夢の跡
「じいちゃんは、デキる商人だったから、マルカン公爵領だけアンデッドの魔石の料金が安くなった時、商売を辞めようとしたけど、親父はバカだったから、続けたんだよね。
じいちゃんは親父を絶縁したんだ。安い魔石の商品取り扱ってたから。
じいちゃんは俺を育てる為に終いたかった店を開けて、他領の商人から、正規の品を買い付けしてその分高く売った。当然売れず借金を抱える暮らしになり、じいちゃんは、お金に困って紫証を採取組合に返した。そうすると公用金貨1億枚を無期限で貸して貰えるんだ。借金が無くなったら安心したのかじいちゃんが死んだ。
俺はじいちゃんからの遺産相続をして、赤証から始めて藍証にまで到達したけど、どうしても期日前にアミュレットの買い取り金が払えなくなって、赤証からのやり直しで、借金もあるんです。それが50億で、そうすると俺は一文無しになって宿も取れないんです。
お願いします!助けて下さい!」
「わかったけど、ルメリーさんに借金の証書診て貰った方が良いね。50億は、利子で膨らんだ借金?」
「俺、字読めなくて……サインしたら、50億枚の借金返すことになってた」
「何で黙ってたんだ?!バカ野郎!」
ヨーグ青年が怒鳴る。
アイルは目を伏せてボソリとつぶやく。
「だって、じいちゃんも字読み書きできなかったし、お前の所行って 教えて、とか言いづらいし」
「それはイキニシア組合長に言った?」
「ちゃんとした契約書だから、破棄は出来ないって言われた」
あの人が見てそう言ったなら、覆ることは無いだろう。
ルメリーさん呼んでもムダだな。……待てよ。返す時にごちゃごちゃ言うかもしれないから連れて行こう。
「証書持ってソイツの所に行くぞ!とりあえずご飯食べて!」
アイルは何日喰ってなかったんだって言う食べ方をして行儀が悪いとヨーグ青年にしばかれていた。
アイルと虹証を交わして現金のやり取りをする。
「しばらくは自分の部屋で暮らして良いけど風呂、トイレ、台所以外の場所には入るな!」
「あり、がどうございまず!」
◆○◆○◆
借金した相手はバフォア公爵城の近くに住む貴族だった。トイレに行ったら、金の便器が座ってそうな金ピカ御殿で、ゴテゴテして趣味が悪い!
ルメリーさんに視線を向けると半眼開きで、睨まれた。
「何でこんなのに借りたの?!」
「え?お金持ちだったから。利子いらないって言うし」
「怪し過ぎるじゃない!美味い話は疑わなきゃダメよ!うふふ、滾るわね!」
実は、この貴族の商会から買わされたという聖句を刺繍した帯を見たリンディーが聖句が間違っているという告発をイキニシア組合長にした。ドゥルジー市国を巻き込んでの大捜査になって、どうもこの貴族がその大元らしい事がわかった。
摘発までの十数分を稼ぐのが、ルメリーさんの仕事なのだ。リンディーとルメリーさんを組ませたら怖い物がない気がする。
私は目立つし、ドゥルジー市国からの本隊を転移させて来なければならないので、隠蔽魔法を使って透明化してルメリーさんの後ろに付いて行ってるのだ。
「にょほほ!僕チン好みの女の子を2人も連れて来るなんて、わかってるじゃない!置いていったら10億枚帳消しにしてあげるよ。そら、帰った、帰った!」
「今日は公用金貨50億枚の返済に来ました」
「ひょえー?!店を売ったのか!50億枚と引き替えに僕チンが買うはずだった店を!!もう、怒ったもんね!そんなお金いらないから、店を寄越せ!」
「アンタに渡すのだけは嫌だ!俺を騙して50億枚の借金作らせたクセに、その代わりに店を寄越せ?!ふざけるな!」
「何だとお!!この平民風情が!偉そうに!ぼ、ぼ、僕チンに指図出来ると思わないことだな!出て来い!片付け屋!この生意気な平民を地下牢にブチ込んで、この綺麗な女の子達をぼ、ぼ、僕チンの部屋に連れて行け!」
何だあ?この変なヤツ。
あ、ルメリーさん達が連れて行かれる!でも、リンディーがいるから、大丈夫。
問題は、アイルの方。地下牢まで付いて行って場所を覚えたら、ドゥルジー市国前に転移。
「早かったな?何かあったか?」
荒事専門の異端審問官御一行を有無を言わせず成金貴族の屋敷に次々転移させて叫ぶ。
「女の子が2人僕チンの部屋に連れて行かれました!地下牢には被害者が閉じ込められています!地下牢は確認したので案内します!」
「な、な、な、何のことだ?知らん!」
「お前がアイルに売りつけた巡礼者のたすき、聖句が間違っていたニセモノだ!異端審問官として、これを捜査する!ご協力いただけますな?」
「く!皆出て来い!やってしまえ!僕チンの邪魔をする奴は許すものか!」
「それはドゥルジー市国への反乱とみなす!おのおの方!切って捨てよ!」
利き腕を落とすだけで許してやったら、後はふん縛って放置。200人ばかり私兵がいて、以前の幻想庭園と同じ規模の警備体制だった。
異端審問官のリーダーが私に頭を下げた。
「ご助力ありがとうございます!貴方がいたおかげで簡単に制圧出来ました」
「いいえ、こちらこそ助かります。奴に騙されて借金してた者がいるのですが、支払いはしなければなりませんか?」
「次のテラコッタ伯爵にしなければならないね。力になれなくてすまない。地下牢に案内してくれますか?」
世の中、そう都合よくは出来てないらしい。
地下牢にリーダーさんを連れて行くと、アイルが手枷足枷を付けて、そこに収まっていた。
私は憤慨しながら、手枷足枷を剣で切った。ちょっと傷になったが、リンディーがいる。次はリンディーとルメリーさんを探知してアイルを連れて転移する。
リンディーはお風呂に入れられていた。アイルの傷を見るとすぐ癒してくれた。
ルメリーさんは、隣の部屋でベッドに座ってお冠だった。うわあ、これを私が機嫌直すの?!無理無理無理!絶対無理!
「ケイトスくん?助けに来るのが遅い!」
「申し訳ありませんでした!」
レディが怒った時はとりあえず謝罪を、と師匠が言ってた。助かる為に必死で謝る。
「僕チンは、どうなったの?」
「捕まりました!異端審問官御一行に」
「借金はどうなったの?」
「次の伯爵に払うように、と言われました」
「ええ?!どっちみち一文無しかよ!」
「交渉してみるわ」
ルメリーさんは、指をパキパキならすと、部屋から出て行った。
そして、何をどうしたかわからないが、1時間後には、アイルの借金を1億枚まで減らして見せた。ルメリーさん、恐るべし!
「裏帳簿があったから、まかり通ったけど、もう、決して簡単にサインなんかしちゃダメよ!わかった?!」
「ありがとうございます!女神様」
「あら、やだ!女神様なんかじゃ無いわよ!」
ルメリーさんの機嫌が一気に治った。
アイルって、世渡り上手かも。