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邂逅⑤

前哨基地に到着した我々を待っていたのは、まさかの人物であった。

ビリー機工隊長やウィード小隊長に挟まれて僕らの目の前に現れたのは、軍司令部総司令官ヴァイン・ノクティスだ。


彼を見た瞬間、隊の各々がサウズを起動し怒りを露わにする。

僕も同じように構えるとビリー隊長が制止した。


「待て待て、お前ら落ち着けよ。まずはコイツの話を聞いてくれ。」


その場で話を聞くのもどうかと、一行は場所を移すことになった。

前哨基地にいた者達はアーレス星人の団体を見て驚いていたが、収拾をつけるのはザラさんやロウさんに任せることに。



僕は、アレン隊長、ゼノン副長、アスカ、ビリー隊長、テッド大隊長、ウィード小隊長、ガロンさん、ゼクトと共に会議室に集まった。

僕とアスカだけ場違いな気もするが、唯一のサウズ100%適合者であるという事で特別扱いされている。

それにゼクトと一番言葉を交わしている事もあり、ゼクトがいるのならと同席を許された。

アスカは絶対に僕から離れないと意地でも着いてくる事を強く推し、アレン隊長が折れる形で同席することに。

もちろんヴァイン・ノクティスもいる。


開口一番に話しだしたのはヴァインであった。

「まずは全員に謝らせて欲しい、君達を全員騙してアーレス星人と戦わせてしまい本当にすまなかった。」

腰を90度に曲げ僕らに頭を下げるヴァインを強い殺意を持って睨みつけるのはゼクトとガロンさんである。

ゼノン副長や僕も何人死んだと思っていると言いたかったが、隊長格が黙っているのに勝手に口を開くわけにもいかず、口を閉ざしたままだ。


数十秒程、その体勢のままでいたヴァインはゆっくりと頭を上げる。

そしてその場にいる全員に目を向けた。


「話をしたかった。今ここにいるのは私1人だ。部下は連れて来ていない。」

確かに彼の部下らしき軍司令部の者は前哨基地で見かけなかった。

本当に1人で来たのかと疑ったが、ビリー隊長とウィード小隊長が車に乗って1人で来る所をその目で確認したらしい。


「そこの……黒い狼は、ゼクト、だな?」

話し掛けられたゼクトは口を開かない。

ジッとヴァインを見つめていた。


「私の祖先が大変申し訳無い事をした。君にも謝りたかったのだ。」

ゼクトの話によれば、確かディランという男がカイルを殺したと聞いている。

恐らくヴァインはその事を言っているのだろう。


「何故私がここに来たのか、覚悟を決めたからだ。まずはこれを見て欲しい。」

胸の内ポケットから取り出したのは一冊の本であった。

一体何が書かれているのか、全員が注目する。


「ゼクト、最初に君に見て欲しい。恐らく君なら全ての真実を見てきたはずだ。ここに書かれている事が嘘偽りないかどうか、確かめてくれ。」

ヴァインはテーブルに置いた本をゼクトの前までスライドし受け渡す。

流石にゼクトの傍まで持っていくのは怖いからだろう。


ゼクトは受け取った本を黒い体毛を器用に伸ばしページを捲る。


どれほど時間が経っただろうか。

数十分?いや、1時間は経っているかもしれない。

僕らはその間黙ってページを捲るゼクトを見守っていた。


ある程度読んだのか、ゼクトが顔を上げた。

「……我が知っている真実の通りだ。ヴァインと言ったな、これはなんだ。誰が何の目的で書いた本だ。」

やっと口を開いたゼクトはヴァインに問いかける。

急に名前を呼ばれたからか、肩を少し縦に揺らしたヴァインは自分を落ち着かせて話し出す。


「これはディラン・ノクティスが残した真実の書記だ。ノクティス家に代々伝わる本で本当の歴史が記されてある。と書いてあった。君達が持って行った本は真実を偽装した紛い物だ。その本にも書いてあったがディランはカイルを殺した事実を伏せる為嘘と真実を織り交ぜて書かせたとある。」

「わざわざ隠す為だけに嘘の歴史を書いた本を作ったのか?他にも目的があるように思えるな。」

アレン隊長は疑問に思ったのか、ヴァインに質問を投げかけた。


「後でその本を読んでもらえれば分かるが君達の憎しみや反抗心をディラン本人ではなく軍司令部と地球に向ける為だそうだ。ディランは火星に送られた事が相当頭にキていたらしい。未来の人類が復讐してくれる事を願っていたようだ。」


復讐と聞き、クツクツと笑うのはゼクトだった。

「ククク、我の怒りが自分に向くのを恐れたか。しかし何故自分で反撃しようと思わなかったのだ、ディランは。あの時輸送船で地球へと帰還し記憶を改変されたアルファを解き放つ事だって出来たと思うがな。」

「それもそこに書いてある。後半の方にな。自分では反撃する勇気がなかったと書いてあった。地球が持つ技術や兵器を恐れていたのだろう。」

軍司令部には見たこともない兵器などが保管されていた。

その兵器はもちろん地球から持ってきたものだろう。

そんな兵器を持った兵士がゴロゴロといる地球に反撃しても逆に制圧されておしまいだと思ったのだろうか。



「それで、お前は我々に何を求める。返答次第によっては我が貴様を噛み殺す。」

ゼクトの殺意が増し、近くにいる僕らも鳥肌が立った程だ。

真っ向から殺意を向けられたヴァインなど、冷や汗が止まらないだろう。


「お、落ち着いてくれ。私は君達に協力を申し出たい。その為にここへ来たのだ。」

「協力だと?何を協力すると言うんだ。お前ら軍司令部が俺達の記憶を書き換え何の罪もないアーレス星人と戦わせた事が発端だろうが!!」

ガロンさんがいきり立つ。

ずっと我慢していたのか、会議室にガロンさんの叫びが響き渡った。


「だからだ!!私の先祖が!地球にいる者共が!君達を人間兵器に作り変えアーレス星人を騙し討ちし、この火星を地獄に変えた!私は過去から存在する慣例に従い行動していただけだ!!私もいつかこの現状を変えたいと思っていたのだ!!……しかし軍司令部が持つ戦力だけでは到底地球に存在する悪の根源を断つのは不可能だ……。だから、君達にお願いしたい。もしも共に戦ってくれると言うのならば!!私はトリカゴにいる全ての者に真実を伝えよう。そして、共に立つと、民がそう言うのであれば、トリカゴ全戦力で地球へと進軍を開始する。」

一気に捲し立てたヴァインは1度深呼吸をする。



「私が求めるのは君達の戦力だ。その代わり私は真実と輸送船を提供する。勝てるかは分からないが少なくとも私一人ではどうする事も出来ない。協力して貰えないのであれば、この場で私を殺してくれていい。軍司令部はそれだけの事をしてきたのだ。覚悟は出来ている。殺さないと言うのであれば、ただ今まで通り慣習に従い、トリカゴを維持していくだけだ。」

ヴァインの叫びによって、その場にいる全員が黙り込む。

今僕らは岐路に立たされている。

ヴァインの言葉通り全てをもって、僕らの共通の敵"地球"へと矛を向けるか、それともトリカゴで一生を終えるか、だ。


簡単には決められない。

1度ヴァインには退出してもらい、僕らだけで話し合う事となった。

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