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カイルの過去②

「おい!カイル!!!」

何処からか走って来たオスカーは息を切らしていた。


「見たかよ調査部門の結果を!」

「ああ、火星に生命体が見つかったらしいじゃないか!」

「これは今日から徹夜になるぞ!重力反転装置が完成しないと火星に人は送り込めねぇ!」

研究所内は慌ただしい。

恐らくカイル達には早く重力反転装置の開発を進めろと辞令が下るだろう。

だが急いだ所で簡単にできるものでもない。


案の定、所長が皇帝陛下の下から帰って来ると所員は全員会議所に集められた。


「皆、聞いていると思うが火星に生命体が見つかった。重力反転装置の開発を急いで進めろとの事だ。それと同時に火星から生命体を連れて帰る事のできる輸送船の開発も進めていく。」

「所長、生命体を連れて帰るというのは?」

「カイルか、言葉通りの意味だ。重力反転装置の開発にはまだ時間がかかると思ったのでな、別の手段も必要になると考えた。そこで人を乗せずに生命体を捕獲する船を作ってしまえば時間を稼げるだろう?少なくとも皇帝陛下から無能の烙印は押される事はないはずだ。」

所長は分かっていたようだ。

重力反転装置の開発はどれほど難しく時間がかかるかを。

少なくとも1年以内に作ることなど到底不可能。

だからこそ、生命体を捕獲するといった奇抜な案を出してきたらしい。

その案により生命体を地球へと連れて帰る事が出来れば、とりあえずの時間稼ぎは出来ると考えた所長はそのような事を皇帝陛下に提案すると、大変喜ばれたそうだ。

皇帝陛下は我が国が何か結果を出すのであれば手段は問わないとの事を所長に伝えた。


そこからは激務であった。

家に帰る時間など、週に2回あればいい方。

所員は全員疲弊していたが、皇帝陛下から無能の烙印を押されれば研究所は潰される。

だから寝る間も惜しんで、開発に力を入れた。



宇宙暦302年。

遂に完成したのだ。

研究所の努力もあってかたったの2年で出来たのは奇跡というほかなかった。

自動AIを搭載された捕獲船。

火星の生命体を連れて帰る事の出来る無人の捕獲船。


世界各国にお披露目をし、飛び立った捕獲船はこれから約半年かけて火星を目指す。

短距離ワープ航行は既に完成されており、もちろん捕獲船にも搭載されていた。


「後は生命体が船に乗ってくれる事を祈るしかないだろうな……。」

捕獲船は船内に有機生物を認識すると勝手に扉が閉まり、地球への帰還プログラムに従って帰ってくる。

後は地球側で出来る事などない。

これからは重力反転装置開発に全力を注ぐのみだった。



それから約2年の月日が流れた。

重力反転装置開発は佳境に入っている。

そんな時、地球の軌道上にいる衛星が信号をキャッチした。


「なに!?2年前に送り出した捕獲船が地球に戻ってきているだと!?」

副所長となったカイルの元に別の部署からそんな情報が入ってくる。

すぐさま通信室を飛び出したカイルは親友とも呼べる彼の下へと走った。


「オスカー!!!オスカーどこだ!!」

「なんだ、カイル。今いい所なんだから静かにしてくれよ。」

重力の実験をしていたオスカーはめんどくさそうに返事をする。


「そんなもんどうでもいい!!帰って来た!捕獲船が帰って来たぞ!」

「なんだと!?今どこにいる!!!」

「衛星が信号をキャッチしたらしい。恐らく1か月もかからず地球に戻ってくる。」


近くにいた研究員達も喜びを露わにする。

しかし本来であれば、副所長よりも所長に情報は伝達されるべきであったが今や所長は老化により入院生活となっていた。

カイルが所長に成り代わるのも時間の問題であった。




太平洋へと着水した捕獲船のカプセルは重機と大型船により引き上げられ、研究所へと運ばれる。

厳重に監視された部屋に運び込まれ軍の者達が銃をカプセルに向けていた。

これは安全措置だった。

火星の生命体が必ずしも友好的とは限らない。

万が一を考え厳重な警備体制をとっていたのだった。


「カイル副所長、こちらは準備完了しました。」

「ありがとう、大佐。」

大佐と呼ばれた隊長はカイルに歩み寄りそう伝える。

手に汗を滲ませ、ゆっくりとカプセルへと近づく。

カイルが設定された暗証番号を入力するとロックが解除されカプセルの扉は開く仕組みだ。


ゆっくり、確実に一文字ずつ入力していく。

最後の文字を入力するとすぐさま距離を取った。

軍の者達の表情にも緊張が見て取れた。


「開きます。」

カイルがそう言うと空気が漏れ出る音がし、扉が開く。

中から出てきたのは狼だった。

いや、狼の見た目をした地球外生命体であった。


その狼は辺りを見回すと不思議そうな顔を見せる。

現状を理解できていないのか、首を傾げていた。


カイルはそんな狼を見て思った。

恐らく敵対心はなさそうだと。そして何より幼いのだと。

その狼の一挙手一投足は本当の狼の子供と同じであったからだ。


「カイル副所長!近づくのは危険だ!!離れろ!!」

大佐はもしもの事を考え忠告するがカイルは足を止めない。


「くそ!!これだから研究者というのは嫌いなんだ!!」

すぐさま銃を構えトリガーに指をかけるよう、周りの軍人に合図を出す。


「君が、火星の生命体、だね?僕の名前はカイル・ドルクスキー。君は?」

「…………ガゥゥ。」

唸ったのかそんな声らしきものだけが狼から聞こえる。

やはり言葉を理解できていないようだった。


「大佐、全員に銃を下すよう命じてくれないか?この子が驚いているようだから。」

「それはできん!危険すぎるぞ!!」

「大丈夫だ。なんとなく僕はそう感じる。頼むよ大佐。」

カイルに優しい口調で頼まれると大佐も黙り込む。

大佐とカイルは学生時代の同級生でもあった。

そんな彼が真剣な目付きで自分に訴えかけてきている。

無下には出来ず、仕方なく大佐は命令を下す。


「全員、武器を下げろ。ただ緊急時に備えて壁際に待機だ。」

「ありがとう大佐。これでこの狼君は安心できるだろう。」

昔からカイルは動物に対して優しかった。

誰に対しても優しかった。

そんなカイルを大佐はどうしても嫌いにはなれなかったのだ。

口では研究者などと言うが、本音ではカイルを心配しての発言だ。



「さあ、脅威はなくなった。君の事を教えてくれないか。」

宇宙暦304年3月。まだ寒さが残る頃の出来事であった。

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