トリカゴの住人⑦
「私から提案があるわ。今日から私と訓練しないかしら?」
ラインハルトの娘というだけでも、恐らくあの英雄から手ほどきを受けているはず。
願っても見ない事だ。
「こっちからお願いしたいくらいです。」
「俺も頼む!」
「リコもー!!!」
「ふふ、もちろん全員よ。じゃあ明日から毎日朝になったらここに来てくれるかしら?」
その日から僕らは訓練に明け暮れた。
毎日木剣を振り、格闘術を習い、汗を流した。
分かったことは、僕らなんて比較にならないほどアスカは強かった。
英雄に自分を超えると言わしめたその才能は遺憾なく発揮されている。
宇宙暦802年。
遂に僕らは16歳となり、試験の日がやってきた。
兵士は常に必要とされている。
だから、よっぽど体力がないとかでない限り落ちることはないだろう。
「貴方達の訓練の成果見せてもらうわよ。」
「アスカ、俺達が目に物見せてやるぜ!」
売り言葉に買い言葉。
リッツの性格は変わらなかったようだ。
兵舎の横に併設された訓練場に今期試験を受ける者達が集まっている。
ほとんどが10代だ。20代は数えるほどしか居ないだろう。
成績が低ければ、殲滅隊には入れない。
次点の成績で討伐隊と機工隊。僕の両親やリッツの両親が所属していたのは討伐隊だ。
その次が外壁防衛隊。
最後に門兵や都市防衛隊となる。
少なくとも黒狼のゼクトと出会うには最低でも討伐隊か機工隊に入ることが必須となる。
成績上位者は何処に所属するか選ぶことができる。
殲滅隊だけは、上位5名のみが入れるとのことだ。
訓練期間は1週間。
体力、格闘術、剣術、兵器運用術、座学、の実力を総合で見られる。
兵器運用術は全員が初見になる訳だから、僕らにとってそこまで重要視されていない。
リッツは体力と剣術に秀でている。
リコは体力と格闘術。
僕は剣術と座学。
アスカは言うまでもないだろう。
「適当に5.6人で集まり班を作れ!そのメンバーで1週間の訓練試験を行う!」
「僕、リッツ、リコ、アスカ、あと1人か2人どうしようか?」
4人で組むことは決まっていたが残りのメンバーを探していると、同様に2人の男女がキョロキョロしていた。
「あの2人でいいんじゃないか?俺が声掛けてきてやる。」
そう言うとリッツはその2人の方に向かい何やら話をすると3人で戻ってきた。
「初めまして、ボクはレイン・クリストファー。」
「ワタシはルナ・ジーン。」
男がレインで女がルナだな、覚えた。
それにしても声が高い男の子だな、珍しいと思う。
簡単な自己紹介も済ませた所で、教官の前へと移動する。
「よし、班は出来たみたいだな。それではこれより、訓練を開始する!ちなみに私は教官のガデッサ・バルバトスだ!元遊撃隊の一員だった。」
遊撃隊の名前を聞いただけで、各所から歓待の声が上がる。
解体された後も人気は衰えていないようだ。
「まずランニングを行ってもらう!一番外の壁と内側の壁を往復してここに戻ってきてもらおう!さあ行け!!大体のやつは3日以内に戻ってくるがはたして今回はどれだけの奴が脱落するか……」
最初から体力訓練なのは気が滅入ってしまうが甘えたことは言っていられない。
「おいおい、とんでもなく長い距離だぞ?」
「とにかく行こう。もう動き出している班もいるみたいだし。」
「多分早く帰ってくることも点数に反映されそうね。」
ランニングは一部を除いて帰ってきた。
帰ってこなかった者は兵士になるのを諦めたのだろう。
2日かかってしまったが、ほとんどの者が同じだったはず。
ただレインの体力のなさには驚いた。
本当に男か?と疑ってしまう程にバテていた。
「今期は割と優秀なやつが多いのかもしれんな。よし次!格闘術に移る!!」
やる気満々なリッツとやるとこっちの体力が持たなくなる。
だから僕はレインと組むことにした。
リコはルナと仲良くなっているみたいだ。
時折聞こえる笑い声が物語っている。
「さあ!やるよ!ライル!!!」
レインがやる気になっている。
まさか格闘術は得意なのか?
