トリカゴの住人⑨
「そこまで!!!」
この一撃に全てをかけたのに、まさか止められるとは思わなかった。
アリアとライルは顔を見合わせ、同時に教官の方へ向き直す。
「なぜ、止めたのですか教官。」
その言葉を発したアリアは、恐らく観ていた者全ての代弁者でもあった。
「馬鹿者共が。これは模擬試験だぞ?」
「もちろん存じています。」
ため息を付きながら、止めた理由を話す教官。
「先の一撃はお互い全力だった。当たれば確実にどちらかが死ぬ一撃だ。模造剣とは言えお前達のような者が全力で振るえば人を殺すことが出来る。止めていなければ確実にどちらかが死んでいたぞ。」
教官の言うことは最もだった。
この人に対して手抜きは許されないと思い、全力で剣を振るった。
それはアリアにも言えることであった。
「よって、お前達の試験は終了だ。次の者が試験を行う。速やかに元の場所に戻れ。」
「分かりました。」
不完全燃焼ではあるが、ここは素直に聞いておくべきだろう。
元の場所に戻ると、アスカとリッツも戻って来ていたみたいだ。
「おい!ライル!お前すげぇじゃねぇか!今まで手を抜いてやがったな!?」
「いや、そんなことはないよ。ただあの人には全力で戦ったほうがいいと思っただけで。」
「ライル、やっぱり貴方の反応速度は私を超えているわ。さっきのカウンター、私だったら良くてもかすっていたと思う。」
アスカまで褒めだした。
「そんな訳ないだろ、アスカならもっと機敏に避けただろ?」
「無理よ、さっきの一撃は首を狙っていたの。あの体勢から完全回避なんて、そこに剣が来ることがわかった時に動いていなければ避けられない。」
「その通り。」
いきなり横から声を掛けてきたのはアリアだった。
「さっきの一撃、あれは私の得意技でね。死線待機、という技なんだが、完全に避けられるとは思ってなかった。」
「アリアさん、さっきはありがとうございました。」
「こちらこそ。」
握手を交わし、アリアの紳士的な行動に胸を打たれる。
こんな紳士な人が今まで周りにいただろうか?
いやいない。クソガキかお嬢様か図体のでかいおっさんだけだ。
「さっきの話だけど、君のその反応速度は天性のものだろう?」
「分かりませんが、なんとなく昔から考えるより先に身体は動いていました。」
「素晴らしい。しかしあそこで止められると不完全燃焼だね。いつかもう一度模擬戦をさせてほしいくらいだ。」
「そうですね、再戦したいです。」
「駄目よ。」
そんな話で盛り上がってきたところでアスカに釘を差された。
「えっと、君はラインハルト家のご令嬢、かな?」
「そう、私はアスカ・ラインハルト。アリア・シスクード、貴方とライルの再戦は認めない。」
「ふむ、その理由はなんだい?」
「簡単な話よ。止める人が居なければ確実にどちらかが死ぬまで模擬戦を辞めなさそうだから。」
「私はバトルジャンキーではないのだが……」
「そんなに戦いたいなら私が相手をしてあげるわ。」
「ほう、アスカ嬢が相手になってくれると?」
なんだか雲行きが怪しくなってきた。
この辺で止めたほうが良さそうだ。
「2人とも、落ち着きましょう。アリアさんもアスカも相手を挑発しない。」
「おい、ライル。せっかく面白くなってきたのに止めるなよ。」
「馬鹿言うな。これ以上ヒートアップすれば、今ここで始まるかもしれなかったんだぞ。」
天才のアスカとカウンターに絶対的な自信を誇るアリアがぶつかれば、僕らも無事じゃ済まない。
「いやいや、ライル君。流石に私とてこの場で剣を抜きはしないよ。」
「そうよ、ライル。私でも弁えているわ。」
何故か僕が怒られるみたいなことになってしまったが、止めれたので良しとしよう。
