オークションとローゲンツ公爵家
お昼過ぎに起こされて、閉じそうになる目をこすりながら、バラムさんからの手紙を読む。
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今日はオークションだから、行くぞ!正装してギルドに来い。18時までに来いよ!
バラム=フォーリデンス
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「あと、1時間したら起こして。お風呂入る」
ダンにそれだけ言うと二度寝してしまった。
ダンが手紙の内容を確認して、正装の手配や風呂の準備などまめまめしくしてくれたから一応貴族の端くれとして通用しそうだ。
17時にギルマス部屋に転移するとルメリーさんが、ドレスアップしていてバラムさんの髪を結っていた。傍らには寄り添うようにバラムさんの騎士、ウィルソンさんが立っていて2人はうらやましいほどお似合いだった。
「夕飯なんか食べておけ」
「ミルクとベーコンエッグのせハンバーグ定食!」
「かしこまりました。バラム様は何になさいますか?」
「ミルクはいらないが私もそれにする!美味そうだ」
15分後分厚いベーコンエッグの乗った大人の手のひらサイズのハンバーグ定食が運ばれて来てバラムさんと私は、夢中で食べた!
くう!メッチャ美味しい!
しかもこのハンバーグ、チーズ入りじゃない!
「何でケイトスの分だけチーズ入りなんだよ!」
「それはお土産持って来たからでしょう?小さい子の食べ物盗らないで下さい!バラム様、大人げないですよ!」
バラムさんに3分の1食べられたが、もうお腹いっぱいだったから助かった。
食べ終わったらすぐギルドの裏手で待たせていた2頭立ての馬車に乗ってオークション会場に乗り込んだ。
「……なんか、今日はギュウギュウだね?」
「サッサと席に座るぞ」
いつもの席に陣取ると給仕が飲み物をサーヴする。お腹いっぱいだったので、誰も手を付けなかった。
オークションのパンフレットを私を膝に乗せてめくるバラムさんに思う所はあるが、面白いから好きにさせておいた。
1500年前の誰かの日記帳がオークションに目玉としてかけられていたが肝心のその人物の名前が出て来ないが、友人や執事と思われる人の名でローゲンツ公爵家の侍女頭で秘密を知る立場の人間だったらしいことが判明している。ローゲンツ公爵は何が何でも競り落とすだろう。
後は、私が採取した幻惑森林の蝶や魔蜜、ブラッディウルフの肉がオークションにかけられるくらいだ。
「ホントに少ないね?」
「……ミストオークションギルドに皆、流出してる」
「私が15日に1回は帰って来て幻惑森林の物を出品するから、元気出して!」
「ん?ケイトス、お前、不思議な香りがする」
ルメリーさんとウィルソンさんにも嗅がれた。
「魅了系の香りね。どこで付けて来たの?」
「いつも通りパフュームバタフライの香水だよ?」
「正規品じゃなかったのかしら?」
ここでローゲンツ公爵親子の三文芝居劇場の開幕。
「父上、パフュームバタフライの香水の偽物が買えるのですか?」
「下々の者は水で薄めて使うらしいな」
「魅了系の効果が付くんですか?」
「幻惑森林なんかに毎日通ってるからだろう。真似するなよ?ブラーナ」
ハイハイ、そりゃスミマセンね!
バラムさんに頭を手荒く撫でられた。
「あながち間違ってもいないだろうがな」
主になると特典が付くらしい。……迷惑な特典だ。
だいたい、主って言うのも許容出来ないし!幻惑森林の主ってメッチャ強そうじゃん!
ぶうたれていると、オークションが静かに始まった。毎日開かれるミストオークションギルドより分が悪いのは仕方ない。
だいたい先祖代々受け継がれた逸品が、パンフレットに載らないのに、バンバン出て来る。
「何で載せてないの?」
「差し障りがあるからだ。載せたら商売が簡単に傾いたりするから、仕方ない」
「それなのにオークションに出品するの?」
「ああ、お金が手に入ったらとりあえず何とかなるからな。あ、そうだ。お前の剣の入手先、調べているから、もう少し待て。待ち屋も協力してくれるって行ってたからな」
貴婦人のこと?!
「ありがとう!バラムさん!!」
「いいってことよ。ほら、蝶々出品されたぞ」
森蝶の紫色のは、なかなか競り合っていて森蝶なのに、公用金貨10兆枚で競り落とされた。ミラージュバタフライは、1匹1億枚。いつも通りの値段で。
パフュームバタフライは、相場の20倍で。
魔蜜はひと瓶80億枚とやや、値下がり気味で。バースデートーチは、激しい競り合いになった。
医療関係者らしい。ここ1年で、バースデートーチの医療素材としての知名度が上がったからのようだ。煮出し液は万能薬だものね。
それとともに、私の天敵シャドースワンもふわふわの羽毛が布団や枕などに引っ張りダコ。儲けさせてもらいました!
さて、本日のメインイベント。
ローゲンツ公爵家の侍女頭の日記帳。
いきなり公用金貨1000枚からのオークションの始まりは、1分経たない内になんと100京枚に。
ローゲンツ公爵は顔色一つ変えずオークションを観ているだけだった。
しかも、これには続きがあって、なんと落札者が支払えなかったという何とも奇妙な幕引きで、罰金だけで儲けたとバラムさんが悪い顔で笑っていた。
「どうせ、ローゲンツ公爵が競り落とすんだからと思って自分が在りもしない金を口に出したんだそうな。ただのアホだ。ああいう大人にはなるなよ?」
「あ~?!待ち屋さん!!」
私がバラムさんの後ろを見ると見慣れたもじゃもじゃ頭の待ち屋さんがタキシードを着てこちらに近づいて来る。
「例のこと調べが付いたんですが、ちょっとヤバいことになりました」
どうヤバいのかは、使用人の日記帳がオークションにかけられても無関心だったローゲンツ公爵がお怒りモードで待ち屋さん目指して走って来る程度にはヤバいのだろう。待ち屋さんは大急ぎで逃げた。
「キサマらか?!私のことをネチネチ調べてたのは?!」
「何の話ですか?私の拉致、拷問した相手を調べていたのですが、貴方が関係者なのでしょうか?だとしたらお話があります!」
「私がやったのなら、お前はもう死んでいる!標的に逃げられるほどマヌケではない!」
「じゃあ、何であの抜けない剣を持っていたのですか?あれは私の魔剣です!」
「クソ!あの美術商め!私を嵌めたな!!オコーナー!アイツの行方を追え!舐めたマネをしてタダで済むと思うなよ!キサマらは、もう手を出すな!ウロチョロしてるだけで目障りなんだよ!帰るぞ!ブラーナ!」
激オコでオークション会場を出て行ったローゲンツ公爵親子を目を点にして見送る。
「ヤバかったな」
「押し付けたヤツも命知らずだよね。私なら絶対あの家に持ち込まないし。待ち屋さん逃げられたかな?」
「明日、報酬貰いにギルドに来るだろうよ!うら、金もらって帰るぞ!」
子供抱っこされて換金所に行くと白金貨(1枚1億ステラ)で袋49枚分が渡されて、また、お金がたまったなとアイテムボックスにしまいながらコッソリ思った。