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カイルの過去④

「ふむ、ご苦労。」

ふてぶてしい態度は相変わらずの使者がやって来た。

もちろん両脇に衛兵を携えて。


「遺伝子改造が完成したと聞いて皇帝陛下は喜んでいたよ。」

「ああ、そうかい。それで、その強化人間にされるリストは持ってきたんだろうな。」

「まあそう焦るなオスカー。これだよ、君達の知り合いがいないといいがね。」

使者が懐から数枚の紙を取り出す。

人名がずらっと書かれている紙だった。


「な、これはまさか全員に打つのか!?」

カイルはその人名の数に驚く。

多くて1000人はいるかもしれないと予想していたが、渡された紙にはどう見ても1000人を遥かに超える名前が記されている。


「全部で1万人。それが火星侵略に使われる人員の数だ。」

「馬鹿な事を!!!火星にいるアーレス星人を滅ぼすつもりか!」

「まさにその通りだよカイル所長。」

滅ぼすと聞いて怒りを露わにする2人。


「ゼクトの故郷だぞ!?それを滅ぼすと!?」

「そうだ、皇帝陛下は言われた。アルマイト鉱石を根こそぎ奪えと。」

「ふざけるな!!!!」

実際には他国の者が言った言葉であるが彼らにはその真実は分からない。

カイル達は現皇帝陛下も先代の血を引いて、極悪非道な人間だと思い込んでしまっていた。


「確かに渡したぞ。近いうちにそこに載っている者達を集めるつもりだ。とりあえず君達は早く宇宙船を造ってくれたまえ。1万人が乗れて長距離航行を可能とするものをね。必要な経費は国が持つ。存分に開発に勤しみたまえ。」

腹が立つ言い方をするが暴れればまた前回のように取り押さえられるとわかっていたオスカーは拳を固く握る。



使者が研究所から去ると、お互いにリストに載ってある人名を確認することにした。

しかし1万人もの人名が書かれてあるとそう簡単に見終わらない。

確認作業は後にしてまずは宇宙船の設計を行わなければならず、すぐ仕事モードへと切り替える。



1万人もの人を乗せて飛ぶ船を造るのならば、最低でも500メートル級の船になる。

正直お金さえ用意してくれるのであれば、難しいことはない。

重力反転装置さえあればどれだけの質量があろうと浮かばせる事が出来るからだ。



ほとんど家に帰らず毎日実験に明け暮れて、半年ほどで設計図は完成した。

ただやはり大きさがあるが故に造る時間はかかる。

設計図を工場に渡し、後は待つだけだった。


「案外早くできたな。」

「まあ設計するだけならそんなに掛かりませんよ。」

「ご苦労。」

本当に労っているのか分からない態度で皇帝陛下の使者が言う。


「それで、リストは見たか?」

「あ、そう言えば……オスカーあの紙を持ってきてくれ。」

つい仕事に集中しすぎて2人共未だにリストの名前を見ていなかった。

オスカーに取りに行かせ使者をソファに座らせる。

今この場には使者と護衛の兵士、そしてカイルしかいない。

オスカーが戻ってくるまでだんまりで待っているのも失礼かと思いカイルは話を振る。



「使者殿、あのリストに選ばれた者は何を基準に選ばれたのですか?」

「ん?ああ、そうだな。あれに選ばれた者はまず第一に健康である事。1度も重い病気になっていない者だ。」

「それだけですか?」

「いや、後は優秀な者だ。」

「優秀な者?火星にはほとんど死にに行くようなものではないですか。なのにどうして?」

優秀な者をわざわざ選ぶ必要はないはずだ。

遺伝子改造を施すのであれば、個体が優れているかどうかはあまり関係がない。


「優秀な者に遺伝子改造を施せば更に優れた兵士となるだろう。だからだよ。」

「我が国の優秀な人材を失うことになりますが。」

「……それは私も思っている。ここだけの話だ、そのリストを作成したのは陛下ではない。他国の者だ。」

なんとなく分かっていた。

皇帝陛下がわざわざ優秀な自国の民を消耗品にするわけがない。

他国から圧力でもかけられたのだろう。


「持ってきたぜカイル。」

なんとも言えない空気が漂っていた所にオスカーが戻ってきた。

2人でリストに目を通す。

流石に1万人ともなると10分はかかるだろうが使者は紅茶を啜り待ってくれるようだった。


しばらく黙ってリストを見ているとオスカーが口を開く。


「おい、カイル。これ……」

青い顔をしたオスカーがある部分を指差す。

知り合いでもいたのかと指の先を目で追うと、目を疑う名前が記されていた。


「ニナ・ドルクスキー……」

妻の名前だった。

バッと顔を上げ使者を見るとその反応は分かっていたと言わんばかりの顔をしていた。


「やはりか……カイル、お前の妻の名前があったのだな?」

「知っていたのですか使者殿。」

「いや、知らなかった。だが恐らく名前はあるだろうと予測はしていた。」

「何故……ですか?何故僕の妻の名前がここにあるんですか!!」

もはや叫ばずにはいられなかった。


「さっきも言っただろう。優秀な者も使うと。カイル、お前は我が国が誇る頭脳だ。流石に他国もお前の名前を入れれば陛下は意地でも首を縦に振らないと分かっていた。しかし、自分から火星に行くと言うのであれば陛下に止める手立てはない。それを狙ったのだ。」

「……では、妻の名前をここに記したのは……。」

「お前も共に行くと言う、そう判断したのだろうな。」


確かに妻の名前が記されていれば自分も行かないわけにいかない。

妻だけを送り出すような真似はしたくないからだ。

他国はとことん帝国を使い潰すつもりだ。

そう思えてならなかった。


「俺の名前がないぞ。」

「オスカー、分かるだろう?カイルは確実に火星に行くことになる。だがそうなれば研究所を継げる者が必要だ。お前はカイルの後釜なのだよ。」

「ふざけるな!俺も行くぞ!!」

「悪いが君の席はない。」

「なんでだよ!カイルはリストに載っていない!なのにも関わらず席を用意できるんだろ!なら俺の分も用意できるだろうが!」

「無理だ。カイルかオスカーどちらかは残らなければならない。」

使者にどれだけ言おうが何も変わらない事はオスカーも理解しているはず。

しかし声を荒げずにいられなかったようだ。



「言っておくが、そこに私の名前もある。お前達だけが不幸ではないのだ。」

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