カイルの過去⑨
アーレス星人は困惑していた。
同盟を結ぶ為という名目で呼び出されたのにも関わらず、何故か人間側は厳戒体制を敷いている。
「グラン様、いかが致しますか?」
「ふぅむ、分からんな……いや、しかしゼクトが我らの仲を取り持ってくれているのだ。信じるほかあるまい。」
「あの小僧を信じるのですか?何も警戒せず地球からの捕獲船に飛び乗った愚か者ですよ?」
「しかしその愚か者のお陰で今があるのではないか。お互いの星が発展していく未来が見える、さ、ゆくぞ。」
グランと呼ばれた緑色の肌で熊の見た目をしたアーレス星人は部下を率いてトリカゴが目視できる所までやって来ていた。
ゼクトは彼らからすればまだ子供。
1000年以上生きる彼らからしてみれば小僧という程には若い。
そんなゼクトが火星と地球の橋を渡したのだ。
不安になる者もいて当然であった。
「一応戦闘に特化したガルムやキマリスも連れてきている。何かあっても問題はなかろう。」
「分かりました。では私が貴方の壁になりましょう。私の前には出ないで下さい。」
そう言う特殊個体は防御に優れたアーレス星人であった。
グランはアーレス星人のトップに立つ特殊個体。
万が一にでも死なせるわけにはいかなかった。
「若いの、儂はまだそこまで老いてはおらんぞ。」
「万が一があります、絶対にしゃしゃり出ないようお願いします。」
「言い方がキツイのう……まあ良い、ではしっかり頼むぞ。」
「先頭に緑色の熊を確認!恐らくグランと思われます。」
「アーレス星人のトップか……ゼクトの言う通り本当に熊だな。狙撃部隊に伝えろ。トップが崩れれば彼らは瓦解する。一番犠牲の少ないやり方だ。」
犠牲の少ない、という部分に難色をしめしたのか部下の1人が顔を顰める。
「お言葉ですが、奴らは侵略者です。虐殺するべきかと。」
「無駄にこちらの戦力を削りたくはない。数では勝っているが質では劣っている。」
「……畏まりました。」
部下は先遣隊の1人だ。
既に記憶改変チップを埋め込まれており、アーレス星人=憎むべき敵という認識に成り代わっている。
ディランはつい失言をしてしまっていた。
なんとかその後カバーしたが、部下はやるせない顔付きを見せていた。
「司令!グランの前に壁として立ちはだかっている奴がいます。ここはアレを使ってはいかがでしょうか?」
アレとは、人類側の切り札でもあった。
宇宙開発研究所のおかげで作られた新型兵器、重力加速式徹甲榴弾砲。
重力反転装置を使用した火力特化の兵器の事である。
どれだけ分厚い鉄板であろうと、重力により加速された徹甲榴弾は貫きそして炸裂する。
従来の対戦車砲を遥かに凌駕する威力であった。
「駄目だ、アレは数が少ない。たかが肉壁に使うのは勿体ないだろ。」
「しかし、こちらの戦力を見せびらかし相手の戦意を落とすには抜群の効果を得られるかと。」
ディランは腕を組み思案する。
数が少ない切り札は出来るだけ特殊個体と呼ばれるアーレス星人に使いたかった。
個々の戦闘能力は並のアーレス星人すらも超え、特殊能力まで使えると聞く。
どれだけこの場に来ているか分からないが、切り札は温存しておきたかった。
しかし、部下が言う戦意を落とすという意味では抜群の効果がある。
なにしろアーレス星人のような強固な肉体を持ってしても敗れるほどの威力になるはずだ。
警戒は高まるだろうが、人間はちっぽけな存在ではないと見せつけられる。
「分かった、アレを使え。その代わり確実に当てろよ。」
「はっ!!戦略部隊に通達、重力加速式徹甲榴弾砲用意!!」
カイルはその様子を静観していた。
技術部門の自分が口を出す領分ではないと判断しディランと部下のやり取りを黙って見ていたのだった。
カイルはしばらく指令室に滞在していたが、居ても意味はないと感じゼクトの下へと向かった。
ゼクトは幽閉されていた。
表向きやゼクト本人には現在お偉方が同盟について会議を行っている為邪魔をするわけにいかない、という事になっているが実際はゼクトに動き回られては困るからだ。
そもそもゼクトの同族を殺すのだ、言える訳がなかった。
「やあ、ゼクト。」
「む?カイルか。会議はどうした、順調か?」
「ああ……。」
「元気がないではないか、どうしたというのだ。」
分厚い壁に囲われた部屋に入ると外の音は聞こえない。
丸まって休んでいたゼクトはカイルに近寄り心配そうな目で見つめる。
「いや……なんでもないよ。ただ、平和に終わればいいなって思ってさ。」
「平和か。言うのは簡単だがなかなか難しい事だろう。小さな争いはなくなることがないからな。まあ安心するといい、同盟は上手くいくはずだ。何しろ我らのトップは理知的であり平和主義だ。」
「そうなればいいな、ゼクト。」
――司令室――
「目標確認、いつでも撃てます。」
「重力加速式徹甲榴弾砲、撃てぇ!!」
ディランの号令と共に轟音が空気を震わせる。
建物の中いても聞こえる程の発射音が威力を物語っていた。
重力により加速された徹甲榴弾は目標へと寸分の狂いなく迫りやがて着弾した。
司令室からは各所に設置されたカメラの映像を見ることしか出来ないが、爆発し肉片を辺りに撒き散らした所を見るに目標を木っ端微塵にしたようだ。
「既に戦端は開かれた!!!第一大隊、攻撃開始!!」
「第一大隊攻撃を開始せよ。」
副司令がディランからの指示を現地にいる部隊に飛ばす。
凄まじい数の銃弾と砲弾がアーレス星人に浴びせられる。
彼らの咆哮は怒りと憎しみが込められているようだった。
※アーレス星人はこの時、人間の言語ではなく独自の言語を使って会話をしています。
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