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惑星守護艦隊③

アポロンの両舷に守護艦隊が取りついた時、事件は起こった。


ヴァインと同じようにハイアも操縦しながら守護艦隊に情報の伝達を行っていた。

集中していたからだろう、不穏な気配に気づかなかった。

ハイアの後ろに佇む黒い影はゆっくりとその姿を現した。


「なっ!!お前どこから入った!!ここは許可された者しかッッ……」

その影に向かって叫んだ男の言葉は不自然に途切れた。

ハイアも集中していたとはいえ、異様な雰囲気を感じ取り振り向く。


先程叫んだ男の胸には大きな鎌の先が突き刺さっている。

大量の血を吹き出し男の足元には徐々に血だまりが出来ていった。

誰が見ても即死であった。


その影は徐々に半透明から実体化していき姿の全貌が露わになる。

背丈は人間より大きく、黒いローブに巨大な鎌を携えた髑髏の顔。

ゼクトから報告を受けていた死神のエイレン、そのものであった。


「何故!何故ここにいる!」

ハイアは気が動転し後ずさりながら叫んだ。

消息不明と聞いていたのに今こうして目の前に居れば誰だって普通ではいられないだろう。


「ククク、私がここに居ることが不思議か?」

「どうやって……この船に!」

「数人脅してやったら、乗せてくれたぞ。命惜しさにお前を裏切ったという事だ……。」

ハイアは仕方ないとも思っていた。

こんな化け物に脅されたら誰だって従うはずだ。


「何が目的だ!!」

「ククク、知っているぞ。今から向かう地球にはお前達人間が山程いるそうではないか。……皆殺しだ、我々アーレス星人が味わった苦痛!貴様らにも味合わせてやる!!」

ハイアは、死神のエイレンが人間を特に憎んでおり、元々殺す事に愉悦を感じるイカれた奴だと聞いてはいたが、これほど恐ろしいとは思わなかった。


エイレンは鎌の切っ先を向けてきた。

悲しい事にハイアの戦闘能力は皆無だ。

護身用にレーザーガンくらいは持っているが、目の前の化け物に効くとは思えない。

しかし何もせず殺されるのは本意ではなかったハイアは腰に装備したレーザーガンを取り出し銃口を向けた。


「なんのつもりだ人間。」

「ただ殺されるだけで終わるつもりはない!」

「そんな豆鉄砲が私に効くと?ククク、そう死に急ぐな人間。」

銃口を向けた所で死神は怯まない。

死神が鎌を振りかぶるとハイアは死を覚悟した。


「後ろに飛べ!!」

目を瞑り最後の時を待っていると急に男の叫びが聞こえた。

ハイアは言葉通り後ろへと飛び退いた。

その瞬間、首を刈り取ろうとする大鎌の刃が目の前を通り過ぎた。


ハイアは思い出した。

この船に乗る唯一の最高戦力。

討伐隊第1小隊の隊長を務めるウィード・クラインだ。

先程の叫び声は彼のものだった。


「ここは私が受け持つ!!貴方は逃げろ!!この船を動かせるのは貴方しかいない!」

しかしウィードがいくら強いといっても目の前にいる死神に勝てるとは思えなかった。

ただウィードの言葉も無視することは出来ない。

この船を操作できるのは自分だけ。

悔しい思いをしながらも死神に背を向け出入り口へと走った。


死神は小さく呟く。

「逃がすものか。」


ハイアは背中が熱くなるのを感じた。

足がもつれ倒れ込む。

背中の熱さは徐々に痛みへと変わっていく。

そこでようやく気付いた。

死神に背中を斬られたのだと。


「早く行け!」

倒れたハイアの元に駆け寄ったウィードは死神に対峙する。

彼の持つサウズの形は2本の細剣。

速さを活かした戦い方を得意とする得物だった。


「……すまない……。」

一言謝罪の言葉を添えて、背中を抑えながら司令室の扉を閉めた。

彼を犠牲にしてでも自分は生きなければならない。

でなければ3000人の命を失うことになるからだった。



司令室に残ったウィードは血の滴る大鎌を携えた目の前の死神を睨みつける。

何故ここにいるのか、などと今更聞く事はしない。

なにかの手違いで船に乗り込む事を許してしまったのだろう。


ウィードは覚悟を決めて構えた。

あまり広くはない司令室でジェットスラスタは使えない。

己の身1つで目の前の怪物と戦わなければならない重圧は凄まじいものだった。

恐怖だ。

目の前にいる死神からは逃げられない。

ここで仕留めなければならないと歯を食いしばる。


ウィードの本来の力を活かすのであれば、ジェットスラスタは不可欠だ。

しかしそれは使えない。

鍛え上げた肉体にムチを打ちサウズを2本強く握り締めた。


「人間、その程度の武器で歯向かうつもりか。その勇気を称えて一撃で殺してやろう。ククク、慈悲深いだろう?私は。」

ふざけた事抜かすなと言いたかったが、今は口を開く余裕もない。

少しでも気を抜けば一瞬で首を刈り取られる、そんな圧を感じるほどに死神は強者のオーラを纏っていた。


「私は!!!討伐隊第一小隊隊長!ウィード・クライン!貴様を討つ者の名だ!!覚えておけ!!」

啖呵を切り、足に力を入れる。

一気に踏み込み死神の懐へと飛び込んだ。


今までで最高の踏み込みだった。

恐らく殲滅隊の上位に食い込めるだろう一撃。

そんな彼を嘲笑うかのように死神は姿を消した。


空振り。


ウィードの最高の一撃は何も触れる事なく空を切った。

彼の頭は混乱していた。

今まさに斬りかかるその瞬間、消えたのだ。

文字通り、一瞬でその場から消えた。

彼は忘れていたのだ。

死神の能力を。


ウィードがその事に気付いた時には遅かった。


「ククク、人間にしてはなかなか素早いではないか。私も少し焦ったぞ。」

余裕のある死神の声が後ろから聞こえた。

二撃目に入ろうと、勢い良く振り返るが何故か身体が動かなかった。


ウィードの視界は赤く染まる。

死神を見ていたはずなのに今は何故か人の足が見えた。

人の足?

ここには人間は自分しかいない。


少しずつ頭が冴えてくる。

それと同時に意識はゆっくりと薄れていく。


そこでようやく彼は気付いた。

今、自分が見ている足は自分の足だ。


「宣言通り、一撃で殺してやったぞ。感謝するがいい。」

死神が放った言葉は、首が落ちた彼の耳に聞こえてきた最後の言葉であった。


ウィード・クラインは地球の大地を踏むことは叶わず、死んだ。

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