13話 サプライズパーティー
私が目が覚めて純粋に喜んでるのはアスター1人くらいだった。
私のトラウマ体験その2なのに思い出させようとする人ばかりで吐き気が込み上げてくる!!!
気分転換に屋敷のある法衣貴族地区をアスターと歩く。
皆、屋敷はそれほどでもないが、その分 庭に凝っていて歩くのが楽しい!
私は5歳児だから、庭が見たいと言うと皆見せてくれるので参考にしようと思う。
屋敷に帰り、昼食を食べたら座学の時間。
国語、数学、歴史、法律と4つもある。ウンザリだ!
飽き始めたらアスターがお茶の時間にしてくれる。
びっくりしたのは法律でかなりクロスディア辺境伯領が守られていることだった。
アンデットの魔石の所有権や、大霊害の補助金などだ。
これはカリナさんに冷たい目で見られても仕方ないかもしれない。
夜はダンスホールで弟子達と模擬試合。
ヨザック兄上の弟子達の中で一人部屋が欲しい人が私の弟子になった。皆さんそれなりに強いが、天井を自分で作ってらっしゃる。
最初の模擬試合でボコボコに全員してやったら、翌日から目を血走らせて修行するようになった。
うん!イイね!修行し始めた頃の自分を思い出した。
1人しかいない「師範代」は「先生」と呼ばれて大人気だ。
アスターも私の弟子になった。
入門する時にまとまったお金をもらうのが条件の一つみたいで、金額はヨザック兄上に決めてもらったら金貨10枚とかなりお高い。
クロスディア辺境領で討伐後の魔石拾って稼いだバイト代は入門金でパーになったようだ。
アスターが可哀想だし、私はそんなにお金にあくせくしない生活になったし、入門金を下げたらどうかとヨザック兄上に進言したら、叱られた。
「御前試合でお前さんが勝ったら弟子入りしてハクをつけようとするバカが必ずたくさん出てくる。
だからもっと高くてもいいくらいなんだが、平民が頑張って成人までに貯められるお金がそれくらいだ。
妥協してやったんだよ!これでも!」
思い出しため息が出る。
アスターの入門金はアスターの生活費に充てることにした。
今日は稽古の前に応接室に来てくれと年上の弟子バラン(24歳)に言われている。
ヨザック兄上の所から流れて来た弟子たちには昼間の仕事を割り振る代わりに入門金の2度払いを免除してる。バランの仕事は家令だ。
私の用を簡単にしてもらっている。
バランは実家の事を話したがらないが絶対、貴族の出身だ。
私の作法もおかしな所を直してくれる。
その所作がため息が出るほど美しいのだ!
ま、それはおいといて、私は一番大きな応接室へとバランに案内されて中へ入ると屋敷をリフォームした5つのクランの代表者が揃っている。
ひょっとして?
「改装が完了したんで、依頼が完了したサインが欲しいんだよ」
壁専門施工クラン「猫の手」のクエンさんが依頼書をテーブルの上に出す。
他の4つのクランの代表者も同じようにする。
私はなるべく綺麗な文字でサインした。
バランがこの後パーティーを用意したと澄ました顔で言ったので1週間前に金貨500枚強請られたのは今日の為かと納得した。
パーティーにはご近所の方々も招いているらしい。
バラン、優秀過ぎない?
初めてダンスホールが本来の目的で使われる。
調理を担当したのはお料理クラン「ドラゴンフレーバー」らしい!2度びっくりだ!
私は自分の部屋に戻ってアスターにお貴族様仕様に着替えさせられ髪を香油でセットされてダンスホールに作られたパーティー会場へとアスターを左側に、バランを後ろにして入場した。
皆グラス片手に私を待ってたみたいで、魔道具の拡声器を手にしてサッサと挨拶した。
[ようこそ皆様、この屋敷の主人のアレクシード=クロスディアです]
どよどよと騒がれて驚いていると背中をバランがつついた。あ、続き!
[田舎から出て来たばかりなのでよろしくご指導ご鞭撻のほどお願い致します!
今日は超人気お料理クラン「ドラゴンフレーバー」さんがお食事を作ってくださいました!
皆様ぜひ食べて飲んで楽しんで行ってください。
皆様の健康を祈って【カンパイ!】]
フウ、疲れたー!
