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カイルの過去⑩

グランの前にいた特殊個体が弾けた。

いや、正確には体の内部から弾け飛んだのだ。

トリカゴから放たれた攻撃であることは明白であった。


「なっ!!何を!!!血迷ったか人間!!」

グランは目の前で同胞が殺され憤怒の表情を見せる。

いきなりの攻撃でアーレス星人には混乱が生じていた。


しかしゆっくりもしていられない。

次々に放たれた弾丸はアーレス星人を貫き死を撒き散らす。

すぐさまガルムやキマリスが腕を振るい攻撃を防ぐ。

トリカゴの近くは既に阿鼻叫喚であった。


「トリカゴの壁上からの攻撃です!!」

「クソがぁ!!人間共め!我らアーレス星人を謀ったか!!!」

3000人が一斉に放つ銃撃は強固な肉体を持つ彼らであっても無視できる攻撃ではなかった。


「ニア!!お前のような若造を連れてきたのはこういう時の為だ!!」

「わかってるよ!ウチの前に立たないで!!死にたくなかったらね!」

青い肌で下半身が昆虫である女性型の特殊個体は口から蒼い炎を吐く。

その熱は数千度を超え、鉛でできた弾丸程度溶かしてしまう熱量であった。


「何故だ!!何故我々に攻撃してくる!?ゼクトは何をしているのだ!!」

「くそ!やはり小僧に任せるべきではなかったのだ!!」

ニアの蒼い炎が盾となり、喋る余裕が出来る程度には態勢を整えることが出来た。


「なんとしてもトリカゴに張りつけ!近付けばやつらも爆薬の類は使えんはずだ!!」

ガルオンと呼ばれるアーレス星人の兵士が一斉に駈ける。

その速さは人間の数倍であり、狙って撃つことなど出来ないほどであった。




「奴らに近寄らせるな!接近されれば人間に勝ち目はない!第二大隊を投入しろ!」

「奴ら速すぎて止められません!!」

「白兵戦になれば自ずと足を止める!!そこを狙え!」

「味方に当たりますよ!!」

「構わん!相手はたったの100体だ!!こちらの兵士が数十人減った所で問題はない!ここで奴らを殲滅させられなければ、最後の手段を使うしかなくなるぞ!」

ディランも必死で指示を出し続ける。

アルファの兵士達で勝ち筋を見いだせなければ、最終兵器を持ち出すしかなくなってしまう。

ディランはそれだけは絶対に避けたかった。


指示が一息ついたところで周囲に目を向けるとカイルがいなかった。

勝つか負けるかの今この場にいないのは不自然に感じたディランは副司令に指示を出しカイルの後を追う。

しかし自室にもカイルはおらず、ディランは嫌な予感がしていた。


「まさか……あいつ。」

想像通りであった。

カイルはゼクトの所にいたのだ。


「何をしているカイル。」

ゼクトを幽閉している部屋に入るとカイルの背中に声をかけた。


「ディランか……すまない、やはりゼクトを騙し続ける事が僕には出来なかった。」

恐れていたことだ。

カイルは優しい性格の持ち主であり、罪悪感に飲まれてしまっていた。


「ゼクトに……言ったのか。」

「……ああ。」

ゼクトは意味がわからないといった表情をしている。

それもそうだろう、今まで何も知らされていなかったのにいきなり自分の種族と人間が殺し合っているのだから。


「どこまで……どこまで話した。」

「全部だ。」

「……自分が何をしたのか分かっているのか!!ゼクトは我々の技術を全て見ている!!知ったからにはここで死んでもらわなければならなくなったぞ!」

腰に据え付けられたベルトから銃を取り出すとゼクトに向けた。


「何が起こっているのだ!!我にも分かるように説明してくれ!!」

ゼクトは銃を向けられている事すら意味がわからない状態であった。

ディランも長い月日を共に過ごしたゼクトに銃口を向けたくはなかったが、ここで見逃せば人類は滅びの道を歩むことになる。

苦渋の決断であった。



「待ってくれディラン!!ゼクトを逃がしてやってほしい。彼は人間に利用されただけなんだ、だから彼の仲間の下に帰してあげたい。」

「それが出来ぬと言うのだ!!!!そんなことをしてみろ!我らの技術を知ったアーレス星人は新たな武器を作り出し人間に牙をむくぞ!」

「カイル!!!説明が足らんぞ!!!なぜディランが我に銃を向けているのだ!?」

三人が一斉に喋り出すせいでその場は収拾が付かなくなっていた。


何を思ったのかカイルは懐から一冊の本を取り出しゼクトの足元へと投げた。

それが何なのかはディランには分からなかったが、渡してはいけないものだと感じた。


「何のつもりだカイル!!!その本は何だ!」

「ゼクト、よく聞いてくれ。君はこの本を持って逃げるんだ!君の故郷に!!!!もう一冊は僕の私室にあるがとにかくその本を必ず無くすな!!!!君がいつか……信頼できる人間を見つけたら、それを見せてやってくれ。本当にすまなかった。」

ディランは無視された事に腹を立て拳銃の撃鉄を起こす。

引き金を引き絞ればすぐにでも発砲できる状態だ。



「カイル!!!!」

「行け!!ゼクト!振り返るな!!!!お前は死んではならない!!!」

「させるものか!!」

ディランは銃口をゼクトに向け直すがその前にカイルが立ち塞がった。



「そこを退け、カイル。」

「いや、退かない。ゼクトと未来の人類に託すんだ。こんな戦い間違っている!」

「そんな事は私にも分かっている!!だが今更引くことなど出来んぞ!地球に帰れば祖国が食い潰される未来しかない!」

カイルはゆっくりと腰に手を持って行く。

ディランはその様子を見ていたが、この後の展開が分かってしまった為止めようとした。


「辞めろカイル。それを手に取れば私は引き金を引かなくてはならない。」

黙ったまま少しずつ腰に据え付けられたベルトに手を掛ける。


「今だ!ゼクト走れ!!!」

いきなりカイルが大声を出し咄嗟にゼクトは本を口で咥え一気に駆けた。


「辞めろカイル!!!!」

「ディラン!!!!」



遠く離れていくゼクトの耳には一発の銃声だけが聞こえた。

※アーレス星人はこの時、人間の言語ではなく独自の言語を使って会話をしています。


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