祭りの前③
板を読んでウンウン唸ってたシロッコさんは工房に入って出てこなかった。
リンディーが、いや、ヒューイットが心配になったので、リオラの工房地区に迎えに行く事にした。
すると、まだ、魔力枯渇にはなっておらず、リンディーの事を鼻の下を伸ばしてお世話している。
リンディーはウザくなったのか、ツンとして座っているだけだ。
「リンディー、ヒューイットさん達の活躍は見られたかな?」
「それが、あんまり些細な修繕なので、本当に腕がいいかどうかが、わかりませんわ!これなら頼まなくても良かったかも?」
「な、リンディーちゃん!それなら、ちゃんと1軒屋建てたら祭りの日デートしてくれる?!」
「宿場町に宿を1軒建ててくださるなら、考えてみますわ」
「ケイトス!宿場町に連れて行け!」
「あら?ケイトス様の事をヘキサゴナルでそんな風に呼んでたら、ろくな目に遭いませんわよ?陛下のお孫さんですから」
「何ィ?!そ、そういうことは、早く言おうか?ケイトス様!宿場町までお願いします」
ヒューイット魔法建築事務所の連中をまとめて宿場町に移すとマーズさん達が、こちらで宿を建てていた。
「師匠!俺に任せて下さい!さ、もう疲れたでしょう?休んで下さい」
「助かる!疲れていたんだよ。なのに、お前たちは遊び呆けてば「わあ!わあ!わあ!師匠ケイトス様に幻想庭園に連れて帰ってもらうといいですよ!」わかった。ところであの美しいお嬢さんは、どなただ?」
「いやだなあー!リンディーちゃんですよ!俺が仕事をするところが見たいって、付いてきたんです」
「グフッ!なるほどのう、魔法建築師の仕事はあっという間だから楽しいかもしれんな!」
マーズさんは私にウインクして私の手を取った。
「幻想庭園まで7人頼む」
「お安い御用です」
マーズ魔法建築事務所の7人を集めて幻想庭園の自宅に転移すると魔法建築じいさんズは限界だったらしく私の広いベッドで寝る者3名、食堂に下りていく者4名と結構追い詰められていたようだ。
食堂に転移させたら、幻想庭園の管理事務所についでに寄る。
ナジムさんが手をあげる。
そちらに行くと銀細工のアクセサリーが山になっている。
「エントリーしてきたんだが、選びきれません!王都の紫証の銀細工職人達に審査員になってもらえませんか?!」
「王都の、って言うと2人しか知らないし、1人は目が悪くて多分無理。元紫証の職人さんに、って言うならもう1人は確保できるけど」
「連れて来てください!受け付けしただけで5600点あるんです。大変です!」
「わかった!連れて来る!すぐに」
ブラッシュローズ領に転移してまず、クロウさんを拉致る。なんか文句言ってたけど拉致るのは一瞬。王都の屋敷へ転移して工房にこもってたシロッコさんも拉致る。念の為ニカレ工房に寄ってニカレさんも拉致る。
幻想庭園の事務所に転移すると3人ともカンカンに怒ってたが、山になってる銀細工のアクセサリーを見せると目がキラキラしている。
「ほう、選考委員というやつか、面白い!やってやろう!いつまでにだ?」
ナジムさんがクロウさんに答える。
「明後日の夜までにお願いします。それから、駆け出しの職人を拾い上げて育てる企画なので、未熟でも、光る物があれば、拾い上げて下さい!」
「「「わかった!」」」
「もちろん貴方も選ぶんですよ!ケイトス様」
やっぱりか。
黙々と選んでいるとあまりにもレベルが違うので、選考は真夜中に終わった。
誰にどんな賞を与えるかもすんなりと決まった。
これからが、問題だ。
「拾い上げるねぇ?そういうのは、ケイトスが得意分野だろ?俺には十把一絡げにしか見えないし。工房に帰る!」
シロッコさんが離脱。送って行きましたとも!
