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トリカゴの中で彼らは真実を知った①

夜が明けると、軍司令部の兵士達が街へと繰り出していた。

外を出歩けば必ず出会うといっていいほどの数だ。


「これからどうしますか?」

「今はまだ動けん。下手に動けば一気に敵が押し寄せる。」

僕らが質なら、軍司令部は数だ。

アンドロイドも含めた戦力は、僕らと比較にならないだろう。

そんなのが一気に押し寄せれば、流石の殲滅隊も無事では済まない。


「じゃあこの本、ちょっと見てもいいですかね。」

「ああ、どうせ何もする事はないからな。」

”地球との交信記録及び火星での生態観察”の表紙をゆっくりと捲る。

目次らしきものはなく、いきなり文章が記載されていた。


――宇宙暦320年1月――

火星に人類が足を踏み入れた。

これは人類史上初めての事だ。快挙といっていいだろう。

そして新たな土地と資源を得て、また一歩人類は繁栄していく。



どうやらこれを書いた人は興奮していたのだろう。

文字が書き殴ったかのように汚く読めない部分も多い。

いくつかページを捲るとまた読める部分が出てきた。



――宇宙暦350年4月――

火星侵略は思うように進まない。

想定以上にアーレス星人の反撃が大きく、被害は甚大である。

しかしカイルが三枚の壁と電磁障壁を作り上げた。

トリカゴと呼ぶらしい。

それにしても、遺伝子操作された彼らの戦闘能力は素晴らしいの一言だ。

これからの成果に期待したい。


交信記録というには少し違う気がする。

この書き方は日記を書く時の書き方だ。

違和感を覚えたが、また先を読み続ける。



――宇宙暦400年1月――

最初に足を踏み入れてから80年が経った。

これを書いていた父が病気で亡くなった為これからは息子である私が書こうと思う。



書き手が変わったらしく、筆跡も読みやすいものとなった。

書いた人の名前が分からないがいったい誰だろうか。



――宇宙暦401年8月――

この星を侵略するために送られた彼らはとても身体能力が高い。

それは次の世代にも受け継がれる事が分かった。

流石は遺伝子研究の賜物と言うべきか。

しかしながら私はこんな非人道的な研究は許されるべきではないと思う。

この事を本国に送り付けたが、反応はいまいちだった。

それもそうか、これは我が国の犯した罪の償いなのだから。



「何よこれ。償いって何?」

横から見ていたザラさんの目に留まった言葉は償い。

僕も意味が分からずとにかく先を読み続けることにした。



――宇宙暦405年7月――

本国から船が来た。

資源を回収しにきたらしい。

トリカゴ内の資源しか取れていないが、それでも有り余るほどのアルマイト鉱石を得ることが出来ている。

本国に帰りたいと願う者も多いが船には乗せてもらえない。

ここは島流しと同じなのだ。

ああ、私も地球の海を見たい。ここは見渡す限りの荒れ地だ。

心も荒んでいく。


――宇宙暦406年1月――

珍しく本国からの船がまた来た。

今度は何事かと思えば、人員の補充だった。

今度の遺伝子操作で出来た人間は前回より身体能力が高くなっているらしい。

もう彼らを実験と言う名の玩具にするのは辞めてあげてほしい。

ただ、私が何を言おうが意味はないが。

今地球では我らの祖国シュラーヴリ帝国はどうなっているのだろうか。



――宇宙暦406年4月――

延命処置を施されていた人類の宝、カイル・ドルクスキーが遂に老衰で亡くなった。

最後に残した言葉は、ゼクトすまなかった。だ。

ゼクトと言えば確か最初に人類と接触したアーレス星人だったはず。

彼はどこで何をしているのだろうか。



見覚えのある名前が出てきてページを捲る手が止まった。

カイルは100年以上も生きていたのか。

それよりもやっと地球の話が出てきた。引っ掛かるのは遺伝子操作という言葉だ。

時たま出てくるこの言葉は何を意味するのだろうか。

ライルはまたページを捲りだした。



――宇宙暦410年10月――

本国からまた船が来た。

今地球では戦争が起きているらしい。

人類はシュラーヴリ帝国の愚行で何も学ばなかったのか。

話によると、今度は四大国の一つ、バルトステア王国が覇を唱えたらしい。

また我らが祖国のような事にならなければよいが。




――宇宙暦411年1月――

妻が亡くなった。

もう私に生きる気力はない。

こんな地球と離れた火星で死にたくはない。

地球に帰りたい。


日記らしきものはここで途切れていた。

恐らく著者が妻の死で書く気力が無くなったのだろう。

その後に続く内容はまた少し変わって来た。

恐らく研究成果とでもいうのだろう内容だ。



――宇宙暦420年、研究結果――

これは本国に送った内容と同じものである。

火星侵略の際、遺伝子操作を施された強化兵士達、以下アルファと呼称する。

アルファの戦闘能力は総じて高かった。

しかしアーレス星人は想定以上の戦闘能力を保持しておりアルファでは太刀打ちできない事が分かった。

故に第二の実験、さらなる遺伝子操作と配合による強化兵士の運用が開始された。

以下、ベータと呼称する。

ベータの戦闘能力は生身で侵略者と戦える程であった為、アルファは全て処分した。

現在、トリカゴの住人は8割がベータとなっており、今後の侵略は捗ると予想される。

しかし、侵略開始から100年の月日及びかかったコストは莫大であり、未だ我が国は他国より優位に立つことは出来ないとされる。


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