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15話 御前試合

イヤミなくらい晴れ渡った空を見上げ軽く身体を慣らす。

法衣貴族街をぐるっと回って走り、前庭でリトワージュ剣術の型を木剣で何度でも反復練習してたらバランに捕まってお風呂に入れられる。

いつもより乱暴に洗われて、風呂から出ると私の知らない新しい騎士服に着替えさせられた。

アスターは朝ダメな人なので、皆見捨てている。

朝食をカトラリーで食べて、出発する時には着替えてシャンとして出て来たアスターを見て私はホッとした。緊張してたようだ。

アミルが馭者を務めるヨザック兄上の紋無し馬車に乗って王城まで移動する。

王城を守る近衛騎士が2人馬車の窓を軽くノックする。


窓を開けてアスターが対応した。


「すまないが、招待状の確認をしている。持って来たか?」


「はい」


アスターの異空間蔵から紫の封筒が出て来ると、近衛騎士が馬車の行列の前に向いて叫ぶ。


「いらっしゃったぞ!!!ここだ!!!」


私はあれよあれよという間に馬車の外に出されて近衛騎士隊の儀礼式典用の派手な馬具を付けた馬に乗せられた。

もちろん2人乗りで、私は近衛騎士様の前に座らされて貴族達の紋章付きの馬車の行列を横目に見ながら馬で王城入りした。

連れて行かれたのは、王族の血を引く者だけが使える私の中の霊害を取り除いた、あの礼拝堂だと中に入ってからわかった。

僕の後ろで馬を操っていた近衛騎士様も入って来た。

礼拝堂の中にはお祖父様とナサニエル枢機卿が待っていた。

お祖父様は私に駆け寄り私を抱き上げてそこら辺の椅子に座らせて私の頭を撫でた。


「……よく生きてくれた!怖かったであろう?頑張ったなあ。…いささか頑張り過ぎで信じない者が多いから御前試合などという妙な事になった。

やってくれたらグレイシードの評価もされる」


「……父上が貶されているのですか?」


お祖父様は困った顔でうなづく。


「ルークシード達があんな調子で遊びたい放題してるであろう?

そこに、大霊害中なのに自領から出ているグレイシードに貴族達の非難が殺到している」


そんな⁉︎父上は悪くない!


「あれは私が父上に願いました!クロスディア辺境領は守るからと!」


「……それだがな。5歳の子供の言う事を真に受けて馬鹿じゃないか、と、な」


何だとぉおおお⁈戦える5歳児舐めんなよ!コラァー!!!


「私は戦い、必ず勝利して父上の栄誉を取り戻します!!!」


「よく言った!アレクシード」


お祖父様に抱きしめられて豪華な衣装で呼吸を塞がれて窒息しそうになった私は、お祖父様の脇から手を伸ばして騎士様に助けを求めた。すぐ応じてくれた。


「お祖父様、アレクが死んでしまいますよ?離してあげて下さい」


「む?いかんな。すまない。時間になったから先に行っておる。ジルヴァント、後は頼んだぞ!ナサニエル待たせたな。行こうか」


「急いでください!」


そしてジルヴァント様と2人になった。


「戦う相手だけどこの国の近衛騎士の中で一番強くてイヤなヤツだから、派手に暴れて見てる貴族達がわかるように格の差ってのを思い知らせて勝ってくれ!」


「かしこまりました!任せて下さい!」


「よし!じゃ、会場に移動するよ。私は着替えなきゃならないから信用できる者を呼んだ。彼について行って。外にいるから」


「ジルヴァント様!お祖父様に会わせてくださってありがとうございます!」


床にひざまづき頭を下げて彼が去るのを待って、礼拝堂の外に出る。

そこには、周りの空気がキラキラ輝いているような美形近衛騎士がいた。

しかし、愛想が悪すぎる。ハッ⁉︎身分が高い人なのかもしれない!

