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トリカゴの住人⑧

「アスカ・ラインハルト!リッツ・グラストン!」

いきなりアスカが呼ばれた時には、僕が呼ばれるのではないかとドキドキさせられた。

しかし、リッツとの手合わせはほぼ毎日見ていたものだ。

お互い相手の出方は分かるだろう。

「ラインハルトだと!?」

「あの英雄の娘がいたのか!」

「うわ!美人すぎる!お近づきになりてぇ!」


やはり、アスカの人気は凄い。

近くにいる僕達まで目立ってしまいそうだ。



「リッツ、本気で来なさい。」

「アスカ、今までのは今日この時の為にわざと負けておいたんだぜ?」

訓練場の中央で向かい合う2人。


「始めろ!!」


教官の合図が終わるか否か駆け出したのはリッツだった。

身体能力が高く瞬発力はアスカのお墨付き。

今まで見てきたよりも更に速く駆ける。

本気でやるというのはあながち間違いではなさそうだ。


だがアスカも当たり前のようにリッツの攻撃を躱す。

アスカの動きを見ていると、戦場で踊る姫に見えてきた。

英雄の娘。

親の七光り等とからかわれる事もあっただろう。

しかし今はどうだ。

誰もが羨望の眼差しを送る。

才能と努力が合わさった時、英雄は誕生するのだと、理解させられた。



「そこまで!!!」

気づくと戦闘は終わってしまっていた。

リッツの喉元に剣先を突きつけたアスカの勝利によって。


僕らの座っている場所に戻って来たリッツは悔しそうな顔をしていた。

「くそー!!あとちょっとで届いたんだぜ!?俺の剣が!あのやろう!それを寸での所で躱しやがった!」

「乙女に野郎と呼ぶのは感心できないわね。」


リッツの真後ろにはアスカが仁王立ちしていた。

「いや、その、えと、調子乗ってました……」

「明日から訓練の時間を増やすから。」

それだけ言うと僕の隣に座った。

リッツは項垂れて、己の発言を悔やんでいた。


「お疲れ様。」

アスカに労いの言葉をかける。

汗1つかいていない整った顔を見たところ、疲れてはいないだろうけど。


「リッツは成長していたわ。瞬発力だけなら、貴方達3人で群を抜いていた。」

「みんな努力しているんだ、成長していなかったら死んでいった兵士達に顔向け出来ないしね。」

強くなければ、死ぬ。

この世界は残酷だ。

だから皆必死に生きる。

生きて生きて生き抜いたその先に何があるかは分からないけれど、みんな生きることに必死になる。

いつかトリカゴの外へ出て、人類の生きていける土地を広げることが全ての者の望みだろう。



「次!リコ・グラストン!レイス・ガーランド!」

リコの相手は見たことがないな。

しかし、ガーランドという家名は聞いたことがある。

確か、機工隊隊長がガーランドだった気がする。

アスカに聞いてみようと横を向くと、何やら難しそうな顔をしていた。


「リコは……勝てないわ。」

「え!でもまだ分からないだろ?」

「いえ、分かる。あのガーランドという男。恐らく私と互角に戦える。」

強者のみ分かり合える事があるのだろうか。



勝負は一瞬だった。

圧倒的な体力を誇るリコだったが、剣術は僕にすら劣る。だからこそ無手の格闘術で挑んだようだが、ガーランドは双剣の使い手のようだった。

手数の多さでリコは翻弄され、気付いた時にはリコは地面に伏していた。


「リコ!!!」

「やっぱり……ガーランドの息子ね。ガーランド家は双剣術を得意としているの。双剣相手に無手では勝てないわ。」


傷だらけになったリコは担架で医務室に運ばれて行く。

僕も着いていきたかったが、まだ模擬戦闘が終わっておらず、リッツとアスカが着いていった。

何故かガーランドも一緒に医務室へ向かったようだが……



「次!レイン・クリストファー!ルナ・ジーン!」

まさかの同じ班員同士の戦いとなった。


