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10話 過ぎる日々

空になった鍋を屋敷の厨房に返して、朝食の野菜たっぷりのトメトスープと焼いたチーズがたっぷりかかった白パンを食べてお腹いっぱいになると、出発した。


まず、アスターん家まで転移してアスターを連れて行っていいかモンタナ男爵に聞く。

旅装のアスターが庶民の服を着た方がいいと言ったのでアスターの部屋を借りて着替えたらアスターの兄上のマリクに抱きしめられる。


「アレク様、兄上は可愛い子供を見ると抱きしめる怪しい大人なんです」


変態さんだろうか?


アスターが無理矢理マリクさんを私から引き離し、私達はグレイス子爵領街道を転移してお昼前にはドゥルジー市国に入りサッサと通り越して夕方には

王都に入った。

明けの星亭は満室で断られたので、ヨザック兄上を頼って採取組合に行くと指名依頼が束になってるとカリナさんに言われ、個室へと案内された。


ヨザック兄上が来た!


「すまん!職員の1人がお前さんがアンデットの魔石換金した事をポロっと言っちまった!減給処分にして減給分はお前さんの預金に毎月振り込んでおくから許してやってくれないか?」


「うん、ジョンキル子爵領で聞いたよ。少しは痛い目にあった方がいいね」


ヨザック兄上はテーブルを挟んで向かい側の席に座ると手に持っている羊皮紙を値段順に右から並べた。


「……王立魔道具研究室?」


大きな魔石が欲しいらしい。金に糸目はつけないと書いてある。最低価格で公用金貨1000枚⁈


「王家が出資してる研究室だ。金払いは良い。実績がある依頼主だ」


「魔石の大きさは運だから、そうそう大きなサイズは無いに等しいよ、兄上」


父上が使うから無いんだけどね!

しかし、これ全部読むの?100枚くらいあるんだけど?


「今回はアクセサリーにするような小さな魔石しか持って来てないよ?」


一気に20枚減った。

筆記体はまだ読めないからアスター頼りになる。

銀細工工房がぶっちぎりで需要があるようで、その中の48件が指輪の魔石の依頼だった。

デルフィ工房の値段を基準価格にしてそれより高い物は依頼を受けて、価格が安いが店の評価はどうか、カリナさんに聞いて安くなっても頑張っている職人さんの店には直接行って卸してあげることにした。

カリナさんもヨザック兄上もうなづく。

コイツらの依頼は受けない方がいいっていうのを14件ほど抜いてもらい、あと18件の中にお祖父様のアミュレットを作った工房「ニカレ」の名があったので値段も見ずに受注した。

アミュレットやネックレス、ブローチの工房が多い。

総数を計算するとどうも2600個では18件の内、数件しか受けられない。


「では、私が各工房を案内しますから気に入った工房のご依頼を受けてはいかがでしょう?」


「カリナさんの迷惑にならないならそうさせてください」


「フフ、アレク様は貴族らしく無いところが好評ですよ!では、あすの昼【ニカレ工房】の前でお会いしましょう!」


「よろしくお願いします!」


カリナさんが個室を出て行く。

ヨザック兄上はピサロさんを連れてきた。


「さあ、受注した分の魔石を出せ!」


大人が両手で抱えて重いと思うくらいの木箱を異空間蔵からとりあえず1つ出してピサロさんの生活魔法で数えてもらう。


「3000個ピッタリですね」


アスターが必要な数を言う。


「100個づつの依頼が23件、500個の依頼が2件、1000個の依頼が6件で、指輪用の魔石は9300個必要ですね」


木箱をあと、3つ出す。

その内一つは父上が中身を間違えたらしくゲンコツ大の魔石が詰まっていた。

ヨザック兄上は「採取組合が断れない依頼主」の依頼書を5枚テーブルに並べて私に頭を下げた。


「頼む!アレク」


「……わかった。兄上にこの魔石は預けるから好きにして」


「ありがとうな!!!」


「その代わり、今夜からアスターと兄上ん家にお邪魔しますから!」


「……マジか、掃除してるかな?アイツら」


ぶつぶつ言いながら大きめの魔石が入った木箱を持って部屋から出て行くヨザック兄上。

異空間蔵からもう一つ木箱を出してフタを開けて中を確認すると指輪用の魔石だ。


ピサロさんが、依頼主ごとに絹の袋に魔石を数えて入れる。31件分の依頼が達成された!


ヨザック兄上がメモ片手に戻って来た。


「1部屋に7人くらいが雑魚寝してるんだが、そう言うのは大丈夫か?」


アスターの顔色が悪くなった。無理なんだな。


「小さな家買う!」


「すまんな。物件はこっちで探しておく。希望はあるか?」


「3つ部屋があったらいい」


「……そんな小さな家はねぇよ!金貨1000枚もらうぞ?」


「いいよ、あと、料理人が欲しい!」


「それは考えてあるから、任せておけ!これ、今夜の宿だ。アスターの名前で予約した。

明けの星亭の2軒隣だ」


メモが渡された。

宵月亭ね。


「ありがとう兄上」


「こっちこそ!助かった!辺境伯様によろしくな!」


「うん!」


言えないよ!勝手に売っちゃったもん!


組合から中央広場に転移して、またしても買い食いする。

スゴい行列のできてる屋台に並び、焼き鳥なるモノをゲットしたので宵月亭に持ち込み部屋で食べた。


「「美味しい!」」


贅沢に塩胡椒が使ってあるネギマと独特の甘辛いタレのモモ。2人で20本も買ったのに無くなるのはあっという間だった!

2人で1階の食堂で遅めの夕食を済ませた。

明けの星亭ほど美味しいと思わなかったし、焼き鳥が美味しすぎたのだ!

