カイルの過去⑥
宇宙から見る火星は美しかった。
赤い惑星とも言われるのが良く分かる。
予定していた場所に輸送船イカロスを降下させ着陸する。
ハッチが開くと真っ先にゼクトが飛び出した。
「おおお!!カイル!!我は帰って来た!火星に帰って来たぞ!!!」
「良かった、故郷の大地が一番だなやっぱり。」
「その通りだ!しかし地球と比べるとなんとも寂しいものだな。地球はもっと美しかった。」
しみじみとそんなことを言うゼクトに苦笑する。
既に壁は2枚築かれていて3枚目の壁に取り掛かっているようだ。
輸送船は形を変え軍司令部本部と名前を変える。
今後、指揮するのはここからになるだろう。
「なかなか広大な景色だなカイル。」
「ディラン、いいのか寝てなくて。酔ったんだろう?」
「構わん、外の空気を吸えば多少改善する。」
彼、皇帝陛下の使者でもあったディラン・ノクティスとは歳も近い事もあり今ではタメ口で話すような仲だ。
ニナとは既に10歳も差ができてしまった。
コールドスリープから起きたら驚くことだろう。
だがまだ起こすわけにいかない。
壁が全て完成し、侵略を開始するまでは長期睡眠から起こすことを禁じられている。
先遣隊として来ていた副隊長は浮かない顔を見せながら近付いて来た。
「ん?君は……確かキプリス・プライム中佐だったか?」
「はっ!ノクティス殿ご無沙汰しております!」
カイルは会ったことがない為初対面の挨拶をする。
「どうも、カイル・ドルクスキーです。」
「なんと!あのドルクスキー博士ですか!?お目にかかれるとは!光栄です!」
キプリスと名乗った彼は目を輝かせて握手をした手をこれでもかというほどに振る。
大佐にも挨拶しておこうと思ったがディランに止められる。
「挨拶はこの辺でいいだろう。それで?先程まで浮かない顔をしていた理由は何だ?」
ディランは気になっていたのか、浮かない顔の理由を問いただす。
「それが……あの、本当に彼らアーレス星人を滅ぼすのですか?」
「何を今更。皇帝陛下の勅命だぞ。」
「それは分かっておりますが……しかし……。」
なんとも煮え切らない返事をするキプリス。
「あの、キプリス中佐。何かあったのですか?」
「カイル殿……それが、アーレス星人はとても気の良い奴らなんです。」
気の良い奴らと聞いてカイルとディランは顔を見合わせた。
「待て、キプリス。まさかアーレス星人と接触したのか?彼らとの接触は必要最低限といっていたはずだが?」
「それがですね、あちらをご覧ください。」
キプリスが指を差す方向に目を向けると、壁を築いている途中の光景が目に入った。
しかし、その中で一際浮いた存在が複数居る。
遠目からも人とは思えない姿。
「まさか!アーレス星人を手伝わせているのか!?」
「そのまさかですよ!彼らは自ら近寄って来て手伝ってくれているんです。」
「侵略に来た人類を手伝うとは……やはりここに来た理由は知らないらしいな。」
「そうなんです。だからどうしても彼らに武器を向けることに躊躇いが出来てしまって……。」
不味いことになった。
ディランとカイルは1度キプリスと別れ、人が寄り付かない部屋へと足を運んだ。
「どうする?先遣隊は多分彼らと戦うことを拒否するぞ。」
「……まさかそこまでアーレス星人が友好的だとはな……。しかし我々も陛下の勅命で来ている。今更侵略を撤回することなどできん。」
「このまま放置すれば、確実に何処かで亀裂が生じる。そうなれば本格的な戦闘訓練を受けていないアルファは対処が出来ない。」
ティランは腕を組み目を瞑る。
しばらく無言だったが、意を決したように口を開く。
「予定にはなかったが、彼ら先遣隊は全員記憶改変チップを埋め込む。表向きはバイタルチェックの為とでも言えば疑うことはしないはずだ。」
「本気か?記憶を改変した者ばかりになれば、真実を受け継ぐ者が少なくなる。偽りの歴史が生まれることになるんだぞ。」
「そんなものはどうにでもなる。カイル、お前は正しい歴史を紙に残せ。私も何か残す手段は考えておく。流石に子孫にまで苦労はさせたくないからな。」
話はまとまりお互いの仕事に手を付け始めた。
最近隠し事が多くなってしまった。
妻にすら真実を明かせないのは辛い。
カイルが43歳になった頃、遂に壁は完成した。
3枚の壁と火星で手に入れたアルマイト鉱石をエネルギー源に、青白い電磁障壁で全てを覆う。
「いいじゃないか、これで完全な防御が可能になった。そうだな、|三重反射カイルの防護《Triad Reflect Kyle Guard》というのはどうだ。略してトリカゴ。鳥籠に囲われた我々にピッタリの名前だろう?」
「皮肉が過ぎるぞディラン。まあ名前なんてなんでもいいけど。」
「いいな、よし!これで作戦は最終段階に入れる。準備に取り掛かるぞ。」
トリカゴと呼ばれた人類最後の砦。
その中に住まう人々が最後の生き残りだと、コールドスリープから起こした者達に伝える。
どんな顔をするだろうか……僕はニナと会うのが怖い。
「凄いじゃないか!カイル!」
ゼクトが喜び飛び跳ねながら駆け寄ってくる。
「アルマイト鉱石の力だな!?この青白い光は!ふぅむそれにしても凄い、我々アーレス星人の拠点もこのような技術は使っているが細かい所がやはり人間には勝てんな。」
「ゼクト、君の住む場所はこんな感じなのかい?」
「ああ、アイオリス山と言ってな山全体を巨大な基地にしているのだ。もちろん住居も込みでな。」
見てみたい、アーレス星人がどれほどの技術を持つのか。
「ゼクト、そこに僕を連れて行ってくれることはできないか?」
「ううむ、それは難しい……。何しろここからだとかなり遠いし、それに軍事基地でもある。恐らく人間は入れてもらえんだろう。」
技術を共有すれば、更なる発展が見込まれる。
だが、滅ぼさなければならないアーレス星人とこれ以上仲を深めるのはキツイ。
精神的に持たないだろう。
ゼクトにいつ真実を伝えるべきか、なかなか切り出すことがカイルには出来なかった。
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