幻惑森林シリーズ
1枚目は蝶のお嬢様ことノイジー様からの依頼だ。
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【指名依頼書】
○依頼主/蝶のお嬢様
○指名者/帝都カルトラ冒険者ギルドAランク ケイトス
○依頼内容/お友達に小花蝶の栞を配りたいから小花蝶をいっぱい捕ってきてね!
○場所/幻惑森林
○日時/7月末のパーティーまでに
○依頼額/小花蝶1つにつき、公用金貨1億枚
○備考/栞職人が栞にするのに、100枚だと10日程度かかるとのこと。なるべく早い採取を!
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ん、いつも通り。急だな。この依頼額は妥当だな。何てったってデススパイラルスネークとの闘いがあるから。2枚目~5枚目までは魔蜜の採取依頼。あ、ネウチ毛皮店から、大きなフェアリーウイングの採取依頼。
あとは、パフュームバタフライや、ヘブンズマンティスの鎌、ブラッディウルフの肉の依頼まで、十数枚に渡ってあったが、何でブラッディウルフの肉の依頼があるのか謎だ。
よって、7枚分の指名依頼を断った。
「私じゃなくても、出来るでしょうからこの7枚分は指名依頼を断ります」
バラムさんは頭を抱えた。
「あ~~~!お前、それ、ベルリーナからのだぞ?せめて理由を聞いてやれ」
「……わかりました。聞いて来ます」
このクソ忙しいのに、どんな理由でオーナーの私に指名依頼などしたのか問いたださなければならない。あー!もう、面倒くさい!
しかし、事態は、私の手に余るくらいの大きな事象へと推移していたのである。
◆○◆○◆
「私が幻惑森林で討伐したブラッディウルフだけ、味が抜群にいい?…気のせいじゃない?」
「グランブリーフとオステリアタレッジョからも指名依頼されたらしいじゃないですか!あの2店舗は肉質に妥協しない店です!何か幻惑森林ならではのブラッディウルフの餌があるのでしょう!」
そういえば、幻惑森林にしかヘブンズマンティスはいないね。
「……わかったよ。受けたらいいんでしょう!」
「ヨ!さすがオーナー!従業員一同愛してます!」
冒険者ギルドのギルマス部屋に戻るとお昼ご飯が運ばれて来ていた!
「帰って来たな。座れ!冷めるぞ食べろ」
肉厚のステーキ。ジュージューと焼ける音が食欲をそそる。バラムさんとテーブルを挟んで座ってステーキ定食をいただく。
「柔らかい?これ、ブラッディウルフのお肉だよね?」
「これが幻惑森林産だ。味も最高だろう?」
「いや、味はブラッディウルフだから。そっかあ、精神耐性の無い人が食べちゃうと味が天井知らずになるわけね。コワッ!」
バラムさんが私の言葉で食べるのを止めた。
「待て!それ以上言うな!聞きたくない!」
「ブラッディウルフのエサ、ヘブンズマンティスの本体だから」
ギャアアアアアーーーーッ
プスプス煙が立ちそうなくらい燃え尽きてるバラムさんにステーキを切って食べさせる。
泣きながら食べている。
「依頼全部受けるよ。お金持ちがお金を山ほど積んでグランメゾンやオステリアに食事に行くのも面白いし」
「ケイトス!言い方!!」
「取り繕っても一緒だから。瓶とか手袋、買ってくれてるんだよね?いくら?」
「公用金貨6枚と大金貨7枚だ。ところで、銀細工アクセサリーの祭りの受賞作品オークションにかけてもいいのなかったか?」
「2位の人がオークションにかけたいって、言ったから預かって来てる。これね」
ビロードの巾着から受賞作を出すとヘレナさんが目を燦めかせてうっとりと魅入ってる。
「これで2位なら、1位はどんな化け物だ?」
「地位に執着する哀れな小娘ですよ。ちなみに2位の作者の作品は時々幻蝶屋で売ってます」
「ああ~ん!イエールにおねだりしなきゃ!」
イエールさんファイト!
