偽装と後悔②
「本題に入ろう。カイル・ドルクスキーは死んだ。いや、私が殺した。」
そう言った瞬間全員の顔に緊張が走った。
しかしディランはそれを分かっているのか、話を続ける。
「分かっているとは思うが彼の力なくしてここまで人間有利に事を運ぶことなどできなかっただろう。しかしあいつは、裏切った。最後の最後にゼクトの味方に付いた。だから殺した。」
そう話すディランの顔色はあまり良くない。
殺した時の事を思い出してしまったのか少し間が開く。
もちろん誰もその間口を挟むことはしなかった。
しばらく待つとまた話を続けだした。
「我々の本当の目的は火星にあるアルマイト鉱石を持って帰る事。そして火星で生きるアーレス星人を滅ぼす事だ。」
「それはもちろん理解しています。ですが何故ここに集められたのかまだ良く分かっていないのですが。」
1人が遂に口を開いた。
みな黙って話は聞いているが何故ここに集められたか分かっていなかった。
「お前達を集めたのは共犯者になってもらう為だ。」
「共犯者?あまりよろしくない言葉ですが。」
「いや言い方を変えよう。我々はカイルの死を偽装しなければならなくなったのだ。奴が死んだことは我が国にとっても大きな損害。これが本国に知られれば火星侵略は失敗とみなされる可能性が高い。そうなれば分かっているだろう?他国が我らの祖国を滅ぼすと。役に立たない国などあっても邪魔になるだけだ、ならば滅ぼして帝国の土地を有効活用しようと、そう考えるはずだ。」
「お言葉ですがディラン司令。カイル技術少将を殺害したのはあまりにも衝動的な行動としか言えないのでは?」
「そうだな、認めよう。しかしもうやり直す事など出来ん。私も出来れば殺したくはなかった……。しかし裏切ったのも事実。このまま放置していればいずれ軍司令部は中から崩壊していたはずだ。何しろ奴はゼクトを逃がしたんだからな。」
ゼクトを逃がしたと聞いて会議室は騒がしくなる。
誰もが分かっている事で、ゼクトを逃がすということは敵に情報を渡すのと同じ事でありこちらの戦力は筒抜けとなったという事だ。
「なるほど、ディラン司令はそれを止めようとして撃ったと。分かりました、それならば仕方のなかった事と言えましょう。」
「ああ。それで話に戻るが、カイルの死を偽装する必要がある。この中で1人カイルの子供を演じてもらいたい。」
演じると聞いて全員頭に疑問符を浮かべる。
何を意味し、何の為かがよくわかっていない彼らにディランは詳細を話す。
「全ての者を騙す必要がある。だからこの中で1人カイルの子供を演じてもらいカイルはまだ生きていて子供もいたという事を知らしめる。後世に残す本もそいつに書いてもらう。そうすれば誰もカイルの死を疑わない。」
「本ですか?」
「ああ、本だ。この偽りの歴史とは別に真実を書いた本を残す。」
「それに何の意味が?」
「意味ならあるさ。その本があればいつか我々の子孫が地球を恨み牙を剥く事があるかもしれないだろう?お前達も地球で平和に暮らす奴らが憎いと思うだろ、帝国だけでなく地球に住む全ての人が。」
拳を握りしめ歯を食いしばる。
「私は憎いぞ!!!地球の奴らが!!!なぜ我々が皇帝のケツを拭わなければならない!!!あんな馬鹿な真似さえしなければ今でも平和に生きて行けたのに!!!だから私は、数百年越しの毒を仕込む。この本によって地球に牙を剥く毒を。」
一瞬の間が空いて全員がいきり立った。
「俺はやります!!!皇帝が憎い!!!何故こんな辺鄙な所で死ななければならないんだ!」
「そ、そうだ!!!私もやります!!いつか私達の子孫が奴らに鉄槌を下すかもしれないというのなら!」
「許せねぇよ!!!俺達だけがこんな目に合うなんて!」
憎しみはいつか刃となり皇帝の首に届く。
そう信じてディランはこの作戦を提案した。
「私がカイル殿の子供役に立候補しましょう。年齢的にも若いですし適任かと。」
手を挙げたのは20歳そこそこの若い男だった。
カイルの年齢からして丁度いい具合の男だ。
「ふむ、手を挙げてくれたのは嬉しい事だがいいのか?今後死ぬまで君はカイルの息子として生きる事になる。自分の名前を捨てなければならないのだぞ?」
「構いません。僕はそもそも親がいません。戦争孤児というやつですよ。だからこの火星侵略の人員として選ばれたんです。」
「しかしそうはいっても選ばれるには相応の能力が必要だ。選ばれたということは君は優秀なんだろう。……分かった君は今後カイルの息子して生きてもらう。」
戦争孤児だと言う彼だったが、そこはあまり関係がない。
一定以上の能力がなければそもそも選ばれることはない。
「君の名前は今日からドワイト・ドルクスキーだ。元々カイルがもし子供がいたら付けようと思っていた名前だ。火星に到着するまでの輸送船の中でそう言っていた。」
「ドワイト・ドルクスキー……分かりました、本も僕が書いていきます。」
「ああ、頼んだ。」
これで1つディランの毒は仕込まれた。
いつかその本が子孫の手に渡る事を願って。
ディランは私室に戻り日記を書いていた。
これはもう1つの毒だ。
司令官である立場の人間だけが読める物とする。
その本にはトリカゴの外を撮影した写真も複数入れておいた。
もしもいつか子孫が地球へと復讐するのであれば足がいる。
輸送船の操縦方法、起動の仕方等も記載する。
ドワイトの本により憎しみを煽り、ディランの本が手助けする。
二段構えだ。
「頼んだぞ、未来の人類よ。」
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