アイオリス山脈⑨
「地球との交信記録?」
「はい、そう書かれていました。」
「な、中身は見たのか!?」
「いえ、見ようとしたらすぐに戦闘になったので……。」
ガロンは思考する。
地球との交信記録と書かれていたという事は、すなわち地球以外とのやり取りを示す。
ただ、なぜ司令官が地球との交信記録を所持しているのか。
誰が何処から地球に向けて交信したのか、謎は深まるばかりだった。
「それってどういう意味だ?」
「分かんねぇか?リッツ。司令官がそれを持っているということは、確実に地球以外の勢力と繋がりがあるってことだぞ。」
「な!じゃあやっぱり軍司令部は!」
「裏切り……いや、何か重要なことを俺達人類に隠している。」
4人で考えたがやはり答えは出なかった。
「とりあえず殲滅隊が帰ってくるまでは分からんな。恐らく黒狼のゼクトから聞き出した情報とオルザが持ち帰った情報は繋がるはずだ。考えたくはないが、恐らく軍司令部は侵略者共と繋がっているとしか考えられん。」
「そんな……じゃあリコ達が今まで戦ってきた意味って……。」
「意味はないだろうな。」
「そんな、そんなことってないよ!!!今まで何人死んだと……。」
「ここで嘆いても仕方がない。とにかくお前らは確実に軍司令部から目を付けられた。ここで隠れておけば見つかることはないだろう。」
「あ、ありがとうございます。」
「構わん。戦闘になれば俺も手を貸す。これでも元遊撃隊の実力はまだ衰えてはおらんからな。」
元遊撃隊は殲滅隊の前身となった部隊だ。
戦闘能力は言わずもがな高いだろう。
それも副長であれば、恐らく自分より強いとオルザは考えた。
「あ、じゃあもう1つガロンさんに見せたいものがあるの。」
「リコ、敬称はいらん。お前らから敬称を付けられるとムズムズする。」
「そう、じゃあガロンこれ見て。」
「何だこれは?」
そう言ってリコが取り出したのは先程盗んできたナノマシンの箱だった。
「この中にある注射器を打つとねどんな傷も治るんだよ。」
「何だそりゃ?魔法じゃねぇか。少なくとも今の技術では作れる代物じゃねぇな。」
「これのお陰で死にかけてたオルザが助かったんだよ。」
半信半疑なガロンは注射器を上から下から眺め箱に戻す。
「俺のこれも見てくれ。プラズマセイバーって代物だけど切れ味半端じゃないんだぜ。」
スイッチを押すと出てくる青白い刃。
近くにあったイスを切るとその断面は焦げている。
「うお!なんだそれ。ってとんでもねぇ切れ味じゃねぇか。ん?いや切れてると言うより焼き切っているってのが正しいか。」
オルザも先ほど盗んできた物をポケットから出した。
「あの、ボクもこれ……。」
「なんだこの白い玉は。」
流石にここで起動するわけにもいかないので、オルザはあの人間モドキを倒した時の様子を語る。
「ほお、電気を発生させる爆弾か。まあどの兵器も今の技術で作れるとは思えねぇな。」
やはりガロンも同じ感想だった。
「見たこともない技術が使われた兵器に、地球との交信記録……これはもっと調べる必要が出てきた。ただし俺達は目立って動けない。味方を増やす必要がある。」
ガロンはそう言うが味方などリコ達にはいない。
機工隊のジェイドはある程度話を知っており味方と言えるだろうが、これ以上厄介事に巻き込むのは気が引けていた。
どうしたものかと考えているとガロンが不敵な笑みを浮かべる。
「おいおい、俺を忘れたか?俺は元遊撃隊副長だぞ?ツテくらいならなんとかなる。幸いにして軍司令部にツレがいるからな、そいつに調べてもらう事にする。」
「でも危険じゃないですか?」
「危険だろうがやらない訳にはいかん。このまま軍司令部のやりたいようにやらせていればいつか人類は絶滅する。」
絶滅という言葉に一同は顔を顰める。
話はまとまりガロンのツレという者に調べてもらう事となった。
リッツ、リコ、オルザはもう街中を普通には出歩けない。
今後はガロンの家を拠点として動くことになった。
「ただな、殲滅隊にこの事を知らせる必要があるだろ?このまま何も知らない殲滅隊が帰ってこればそのまま軍司令部が拘束するだろうからな。そこでだ!お前ら三人の中で一番動きが速いやつは誰だ?」
ガロンにそう問われ三人は顔を見合わせる。
戦闘能力で言えばオルザに軍配が上がるが速さの一点のみでいえばそれは違う。
「リコだよ。」
「やっぱりか、お前はガキの頃から一番すばしっこかったからな。」
リコの身体能力は殲滅隊に勝るとも劣らない。
素早さの一点だけでいうなれば、アスカよりも勝っていた。
「リコ、お前に頼みたいことがある。」
「分かった!!!」
「待て、まだ内容を言っていないだろ。良く聞け、ライル達はアイオリス山まで一週間かかると言っていた。到着しそんなに長居することもないだろうし長くて2日滞在すればいいとこだろう。その後帰ってくるのにまた一週間。あいつらが出発して既に5日経っている。ということはだ、大体今から11日後には帰ってくると俺はみている。」
リコ達は何も言わずしっかりガロンの話を聞く。
「つまりだ、今から10日前後でこちらから殲滅隊に向けて出発すれば途中で合流できる。そうすれば殲滅隊がトリカゴ内に帰ってくるまでに話はできるだろう。」
「それをリコがやればいいの?」
「そうだ。ただし危険は付き纏う。何しろ単独でトリカゴの外へ出て殲滅隊に合流する必要があるからな。その間に侵略者と遭遇しないとは言い切れん。」
「でも、やらないと何も知らない殲滅隊は拘束されるんでしょ?」
「どうだ?できるか?たった一人で外に出る覚悟はあるか?」
リッツやオルザは正直辞めてほしいと思ったが、誰かがやらなければならないことは分かり切っている。
何も言わずリコの反応を待つことにした。
「いいよ!!リコなら侵略者と出会っても逃げ切れる!!!」
「その自信はありがたいことだが過信はするなよ。ならば9日後の夜に出発してもらう。ジェットスラスタのガスは3人分用意しておく。流石にそれだけあれば殲滅隊と合流するまでにガス切れになることはないだろ。」
9日後の夜、リコの単独作戦は実行される事となった。
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