カイルの過去③
ゼクトと名付けた火星の生命体は知能が高かったのか人間の言葉を理解するのにそこまで時間はかからなかった。
「我はゼクト、アーレス星人だ。どうだ?滑らかに喋れているか?カイル。」
「凄い!!問題なく喋れているよ!」
「フフフ、我はこれでもカイルより年上だからな。これくらい簡単な事だ。」
言葉を話せるようになると、やはり目を付けたのは他国だ。
火星の事をより詳しく知る為、カイルに様々な質問を用意しゼクトに答えるさせるよう催促した。
そこで分かったのが、アルマイト鉱石という火星にしか存在しない鉱石。
ゼクト曰くその石一つで飛行機が飛ばせるほどのエネルギーを生み出すらしい。
そんな事を知れば他国は黙っていない。
「シュラーヴリ皇帝、火星への侵略は貴様の国主導で行ってもらう。」
「お待ちを!我ら帝国民だけで火星を侵略せよと!?」
「そうだ、貴様の先代が犯した罪を償うには多大なる功績が必要となろう。火星を侵略しアルマイト鉱石なるものを持ち帰る事ができれば、多少は償いとなるのではないか?」
奴隷と化したシュラーヴリ帝国に反論の余地はなかった。
しかし火星侵略をたった一国で行うのは負担が大きすぎるのも事実。
そこで他国は提案をしてきた。
「安心せよ、流石に良い案は考えてある。」
「良い案?」
「人間に遺伝子改造を施し、強化人間を作り出せばよい。その者達を送り込み火星を人類の物とせよ。」
「遺伝子改造だと!待たれよ!流石にそれは人道に反するのではないか!!」
「ならば貴様の先代が行った悪逆非道の行いは人道に反していないとでも言うのか!」
先代は地球統一を果たす為何千万という人を殺してきた。
それがあるからか他国は強気の姿勢を崩すことはなかった。
会議も終わり皇帝陛下は1人項垂れる。
傍に寄るのは皇后だった。
「あなた……」
「すまない……我が国の民達よ……またしても他国の言いなりとなるしかなかった。許してくれ……」
皇帝の呟きは皇后だけに聞こえる声であった。
宇宙開発研究所に来た皇帝陛下の使者はとんでもない事を言い出した。
「ふざけるな!!人道に反する行為だろう!!!」
なんと、火星に送り込む人間に遺伝子改造を施すというのだ。
オスカーが怒鳴り散らすのも当たり前だった。
「これは提案ではない、決定事項だ。お前達は我々が厳選する人間に遺伝子改造すればいいだけだ。」
「遺伝子改造はリスクを伴う!!!百歩譲ってその研究は進めよう。だがな、人体実験は必ず必要になるんだぞ。その人材はどうするつもりだ!」
「そういうと思って既に用意してある。これを見ろ。」
カイルは使者から手渡された紙を横から見ると、結構な人数のリストであった。
「なんだこれは?」
「それは犯罪者のリストだ。現在刑務所へと収監されている者の中で特に重い罪の者達だ。それらを実験に使え。」
「ひ、人をなんだと思ってやがる!!!」
頭に血が昇ったオスカーは使者に殴りかかろうとするが傍に控えていた衛兵に抑えつけられた。
「離せ!!!くそ!!なら皇帝に伝えろ!!てめぇら皇族が始めた戦争のせいだとな!!!」
「くくく、まあ聞かなかった事にしといてやる。とにかくこの研究は最優先事項だ。ああ、もちろん重力反転装置の開発も怠るなよ?それと、現在入院中の所長はもう歳だ。今からカイル、貴様が所長となれ。そしてオスカーは副所長だ。無論これはお前達が優秀だからだぞ。では頼んだ。」
それだけ言うとオスカーを抑えつけていた衛兵を伴って研究所から出て行った。
周囲の研究員達も微妙な顔をしている。
「くそが!!!……どうするカイル。こんな非人道的な研究は許されるべきじゃないぞ。」
「やるしかない。やらなければこの国は他国に滅ぼされる未来しかないんだから。」
「こんなことになったのも先代皇帝が馬鹿みてえな戦争を起こしたからだろ!くそ!!!」
彼ら研究者に断るという選択肢はなかった。
宇宙暦310年。
重力反転装置は完成した。
これは重力を自在に操る装置でもあり宇宙船を造る為に必須のパーツとも言えた。
「できたな、遂に。」
「ああ、これで宇宙船に人を乗せて長い航海を可能にすることができる。」
本来は喜ぶべきであったが、素直に喜べなかった。
これが完成したということは火星侵略への第一歩を踏み出したという事でもあったからだ。
「む?カイル。出来たのか。」
ゼクトは研究所内を好きに動き回っている。
もちろん外に出る事は許可された時しか出れないが研究所内であれば許可は必要なかった。
「ゼクト。これでやっと君を故郷に帰してあげられる。」
「ふむ、まあ我はいつでもよい。そもそも長い年月を生きる生物だからな。しかし我々アーレス星人が遂に他の惑星と同盟を結ぶ時が来たのか……楽しみだなカイル。」
「……ああ、そうだな。」
ゼクトには馬鹿正直に火星侵略とは伝えていない。
お互いの惑星発展の為アーレス星人と同盟を結ぶ、その為に人を送り込むのだと説明していた。
だからゼクトは素直に喜んでいた。
純粋だったのだ。ゼクトは疑う事を知らない。だからカイルは余計に胸を痛めていた。
時は変わってカイルの研究室では二人の男が内緒話をしていた。
オスカーとカイルだった。
この話は他の者に聞かせるのはよろしくないと判断しカイルの部屋で話をすることにしていた。
「それでオスカー、あっちの実験は進展があったか?」
「まあそうだな、遺伝子改造された強化人間は完成したぜ。筋力や瞬発力、全てが俺らみたいな人間を軽く超える力を発揮している。」
「そうか。喜ぶべきなのかどうか……じゃあ次は本番だな?」
「また皇帝の使者が来るんだろ。その時に選ばれた人間のリストを見ることができる。まあそのリストに載ってる奴らは火星移住計画に選ばれた者だと嘘をつかれるだろうけどな。」
アルファと呼ばれた強化人間は完成した。
後はその注射を打てばいいだけだった。
しかし、誰に打つのかはまだ2人共知らない。
皇帝陛下が決めた選ばれた人間と聞いているが、使者が来るまではまだ分からない。
そのリストの中にお互いの知り合いがいないことだけを祈るしかできなかった。
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