私も食事にしよう!
しかし、貴族に生まれたからにはご挨拶しなければならない。よく散歩に行く時見かける老夫婦や、散歩コースの公園で日向ぼっこしてるお祖父様たちに先に声をかけてあとは満遍なく料理や飲み物が足りているか世間話程度に話しかけ、会場を一周するとヨザック兄上が来ているのに気づいた!
「ラフネ男爵様!お越しいただきありがとうございます」
「うんうん!バランを付けて正解だったな!礼が綺麗になってる。よしよし」
「ダメです!今日は香油を付けてるので頭に触らないでくださいね?」
「おー、一丁前に好きな女の子でも出来たか?」
「ハア⁈私なんか好きになる奇特な人はいませんよ!たとえ居たとしてもルーク兄上狙いですからね!」
バランに向かってヨザック兄上が言う。
「ほらな、バランと同じ立場だろ?」
「……可哀想ですが、そのようですね」
あー!ロトムだ!アルバイトかな?
走り寄ると気付いたようでロトムが片手を上げた。
「よお!アレク!一丁前の格好してるな?」
「……こういう席だから仕方なくだよー。今日はお店休んでるの?」
「今、働いてるだろう!失礼な!」
「はは、そうだった!ごめんなさい」
「家はどこら辺だ?遊びに行くから教えろよ!」
「ここだよ。待ってたらいい?私がお店に行こうか?」
ロトムがざぁーと青い顔になる。
「ロトム⁈どうしたの?気分悪いならドラゴンフレーバーの人に言ってくるよ、座って待ってて!」
「も、」
「も?漏れる?」
「……あー!ごめん。俺、高位の貴族って苦手だったから、つい。最低だった!友達でいてくれるか?」
「私は跡取りじゃないから。バカで田舎者のなんちゃって貴族だよ。私こそ友達でいてください!いい?」
シャキッと背を伸ばしたロトムは平民の貴族へのご挨拶の片手礼をした。
「今日というおめでたい日に我がクラン【ドラゴンフレーバー】をご利用いただきありがとうございます!クラン代表として初めての大きな仕事をいただき楽しかったです!またのご利用をお待ちしております。…というわけで実店舗は中央区のドーナツ屋と屋台の焼き鳥屋だけなんだ」
「……どっちも並んだことあるよ!いっぱい買った!美味しかった!焼き鳥なら一気に50本はイケる!」
ロトムは頬を染めてぶっきらぼうに言い放つ。
「子供が焼き鳥食ってんなよ!結構タレに酒入ってるから酔っ払うゾ!50本って、何だよ!腹壊すワ!」
「……何で依頼受けたの?貴族嫌いなんでしょ?」
「ナイショ!後でわかる!またな!」
「……うん!またね!」
ロトムを見送っていると頭に手が置かれた。
絶対ヨザック兄上だ!
「随分歳の離れたお友達だなあ?アレク」
「……ダメかな?」
「最高だ!お前さん、拾い物運いいなぁ。いろんなところで引き当ててやがる」
そうだけど、一番欲しい物は引き当てられなかった。
ま、今更考えても仕方ないし、前向け私!!!
アスターが中央にある大きなテーブルに私を連れて行く。
そこにはずらりと並んだ焼き鳥と店の看板ほどの大きなクッキー。
クッキーには大きく「祝!ケガ完治!治って良かったね!アレクシード様」と書いてある。
私は泣きそうになった顔を微笑ませてアスターとバランを抱きしめた。
「……ありがどう!皆!!!」
改装祝いじゃなくて完治祝い。結局泣いて泣いて泣き終わると焼き鳥は1本しか残ってなかった。
追加でロトムが50本焼いて持って来たのでいっぱい食べすぎて、リバースした。
「また作ってやるよ、ケガ治って良かったな!」
「ありがとう!ロトム」
ロトム達は幌馬車隊で帰って行った。
バランが私の前にひざまづき「師範代」への昇段試験を受けたいと言った。
「ダメです。最低でも両利きにしてください!リトワージュ剣術は双剣が本来の姿ですから」
ヨザック兄上が凍っている。
「……ナイショだった?」
ようやく動き出したヨザック兄上は信じられないことを言った。
「失伝していた奥義はそれか!」
私、責任重大じゃない⁈