真実は思っていたより残酷で⑦
アイオリス山で一日を過ごした殲滅隊はトリカゴへ帰る準備をしていた。
ゼノン副長は昨日の出来事などまるでなかったかのようにニアさんに脅かされた事は綺麗に記憶から抜け落ちていた。
しかし寝る前外したニアさんから貰ったネックレスを忘れた事に気づいたライルは部屋へと1人戻ることになった。
「すみません、忘れ物したんで取りに行ってきます。」
「あ、ライルお前あの部屋に行くのか?じゃあ俺もトイレ行きてぇし一緒に行こうぜ。」
BBさんと一緒に部屋へと急ぐ。
一応ゼクトから部屋以外は危険だと聞いていた為、2人共早足になる。
トイレは部屋を出てすぐ近くにあるがほんの少しの間だけBBさんは一人になってしまう。
それが気がかりだったが一瞬で終わるからと1人でトイレへと入って行った。
僕も部屋へ入り、ネックレスを手に取る。
「ぐああああ!!!」
首に着け、もう忘れ物はないかと部屋を見回していると部屋の外から悲鳴が聞こえた。
「BBさん!!!!」
やはり一人になるべきではなかった。
常に2人で行動すべきだったと後悔しながらも部屋の外へ出ると腹から血を流したBBさんが横たわっていた。
「BBさん!!大丈夫ですか!?誰にやられたんですか!」
肩をつかみ必死に声を掛ける。
辺りに飛び散った血の量からして恐らく長くは持たないと判断したからだ。
「ラ、イル……奴だ……死神……逃げろ。奴はまだ近くに……。」
かすれかすれだが大体の言葉は聞き取れた。
死神のエイレン。奴だ。
一度出会った時の殺意はやはり本物だったようだ。
「行け!!!俺が足止めしてやる……お前は隊長の元へ走れ!!!!」
「ですがBBさんを置いていけませんよ!!」
「このままだと2人共殺される……早く!!!!」
BBに突き飛ばされ、見捨てたくはなかったライルだったがこのままだと2人共殺されるのは明白。
BBに謝罪しその場を駆けだした。
「それでいいんだよ……お前は死んじゃあならねえ人物。さあ来いよ死神ぃ!!俺はまだ死んでねぇぞ!!」
後ろから聞こえるBBの声はライルの心を酷く抉った。
必死の形相で走って戻って来たライルを何事かと隊員達は視線を向ける。
ライルの横にBBが居ない事がただ事ではないと誰もが思った。
「あ、アレン隊長!!BBさんが!BBさんが死神に!!」
死神のワードを聞いたゼクトは顔が歪む。
恐らくこの後に続く言葉を予想してしまったからだろう。
「BBさんが死神に殺されそうです!!至急応援を!!!」
「聞いたな全員!!!戦闘準備!!!」
言うが早いかアレン隊長はすぐさま駆け付ける準備を行うがそれを手で制したのはゼクトだった。
「待て、アレン。死神のエイレンは生半可な者では返り討ちに合うだけだ。精鋭のみ連れて行け、我も行く。」
「我々殲滅隊は全員が精鋭だ。」
「我から見れば数人以外は取るに足らん戦力に見えるがな。」
しばし無言でにらみ合い、無為に命を散らせたくないと考えたのかアレン隊長は数人以外をここに残していくことにした。
「ふむ、アレン、ザラ、ロウ、ライル、アスカか。まあ良かろう。」
5人とゼクトでBBの救出に向かう事となったが、ゼノンをここに残したのは万が一ここを襲われた場合を考えたからだった。
「ライル!!BBの所へ案内しろ!!!」
「はい!!!」
凄惨な状態であった。
辺りは血が飛び散り、白い壁や床が赤く染まるほどだった。
その真ん中に仰向けで倒れているのはBBであった。
「くそ!!周囲警戒!!ザラ!BBの手当を!!!」
僕とアスカは周囲を警戒し、ロウさんはアレン隊長の傍で護衛として張り付いている。
ゼクトはそれを少し離れた所から見ていた。
「アレン隊長……BBはもう……。」
ザラさんの掠れるような声が間に合わなかったと物語っていた。
「そんな……僕もあの時!一緒に戦っていれば!!!」
あの時逃げなければ、あの時共に戦う覚悟をしていれば、そんなたらればがずっと頭の中で繰り返される。
「いや、ライル。お前が共に残っていた所で何もできず死んでいただろう。」
無情にもゼクトはそんな言葉を投げかけてきた。
「なんだと!?」
「そもそも死神のエイレンの事、何も知らぬであろう?初見では何も出来ずただ殺されるだけの末路しかない。」
「どういう事だゼクト。」
「奴の特殊能力が厄介なのだ。姿を消し気配すらも消すことが出来る完全な隠密が可能な特殊個体だ。」
BBさんが言っていた、まだ近くに居るという言葉。
あの場には2人しかいないように思えたが、死神は殺す隙をすぐ近くで窺っていたのだろう。
だからBBさんは急いでその場から僕を逃がした。
確かに知らなければ何も出来ずやられていた。
ゼクトは呆然とした僕らを横目にある一点を見つめている。
それが何であるかは理解できた。
見えずとも先ほどの話を聞いていれば分かる。
「出てくるといい、死神のエイレン。我に貴様の能力は効かんぞ。」
「ククク、ゼクト。やはりお前はそちら側についたか……。」
「元より我はこ奴らと争うつもりはなかった。」
「まあ、いい。私は人間を滅ぼそう。ゼクト、守れるものなら守って見せるがいい。」
「貴様……ここから無事に逃げ出せると思うたか?」
ゼクトと死神のやり取りをじっと見つめる。
ここに来たのは間違いだったかと考えさせられるようだ。
「ククク、ゼクトよ。私がたった一人で事を起こすと?流石に私一人でお前やガルムを相手に大立ち回りは難しいことくらい分かっている。」
「まさか、味方をつけたか……。」
「その通りだゼクト。人間に恨みを持つものは少なからずいるぞ。今のこいつらに関係はなくとも遥か昔人間が行ったことを私達は忘れん!!!!」
「まだ争いを続けるつもりか貴様!!!」
「黙れ!私は殺す。人間を1人残らず!!!この星に存在する全ての命が消えゆくまで!!」
死神が大鎌を振るうと、それが合図といったかのように死神と僕らを隔てる壁が天井から降りてきて、完全に遮ってしまった。
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