と、思ったが案の定というべきか、そんなに得意ではなかったようだ。
軽く蹴りをいれただけなのに吹っ飛んでしまった。
「いてて……強いんだねライルは。」
「いや、そんなに強くないけど……格闘術ならリッツやリコには敵わないよ。」
剣術なら自信はあるが格闘術はあの兄妹に勝てる気はしない。
「なあ、レイン。なんで君は兵士になろうと思ったんだ?」
「なろうと思ったんじゃなくて、ならなくちゃならないんだ。」
「……そっか。」
強く力強い瞳で見つめてくるレインには、何か並々ならぬ覚悟が垣間見えた。
これ以上は踏み込まないほうがいいと感じ、話はそこで終わらせた。
「ライルこそなんで兵士を目指してるのさ。」
「僕は両親が兵士だったから。人類反撃の一手になるために、仇を討つために。」
「ごめん、悪いことを聞いたね。」
「大丈夫だ。今はもう気持ちの整理できてるから。」
それからはお互い無言で淡々と格闘術をこなしていく。
「そこまで!!!昼休憩後相手を変えて格闘術の再開だ!」
「ライル、相手をお願いするわ。」
アスカとは組まないと決めていたがまさか向こうからやってくるとは思わなかった。
ボコボコにされた訓練の日々が蘇り、苦笑いになる。
「ライル、私はこの中で一番成長を感じたのは貴方よ。」
組み手を行いながら、話しかけてきた。
「そんなことはない、リッツなんてすごい動きが速いし、リコなんて体力お化けだ。」
「それでも私は貴方に可能性を感じた。」
天性の才があるアスカからそう言われれば悪い気はしない。
「唯一ライルが私より優っていると感じた部分があるの。反射神経よ。貴方の反応速度は私を超えている。」
僕は昔から、反応速度が異常に速かった。
脳が動けと命令し、身体が動くまでのタイムラグが一般の人に比べてほとんどない。
それが訓練のおかげが、今では脳が動けと命令した時には既に身体が動いているほどになっていた。
だから、どんな攻撃も避けられる。
ただ残念なのは体力がないことだ。
体力が尽きた時、足は止まってしまう。
戦場ではそれが命取りだろう。
「貴方のその絶対回避。必ず役立つときが来るわ。どんな凄い攻撃も当たらなければ意味がないから。」
「まあそれをどれだけ持続できるか、だけどね。」
「そう、逆に貴方は他の人に比べてびっくりするほど体力がない。体力訓練も今後は時間を増やそうかしら。」
「ま、待ってくれ!これ以上訓練時間を延ばしたら死んでしまう!」
「訓練を怠って死にたくはないでしょ?ライル、私は貴方に死んでほしくないわ。」
「分かった。確かに後悔して死にたくはないから。」
しぶしぶだがアスカに言いくるめられ、そう返事を返した。
訓練試験は滞りなく進めることができた。
班のみんな誰も脱落せずに。
レインが心配ではあったが、なんとか訓練に着いてこれてたと思う。
「ふむ、最初の人数から比べれば約8割残ったな。今期は本当に優秀なやつが多いみたいだな。ではこれより最終試験を行う!!一対一の模擬戦闘だ。誰と誰が当たるかはこちらで決めさせてもらう。もちろん勝ち負けは大事なことだが、これはあくまで試験だ。負けたとしても立ち回りがうまければ評価に繋がる。」
アスカとは絶対に当たりたくはないな……
勝てないし、上手く立ち回れる気もしない。
「そうだな、今期は優秀な奴が多い。成績一位となった者には特別に訓練場の掃除をさせてやろう。」
全然ご褒美とは思えないが……
皆の睨みが効いたのか教官は咳ばらいを一つ。
「おほん!冗談だ。」
「では一番手を発表する!!」
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