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カイルの過去⑤

使者もリストに入っている?

その言葉を聞いて耳を疑った。

使者殿はもう何年も皇帝陛下の使者として働いている。

そんな人物まで選ばれるとは思ってもいなかった。


「ふっ……笑いたければ笑え。皇帝陛下の右腕とまで言われた私でさえも火星行きだ。他国からすれば立場など関係がないのだろうな。」

「……クソッ!!俺等は奴隷じゃねぇ!!!」

オスカーの怒りももっともだ。

ただ何を言おうが覆ることはないだろう。


「分かりました、僕も火星に行きます。リストに加えておいて下さい。」

「潔いな、カイル。まあお前は恐らく遺伝子改造は受けなくてもいいだろう。どちらかと言えば指揮する立場になるはずだ。私も含めてな。」

「おいカイル!まじで言ってんのか!?」

「今更何を言おうと結果は変わらないだろ。それに、妻だけを火星に送り込むなんて……出来ない。」

オスカーは何か言いたげだったが、言った所で意味はないと思ったのか口を噤んだ。


「それで、遺伝子改造の薬を打つ事についてだがあくまで表向きは火星移住による惑星への適性を高める薬ということになる。絶対に遺伝子改造という言葉は使うな。」

「火星に送り込む人達を騙すと?」

「そうだ、それに極秘裏に開発した記憶改変チップを埋め込む。ああ安心しろ、私やお前のように一部の者には埋め込まれん。」

「記憶改変チップ?」

また聞いたことのない物が出てきた。

なんとなく名前から想像はできるが。


「名前の通り、記憶を改変する小さなチップだ。火星移住計画と言って送り出せば戦わんだろう?だから彼らには火星が地球だと誤認させる。アーレス星人は侵略者だとな。」

「故郷を守る為という意識を植え付けるということですか……。」


こんな事になるのなら、ゼクトに言葉を学ばせなければ良かったとカイルは後悔する。

火星にアルマイト鉱石資源があると分かっていなければ侵略行為などしなかっただろうに。




それからまた月日は流れた。

輸送船は完成し皇帝陛下にお披露目する。

火星侵略用輸送船イカロス、名付けたのはカイルだった。

なぜギリシャ神話から名前を取ったのか、理由はある。

神話の中でイカロスは自由自在に飛ぶ翼を持つが最後は太陽に近づきすぎ翼を焼かれ落ちて死ぬ。

我々人間に相応しい名前だ。

人間の傲慢さを表している。

だからイカロスと名付けた。


「流石の大きさだな、全長800メートルの輸送船か。知らないやつが見れば空中要塞に見えるだろうな。」

「こんな鉄の塊を浮かせる事が出来る重力反転装置に感謝だよ。」


後は1万人を積み込むだけだ。

積み込む、という表現をしたのにも理由がある。

既に1万人の侵略兵士となる者達には薬を打ち込み遺伝子改造は済ませた。

ただ船が完成するまで待つとなれば無駄に歳を食ってしまう。

それを避ける為にコールドスリープする事にした。

カイルの妻、ニナも眠っている。

流石にカイルまで眠らせる訳に行かず、カイルはこの時既に35歳を超えていた。



宇宙暦319年。

沢山の地球人に見送られ輸送船イカロスは宇宙へと飛び上がった。

短距離ワープを使うとはいえ約半年間の長い旅が始まる。

カイルや輸送船を操作する者達数名はコールドスリープに入る事は出来ない。

火星に着いてからもやる事があるからだ。


地球はもう見えなくなっている。

オスカーは元気にしているだろうか。

輸送船のデッキで見渡す限りの黒い景色をジッと見つめる。


「地球が恋しいのか?」

不意に聞こえた声に驚き振り向くと皇帝陛下の右腕、使者が立っていた。


「恋しいに決まっているでしょう。僕らはもう二度と地球の大地を踏みしめる事が出来ないんですから。」

「まあ、それもそうか。……カイル、火星に着いたらまずやる事は分かっているな?」

使者にそう言われ、作戦を思い出す。


火星に着いたら最初に巨大な基地を作り上げる。

次にその拠点を囲む壁を築く。

そこまでできてやっとコールドスリープの解除に取り掛かる。

起きた彼らは火星を地球と思い込んでいるはずだから、そこに追い打ちをかける。

生き残ったのはここにいる者達だけだ、と。

そしてやっと侵略を開始する。こんな流れだったはずだ。


「おおむね問題はない。まあ既に先遣隊として数年前から軍の者200名が火星にいる。ある程度の拠点はできているだろうさ。それにこの輸送船が司令部に成り代わるのだからな。」

輸送船イカロスには、上の立場にいる者以外に極秘とされている機能がある。

変形しそのまま軍基地として運用することができる機能だ。

これのおかげで、到着と同時に軍司令部は完成する仕組みだ。


「僕の設計図通りに造ってくれていれば、既に2枚の壁は築かれているはず。」

「問題はないだろう、向こうでの指揮はあの大佐がやってくれているからな。」

学生時代からの同級生。

軍に所属しゼクトを捕獲した際には安全処置として来ていた大佐だ。

彼は優秀だ。戦闘能力はもちろんの事、指揮にも長けている。

なぜそんな彼が未だに大佐の位置にいるのか、それは前線に出る機会を失いたくないからだった。


「でも、大佐も遺伝子改造を受けているんでしょう?」

「ああ。後、言動には気を付けろ。記憶改変を受けていないのは全部で100人もおらんからな。」

「向こうに着いたらあなたが指揮を執るんですよね?」

「陛下からはそう伝えられている。最後に生き残った軍司令部を中心に侵略者へと反撃する、そんなストーリーだ。泣けるだろ。」

今でこそ目の前の使者殿は笑っているが、火星へと行く事が決まった時には喚き散らした事だろうな。

普通に生きていれば、争いに巻き込まれることもなく平和に生涯を終えれたのだから。


「ああ、そういえば使者殿。まだあなたの名前を聞いてませんでしたね。」

「ん?名乗ってなかったか。」

ずっと使者殿と呼んでいたせいで名前を知らなかった。

これからは共に戦っていく同志になる。名前を知っていて損はないだろう。



「私の名はディラン・ノクティス。覚えておけカイル。」

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