慌てて地面にひざまづき正式に礼してご挨拶。


「クロスディア辺境伯グレイシードが第2子アレクシード=クロスディアと申します!

田舎者ゆえの無作法お許しください!」


「……お前が弟を便利に使っている子供か!ジルヴァント様から頼まれ無ければお前などの護衛なんかするものか!」


態度こそ乱暴だったが、ちゃんと護衛しながら試合会場の王営賭博場の戦士控え室まで連れて行ってくれた。別れる時にはちゃんとお礼を言っておいたが無視された。


うーむ?あんな顔の門下生なんていないぞ?

誰のことだろう?


動きにくいから派手な上着は脱いで畳んだ。


アスターとアミル、客席にいるのかなあ?

ドルク様から直している魔剣のすきま要員に買った剣を見る。

魔剣まではいかないまでも、魔法使い用の剣で一閃に魔法が乗せられるらしいが、剣が半世紀にわたり手に取った魔法使い達を主人と認めなかったという。

そこで付いたあだ名が「貴婦人(レディー)」。

なるほど!美麗な見た目で誰もが手に入れたがるが、高貴な性格だから誰もを相手にしない。

でも、私一回で抜けたけどね。

ドルク様の驚いた顔が楽しかった。


競技場への檻の柵が開いた。

中には円形状の舞台がある。

そこへの階段を上って舞台に立つと近衛騎士の青いコートじゃなく藍色のコートを着た3メートル越えの身長の巨人族の男がいた。

ダラシなく開いた口からは大爆笑が聞こえた。


「ブハハハハハハ!!!冗談も休み休み言え!そんなに責任逃れしたいのか!グレイシード辺境伯!

役に立たない息子だから死んでも大丈夫だと思ってるんなら、遠慮なくぶっ殺してやるよ!」


腰につけた大剣を見せ付けるようにした巨人族の近衛騎士に私は近くまで歩いて行き、騎士のズボンのポケットに入れてあった白い手袋を叩きつけた。

審判役の拡声器を奪って師匠に教わった通りに名乗りをあげる。


《私、アレクシード=クロスディアはクロスディア辺境伯グレイシードに留守を預かった1人の騎士である!

我が誓いを汚された!私はそなたに決闘を申し込む!

武器はいつもの棍棒でいいですよ?》


巨人族への最大の侮辱である。4900年経っても変わらないらしい。

簡単に怒った。


「キサマァア!!!嬲り殺してやる!」


場内から悲鳴が上がる。

私はいきなり拳で殴りつけられたが予測してたので、その方向に跳んでダメージを逃す。

舞台の端で逃げ切れなくなると連打されたのでウインドシールドを展開して舞台の地面に潜って攻撃が終わるのを片膝ついて待つ。

右手は貴婦人(レディ)の柄に添えていつでも剣を抜ける体勢を整えている。

会場内は絶叫と悲鳴と怒号が飛び交う。


「……何で俺の拳が痛えんだ?」


巨人族は残虐で戦闘能力が高いが痛みに鈍くバカだと師匠から聞いてたが本当だった。

自分の血にまみれた拳を不思議そうに見てる内に穴から飛び出して奴の足元まで身体強化を使って走り貴婦人(レディ)を抜いて最大規模のウインドスラッシュをまとわせて奴の両足首を一閃する。そのまま奴の足元を擦り抜けて背後に回る。