ついでに忘れてた、宿場町のリンディー達を連れに行くと怒られるかと思ったら、伝達であらかじめ聞いてたらしい。
労われた。夜中も開いてるスープの屋台で皆で食事した。
ヒューイットが目をギラギラさせて給金の支払いを求めたので、幻想庭園まで帰って真夜中のお給金の支払い。ラプナーの目が怖かった。
ヒューイット魔法建築事務所のヤツらには公用金貨5億枚しか支払わなかった。
明らかにサボっていたからだ。
マーズ魔法建築事務所の魔法建築じいさんズは公用金貨50億枚の支払いで合意した。帰りは飛行艇に乗って帰って貰う事で話はついた。飛行艇を一台貸し切りにした。これで、ファイン達を連れて来ても帰りは考え無くていい。ルメリーさんに伝達でファインさん達に旅行に行く準備をするよう指示して、ルメリーさんと未来の銀細工職人を掘り出す作業を始める。ある一定の基準に達した銀細工職人は橙証や、黄証であった。
赤証はさすがに初心者の集まり。まだ、海の物とも山の物とも言えない作品ばかり。ちなみに元緑証以上の職人さんの作品は入賞してるものもある。
橙証を中心に職人さんに支援の手を差し伸べる。
物になりそうなのはざっと130人程。奨励賞という形で職人村に次の祭りまで滞在して貰う。他の職人村の空いてる部屋は私が職人を見つけて来て入れる。
ぼちぼちやって行くしかない。
リオラの工房(仮)から出品中の作品もあって展示するには見ごたえがありそうだ。
どうやって展示しようか悩んでいると魔法建築じいさんズが事務所に来て展示をしてくれるといったので皆大喜びした。壁を作って壁面に埋め込むようにくっつけるらしい。じいさんズの魔力で剥がすのも簡単、盗むことは不可能らしい。
翌朝、審査が終わった作品から早速前庭に展示をして貰った。来場者による人気投票もあるので当日は王都の屋敷のメイドさんも総動員して開票しなければならない。
気が抜けない日が続く。
翌朝、お土産のチーズとベーコンと田舎パンを山ほど買って、アクセサリーの仕入れをして帝都カルトラに転移した。
早速、幻蝶屋に行くと店長のアミカさんがいて、仕入れてきたアクセサリーを渡すと狂喜乱舞した。
「だってもう3日も休んでるんですよ!マメに仕入れをして下さい!シロッコさんの作品が欲しいとおっしゃる貴婦人が押しかけて来てました!それから、ゴージャスなネックレスの依頼が5件ほど来ております。デルフィ工房がダメなら、他の工房を探して下さいませ!」
宝石を入手してクロウさんに作らせるか。ナーテさんはどういうの作るかな?一度作らせて見ようか。
幻蝶屋のスタッフ分のチーズとベーコンをアミカさんに渡して、冒険者ギルドに。床に板を敷いてベーコンとチーズを積み上げてるとイエールさんが来てベーコンを解体師の人数分取っていった。
毎度毎度、どこから嗅ぎつけるのだろう?
ギルマスの部屋の前に転移してノックしたら、「入れ!」と怒鳴り声。
私だってわかってるのかな?
部屋に入るとバラムさんは上半身を晒して湿布をあちこちに貼って貰っている。
「何したの?」
「…バカが夜の幻惑森林に入って行方不明になったから、捜索してたら、蜘蛛に吹っ飛ばされた」
「そんな奴らほっときなよ。お土産持ってきたの。ここに出していい?」
「いいぞ。待て待て!どれだけ出すつもりだ!そんなにいらんわ!1階に置いて来い!」
「お友達にもあげてね。私に指名依頼ありますか?」
「祭りで忙しいんだろ?祭りの熱が冷めたら来い。リスト作って待ってる。10日ぐらいまとめて帝国にいるつもりで頼む!壺とか、ガラス瓶はカケイ冒険者用品店に言って用意しておく。革手袋の新しいのはいらないか?」
「うん、そろそろ欲しいかも。魔蜜塗れにしちゃったんだよね」
湿布を貼り終えたのかシャツを着るバラムさんに手招きされた。
「祭りの優勝作品、オークションに出せないか?」
「んー、一応聞いてみるけど期待しないで。多分その人の顧客に売るんじゃないかな?次回からは、はっきりオークションに掛けるって書いておくよ!」
「目玉らしい目玉が幻惑森林関係しかなくてな!ミストオークションギルドに持って行かれてる。ルメリーの心配した通りになった」
「ルメリーさん、ウチの会社入っちゃった」
「年間120億枚で雇ったんだって?アホ!」
「だってルメリーさんに任せたら一日で幻想庭園の事務が終わったんだもん」
「よほど仕事が出来ない奴の集まりだったんだろ?飯喰ってけ!」
バラムさんは窓を開けてドカンと魔法弾を空にぶっ放すとヘレナさんを呼び昼ご飯を持って来るよう言った。
ヘレナさんは、私に手紙を差し出した。
封蝋はしてない。幻蝶屋の印鑑が押してある。
中をみて手紙を開くと、【オーナー、売り切れました】の文字。
ソレを覗くバラムさんとヘレナさん。
「商売繁盛で良かったな!」
全然良くない!