偽装と後悔①
カイルを撃ち殺した。
その事実はディランの心に深い傷を残した。
優秀な研究者であるカイルを殺してしまったことが周りにバレてはいけない。
隠し通さなければならなかった。
カイルの遺体を壁の分厚いゼクトが幽閉されていた部屋に押し込む。
火をつけ厳重に鍵をかける。
燃やして全てなかったことにするしかないと、この手段を取った。
指令室に戻ると慌ただしく副司令が指示を出している所だった。
「何があった。」
「あっ司令!!!奴らの猛攻が激しく第二大隊は全滅!今はかろうじて第一と第三大隊で押し留めていますがあまり長くは持たないかと。」
ディランが少し席を外していた間にかなり状況は悪化したようだった。
第一大隊は出来るだけ援護射撃で支援するように指示を与え長考する。
ディランが腕を組み目を瞑ったのを見て邪魔しないよう副司令官は話し掛けないように気を遣う。
しばらくするとディランは目を開き意を決したように言葉を発する。
「戦略兵器を使う。」
目を開いたかと思うととんでもない事を口走るディランに副司令は反射的に反応する。
「正気ですか!?」
「私はいつも正気だ。戦略部隊に連絡しろ。目標は山だ。」
「山?ですか?」
もうディランに残された道は一つしかなかった。
アーレス星人の殲滅。
その為には過去にゼクトから聞いたことがあるアイオリス山という巨大な基地を破壊すれば勝ち筋は見えてくる。
そう判断したディランは最後の手段に出た。
「どこでもいい、山に向かって全弾使え。」
「3発別々の山を狙うという事でしょうか?」
「そうだ。」
どこにアイオリス山があるか分からない以上、手当たり次第に山を消し飛ばすしか方法はない。
最終兵器は3発のみ。
狙える山は3か所だけであった。
副司令はしぶしぶといった様子で部下に指示を出す。
「戦略部隊、最終兵器の許可が出た。目標地点は座標を送る、そこを全て消し飛ばせ。」
最終戦略兵器というのは核だ。
人間が最も重い罪というのは核を作ってしまった事だろう。
宇宙暦より前には、核により文明は滅んだと歴史書に記されている。
自ら作った兵器で身を滅ぼすなど滑稽でしかない。
だからこそ副司令はしぶっていた。
そもそも彼らにとってここは地球と思っている。
自分達の星に核など撃ち込みたくなかったのだ。
しかし司令官の命令は絶対。
反論できる余地などなかった。
「準備完了しました。」
部下から報告を受けディランは号令の姿勢を取る。
「最終戦略兵器、核ミサイル。撃て。」
「一発目発射されました。」
「次だ、撃て。」
一発ずつ撃たれた核は目標に向かって飛び始める。
流石にトリカゴ近くで核を落とせばここすら無事では済まない為かなり遠くの山を狙った。
「最後の弾頭、発射されました。」
「よし、そろそろ一発目が着弾するはずだ。各員衝撃に備えろ。」
遠くの方で光った。
一発目が落ちた所だ。
衝撃波はトリカゴを揺らした。
順番に核が落ちトリカゴは三度衝撃波によって揺らされる。
直視できないほどの光だ。
きのこ雲が威力を物語っている。
「使ってしまったな……。」
その呟きは誰にも聞かれることなく空気に溶けていった。
その頃アーレス星人は勢いに乗る自陣営に発破をかけ人間を蹴散らしていた。
なぜか分からないが人間がトリカゴ内へと急いで戻っていく。
何かあると踏んだグランは全員に追撃を辞めさせる。
「なんだ?」
トリカゴ内から飛び出したナニカはあらぬ方向へと飛んで行く。
よく目を凝らせば円錐状の形をしていた。
それが3つ、トリカゴ内から発射された。
彼らは全員動きを止める。
人間側も障壁を展開して籠ってしまった。
轟音と閃光。
空気を震わせ死を思わせる大地の揺れ。
そして遠くに見えるきのこ雲。
衝撃波は無慈悲に襲い掛かる。
彼らはこれが人間の攻撃だとすぐに理解した。
「な、何が起きやがったんだ!!」
「ぐぅ、退却だ、全員退却せよ!!!人間共め、適当な山を吹き飛ばしたな!?」
凄まじい威力を誇る死を運ぶ3つのナニカ。
確実にアーレス星人を滅ぼすという意思を感じられる攻撃は彼らを退却させる十分な理由となった。
「司令、奴ら退いていきますが追撃しますか?」
ディランは首を横に振る。
「辞めておけ、恐らくさっきの核の威力を見て退いたはずだ。当分は攻撃してくることもないだろう。」
「まあ、確かにそうでしょうね。衝撃波がここまで届いた時には我々も冷や汗が止まりませんでしたよ。やはり悪魔の兵器と言われるだけはありますね。」
悪魔の兵器どころではない、大地は汚染され人の住めない場所へと変わる核は諸刃の剣だ。
そう言いたかったが辞めた。せっかく勝利し喜ぶ彼らにいらない不安を作らせたくなかったからだ。
「侵略戦争は一度停戦になる。アルファには街を作らせろ。まずはここを都市にしてしまわなければならないからな。」
「畏まりました。」
「それとアルファが何人生き残ったのか教えろ。」
「残念ながら、半分戦死致しました。」
5000人がたった数時間で死んだ。
ただ、それだけの人が死んでいるのに何も感じない自分が恐ろしく感じた。
カイルを撃った時に人の心を無くしてしまったのかもしれないとディランは俯く。
「それと、会議室を使う。私の許可なく入室はするな。」
「畏まりました。ではここで部下に指示を出しておきます。」
それだけ伝えディランは会議室へ向かった。
会議室には既に数十人が席に着いていた。
ディランも一番奥にある椅子に腰かける。
「良く集まってくれた。君達は私が信頼する者達だ。もちろん記憶改変チップを入れられていない者しかいない。」
集めたのは火星に来る際、コールドスリープに入っていない者達だった。
その者達には本来の役割を果たす為に記憶改変チップも入れられていない。
ディランからすれば唯一本音で話す事の出来る者達であった。
ディランが咳払いするとその場にいた数十人は顔を引き締める。
「本題に入ろう。カイル・ドルクスキーは死んだ。いや、私が殺した。」
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