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カイルの過去⑧

「老けたなカイル。」

「それは言うなよ。」

大佐は冒頭いきなりからかった。

カイルは一度もコールドスリープを受けてはいないが、大佐は戦闘に参加する。その為コールドスリープを受けていたのだ。

年老いて戦場に立つのは厳しいからだ。


「やっと話が出来たか。ノクティス司令に感謝だな。」

「ああ見えて案外優しいところがあるからね彼は。」

同級生なのに歳の差があるせいか違和感がある。


「カイル、この戦い勝てると思うか?」

いきなり弱気な事を言い出した。

大佐にしては珍しい。


「勝てる勝てないではないよ、勝つしかないんだ。僕らが生きていくにはそれしか道はない。」

「言うようになったな。それも歳のせいか?」

「ま、それはあるかもしれないな。人生経験は大佐より長いんだから。」

クツクツと2人で笑い合う。

学生の頃つるんでいた時を思い出すようだった。


「それよりこれが最後になるかもしれないんだ。せめて名前で呼んでくれないか?」

これが最後、そんな言葉を投げかけられカイルは言葉に詰まる。

確かに大佐の事は学生の時以来一度も名前で呼んでいなかった。

やはり肩書きで呼ばれるより名前で呼ばれたいのだろうか。


「レイン、生き残れよ。」

「ふふふ、そうだな。俺もアルファの一人だ。少なくともお前よりは強いからな、そう簡単に死んだりしない。」

「何?アルファの薬は火星での適性を上げる為だぞ。」

「俺にはわかる。嘘をつくな、これは人体を強化する薬なんだろ?流石に他の奴は気づいていないが俺を舐めるなよ。」

カイルはそれを聞いて驚く。レイン大佐は遺伝子改造の事に気づいていたらしい。

軍人気質な彼には違和感しかなかったそうだ。


「今までより体力が増えた、力もついた、走る速さも段違いだ。他の奴らは長く眠っていたせいで体が休まり本来の実力を引き出せるようになったとでも思っているのだろうがな。」

「……そうか。すまない。」

「何故謝る。この力があれば、いやこの力がなければ侵略者共に大した反撃などできなかっただろう。俺は感謝しているぞ。」

違うんだ、レイン。それはあくまで作られた記憶。

本来であればこんな戦いしなくてもいい戦いだったんだ。

流石に記憶の事は言う訳にいかず苦い表情になる。


「いや、そうだな。レインならやってくれると信じているよ。」

「任せておけ。帰ってきたらビールくらい用意しておけよ、祝杯といこうじゃないか。」

「軍人が酒か?まあそうだな祝杯は用意しておいてやるよ。頼んだぞレイン・クリストファー大佐。」

フルネームを口にするとレインは姿勢を正して敬礼をする。

それは見事な敬礼であった。


「カイル・ドルクスキー技術少将、これより出撃致します。」

カイルは研究者であるが肩書きだけで言えばレインよりも更に上であったが故に形式的な礼をする。

固く握手を交わしレインは持ち場へと向かっていった。



指令室に戻るとディランがチラッと視線を向けてきた。

「カイル、大佐に挨拶は済ませたか?」

「ああ、時間をくれてありがとう。」

「構わん。……これが最後になるやもしれんのだからな。」

不吉な事を口にするがそれを咎める者は誰もいなかった。

皆分かっているのだ、これは勝ち目のない戦いだと。

アーレス星人個々の力は既に知っている者からすれば人間など話にならない。

ただ数が多いのは圧倒的に人類側だ。

それに一縷の望みをかけているだけだ。



「大佐も持ち場に着いたらしい。よし作戦を始めるぞ。」

「はっ。」

第一大隊は遠距離武器で相手の出鼻を挫く役割がある。

戦線が崩れたと同時に第二大隊を投入。

最後に第三大隊と第一大隊が援護を行いつつ制圧する。

上手く行けばこの流れだ。



「カイル、お前の嫁は第一大隊に配属されているようだ。良かったな。」

ディランがそう言うのには訳がある。

第一大隊は基本遠距離武器でしか戦わない。

故に戦死する確率はもっとも低くなる。

運がよかったと言うべきか。


「どっちみち戦場には変わりないだろ。危険はどこも一緒さ。」

「…………一番後方に配置してやる。そこならまず死ぬことはないはずだ。」

ディランはそんな提案をしてきた。

しかしカイルはそれを突っぱねる。


「駄目だ、僕の妻だけ特別待遇は許される行為ではない。」

「お前の嫁を1人後方に回した程度で戦況は変わらん。」

「このままの配置で構わない。誰か1人が優遇される事はあってはならないんだ。皆平等に死を受け入れるべきだ。」

「カイル……分かった、そこまで言うのならこのままで行く。」

ディランはニナを死なせない手段を提案したがカイルは乗らなかった。

既に悪魔に成り果てたカイルには誰か1人を優遇することは許される行為ではないと思っている。

人を人と思えないような実験もしてきたカイルは、自分は特に罰を受けるべきだと考えていたのだった。

愛する人を失うという罰を。


「カイル、もしもそれを自らへ課した罪だと言うのであれば撤回しろ。それは、お前のエゴだ。」

「……問題ない。平等だ、誰もが死は近くに寄り添っているんだ。」

ディランは薄々感づいていたようで、カイルに忠告をする。

しかし心が壊れかけていたカイルには響かなかった。


「アーレス星人、目視で確認しました。数は凡そ100体!想定より少ない様です!」

「よし!!!限界まで引きつけろ!!……トリカゴに張り付いたら、攻撃開始だ。」


数百年に渡る侵略戦争の足音はすぐ近くまで迫ってきていた。

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