中央に出てきた2人は小声で何やら話をしているようだ。


「レイン……様。手は抜きますが多少の傷はご覚悟を。流石に何も傷を負わずに終わるとあの教官に目を付けられるでしょう。」

「だ、大丈夫。それと、様は駄目だよ。誰が聞いてるか分からないから。」

「申し訳ございません。では、参ります!」


何を話していたのか分からないが、ルナの掛け声と同時に2人が駆ける。

剣術は拮抗しているように見えるが、レインがあそこまで戦えるとは思えない。


ルナは手を抜いているようにも見えるが……

あ、レインに傷を付けた。

手を抜いている訳ではなかったようだ。


しばらく剣戟を交わした後、レインが剣の腹でルナのわき腹を強打し勝負は決まった。


「おつかれ!レイン!やるじゃないか!かなり戦えてたよ!」

「ありがとう!ルナも強いからかなり苦戦しちゃった。」


2人の戦いはなかなか迫力があった。

誰も八百長など気づかないほどに。


「次!ライル・カーバイツ!!アリア・シスクード!!」

シスクード!?

何故僕の相手はそんな大物になるんだ!


「おい、シスクードって殲滅隊隊長の名前だろ」

「身内ってことか?」

「弟じゃないか?」

他の受験生もざわつき始めた。


とりあえず中央まで行かないと。


すると、1人の男が中央に向かって歩いてきた。

長身で長髪。

顔は言わずもがなイケメンである。


「君が……カーバイツ殿のご子息だね?」

「あ、はい。え、両親を知っているんですか?」

「まあなんとなく想像できるだろうけど、私はあの殲滅隊隊長の弟なんだ。」

「そうだろうと思いました。同じ赤髪ですし。」


燃えるような赤髪の長髪、整った顔立ち、長身。違うのは髪の長さだけだ。


「カーバイツ殿には可愛がって貰ったよ。兄が殲滅隊隊長になる前は討伐隊の第二小隊長を務めていたんだ。その際によく兵舎に遊びに行っててね、カーバイツ夫妻にはとても世話になったんだ。」

「そうなんですね、初めて聞きました。」

「ああ、とても惜しい人達を失くした。第一小隊長は討伐小隊の中でも最も優秀な者がなるんだ。だからあの時点ではトップに立っていたんだよ。」


父の凄さを改めて知ることになるいい機会だった。

討伐遠征から帰ってきたら勲章が用意されていたそうだ。

上層部もまさかあんな事になるとは思わなかったらしいが。


「だからその優秀な方のご子息とこうやって相見える機会が出来てとても嬉しいよ。最初から全力で行かせてもらうつもりだ。」

「僕もあの殲滅隊隊長の弟君と戦えること、光栄に思います。」


「始めぇ!!」


開始の合図と共に動き出すかと思われたが、先に動いたのはライルだった。

動かない?アリアさんは身動き1つしない。

このまま剣が当たるかと思われたその時、身体を回転させ剣を躱した。

と、同時に剣先がライルの首目掛けて横薙ぎに振るわれる。


しかし、ライルの反応速度は常人のそれを優に超えている。

振るわれた刃をものともせず、バックステップで間一髪回避した。

触れるか触れないかの剣戟に辺りは騒然となる。


「流石はカーバイツ殿のご子息だ。今のカウンターは兄以外に避けられたことはなかったんだが……」

「まさか身体を回転させて避けられるなんて僕も想定外でしたよ。」


お互いに相手の力量は掴んだ。

剣を握る手に力が入る。

次は当てる。


2人は次の一撃を確実に当てる為、踏み込む足に全体重を乗せる。


「はぁぁぁぁあ!!!!」

「おおおおぉぉぉ!!!」


踏み込みは同時。

後は先に剣を振り抜いた方が勝つ。


左手に握る剣を頭上に掲げ、今にも振り下ろさんとした所で横槍が入った。



「そこまで!!!!!」

教官の一言でお互いに剣を振り抜く寸前で止めた。

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