12話 大激怒
あれから2日経ち、クロスディア辺境伯領内に戻った私を待っていたのは大激怒した父上だった。
ゲンコツ大の魔石を勝手に売ってしまったことがバレたのだ。
床に足をたたむようにして座らされて怒られること2刻、父上は私に夕食を抜くよういい、目の前で見せつけるようにして食べられて悲しくなって腹が鳴った。
悲しくても、腹が減る。
パレットが口を開く。
「グレイシード様、これはあまりにも酷過ぎます!アレクシード様に夕食だけでも食べさせて差し上げてくださいますようお願い申し上げます!」
「……パレットが言うなら仕方ない。許してあげましょう。もうこんなことをしてはいけないぞ?」
「はい、父上!もうしません!」
立とうとしたが足が痺れて感覚が無くなっている。
夕食を先延ばしにして父上に報告という名の告げ口をすることにした。
「父上がチェルキオ聖教に喜捨した大人の爪ほどのアンデットの魔石ですが、マルカン公爵領で格安の値段で工房に売られているそうです」
父上、再び大激怒状態に。
「1週間ほど留守を任せてもいいか?アレクシード。
総本山に行ってくる!!!」
「父上ならそうすると思ったので明けの星亭に10日間予約済みです。代金も支払い済みですから、ゆっくりしてきてください!討伐は任せて下さい!あ、これがマルカン公爵領内で売られていた聖魔法が付与された指輪です。証拠として店の焼印が入った木箱に入れて貰いました。値段は王都の工房とそう変わらない値段でしたから、絞り取ってしまっても構わないと思います!」
異空間蔵から出して父上に渡すと父上は凄絶な顔で笑った。
「……フッ、絞り取ってやろうではないか!」
こうして、父上と最小限の護衛の騎士がドゥルジー市国に向けて出発した。
私は一晩しっかりと寝て、兵糧を異空間蔵に入れて古の森の本陣へ転移した。
干し果物の練り込みパンとベーコンエッグと具沢山野菜のスープは騎士達に大歓迎された。
もうそろそろ雪が降るがアンデットには関係無いからいつもこの時期の騎士達は寒さに震えながら戦っていた。
あったかいスープはごちそうである。
食べた者から直ぐ戦闘だ。
私は一人で戦うのに慣れているからいろんな属性魔法をぶっ放しながら戦場を駆け巡る。
3日経つと私が来ると味方のはずの聖騎士達が逃げていくようになった。
結果的にアンデット達に取り囲まれる。
得意の風魔法ウインドスラッシュを込めた斬撃の後の広範囲火魔法ファイアーウォール。
うん!供養出来たね!
また、戦場を移動する。
「アレク様が来たぞ!」
「逃げろ!大規模魔法に巻き込まれて死にたいのか!」
「撤退!撤退せよ!」
「しかし、ゴーストがスカルナイトの群れの後ろから来ます!」
「クソ!皆死ぬなよ!!!」
散々な言い様である。
リトワージュ剣術「残身」で分身し、「十字斬り」の連続使用で上級アンデットスカルナイトを粉々にする。直ぐにファイアーウォールで焼き尽くす。
フウ〜、ちょっと疲れたので本陣に転移すると寝る。
地面に横たわると直ぐに眠気がやって来た。
「敵襲だ!川岸から狼煙を上げているぞ!」
師匠だ!!!聖魔法使いがいるんだ!そうでなかったら、師匠がいつも倒してくれてた!
私はロンデル川の川岸に転移した。
見慣れたローブとロングブーツ、古ぼけた美しい剣帯が踏み荒らされた地面に散らかっていた。
「……師匠」
魔石と剣が無い。
取り返して仇を討つ!
「……おやおや、狼煙を上げたからアテがあるのかと思ってたら、こんなガキか。拾った魔剣の試し切りしてやるよ。どっからでもかかって来いよ」
「……かえせ」
「あ?」
「魔石も剣も返せ!!!」
「おい、聞いたか、皆!!!あのスカルナイトの魔石とこの魔剣返せってよ!ヤダね!お前みたいな子供には分不相応な物だから、マルカン公爵様に献上するんだよ。今日からここはマルカン公爵領になるんだよ。手始めにお前の命をもらって」
手前の騎士達の首は私の斬撃によって飛んだ。血飛沫がかかる前に後ろにいる騎士達に次々と襲いかかり物言わぬ物体へと変えていく。あっという間にアンデットの出来上がりだ。
師匠を殺した聖魔法使いに当たりを付けウインドショットで心臓を貫く。騎士達が慌てて騎士向こうに狼煙を上げた。アンデットから師匠の魔剣を奪い取り両手に1本づつ剣を持って構える。
リトワージュ剣術は双剣で戦う人殺しの技だ。
師匠は好まなかったが私に体術以外の全てを教えてくれた。
川岸から上がって来る侵略者達を師匠と容赦無く殺して焼いた。
ここ半年くらいは来なかったのに、今になって何故マルカン公爵領の騎士団が?
