邂逅⑨
トリカゴの住人を纏め上げた後はアーレス星人を街に招き入れた。
そこでも実は一悶着あった。
殲滅隊や討伐隊を先頭に、トリカゴの門をくぐったアーレス星人を待っていたのは恐怖に包まれた住人だった。
彼らとはもう手を取り合った仲だと聞いていてもやはり怖いものは怖い。
何しろ少し前までは殺し合っていたのだ。
それに見た目が化け物なのはどうしても恐怖心を煽る。
ガルムが門をくぐると1人の少年が石を片手に走り寄ってきた。
「父さんを返せ!!」
その少年は泣きながらガルムに石を投げつけた。
子供が握れる拳大の石だ。
ガルムからすればじゃれ付いて来た程度にしか感じない。
ガルムは出来るだけ威圧しないように話し掛けた。
「小僧、お前の父親は俺等と戦って死んだのか?」
「そうだ!!!お前達が殺したんだ!」
「そうか。俺等も同胞をお前の父親に殺された。お互い様じゃねぇか?」
「うぅぅぅ……。」
頭では分かっているつもりでも親を失った少年は悔しいのか歯を食いしばっている。
そこに手助けしようとしたのはニアだった。
「あーガルムー少年を泣かせてんじゃーん。だめだよ〜こういう時は優しく屈んで目線を合わせるのが正解だよ!」
ニアは六本の足を折り曲げ少年に顔を寄せる。
しかし少年の反応はニアの予想を裏切った。
「う、ウワァァァ!!ば!化け物ぉぉぉぉ!!僕を食べるなァァァ!!!」
叫んで走り去ってしまったのだ。
少年の気持ちは痛いほど分かる。
青い肌の女性が微笑みながら顔を寄せてきた。まではいい。
しかし下半身は昆虫のソレである。
化け物と呼ぶに相応しい見た目なのだ。
慣れた僕らでも角でバッタリ出会うと心臓が止まりそうになるくらいだ。
少年からすれば恐怖以外の何物でもない。
「おいニア。おめぇが怖がらせてんじゃねぇか。」
「う、うるさいなぁ!!!ちょっと少年の好みに合わなかっただけだよ!!」
「ヘッ!俺の時はしっかり目を見て威勢張ってた小僧が走り去るくらいだぜ。俺よりお前の見た目の方がよっぽど化け物だって事が証明されたな!」
ガルムはここぞとばかりに煽る。
いつもニアにいたずらされたり揶揄われたりされていたのだから今しかないと煽る。
「殺す!!ガルム!!!お前はここで焼き殺す!!」
「おおおおぉぉぉ!待て待て待て!!!!ここでそれ吐いたらここら一帯が火の海になるだろうが!!」
口から青い炎を吹き出しそうになった所で僕とゼノン副長が駆け付けその場は収まった。
ニアさんは怒ると口から火を吐くというのが、新しく分かった事でもあった。
それも普通の火ではなく、何千度にもなる高温の炎だ。
鉄は溶けるし、熱気と熱風で近くに立っていることすら難しい程の炎だ。
絶対にニアさんは怒らせてはならないと学んだ。
仲間として認識されるのは時間がかかるかもしれないが、とりあえずアーレス星人はトリカゴ内に住まう事となった。
少しでも慣れておいたほうがいいだろうと、グランさんの案だ。
日頃から見慣れておけば、見ただけで立ち竦むような事もなくなるだろう。
総勢500人のアーレス星人はこれでトリカゴの住人となった。
ヴァインの言う通り、数ヶ月後輸送船はやって来た。
想像していたより大きくこんな巨大な鉄の船が浮いている事に驚きを隠せない。
まず初めに船が到着するとヴァインと副司令官のみが接触する。
即座にプログラムを書き換えるか命令を変えなければ中にいるアンドロイドが制圧の命令を行使してしまうからだ。
僕らは身を隠している。
ヴァインと副司令官が輸送船に足を踏み入れ1時間。
身を隠して見ていると遂に出てきた。
ヴァインが手を上げている。
あれはもう出てきても大丈夫だというサインだ。
それを見て全員が姿を現した。
「命令系統の書き換えは全て終わった。攻撃対象を今は無しにしてある。分かりやすく言えば新たに命令を加えればそれを実行できる状態だ。」
これで3隻が揃った。
兵器の使い方もトリカゴの住人に教えた。
後はここを出発するだけだ。
「問題は1つある。船は3隻。私と副司令官が別々の船に乗って操縦するがあと1隻をどうするかだ。誰が操縦する?」
それを忘れていた。
どうするかと話し合っていると、リクリットが手を挙げた。
「ワタクシがやりましょう。擬態のリクリットの名は伊達ではありませんよ?ヴァイン殿、貴方の操縦技術を擬態すればよいのです。」
「名案だな。よし決まりだ。輸送船イカロスはリクリットが、輸送船アポロンは副司令ハイア・ノーラン、戦艦級輸送船バルバトスは私ヴァインが操縦する。……しかし本当に良かったのか?私が総司令官で。」
実を言うと、話し合いで決めていた事がある。
地球に進軍する際の総指揮官を誰にするかだ。
アレン隊長かテッド大隊長という案が挙がったが、当人2人はヴァインを推した。
万を超える軍隊の指揮などやった事もない自分達より元々総指揮官の立場に居て慣れている者の方がいいだろうと。
彼ら2人が言うのであれば反対意見など出るはずもなく、ヴァインが総指揮を取ることとなった。
「何度も言ったはずだ。俺もテッドもこれほどの人員を動かした経験などない。お前なら元々その立場に居るんだから、適任だろう。」
ヴァインは何か言いたげだったが、今更何か言った所で無意味だと思ったのか頷くだけだった。
後は荷物を積み込み準備が出来次第、地球に向けて発進する。
それまでは各々、自由に過ごす事となった。
トリカゴの全員が行けるわけではない。
小さい子供がいる家庭もあれば怪我人や病人だっている。
彼らを残して行くことになる。
もちろん、その間何があるかも分からないのでグランさんが残ってくれる事になった。
熊の見た目だという事もあり、子供から人気があったのだ。
それに言葉遣いが優しい為、一番人間が接しやすいアーレス星人とも言えた。
地球を目指すのは、トリカゴの住人9000人、アーレス星人500人、そして戦闘用アンドロイド1000体であった。
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