第1回幻想庭園銀細工職人祭り②
「ま、ルール違反だから。ダメな物はダメ。あんまりオツムの程度に合わせた行動してると誰から見てもバカだってわかるぞ」
「何だと?!今バカって言ったわよね!」
果てが無いから受賞作を取りに行き建築じいさんズに剥がしてもらう。
「どうした!辞退か?」
ニカレさんに苦笑いを返す。
「他領からの他人名義を借りてのルール違反でした。……デルフィ工房のマリスです」
「何か理由があってのことか?」
「自分の力をひけらかしたいのと、私に謝らせたいそうです。絶対!謝りませんがね!返してきます!」
「早く帰って来いよ!」
「はい」
泣き喚くマリスに出品作品を返してサッサと転移して幻想庭園に帰って来た。
真夜中に始まった受賞式には少なくない観客が今か今かと式を待っていた。
「皆さんに残念なお知らせがあります。ある有名工房が主催者側への嫌がらせの為だけに他領から他人名義で応募して一般投票で1位を獲得しましたが、バフォア公爵領民による応募だけで、と告知しておりましたので、入賞を取り消させていただきます」
一斉に野次が飛ぶ。そこに転移能力者に連れられたマリスが現れる。
「みんなぁああ!1位のデルフィ工房のマリスだよ!ヒドいよね?皆はわかってくれるよね?さあ、私を表彰なさい!」
ナジムさんが応酬する。
「未来ある職人の為の支援も兼ねているのに、成功を収めた方がその機会を潰しに来るのは違うんじゃないですか?しかも他人と偽ってまで」
「あれぇ?アタシ達の未来を潰した人が何か言ってるよぉ!」
その時マリスに向かって果物が投げられた。
「引っ込め!祭りにまで邪魔しやがって!お前が恩知らずだから、見捨てられただけだろうが!他人のせいにしてんじゃねぇ!」
ロトムの声だ。
「アタイが何したって言うのよ!言ってみなさいよ!」
「契約も無しに王都に店を用意して貰って、衣食住全部無償で世話になって、商品を売り捌いて貰って黄証になった途端、店で売るのが忙しいから、他の仕入れ先探してって言った恩知らずだ!アンデッドの魔石の10年間の売買契約も優先して貰ってるのに、お前はどんだけ恩知らずだよ!」
「アンデッドの魔石の事は関係ないでしょ!ちゃんとお金支払うんだから、10年間キッチリ収めて貰うんだからね!」
果実や石があちこちからマリスに向かって投げられる。
「テメェは、恩知らずじゃねぇ!裏切り者だ!この犬っころが!」
巻き添えを食いたくないのでウインドシールドを張る。
もう、舞台上はドロドロだ。ウォーターフォールで綺麗にすると、濡れ鼠になってもまだ、いたマリス達に石が投げられる。
ナジムさんが拡声器で止めるよういい、マリス達に早く帰るよう進めた。
マリスはそれでも表彰を望み、また色々投げられていた。隣にいた転移魔法使いがたまらずマリスを連れて逃げた。
「皆さん失礼致しました。では、受賞式を行います。では繰り上げ1位の橙証のナーテさん!壇上へどうぞ!」
ナーテさんは上がってくるなり、ナジムさんが持ってた拡声器を奪って言った。
「今日、私は負けた。あんな幼い子供に。だから、今度勝つために、1位は空けておこうと思う!私は2位のナーテだ!今度こそ、勝つ!」
ドッと拍手や指笛、歓声が送られた。
ナーテさんには、職人村のメゾネットの店舗と賞金公用金貨1万枚が贈られた。
3位のミュスカさんという緑証の青年には本人の希望により、リオラの工房が与えられた。
ナーテさんは橙証なので、実店舗が持てないのだ。そこで作業場と賞金にしたのだが、あんまり喜んでない。こっそり壇上で聞いてみれば銀塊とか宝石が欲しかったらしい。