奴の身長が少し低くなった。


「ぎゃああああああああっ!!!俺の両足が!!!」


前に倒れたので奴の背中を駆け上がって首に刃を当てた。


「負けたと言うなら殺さないで許す」


「お前許さない!食う!」


右手が私を掴もうとするが私が奴の手首を斬り落とす方が早かった。


しかし奴は左手で私を貴婦人(レディ)ごと掴んだ。

また観客から悲鳴が上がる。

しかしながら剣と私を一緒に掴んだのが悪かった。

貴婦人(レディ)を通したウインドスラッシュは奴の指を全部落とした。

私は身体強化をして奴の身体を足場にして奴の血で真っ赤に染まった舞台へと降りた。


審判役の近衛騎士が、拡声器で奴に負けを認めるかどうか確認した。

奴はやっと観念した。


「おで、負けた!ごろざないで!!!がらだ、なおじでいだい!」


《勝者!アレクシード=クロスディア!!!》


怒号と歓声と拍手が入り混じって耳がバカになる。

奴が舞台から運び出されると水魔法使いが舞台の上を洗い流し、ナサニエル枢機卿が聖魔法で「浄化」した。


お祖父様と、何ということだろう!

父上が舞台に降りてきた。


父上 王都に来てたんだ!

父上をぼうっと見てると父上は、私の隣に来た。

お祖父様が今用意された台の上の玉座に座る。

父上と私はひざまづき、頭を下げて許しがあるまで、身動きしない。


《あれほど騎士としての誇りを汚されたのに、よく、命を奪わなかった!アレクシード=クロスディアよ!

そして、勇敢な騎士であるアレクシードに留守を任せたというクロスディア辺境伯の言い分を認めぬ者はもう居らぬであろう!!!2人とも面を上げよ!


今日の晩餐会にて、褒美を取らす故、参加するように!》


「「ありがたき幸せ!必ず参上致します」」


《晩餐会までの間、休むといい。下がって良い》


「はい」


舞台から降りて父上と別れて、控え室に戻ったらアスターと、アミルが待っていた。

2人に抱きしめられお祝いの言葉を言われる。


「恐怖の騎士、ヘクター=ドランシルが出て来た時にはアレク様に後から叱られるの覚悟でアミルと助けに行くつもりでしたが、まさか、ドランシルがあんなに簡単に戦闘不能になるなんて!さすがアレク様です!!!」


アスターに褒められて照れていると、今度はアミルが私の頭をぐしゃぐしゃにしながら言う。


「でも、一門の技ひとつも出さなかったなぁ。つまらない試合だったね〜。良い見世物ではあったけど!」


その言いぐさに思わず吹き出す。

アスターがアミルをジト目で睨みつける。


「……一度、屋敷に帰って着替えてからまた、王城に来るよ、2人はここにいて」


「その必要は無い!」


黒の豪奢な式典服にジルヴァント様が、キラキラ近衛騎士軍団を率いて、控え室の入り口から入って来た。


「アレク、私について来い!」


黒は王族の纏う色。

私はジルヴァント様に簡易礼した。

それにうなづくと、踵を返すジルヴァント様の後に続いてアスター達を連れてまた、王族の血を持たない者が入れないあの道に入った。


アスター達は近衛騎士達がどこかに案内していた。


「……ボヤボヤするな!田舎者!行くぞ!」


やっぱり身分の高い近衛騎士だったキラキラ美形騎士筆頭は私の襟首を掴んで王族の血を引いた者だけが入れる道に入って進むのだった。


「こらこら、私達は同じく陛下をお祖父様に持つ者仲間ではないか。仲良くせよ、リュディス。アレク、リュディスはビジュー公爵家の跡継ぎで、君の弟子バランの兄上なんだ」


バランが公爵家の息子⁉︎

う、気分悪くなってきた。

礼儀作法を教えてもらってるのはいいとして、応接室の掃除、毎日させてるし、時々着替えも手伝わせている。今朝なんかお風呂の世話までさせた。


「……申し訳ございません!知ったからには今までと同じ事をさせるわけには行きません!」


バランは良くても私は全力で拒否する!


リュディス様はため息をつく。


「バランは何故、家名を名乗らないのだ!…だから、後々預かり知らぬ所で騒ぎになって寄親の貴族が謝罪に来るのだ!