そんなやり取りをしているといつの間にか試験は終わったらしい。
「これで全ての試験は終了した!2時間後に再度ここに集まれ。それまでは自由時間だ。」
教官の合図と共にゾロゾロと受験生は訓練場から出ていく。
丁度お昼の時間だ、何処かでご飯でも食べに行くのだろう。
「もうそんな時間か。そうだ、良かったら私の家へ来ないかい?せっかくの縁だ、ご馳走しよう。」
「いいんですか?アリアさん。」
「勿論!それと敬語はなくていい。私も君と同い歳なのだから。」
「ははっ、分かったよアリア。」
なんだかアリアと仲良くなれたことが嬉しくアスカの睨んだ目つきに気づかないライルであった。
「それで、こんな人数で来てしまったけれど本当に良かったのかしら?」
アスカ、リッツ、傷が癒えて合流したリコ、レイン、ルナ、そして僕。
フィーネさんは家の用事を済ませると言って帰ってしまった。
それでも6人も来てしまったが、アリアの家はデカいのだろうか。
「安心していい、アスカ嬢ほどではないだろうがうちも名家なんでね。出来る限りの接待はさせてもらおう。」
アリアの言葉通り、立派な屋敷に到着した我々を待っていたのは豪勢な料理だった。
リコは獣のようにがっつき、リッツも同じように、がっつく。
アスカはお嬢様らしく少しずつ食べ物を口に運ぶが、レインまでもが少しずつ食べ物を口に運んでいた。
ルナと僕だけが一般人らしい食べ方だった。
育ちが分かるというのはこういう所だろう。
「それで、君達は同じ班だったね。目指しているのは殲滅隊かい?」
食事もなかば、アリアからそんな質問が飛んできた。
「みんな出来れば殲滅隊、もしくは討伐隊か機工隊を希望しているわ。」
先に答えたのはアスカだった。
「ふむ、ここにいる皆は割りと優秀に見える。少なくともアスカ嬢、君は殲滅隊に行くのは確定だろうな。」
そうだろう、アスカは確実に殲滅隊に行く。
問題は成績上位者5名しか殲滅隊に入れない事だ。
少なくともここにいる2人はあぶれてしまう。
アリアは確実に殲滅隊に入ることだろう。
「アリア、私は確実に殲滅隊に入れるとしても成績上位者は隊を選ぶ権利がある、それを行使するつもりよ。」
「なに?殲滅隊へ行きたいのではないのかい?」
「行きたいわ、でも外に出る事を目標とするなら討伐隊でも構わないはずよ。」
「確かにそれはそうだが……」
アスカにはなにやら考えがあるようで、アリアもそれ以上は聞かないことにしたようだ。
「でもここにいる面子も優秀かもしれないが、リコと戦ったあのガーランド?だっけか?あれもかなり強いだろ。」
「ああ、レイスか。彼とは友人でね、良く遊ぶんだが、機工隊隊長ビリー・ガーランドの息子だよ。」
アリアの顔の広さは結構凄いのかもしれないな。
僕の両親も知っていて、機工隊隊長のことも知っている。
それに自身は殲滅隊隊長の弟だし。
「レイスは多分機工隊を選ばないよ。上位者に入れば殲滅隊に行くだろうね。」
「え、でもお父さんが機工隊隊長なんだろ?」
「父とは違う道を歩みたいそうだ。機工隊も十分凄いと思うが父の下に就くのが嫌なんだろうね。」
ということは上位者5名に入る者が、アスカ、アリア、レイスの3人が決まった。
残りの2名に食い込めればいいが……
そんなことを考えていると視線を感じ、そちらに目線を映すとアスカと目が合った。
「ライル、貴方が選ぶ所が私の行く所よ。」
えっ?どういう意味だ?
周りも動きを止めて固まってしまった。
「聞こえなかったかしら。もう一度言うわね、貴方が選ぶ所が私の行く所よ。」
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