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真実は思っていたより残酷で⑨

アイオリス山を出て3日。

果てしない荒野を僕らは走っていた。


「それにしても、地球じゃなくここは火星だと思えばこの光景もなかなか素敵に思えるわね。」

ふと隣にいるアスカが呟く。

何処を見渡しても赤土の荒野が続いており所々にクレーターが存在する。

そんな景色も火星だと思えば、確かに美しいと思えた。


「とりあえず、どうやって軍司令部に入り込むか考えましょうかね?」

「正面突破だ。」

「いやいや隊長馬鹿なんですか?死ぬでしょそんなことしたら。」

「真実を隠していた罪は重い。俺が全員殺してやる。」

なにやら物騒な会話をしているのはアレン隊長とゼノン副長だ。

隊長格にすら秘密にされていた真実は想像より重かった。

何より僕らは、何も知らずただ罪なき異星人を殺していた集団だ。

後で分かった事とはいえ、軍司令部には腹が煮えくり返る思いだった。




―その頃軍司令部では−


「まだ見つからんのか!?」

「申し訳ございません!」

ある一室で男の怒号が響く。

その男、シュラーヴリ帝国最高司令官はオルザに逃げられた事に苛立ちを隠せていなかった。


「奴は私の部屋にある物を見た可能性が高い!殺さなければ今まで隠し続けた罪が暴かれる事になるぞ!」

「今全力で街中捜索しておりますが未だ見つけられず……。」

「さっさと見つけろ!!見つけ次第その場で殺せ!!もしも外部にこの事が漏れればこの軍司令部は壊滅するぞ。」


部下が部屋を出ていくと、近くにあった酒に手を伸ばす。

椅子に深く座り酒を一気に喉へと流し込んだ。


「ふぅ。くそっ、奴らが一斉に反乱を起こせば流石に我々も無事では済まんぞ。」

「ですがこちらには戦闘用アンドロイドが複数体あります。」

「馬鹿を言うな、奴らは戦闘に特化した人間だ。アンドロイドがあるからといって安心はできん。」

「大丈夫でしょう。こちらのアンドロイドは痛みも感じずただ命令に従う殺戮マシーンです。」

「貴様は知らんのか?副司令。」

「何をですか?」

少し考える仕草をした司令官は唸る。

しばらくして目を開けた司令官はこう言った。

「知らぬなら知らぬままでいい。遺伝子操作の件は知らぬ者が少ない方がいい。」


それだけ言うと副司令も部屋から追い出し、一人考え込む。

「厄介な事になったな……一度地球に戻った方が良いか……?」

その独り言は誰にも聞かれることはなく、ただ部屋の中へと消えていった。



アイオリス山を出発して6日。

ライル達は後1日もあればトリカゴに帰還出来るという所まで帰ってきていた。

アレン隊長とゼノン副長の作戦会議は煮詰まっており、軍司令部にある本を奪取するいい方法が見つかってはいなかった。


そんな時であった。

「隊長、前から何者かが一人でこちらに向かって来ています。」

アレン隊長の無線から有り得ない内容が聞こえてきた。

今この世界でトリカゴの外を出歩く者はいない。

いたとしても討伐隊くらいだが、一人で行動など死にたがりとしか思えない。


「識別コードは?」

「今確認しています、出ました。討伐隊第九小隊所属、リコ・グラストンです。」


思わず僕とアスカは目を合わせる。

今の名前はどう考えても幼馴染だったからだ。


「リコ?確かお前のツレだったかライル。」

「え、あ、はい。でもなんでリコが……。」

1人で外に出る事すら有り得ないのに、それに加えてリコだという事が何やら嫌な予感がする。


「アレン隊長、リコ・グラストンはジェットスラスタで飛んできています。車両は使っていないようですが……」

「なんだと!?」

本来、壁外に出る際は車両を使う。

緊急時にジェットスラスタは使う物であり決して移動手段ではない。

なのにも関わらず、ジェットスラスタでこちらに向かってくるという事は、途中で車両が壊されでもしたか、と考えたがゼクトは現在アイオリス山に全てのアーレス星人が集まっていると言っていた。


「一度止まれ。全車両に伝えろ。」

アレン隊長も何かおかしいと感じたのか全員止まるよう指示をした。


外に出て向かってくる方向をよく見ると確かに小さくだが人が空を飛びながらこちらに向かってくるのが見える。

「どういう事だ、リコ……。」

「何か訳アリじゃないかしら。多分リコの考えではないと思うわ。誰かの指示によるものとしか考えられないわね。」

「でも普通に考えてさ、ここまでガスが持たないだろ。トリカゴから。」

「そうね。でもガスを3人分用意できるのであれば、可能よ。」

「そうなのか?」

「計算すれば分かる事よ。」

そう言われれば何も言えなくなってしまう。


「おい、ライル。」

アレン隊長に肩を叩かれ振り返る。


「お前は何か聞いているか?」

「いえ……何も。それにリコは何か考える事は不向きです。恐らくこちらに向かってくるのも誰かの指示かと。」

「ふむ。念の為全員サウズを起動させておく。万が一我々が軍司令部にある本を狙っているとバレていた場合できるだけ近しい者を使って俺達を亡き者にしようとするはずだ。ま、有り得ないと思うがな。」


そうだ、有り得ない。

そもそもアイオリス山で聞いた話はここにいるメンバーしか知らない。

その情報を僕らより先にトリカゴ内に持ち帰る事は不可能のはず。

ただ、軍司令部は秘密が多い。

もしもこの中にスパイを紛れ込ませておいて、通信機のようなものでトリカゴ内に情報を伝える、というのもなくはない話だ。

それを危惧した隊長は念の為サウズの起動を指示したのだろう。

もしもリコが敵に回っていたら?

それだけがどうしても怖い。



少しずつ近づいてくるリコに不安を感じた。

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