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6.ディーク公爵家の事情と愛が重い兄

アデリア王国の四大公爵家は、初代王の兄弟姉妹が興した公爵家だ。

東のベスターは優秀な文官を多数輩出し国政の中枢を担い、

西のコルテスは武に秀で騎士団長を歴任している。

南のグラッツェンは広大で肥沃な土地を有し国の食を支え、

北のディークは領地の大半が一年中雪に覆われていて、幻想的な樹氷やオーロラを観測することが出来、国内有数の観光地となっている。


そう、多くの国民たちはそのように認識している。

しかし公にされていないが、ディーク公爵家は他のどの貴族も持たない特別な力を有していた。


◇◇◇


「ディーク公爵家からの調査依頼…ですか?」

「かの家の大奥様が、夢見の魔術で孫娘の危機を見たというのだ。このままでは孫の命が危ういと公爵に訴えたところ、公爵が王立騎士団にその孫娘の安否確認を依頼してきたのだ」

「夢見…それが当代のディーク公爵家が保有する特殊魔術なのですね」

「孫娘ともなれば、同等の能力を有している可能性がある。そのためディークの秘密を知る者として、王家から直々に騎士団並びにコルテス公爵家へ調査命令が出されたんだ」


それってもしかして私のことなのだろうか。ていうかディークの秘密って何!?

母からもおばあ様からも何も聞かされていないし、そもそも私にそんな能力はない。


おばあ様に最後に会ったのは母が亡くなる前で、二年前に父と後妻の目を盗んで郵便を届けることに成功して以来、度々窮状を訴えていた。18歳の成人の折にライネーリ伯爵となったらおばあ様の口添えで新しい領主を王家に選定してもらって爵位を返すつもりでいたので、その計画を手紙に綴り了承を得ていたのだ。ここ半年くらいは後妻の監視の目が厳しくなり手紙を送れていなかったが、わざわざ特殊な魔術を行使してまで私の安否を気にしてくれていただなんて、嬉しいような申し訳ないような複雑な気持ちだ。


「今の学園にはディーク公爵家のご令嬢はいなかったはず…まだ幼いのでしょうか?」

「それがどうにもきな臭くてな。ディークの大奥様と呼ばれているのは前ディーク公爵の妹御で、若い頃に一族の反対を押し切って、学園で恋仲になった遠方の伯爵家の嫡男の元に駆け落ち同然で嫁いだのだそうだ」

「かの家は一族の血を外に出したがりませんし、血筋で授かる能力を考えたら反対するのは当然のことと言えましょう」

「彼女にはそれが窮屈だったのだろう。だが、自身の欲求を優先し伯爵夫人となり子をなしたが、そこから急激に身体を壊した。結果的に生まれたばかりの娘と引き離され、伯爵夫人はディーク公爵領に連れ戻された。そのまま離縁させられ、娘の引き取りを希望したが、夫の伯爵が後妻を迎え入れず生まれた子供を女伯爵にすると宣言したため、そのまま疎遠になったのだそうだ。駆け落ちまでした妻を生家に奪い返された伯爵のせめてもの抵抗だったのだろう」


私が母とおばあ様から聞いていた話を一致している。おじい様とおばあ様は愛し合っていたけど不幸な事情で引き離され、おじい様は使用人たちの手を借りながらも男手一つで母を立派な跡取り娘に育て上げた御方だ。そしてそのおじい様は、母とディーク公爵家の縁者との縁談を全て断って、近隣の子爵家から穏やかで人当たりが良いと評判の次男坊を婿にと連れてきた。それがうちのボンクラ父だ。


おじい様は、ディークの息が掛かっていなくて娘の立場を脅かすことがないように野心を持たなそうな者を婿に選んだのだろう。ただうちの父は人当たりが良いのではなく、ただ外面が良すぎるだけなのだ。


「生まれた娘は子爵家から婿を取り女伯爵となったが、母親と同じように第一子を出産後に身体を悪くし、生まれた娘が10歳になる頃他界したそうだ。危機に遭ったとされているのはこの時に生まれた娘で、今年17歳になる」

「ディークの縁者が在学しているという話は、聞いたことがありませんね…」

「きな臭いと言っただろう?どうも伯爵家はこの娘の存在を隠しているようで、何度問い合わせても我が家にその年頃の娘はいないと言い張るのだそうだ」


なんてこった、存在ごと抹消されているとは。どう考えたってそのやり方には無理があるだろうと内心で思わずツッコミを入れた。


「北西に領地を構えるライネーリ伯爵家なのだが、あそこは素晴らしい陶器を産出することで名を馳せていた筈が近年優秀な職人がこぞって他領に流れていたりと、領内の状況がよくないようだ。娘の存在を隠匿し、学園に通わせないのは貴族法にも反している。すぐにでも調査に入ろうと騎士団から先触れを出したら、伯爵夫人が物凄い剣幕で追い出したというんだ」

「伯爵夫人?女伯爵が亡くなったところで、入り婿の子爵家の次男は伯爵にはなれませんよね?」

「あぁ、勿論だ。跡取り娘が成人するまで代行を務めることは出来るし王家にはそのように申請されているが、領内では自身が伯爵と名乗り采配を振るっているようだ。他領に流れた陶器職人たちから多数の証言が得られたので、伯爵を罰さなくてはならない」


父がそのような振る舞いをするのは、大方後妻にいい顔したいからだろう。後妻は自分を伯爵夫人と名乗って憚らないし、自分の娘を次代の女伯爵にするつもりでいるのだ。仮にも学園で学んだ貴族のはずなのに、そんなことが許されるわけないと何故わからないのだろうか。


「大掛かりな調査になりそうなので、王都で調査団を組んでライネーリ領に向かうことになった。調査団の準備に数日掛かるので、その間にコルテス領に情報収集と様子見がてら滞在してから調査団と合流する予定なんだ。あぁ、来てよかった!お陰で君の晴れ舞台に立ち会うことが出来る!!」

「は、晴れ舞台、ですか?」

「菓子職人の大会に出るのだろう?あの大会は他国からも多数の貴族が観覧に訪れる大規模なものだ。大会で君が最も輝くためのエプロンを仕立てねばならないので、あと半刻後に仕立て屋やってくる」

「もうすぐじゃないですか!?兄上、そのようなことをしている場合では…」

「どのみち調査団と合流しなくてはライネーリ領には行けないし、ここに立ち寄るために通常業務は前倒しで片付けてきたから心配はいらない。お兄ちゃんのお仕事の心配をしてくれるなんて、優しい子だね…!」

「いやそういう問題ではなく…」


アルの中で事の成り行きを見守っていたが、この調子なら大会には滞りなく出られそうでほっとした。大事になっているのですぐにでも事情を打ち明けて調査に協力する覚悟はしていたが、あの父親たちのせいで大会参加を諦める羽目になるとこだった。これ以上振り回されてなるものか!無事に大会を終えたらアルに事情を話して、まずはおばあ様に私の無事を伝えてもらおう。

仕事の修羅場をようやく抜けたので、投稿再開します。書き溜め出来ていないので細々とですが…!

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