何故、決闘する事態に発展する⁉︎

アレクが強いのはわかってるが、身体は子供なのだから、一撃でやられてしまってもおかしくないのだよ!」


「父上をバカにしたからには、思い知らせてやらなければいけません!」


「そうそう、バカにされたら、やり返すくらいじゃないとな!」


礼拝堂に入ってきたのはナサニエル枢機卿だった。

父上はむっちゃムカついた顔で言い返す。


「私の子だと思って、無責任な事を教えるな!」


「……グレイシード、お前さあ、アレクが霊害にかかってたの治したの俺なんだけどね?そんな偉そうな事言ってもいいのかな」


「何ぃ?アレク、本当か⁉︎」


父上が怖かったので涙ぐみながら、うなづく。

すると、息も出来ないくらいに父上に抱きしめられた。


「すまない!気がつかなかった。許してくれるか?」


「許します!父上、討伐で疲れてたからわからなかったんですよ。ほとんど魔力なかったじゃないですか」


ナサニエル枢機卿が父上の隣に座った。

そして父上を無理矢理「聖浄化」した。

父上のうなじから真っ黒な煙が上がって悲鳴のような奇妙な声を上げながら消えた。


「アホ!死ぬ気か!魔力を枯渇寸前のまま使い続けたら死ぬぞ!今だって霊害にかかってただろうが!」


父上は神官証を出してナサニエル枢機卿の神官証と重ね合わせた。父上の透明な魔力が流れる。


父上の魔力はいつ見ても綺麗だなぁ!

うっとり見てたら何故か頬を赤らめた父上が、私を睨んでいる。

はて?

ナサニエル枢機卿と父上が同時に立ち上がった。


「すまない!待たせた!」


お祖父様!!!私も慌てて立ち上がった。


「じゃ、早速しちゃいましょう!立会人は俺が務めます」


皆で祭壇の前に行き、ナサニエル枢機卿が祭壇を後ろにして立つと、ナサニエル枢機卿を横に見て、お祖父様が右側に立ち、私が向い側にひざまづき貴婦人(レディ)を鞘ごとお祖父様に両手で捧げる。


「あらかじめ言っておくが、髪は一房で良いからな?アレクシード」


「はい、わかりました!お祖父様」


手から剣が無くなり肩に剥き身の剣が乗せられた。


「【覚悟を見せよ!】」


一房右手に髪を持ち、剣身に当てた。

切れたのでお祖父様に両手で捧げる。


「【我、ルークシード=クロスディアは…」


あー⁈お祖父様の名前知らないよ!

焦っていると父上が耳元で囁く。


「セドリック=フォン=ヘキサゴナルだ」


「……セドリック=フォン=ヘキサゴナル国王陛下に我が剣を捧げます!】」


「【許す】」


髪が回収され剣が鞘付きで戻って来た。


「誓いの儀は終了致しました!グレイシード、もっとちゃんと勉強させておいたら満点だったな?」


「ふぅ、私もヒヤヒヤした。他に人が居なくてあらゆる意味で良かったな」


あー!!!ルークシードって言っちゃダメだったよ!

ナサニエル枢機卿も、父上も聞いてるのに!!!


「……父上、ごめんなさい」


父上は気にしてない様で、笑顔で私の頭を撫でた。


「立派な誓いの儀だった。…そう言う事ですのでよろしくお願い申し上げます。陛下、ナサニエルも、だ」


「2度と、大きなアンデットの魔石を民間に卸すなよ?」


え?それって私が売ったゲンコツ大の魔石の事⁉︎


お祖父様も深いため息をついた。


「回収するのが、大変だったから、な?グレイシード」


私はひざまづきお祖父様に告白した。


「父上は悪くない!私が売ったのです!!!」


「アレクシード⁉︎黙りなさい!!!」


「お前が黙れよ!グレイシード」


私はお祖父様に子供抱っこされてアンデットの大きな魔石販売の一部始終を聞き出されるまま、全て語った。

お祖父様は長椅子に座って私を隣に座らせた。


「……大きな魔石はな、昔から悪いことに使われて来たから、クロスディア領内で消費することに決まっているのだ。内緒のお話だから総組合長のラフネ男爵にも言ってはいけないよ?」


「はい!もう2度と売りません!ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした!」


「アレクは賢いな。こんな小さいのに我慢ばかりさせてすまない」


「?私は毎日楽しいですよ、お祖父様が考えるよりずっと充実した時間を過ごしています!」


「……では、また明後日の朝に会おう!」


「はい、お祖父様、ナサニエル枢機卿様、お世話になりました!父上、宿まで帰ろう!」


宿の部屋に転移すると魔力枯渇で倒れた私は翌昼まで目覚めなくて父上がガンガンに魔力を私に渡してくれてました!

父上とクロスディア辺境領騎士団の対人部隊の精鋭10人と一緒に私の屋敷へ行くと前庭で基礎の練習の最中で、成人の弟子達もそれをやってるのに、精鋭部隊は不思議そうな顔をしていた。


そうだよね!今更、闘気の循環をしながら木剣で型をさらうなんて、意味がないって思ってるよね?

でもね、1年続けたらチリも積もれば山となるんだよ?剣圧だけでウインドスラッシュか!ってぐらいにまで発展する人もいるんだからね。


父上達に昼食を作るよう頼んでいたら大好きなすき焼きが出て来た!

父上に食べさせていると気に入ったようで、野菜もトウフも、糸こんにゃくもたくさん食べた!

ご飯も気に入ったらしくコメを買って帰ると言ったので1カ月に2回食材をクロスディア辺境領に運ぶから通行許可証が欲しいと言うと、またしても抱きしめられた!!!苦しいけど嬉しい!


後から落ち着いた父上に聞いたら、私が気を回すより先になり食糧の買い出しに動いていたようだ。

…余計なお世話だっただろうか?


「隔週でとは考えてなかったから嬉しいよ。どこかの商会と仲良くしてるわけじゃないからね」


「月に2回決まった量を持って行くだけだから、少なかったらランタナに伝えてね。もう、1年分の支払いはしてるから、増えた分はお願いします」


父上は感動のあまり泣き出してしまった。





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