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カイルの過去⑦

「おはよう、ニナ。」

「カイル……歳いっちゃったね。」

妻のニナは微笑むと、周りのコールドスリープに入っていた人達に目を向ける。


「ニナ、今の状況理解できているかい?」

「分かるよ、まだ起きたてだから頭がボヤッとしてるけど、確か火星からの侵略者が想像以上に強くて人類が滅亡しかけた時、陛下は未来の人類に賭けた。それで選ばれた人達はコールドスリープを受けたんだよね?今何年なんだろ?」

記憶改変チップが上手く動作しているらしい。

都合よく記憶を書き換えられているようだ。


「今は宇宙暦320年。君が寝てから10年経ってしまったよ。」

「そっか、じゃあカイルは今42歳なんだね。10歳も差ができちゃった!」

何が楽しいのかニナは笑う。

カイルは現状を笑うことが出来ず、苦笑いしか出来なかった。


「それで、地球はどうなったの?」

「それをこれから説明するよ。」

コールドスリープから目覚めた彼らをトリカゴ全体が眺める事のできる所へと連れて行く。

皆口々に、人類は凄い技術を開発したとか眠る前はこんな設備はなかっただとか軍司令部となった輸送船の内部を見てそんな事を言う。

確かに技術は進歩したがいい事尽くめではない。


「これは……何?カイル。」

トリカゴを見てニナは言う。

それもそうだろう、いつもの見慣れた帝都ではなく壁に囲まれた街にいるのだから。


「諸君、良く目覚めてくれた。現状の説明をしよう。」

ディランが司令官らしい服装を着て現れる。

皇帝陛下ではないことが不審に思ったのか1人が口を開く。


「あの、貴方は一体?」

「皆の不安は理解している。しかし今はゆっくりと説明できる余裕はないのだ。これを見て欲しい。」

事前に用意されていた動画を流す。

最新の技術を駆使して作られた地球が侵略行為を受ける映像だ。

地球が滅びゆく映像を全員見入っている。


「見てもらったら分かるように地球はほぼ壊滅した。生き残ったのはここにいる者達だけだ。火星からの侵略者を何としても倒さなければならない。協力して欲しい。」

「そんな……地球が……。」

「嘘でしょ!?みんなが!!」


泣き叫ぶ者、膝から崩れ落ち呆然とする者、険しい顔付きを見せる者、様々な反応だ。

ニナも開いた口が塞がらないようだった。


「私の名前はディラン・ノクティス。軍司令部の総司令官だ。皇帝陛下は言われた、なんとしても人類を存続させよと。……残念な事に先の戦闘で皇族の方々は亡くなられたが……。」

俯き悔しそうな顔をする。

ディランは演技派のようだった。


「そして!我々軍司令部に全てを託されたのだ!だから我々は戦わねばならない!!これ以上侵略者共に好き勝手させる訳に行かないのだ!」

「お!おれはやるぞ!!」

「私だって!」

「反撃だ!皆でやってやるぞ!」

反応はいいようだ。

ディランもその反応に頬を緩める。


「1週間後だ!1週間後奴らは大群で押し寄せる!我々軍司令部はその情報を手に入れた!だから今君達を起こしたのだ!安心してくれ、武器はある。それに1週間もあれば使い方等も習得できるはずだ!」

そんな話は聞いていないぞ?

でまかせにも程があるんじゃないか?

ディランに目配せすると、大丈夫だと言わんばかりの反応を見せた。



コールドスリープから目覚めたアルファ達を専用の部屋に押し込めディランと二人きりになる。


「おい、ディラン。1週間後攻めてくるって何の話だ?」

「すまん話していなかったな。実を言うとゼクトに協力してもらいアーレス星人とコンタクトをとった。そして1週間後、顔を合わせて同盟についての話し合いをと言う話になってな。」

「な、それって騙し討ちってことか!?」

「戦略的行動といえ。……私としてもこんなことはしたくなかった。だがこうするしかないのだよ。彼らアーレス星人に勝つにはね。」

ディランから見てもアーレス星人は脅威らしい。

個々の力は人間を遥かに超える。

姿形も異様で力も強いとなれば、いくら人間を強化したところで真っ向からぶつかれば勝ち目がないと理解しているようだった。


「もはや我らの歩みは止められん。お互い罪深い人間として歴史に名を残す事だろうな。」

その呟きはカイルの心の奥底に根付いてしまった。




一週間後、ニナの様子を伺おうと自室に足を運ぶと既に着替えて出撃準備を整えた彼女が居た。


「カイル、どうしたの?」

「いや、様子を見にね。どうだい?心の準備は。」

「怖くない、って言ったら嘘になるけど死んでいった人達の事を思うと、そんな事言ってられないよ。」

「……そうだね。」

妻を騙して戦場に向かわせるのかと思うと心が痛かった。


抱きしめた後離れると首元に視線がいく。

「付けてくれているんだね。」

「もちろん。貴方がくれたネックレスだもの。」

青い宝石が付いたネックレス。

初めて高級ブランド店に入った時の事を思い出し苦笑する。


「あの店に入った時は緊張で足が震えていたよ。」

「ふふ、まああの店は女性物がメインで売ってる所だしね。」

ニナにとても似合っていると感じ一目ぼれして買った物だ。


「これは私にとってのお守りなの。……カイルも祈っていてね、無事に帰ってくることを。」

死を覚悟しているのか、ニナの顔は真剣そのものだった。


「ああ、もちろんだよ。必ず帰ってくるって信じているよ。」

再度ハグをしてその場を後にした。



指令室に入ると既にディランは部下達に指示を出していた。

カイルが入ってきた事に気づくと、さらっと毒づく。

「遅いぞ、何をしていた。」


ニナに激励してきたところだと答えるとそれ以上何も追及されることはなかった。


「各部隊、配置に着きました。」

軍人の一人が報告をしてくる。

カイルは指令室にいるがあくまで研究者の立場からアルファの戦闘能力を確認するためだ。

指示は全てディランか大佐が出していた。


「アルファ第一大隊は遠距離武器での戦闘。第二大隊は近接戦闘準備。第三大隊は支援に徹しろ。」

「はっ!私も現場に出ます。」

「待て……カイルと話くらいして行け。」


気を利かせたのかディランはカイルに大佐と話す時間を与えてくれた。

火星に来てまだ一度も言葉を交わすことがなく今まできてしまったからだ。

大佐はそもそも現地で指示を出す役割があるしカイルには軍司令部内での仕事が多かったせいで話す暇すらなかったのだ。


廊下に出た大佐とカイルは火星に来て初めて言葉を交わした。

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