アレクシード、弟に言っておけ!家名を必ず名乗れと!」


「はい!かしこまりました!必ずお伝えします!!!」


ジルヴァント様は聞こえただろうに、素知らぬふりしてひとつの部屋に入って行った。

リュディス様も私の手を掴んでその部屋に入る。

簡素な広い部屋にズラリと並ぶ豪華絢爛な衣装の山に口が塞がらない。


「まあ、お久しぶりでございます!ジル様」


部屋付きの初老の女官達5人が一斉にカーテシーしてジルヴァント様への敬意を払う。

中でもジルヴァントに声をかけた女官にジルヴァントは私を指差してとんでも無いことを言った。


「コンパルリオ叔父上の小さい頃の衣装を5着ほどアレクに下げ渡したいんだけど、1着は今夜着るから今風に直してくれるか?ばあや」


「……まあ!本当にコンパルリオ様にそっくりでございます!アレクシード様で、ございますね?」


「わ、わ、私には、分不相応な栄誉でございます!ジルヴァント様」


「いいの、いいの!ヘクターをボッコボコにしたご褒美に!だよ。ね〜?リュディス」


「アレクシード!!!断わることこそ不敬である!」


「そうね、でも、50年前のお古なんてイヤかしら?」


女性を困らせてはいけないと、師匠が言ってたではないか!

腹をくくれ、私!


「いただきたいです!!!ありがとうございます!」


「「「そうか!では、着替えの前に湯浴みをしなさい」」」


私は部屋に併設された王族用の豪華なお風呂で2人の老女官にお世話になり全身磨き上げられた!

下着も新しい物が用意されていて、着けると絹だとわかって顔が引きつる。


「そなたは、肌の色が白くて 目元の優しい感じが、そなたの母上のエンリケ叔母上にそっくりだ」


「ご冗談を。兄上の母上に似てると言われて光栄でございますが、私の母上はエメラダ母上だけでございます。お戯れは、この場限りになさいますようお願い申し上げます」


「構わん!お祖父様が仰っていたことだ。リュディスも知っている。具合が悪くても通れないような道ではない!王家の血を持つものなら誰でも入ることができるのだ。つまり、エメラダ親子はクロスディア辺境伯家を、更には王家を謀った!」


「……父上を罰しないで!!!聖魔法の適性がない私が悪いのです!!!私は、どうなってもいいのです!お願い申し上げます!父上を助けてください!」


床に座って身体を伏せて頭を下げる、罪人がする礼を取ると、女官達に助け起こされた。

ばあや、とジルヴァント様に呼ばれていた女官がにっこり笑って言う。


「あなた様の御心が知りたかっただけです。あとは陛下が良いようにしますから、今は今夜の晩餐会に何を着て出席するのかわたくし達と考えましょう?」


「……すまない。私が浅慮だった。泣くな。アレクシード。グレイシードには絶対に堕ちて貰うわけには行かんのだ!

それだけこの国にとってクロスディア辺境伯家は重大な貴族家なのだ!

今、いろんな事を調べてる最中だから、公表には、時間がかかる。許せ」


ハンカチを差し出したジルヴァント様に優しく謝られたら、また涙が出て来た。

ジルヴァント様がハンカチで私の目元を拭ってくれた。

お祖父様には、全て師匠が手紙で報せたそうだ。

そこに、その証明のようなアレクシードが、王家の血を引いてない証拠になったあの事件。


お祖父様は、父上が喜捨したアンデットの魔石が何故マルカン公爵領に流出していたのかも調査しているがチェルキオ聖教は閉鎖的で内通者を作るのが大変らしい。


ジルヴァント様から事情を聞いてる間にアンティークな式典服のお直しが終わった。

着ると、付けられた宝石のボタンの重みで肩が凝るようなシルクのブラウス。

式典用の翡翠色の燕尾服は私の目の色で、こんなに派手な服を辺境伯の跡継ぎでもない私が着たら、色々言われるのではないかと心配していると、リュディス様に背中が丸まっているとお説教された。


「さあ、時間だよ?行こうか!」





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