私の分のステーキも全部バラムさんにアーンしてあげて冒険者に1階でお土産を配ってるメリエレさんと合流した。
男爵邸に転移して自室に行くとベッドにぶっ倒れた。
ダンが何か言ってたがもう疲れて動けない。
翌朝起きると父上が心配そうな顔で私を見下ろしていた。
「今日は休んだらどうだ?」
「指名依頼が日付が無いのが、たくさんあるから行かなきゃ!ごめんなさい心配かけて」
美味しいパンを食べてレッツゴーだ!
久しぶりの幻惑森林は油断大敵だった!
第1のコース!ヘブンズマンティス!
第2のコース!ブラッディウルフ!
両者競り合うように入り口に入った私をめがけてきます。オオッと!ヘブンズマンティスがブラッディウルフを鎌で牽制したぁ!居並ぶヘブンズマンティス達をウインドカッターで応戦!ブラッディウルフが討伐したヘブンズマンティス達に吸い寄せられるようにごちになっている。
今日も樹液が絶好調に出ています!
オオッと!ブラッディウルフ、ブラッディウルフがヘブンズマンティスの幻覚作用が効いてフラフラです!一頭づつ剣で引導を渡してノックアウトォオオ!!
実況中継風にしてみたが、やってることは虐殺だ。心が荒む。
だいたい、各200頭余りのブラッディウルフとヘブンズマンティスの鎌をアイテムボックスに入れ手袋をはめて、蝶々採り。
今日は珍しい紫色の森蝶が捕まえられた。
「……でも、これじゃないんだよね」
お金にはなるけど依頼品と違うから、ダメなのだ。
肝心な時にターゲットが見つからない法則が出来つつある。
とりあえずパフュームバタフライを取ろう!
いやあ!大量ゲットです!これで6件の指名依頼が完了。
ボトッ
このニオイは金毛猿のう○こ。
私の怒りのボルテージは急激に上がり襲ってくる金毛猿とデススパイラルスネークとのコンボを1時間かけて叩きのめした。それもアイテムボックスに入れて今度は魔蜜採りだ。
あの、巨木に見える魔ミツバチの巣に近づくとブンブン飛んで来た魔ミツバチを1匹残らず剣で刈りファイヤーウォールで燃やす魔ミツバチの巣が樹液だらけになったので、よく拭いてから、魔蜜を採取した。全部で9壺。
これで13件の指名依頼を完了。
今日は疲れたので欲張らずに帰ることにした。
カルトラの冒険者ギルド帰って解体場の搬入口から今日の討伐と採取した品を出すと解体場で雄叫びが上がる。
解体窓口にギルドタグと指名依頼書を提出してイエールさんに顔見せする。
「待ち屋がきてるんだが、森蝶の紫色のはどうする?」
「急いでないからギルドのオークションでいいですよ」
「ケイトス!オメェは良い奴だ!でもなぁ、デススパイラルスネークは売り物にならねえぞ。大きすぎるし、鱗が硬いから粉にしづらい。あれだけ大きいと肉も硬い」
「肉と血持って帰るから、解体お願い出来ますか?」
「おう!バラム様のところで待ってろや!知らせてやる!」
服を着替えてバラムさんの部屋へ行くと商談中で小難しい話をしていた。出直そうとしたら、何故か役人っぽいその人に紹介された。
「Aランカーの白王子だ。幻惑森林のベテランハンターだ。貴方の必要なデススパイラルスネークの親玉を討伐するなら、コイツしかいない。」
「うんと大きなのなら、今解体してもらってるよ?」
バラムさんがかき消えた。
と思ったら直ぐ戻って来た。
私の頭をグリグリ撫で役人さんと一緒に部屋を出た。
「あ~あ。食べたかったのに!」
ヘレナさんが、上品に笑って私に紅茶を出してくれた。
お茶うけは長くてざらざらしてるスティックパイだった。
「甘いヘビでガマンして」