トリカゴの中で彼らは永遠の幸せを願った①
2人が帰路についたのはリッツとリコが別れてから1時間ほど経ってからであった。
リッツとリコは何も言わなかったが、ただ”おめでとう”と言葉をかけてくれた。
僕らが兵舎に戻ると既に準備は終わっていた。
何の準備かというと、前夜祭だ。
地球へ旅立つ僕らは前夜くらい騒いで思い出を作ろうという話になり今兵舎の食堂はちょっとしたパーティー会場のようになっている。
隊のみんなやアーレス星人も数人混じっている。
「全員集まっているな。よし、今日は火星を発つ前夜だ。死ぬつもりは毛頭ないが絶対に生きて帰って来れる保証はない。だから今日は飲んで騒げ。ハメを外せるのは今日だけだぞ。ジョッキを掲げろ!」
アレン隊長の音頭により各々片手にジョッキやらコップを持つ。
「死んでいった仲間達へ!犠牲なくして今はない!乾杯!」
「「「乾杯!!!」」」
コップやジョッキをぶつけ合い心地よい音をそこかしこで奏でる。
後は各々仲の良い者同士で集まり雑談タイムだ。
僕らは訓練時代からつるんでいた者達で集まっていた。
「最近話す機会も少なかったな。忘れられてるのかと思ったぞ。」
アリアとレイスとは同じ殲滅隊なのに班が違うせいで顔を合わせる機会が少なかった。
もちろん忘れてはいなかったが、この機会に久々に話すことが出来て嬉しかった。
「お前ら2人は優秀だろ?だから心配することもなかったぜ。アリアとレイスが死ぬような事があったら俺らも無事じゃねぇからな!」
リッツはそう言うが、僕も同じ意見だ。
今でこそサウズ適合率100%を叩き出し、戦闘能力の底上げが出来たが、これがなければ彼らに能力で勝る事は出来なかっただろう。
「まあしかしレインとルナがな……せっかくならここに彼女ら2人も居てほしかったよ。」
アリアはしんみりとそんな事を言うが、仕方のない事だ。
しかし、地球に行けば恐らく会えるだろう。
地球から来たという事がほぼ確定しているからだ。
「でもどうする?レインとルナが敵国だっけ?バルトステア王国の人達だったら。」
「それは……まあ行ってみなければ分からないわ。もしも敵となり私達の前に立ち塞がるのなら、切り捨てるだけよ。」
アスカの言葉は非情に聞こえるが、この戦いは先祖から代々続く悪しき歴史に終止符をうつためのものだ。
友達だからという理由だけで見逃せる訳もない。
ただあくまで敵国の民であり、立ち塞がるのであればだ。
僕らと同じ帝国の人間だったなら、多分協力してくれるだろう。
「オレは難しい事は良くわかんねぇけど、一緒に戦おうぜって言えばあいつらも一緒になって戦ってくれるだろ!」
「ジェイド、君は簡単に考えすぎだよ。ボクらと共に戦うってことは同じ星に住む同胞を殺す事になるんだ。彼女らも悩むと思うよ。」
案の定バカなジェイドはさておき、オルザの言う事も一理ある。
僕らと共に戦うということは同じ星に住む同胞を殺す事と同じ。
地球規模で見れば僕らは敵だ。
協力してくれない可能性だって考えておかないと後で辛くなりそうだ。
「安心していいわ。もしもレインとルナが敵に回るというのなら、私が殺る。貴方達は気にしなくていい。」
「おいおい、アスカ。非情にも程があるぞ。」
「レイス、貴方はもしもレインとルナが敵だったら、切り捨てられるかしら?躊躇ったせいで仲間が死んだらどうするの?」
「グッ……」
アスカに詰め寄られレイスは黙り込む。
僕も同じだ。
彼女らを殺すなんてことは多分出来ない。
アスカだからこそ、非情な判断を取れるからこそ斬れる。
戦場では時に非情な判断を下さねばならないと言うが、まさにその状態だ。
アスカ以外は非情になりきることが出来ずに無駄な犠牲を出してしまいそうだ。
ならばアスカに任せたほうがいいだろう。
「まあ今はいいだろ。その時になったらアスカに任せよう。」
しばらく同期で集まっていると、フラッと近寄って来る者が居た。
振り返るとゼクトが突っ立っている。
「お前達か。楽しんでいるようだな。」
「そういうゼクトも楽しんでいるみたいじゃないか。酒臭いぞ。」
クツクツと笑うゼクトはいつもより上機嫌なようだった。
「それはそうだろう。この酒という飲み物は今まで味わった事がなかったがこれほど美味い飲み物があるとはな。人間も少しはやるではないか。」
「酒にハマりすぎると破滅するぞ。」
「安心せよ。ほろ酔いにはなるだろうが深く酔いが回ることはない。そこが人間と違う所だ。身体の作りが違うからな。」
どうやらアーレス星人は酔いにくい体質らしい。
といっても個体差はあるようで、遠くの方からガルムの叫び声が聞こえてくる。
「おおい!!次は誰だ!俺に酒で勝てると思うなよぉ!!ガハハハハハ!!」
隊員と飲み比べ対決でもしてるのだろうか。
笑い声から察するに相当酔っているようにも思える。
「あれは馬鹿だから気にするな。それより遂にお前達は番となったのだな?」
ニヤァと嫌らしい笑みを浮かべたと思うと僕とアスカを交互に見た。
2人の関係性が進展したことを言っているようだ。
「うるさいな、いいだろ別に。」
「ククク、我はお前達に会ったときから分かっていたぞ。女の方からフェロモンが溢れていたからな!」
アスカはもう顔を真っ赤にして俯いている。
ゼクトの言っていることはあながち間違っていないらしい。
「うるさいうるさい!どっか行け!」
「ククク、まあそう怒るな。我は祝福しているのだ。新たな子種が生まれることは喜ばしい事でもある。」
子種と言う言い方がなんともイヤらしい。
羞恥心というものがアーレス星人にはないのか?
「これ以上からかうのは辞めておいてやろう。まあ我以外にも気づいたやつがいるようだしな。」
そう言ってゼクトが横にずれると後ろに居たのはニアさんだった。
「へー!!!遂に!だね!?ライル!アスカ!おめでとう!!」
また一番うるさい人に見つかったようだ。
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