第三章 カイルの過去
宇宙暦300年4月。
カイル・ドルクスキーはシュラーヴリ帝国が誇る最高峰の宇宙開発研究所へと就職した。
帝国の頭脳とも称されるほどの場所であり、入りたくても簡単に入る事の出来ない研究所であった。
しかしカイルは天才科学者とも言われる程に優秀な人物である。
まだこの時代は衛星のように地球の周りを飛び回るコロニーに人が住める程度であった。
他の惑星には未だ到達できていない時代。
「おはよう。」
「ああ、おはよう。今日も重力反転装置の開発に力を入れるか~。」
「そうだな。しかしこれが完成したら、他の惑星に移住でもするんだろうか?」
「さあな、上の考えてる事なんてわからねぇさ。さあやるぞカイル。」
いつものように新しい技術の開発に取り組む。
現在開発中の重力反転装置が完成すれば、長距離航行を可能とする宇宙船が作れることになるだろう。
皇帝陛下は今や他国の傀儡だ。
言われるがままになっている。
それもそうだろう、先代が犯した罪があるのだから。
シュラーヴリ帝国は他国に比べて領土も大きく軍事力も圧倒していた。
だからなのか、図に乗ったのだろう。
世界に宣戦布告をしたのだ。
他国は黙っている訳がなく地球全土を巻き込む世界大戦へと突入した。
最初は優勢だったが、全ての国を相手取りずっと優勢でいられる訳がなかった。
次第に領土を奪われていき最後には、先代皇帝陛下は処刑された。
その後は当然の如く属国となった。
他国の温情により生かされた国。そんな呼ばれ方をする時もある。
現在宇宙開発研究所で作られている重力反転装置も他国から命令されて作っている物だ。
何の為かは知らされず。
恐らく住める惑星でも見つければ、入植するつもりなのだろう。
「そういや、カイル。お前嫁さんの誕生日は何かしてやるのか?」
同僚のオスカー・ハインリッヒがニヤけた顔付きで茶化してくる。
こいつはいつもそうだ。
人をおちょくるのが好きな奴なのだ。
「うるさいな、仕事中だぞ。」
「いいじゃないか、少しくらい雑談しても。それで?何をしてやるつもりなんだ?」
放っておいてもずっと同じ質問を繰り返されそうだと、仕方なく教えることにした。
「ニナにはネックレスを送るつもりなんだ。ほら、最近近くに高級ブランドの店ができただろ?」
「あー!あそこか!あそこ結構高いぞ?奮発するんだな!!」
確かに少し高い買い物になる。
しかし、ニナにはいつも世話になっているしたまにはいい物を買ってあげてもいいだろう。
「にしてもネックレスかよー、ありきたりじゃないか?」
「いいだろ別に!女の人はアクセサリーが好きって言うじゃないか!!」
このままオスカーと話していても会話が終わらなそうだと感じまた仕事に戻る。
それでもオスカーは話し掛けてきていたが、僕が反応しないのを見て諦めたのかいつの間にか仕事に戻っていた。
こんなおちゃらけた奴でもこの研究所に入れるくらいには頭がいい。
終業の音楽が流れた。
今日も一日働いたと伸びをする。
オスカーも同じように伸びをしていた。
ずっと機械をいじっているのも肩が凝るのだ。
「帰るか。」
「そうだな、僕はこのままあの店に行ってくるけど。」
「あー、誕生日プレゼントね。じゃあ俺はこの辺でお暇させてもらうぜ。また明日な!」
彼の明るい性格は誰にでも好かれそうだ。
アクセサリーを購入し帰路につく。
高級と謡われてるだけあってなかなかの値がしたが、ニナの喜ぶ顔が見れるなら十分だ。
二ナの笑顔を想像しながら、玄関のドアを開けるといい匂いが漂ってきた。
晩飯の用意をしているようだ。
「ただいまニナ。」
エプロンを着て調理をしていたニナの後ろ姿に声を掛ける。
声に気づき振り返るニナはとても可憐だ。
僕にはもったいないくらいの人だ。
「あら、おかえり!もうすぐご飯できるから待っててね!」
「ありがとう、それで明日ニナの誕生日だろ?だからこれ、一日早いけど、誕生日おめでとう。」
買ってきたばかりのネックレスが入った紙袋を渡す。
「え!なにこれ!いいの?」
「もちろん、ニナの為に買ってきたんだ。」
「嬉しい!!!!ありがとうカイル。」
紙袋を一度テーブルに置き、ハグをする。
ニナとは学生の頃から付き合い去年遂に結婚した。
お互いまだ22歳、今が一番楽しい時だ。
先代皇帝陛下が起こした戦争の傷跡は未だ残っている。
帝都はかなり復興され元通りに近いほどになったが、少し都市部から離れると瓦礫が撤去されずに残っていたりする。
帝都に住めるのは選ばれた者達だけだ。
いわば優秀な者。
カイルは他を圧倒する頭脳があり有能と判断された。だからこそ帝都に家を構えている。
妻のニナは専属主婦だ。
家に帰るとおかえりを言ってくれる、そんな温かい家庭を作ってくれていた。
研究所で新技術の開発に勤しみ、家に帰るとニナが出迎えてくれる。
そんな毎日だった。
ある日研究所へカイルが足を運ぶと、所内が騒がしくなっていた。
「どうしたんだ?これ何の騒ぎだ?」
カイルは近くにいた所員に話し掛ける。
「ああカイルさん、それがですね見てくださいよこれ。」
そう言ってカイルに一枚の紙を見せてきた。
宇宙開発研究所の調査部門が発行した紙だ。
そこには、火星にて生命体の撮影に成功したと書かれてあった。
「嘘だろ!?」
「ほんとらしいですよ、さっき所長が使者に連れられて皇帝陛下の元に向かいましたから。」
宇宙開発研究所の資金は全て国が出資している。
その為研究結果や成果が出た場合、まず最初に皇帝陛下の元へと持って行かなければならないのだ。
所長がその判断をしたということは本当だという事。
まさか火星に生命体が見つかるなんて。
カイルは急いで重力反転装置の開発を進めなければならなくなりそうだと、そう感じた。
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