アイオリス山脈⑩
1週間という長い遠征の末、ライル達殲滅隊はアイオリス山の麓へと到着していた。
不思議と一度たりとも侵略者と遭遇しなかった事にみな不気味さを覚えたが口にはしなかった。
黒狼のゼクトが何かしたのかもしれない。
そう思っても誰も何も言わない。
ただ、淡々と車を走らせ続けた。
「ここが……ゼクトの言っていたアイオリス山。ただの山にしか見えないけど……。」
ライルにはただ大きな山にしか見えなかった。
何故ここを指定したのかも理由が分からない。
「おい、ライル。到着した後はどうすればいい。」
アレン隊長は、ライルに向かって問いかける。
「多分、ゼクトが来るはずです。」
その言葉通り黒き災害と呼ばれ恐れられた化け物は姿を現した。
誰も予測していなかった所から。
重い物を引き摺るような音を立てながら殲滅隊の目の前にあった巨大な岩が真っ二つに割れる。
その中から黒狼のゼクトは現れた。
「なっ!これは……。」
「まさかここを指定した理由は……侵略者の本拠地か……。」
アレンは明らかに造られた扉と思わしき巨大な岩を眺め呟く。
岩と思っていた物はただの扉であったようだ。
「ふむ、察しが良いなそこの人間。」
ゼクトはアレンを見つめ言葉を放つ。
初めて人間の言葉を発するゼクトを見た者は驚き後ずさり尻餅を付く。
ライルやアスカのように一部の者を除けば、殆どの者はゼクトが人間の言葉を流暢に扱う所を見たことはない。
その一部の者から聞いてはいたが、やはり実際に自分の目と耳で見た現実は驚きが勝ってしまう。
「そんなに下がらずとも良い。取って食うようなことはせん。」
「ほ、本当かよ……。」
BBは怖がりながらもなんとか尻餅を付かず踏みとどまる。
「ここアイオリス山は我らの本拠地だ。もう分かっていると思うがこの岩に見える扉の先はお前達人間が初めて見る光景だ。しかと目に焼き付けろ。」
そう言いながらまた開いた扉の先へと戻って行くゼクト。
みな固まったまま動けずいると、またもゼクトから声が掛かる。
「何をしている、さっさと着いてこい。ここまで来た覚悟はどうした。」
なんとなく感じていた。
侵略者は人類を超える技術があると。
目の前で数十メートルはある巨大な岩を模した扉が開く様は圧巻だった。
こんな大質量の物が動いている時点で人類の技術は超えていた。
「行きましょう隊長。全ての答えはその扉の先にあります。」
「ああ……それにしてもこんな技術を持ってる侵略者を相手に戦っていたのか我々は……。チッ、行くぞお前ら。」
アスカは何も言わずライルに着いて行く。
そしてアレン隊長を含めた全ての者は人類初となる地へと足を踏み入れた。
扉の先は長い通路が続いていた。
先頭を行くゼクトにみな着いていく。
「これに乗るがいい。」
ゼクトが巨大な鉄の箱のようなものに乗る。
ライル達も恐る恐るではあるが、鉄の箱に乗った。
全員が乗ると足元が揺れ出し、重い滑車が転がるような音を立てて動き出した。
「お、おい!!動いているぞこれ!!」
「この感覚……ジェットスラスタで上空に上がる時と同じだ……。昇ってるのか?」
「ふむ、こんなものすら知らぬか。元はお前達の技術だというのに。」
ゼクトに馬鹿にされつつも一同は一つの大きな部屋の前へと辿り着いた。
「ここは……。」
白い大きな部屋だ。
壁一面が白く、そして人間が100人は入れる大きさの部屋だった。
「お前達に話をする為ここに連れてきた。ここは我らが会議を行う部屋。壁を見ておけ。」
そう言われても四面が白でどこを見ていいかも分からない。
しかし、ゼクトが体毛を触角のように伸ばし、器用に何やら基盤のような物を操作すると、白い壁にアイオリス山の中、各場所と思われる映像が映し出された。
壁一面に広がる様々な映像。
至る所に侵略者がおり、ここは敵地の巣窟だと嫌でも分からされる。
「見てわかる通りここは我々アーレス星人の本拠地だ。お前達が侵略者と呼ぶ者の種族名だと思えばいい。」
「アーレス星人……地球人みたいなものか。」
「そういうことだライル。」
「それで、ここを見せて何を伝えたかったんだ。」
「よく見るがいい、お前達の技術を遥かに超えているだろう。」
よく見なくても各場所を映し出す映像には見たこともない機械や兵器のような物が映る。
こんなものを見せられれば、いかに人類が劣っているか分かる。
「お前達人類はアーレス星人より劣ってるから無駄な抵抗は辞めろとでも言うつもりか、黒狼のゼクト。」
アレン隊長がゼクトを睨みつける。
するとまるでそんな質問が帰ってくることが分かっていたかのように、即答する。
「違う、ここにある全ての技術は元々お前達人類の技術を応用させたものばかりだ。」
「どういう意味だ……。」
「人類の技術をなぜアーレス星人が持っているのか、知りたくはないか?」
誰もがその質問を頭の中に浮かばせていた。
ただ、アレンとライル以外誰も発言しないのは、次々に映し出される映像に目が奪われていたからだった。
「これを見ろ。」
どこから出したのか、ゼクトは人間達の前に一つの冊子のような物を投げた。
ライルはそれを拾い、ページを捲る。
「こ、これって!!!!」
「なんでお前がこんなものを持っている、答えろ黒狼のゼクト!!!!」
横からチラ見したアレンが激昂しゼクトに詰め寄った。
無理もないだろう。
その冊子の1ページに書かれていたのは、”著者カイル・ドルクスキー、未来の人類へ”だったからだ。
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