とりあえず今はそんなことより殺してしまおう。
コイツらは師匠を殺した敵だから!
左右の剣を変幻自在に操り身体強化で足りない力を底上げして死体の山を築いた。
アンデットにならない内に骨まで燃やしてしまう。
まだまだだ!師匠を殺された悲しみはこんなものでは拭えない!
魔法と矢が飛んできたウインドシールドで相殺する。
向こう岸からまた船が着いた。
ファイアーアローを上陸した騎士達に浴びせる。
まだまだだと言いながらもう昼を過ぎた。もう真夜中から5000人は殺した。
半日以上経つのに、誰も助けに来ない。
…まさか、シュガル様達まで?
いや、大霊害のアンデットに掛り切りなんだろう。
また夜になった。あれからひっきりなしに着く船に乗る騎士達が格段に強くなって1人を仕留める時間がかかるようになった。
体が重い。
魔力はとっくにつき、惰性で体が動いている。髪から返り血が滴り、時々目の中に入って視界を塞ぐ。
剣が切れなくなって来たら敵の武器を奪って斬る。
「魔物めぇえええ!」
その言葉を言われるのも何百回目だろう?大したことない騎士だったので切り捨てた。
息をつく間も無くファイアーアローの一斉斉射に仕方なく少しずつ回復していた魔力をウインドシールドにほとんどつぎ込む。
意識が一瞬だが遠のいた。
後ろから左肩に剣が深々と突き刺さった。
「死ねぇえ!」
私は本陣に転移して逃げた。
本陣にはアスターがいた。
いきなり血塗れで現れた私をシュガル様が抱きとめる。
「……川岸から、マルカン公爵領の、騎士達が、攻め込んで、来、た。1日、応戦した、が、おそらく、まだ、向こう岸から、船が、着く。ごめんなさい、止められなかった!」
「後は任せなさい!アスター!アレクシード様をグレイシード様の元へ運んでくれ!この傷はグレイシード様じゃないと完全に治せない!急げ!」
「わかりました!ご武運をお祈りしております!」
私はアスターに抱っこされてグレイ子爵領街道を何回も転移してる間に気を失った。
起きたら知らない部屋で自分はどういった状況に置かれているのか、部屋の中の様子から推理した。
ベッドしかないこの部屋は結構大きめのガラス窓がある。お金持ちの屋敷だが、メイドも何も無い。
起き上がったらグラグラ目眩がしてベッドから落ちた。
部屋の扉が開いてカリナさんが入ってきた。
「まだ動いたらダメよ!ケガは治ったけども血が足りないから食事して寝ることが貴方の仕事よ、英雄さん!ウフフ」
英雄さん?
「カリナさん、冗談抜きでここはどこで戦から何日目ですか?」
カリナさんに手伝ってもらってベッドの端に腰掛けた。
「ここは王都のあなたの買った屋敷よまだ直してるところもあるから、この部屋から出ちゃダメ!
アレクくんが運ばれてきてから4日目になります。クロスディア辺境伯様は、領地に帰ったけどもアスターさんは下でデルフィ工房の引っ越し手伝ってるわ!私は休み時間だから顔を見に来たの。
何か食べれそう?」
「……私が持ってた魔剣は?」
「ドルク様が修理してくれるって持っていったわ」
よかった!なくさなかったんだ!
「この戦で亡くなった師匠の形見なんです」
「…そうなの。ツライわね…酷い状態だったわ。剣もアレクくんも。お父さん泣きながら治療してたわよ。1人でよく1万人も相手に出来たわね?」
「……多分、地の利がある場所だったからだと思います。戦はまだ続いてるのですか?」
「あー!言ってなかったわね!
結果から言うとマルカン公爵家はいろんな悪事が発覚してお取り潰しになったの!
特に罪が重かったのはクロスディア辺境伯領へ戦を仕掛けた事ね。
ヘキサゴナル国の法律で直轄地である銀冠山脈の銀山とドゥルジー市国、クロスディア辺境伯領に攻め込んだ者は如何なる者でも命を持って償わせるって明記してあるのにね〜?」
「……初めて聞きました」
カリナさんの視線がどことなく冷たい。
「自領の事くらい勉強しようね?
それでね、体が治ったら、王城に来て欲しいって!陛下が」
「えっ?」
「1カ月くらいかかるって総組合長が言っておいたから試合出来るくらいに体を仕上げておけって」
「何で、試合?」
「……そりゃ、皆気になるわよ!1人で1万人の敵を倒した5歳児は!!!そこで御前試合よ!」
……師匠、お祖父様をキライになってもいいですか?