お風呂も無い宿なので、近頃出来た公衆浴場を宿の人に勧められて行って見たがアスターが大勢の中で脱ぎたくないと涙目で言うので勘弁してあげた。

でも、私は入った!平民とハンターが主に使ってるようで、体にカッコいい古傷とかある中年男性が多かった。

私は皆に避けられてるようで周りから遠巻きにされていたが、5人が入れる湯船を占拠してたので、中年ハンター達が4〜5人入ってきた。


「どこから来た坊主」


「グレイス街道から来ました!」


「……王都に家があるのか?」


「依頼料が溜まったから奮発して小さい家を買う予定です!」


「「「「「ハンターなのか!!!」」」」」


皆、驚き過ぎじゃない?


「はい。青証になったばかりです!」


「マジかよ。ワシまだ、藍証だぜ!」


「……ワシもだ」


「あったまったので、お先に失礼しますね」


「あ、坊主!名前は!!!」


「アレクと言います。若輩者ですからご指導ご鞭撻の程よろしくお願いします」


「「「「「「「「「「「お前がアレクシード=クロスディアか!!!」」」」」」」」」」


男湯の中に入っていたハンター全員の叫び声が反響していた。

情報を漏らした組合職員、キサマを許さない!

着替えて公衆浴場の外に出ると長椅子があちこちにある。

アスターを探していると女の子達に囲まれている。


「アスター兄上!マルティナ姉さんが待ってますよ!早く行きましょうよー!!!」


「ごめんね、婚約者を待たせているんだ。通してくれる?」


ちょっとだけの隙間からアスターの手を引いて人ごみを抜ける。

充分離れたところでアスターの手を離す。


「アスターごめんなさい!長風呂しすぎたね」


「……あんな目に遭うなら一緒に入ったら良かったです!」


そう言って私の虹証を渡してくれた。

異空間蔵にしまうと、宵月亭の部屋に帰って寝た。


翌朝も中央広場で買い食いして運動不足だから、工房地区まで軽く走って移動する。

アスターも運動が好きなのか、心地良さそうに隣りを走っている。

馬車が行き交う通りで人が走っているのは目立つらしく窓からわざわざ顔を出して見てる紳士もいる。

鐘が6回鳴った。

アスターと私はカリナさんとの待ち合わせのニカレ工房前に転移した。


「……おかしいわね、きゃ!!!」


「「お待たせいたしました!カリナさん」」


「中央広場から走って来たの?頭おかしいんじゃない⁈」


「カリナさんの今日のお召し物良くお似合いです」


「アレクくん、とにかく汗を拭きなさい!アスターさんもよ!」


私達は異空間蔵からハンカチを出し顔から襟首まで念入りに拭いた。ハンカチは異空間蔵にしまった。


「行きましょう!」


一軒目からの偵察が始まった。

一気に5.6.7.…17軒と歩いて見るがピンと来ない。

アスターが食堂に入って行く。


「カリナさん、おごるからちょっとだけ休もう?昼食食べてないんだ」


すると店に入ろうとした私を引き止め、更に店に入っていたアスターを連れて出て来た。


「美味しいお店に連れて行ってあげる!」


その小さな店のドアには明日移転するという貼り紙がしてあった。


「さあ、入って!」


ドアを開けると美味しそうな匂いが私達を包んで店に入る気にしてくれた。たった5席のカウンター席だけのお店は隣の人との距離が狭い。緊張して高い椅子に座ると注文してないのに肉野菜炒めと白い粒の盛り合わせとサラダとスープが出て来た。

一口食べて驚く。


「……これ、焼き鳥の調味料?」


「これは、オイスターソースっていうんだ。焼き鳥は醤油だよ!」


やっぱり私は味オンチだ。

金茶色の短髪に茶色の目の成人になったばかりの青瑪瑙のブローチを付けている料理人の青年は人懐っこい感じが客商売に向いてる気がした。


「ここは先払いじゃないんだね」


「ここらへんは法衣貴族の人が住む地区に近いから治安が良いんだよ!喰い逃げは金貨10枚の罰金刑だからする奴なんか見た事無いよ!」


「……そうなんだ?」


アスターがお代わりしてる。

カリナさんが早くも食べ終わったのか、料理人の青年の言ってたことに補足説明を付けた。


「王都って、法律が厳しいから稽古でもケガさせたら即憲兵隊に牢に入れられるから気をつけて」


「……」


そんなスペックが高いことを要求されても困る。

すぐ殺すのなら上手な方です!

あれ?ヨザック兄上は違う流派が暗殺に来たら返り討ちにしていいっていってたよね?


…どう転んでも、不味そうダネ!


肉野菜炒めが、美味しい内に食べてしまおう!

…この白い粒、腹持ちがいいから、父上に買って行こう!

いっぱい食べて1人前1500ステラ。安い!4人分虹証で支払う。すると何と料理人の彼は若いのに藍証だった!


「「すごいな!」」


お互いを称え合い自己紹介し合う。


「私はアレク」


「オレはロトム!明日から法衣貴族地区に店を移転するから来てくれよ!」


「絶対行くね!」


カリナさんが微笑ましそうに見ていた。アスターはなぜか憮然としている。


「アスター、待たせてごめんね!」


「…僕では貴方の友達にはなれませんか?」


「アスターは私のたった1人の騎士だから1番大事だよ」


答えを間違えてはいけないのです!ここで大事なのは優先順位!!!「貴方が1番だ」と言ってあげなくてはならない!


アスターが嬉しそうに笑った。


「はい!」


私だけに聞こえる声でカリナさんが囁いた。


「上出来よ」



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