お詫びにカルトラの冒険者ギルドの解体兄さんにもらったカラフルな魔石を全部あげると喜んでいた。銀塊は1本銀貨5枚で買えるというと、驚いていた。職人村の人達だけだと釘を刺しておいた。数に限りがあるし、誰でも買えるようにしたら商人達が転売すると思うのだ。職人達が転売しないように何か考え無いといけない。
全部で12名の受賞式が終わると、皆は市場に散らばって酒を酌み交わしたり、もう一度銀細工アクセサリーを観たりと祭りを楽しむことに余念が無い。疲れた事務所の面々は交替で仮眠を取りひと時の癒しを得た。
翌朝、張り切って起きた私はハンナを部屋に迎えに行った。ハンナは自前のオシャレな普段着で部屋から出て来た。
「ハンナ、おはよう。その服似合ってる。これ、ハンナにプレゼント」
受賞した中の一人から受賞作を買ったのだ。あまりにもハンナの好みそうなバレッタだったので。
案の定喜んでいる。
「ちょっと待ってて」
部屋の中に引き返したハンナは、ハーフアップの髪にして、贈ったばかりのバレッタを付けて照れくさそうに出て来た。眼福です!神様ありがとう!その後ろからニヤニヤ笑うルメリーさんが出て来なければ気分はサイコーだったのに。
「おはよう、ケイトスくん」
「おはようございます。ルメリーさん。じゃメリエレさんと愉快な仲間たちも起こしましょう」
「プッ!何よ、そのおかしな名前!」
「あるいはメリエレさん友の会、もしくはメリエレさんファンクラブ」
ルメリーさんとハンナはツボに入ってしまったらしくしばらくお腹を抱えて笑っていた。
そうこうしてる内にメリエレさん友の会は集まりまずは、離宮の食堂で朝ごはん。
今日は麻婆豆腐とエビチリ、ギョウザに小篭包というボリュームメニューだったが、悪くない。むしろ朝からごちそうで幸せだった。皆も満足してるようで、コッソリ支払いを済ませて店を出た。
メリエレさん達は早速果蜜酒の屋台で買い求めて気分はリゾート旅行。
銀細工の展示会場の天幕は人がいっぱいだったので、屋敷の中の店を見ようと言って余りの過密状態にチャトン伯爵領の青証市場に行ったら、今日は閑散としていて市場を十分に楽しめた。いつもお土産のベーコンを買う店を紹介したり、キャラさんが絨毯を本気買いしたり、私のアクセサリーの仕入れの様子を皆で観たりと半日のんびり過ごし、半日は王都に転移して焼き鳥の屋台に並んだり、ロトムのレストランで食べた後、工房地区に転移してアクセサリーのお土産を選んだりさせてる間に私はいつもの店で仕入れをして十分な数を稼げた。
一番最後はドゥルジー市国に行き礼拝堂を観光して夜は幻想庭園内に転移で帰り商人食堂でご飯。
「ケイトス、今日もありがとうな!」
「ふふふ、こんなんでいいならいつでも案内しますよ!明日はどうします?」
「この市場まだまだ観てないからまた回る。帰るのは明明後日でよかったな?」
「はい。飛行艇で帰って貰う予定です。朝一番で出発するのでお土産は前日の夜までに買って下さいね」
この後ハンナと真夜中のデートなのだ。
真夜中の展示会場は若干人が少なくて作品を観る隙間がある。
「赤証は素人なのね?」
「まだ、他の工房の量販品作らせて貰ってるだけだから、あんまり技量はない。数こなす内に自分の作りたいものが決まってくるみたい」
「大変そうな制度だけど職人を育てるにはそのくらいやらないといけないのかもね」
「でも、虹証の制度は職人さんには地獄だと思う」
「ケイトス、貴方は思い違いしてるわ。研鑽の上に職人の腕が生きて来るのよ!貴方の剣術と一緒なの。甘っちょろい事言ってられないのよ」