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トリカゴの住人⑤

「コラァァァ!!!二度とやるなって言ったでしょ!!」


僕らは今3人で正座をしている。

リコがリンゴを盗む事に失敗したせいで図体のでかいおっさんに捕まったからだ。

家に帰ってきたリッツの母親ミアにこれでもかと言うほど怒られる事となってしまった。


「あんた達、もう14歳でしょ!?リンゴを盗むなんて馬鹿なことはもうするんじゃない!」

リッツの母親はとても若い。

まだ32歳だと聞いている。


「ライル!貴方まで一緒になってこんな事するなんて!」

「いや、そのリッツが誘ってきたから……」

「あ!ずりーぞ!ライル!参加したなら同罪だ!」

「リッツ!あんたは黙ってなさい!!」


僕らはこの辺りでいたずら好きの悪ガキという風に広まってしまっている。

もう何度目か分からないが、ここ最近は怒られてばかりだ。



部屋に戻ると、やっと一息つけた。

リッツの両親は怒ると長いのだ。

「はぁー、疲れた。」

「ホントだよ……」

「大体リコが見つかるからだろ!?」

「何それ!リコが悪いの!?リコからしたら先に逃げた2人のほうが罪は重いんだから!」


リコはプリプリ怒っている。

先に逃げた僕らが許せないようだ。

「ま、まあまあみんな同罪だよ、リコも落ち着いて……」

「むむ!ライルが言うならそうする!アニキはライルのお陰で許されたのだと認識しろ!」

「はーライル様々だわ。」


リコは昔からよく懐いてくれている。

歳は一緒だが僕とリッツより遅く生まれた為リッツの方が兄になる。

僕にとっても妹みたいな存在だ。


僕らはいつも3人でいる。

何をする時も、何処に行く時も。

だから周りからは三馬鹿と呼ばれることも多い。

まあほとんどがリッツ考案のイタズラばかりだが。


「それより明日兵士の一般公開訓練がある日だろ?」

「そうだな、必ず見に行こう。」

「リコも行く!」

毎年この時期になると、兵士の訓練一般公開が行われている。

僕らはその迫力に魅了され、必ず見に行っている。

特に僕は2年後兵士になるつもりだからだ。

その為に、先輩方の動きを予習する意味でも見に行く必要があった。




一般公開訓練当日。

訓練場には大人数が集まっている。

ちょっとしたお祭り騒ぎだ。

もちろん街道沿いには出店もある。

果物屋のおじさんも出しているようだ。

「お、クソガキ共、お前ら今年も見に行くのか?」

「もちろん!それよりそのリンゴちょーだい!」

「まあ構わんが……昨日はこってり絞られたようだな。」

「リコなんておじさんに1発どつかれたんだから!」

「そりゃお前、目の前でリンゴ盗むやつが居たら手が出るだろうよ。それも両手いっぱい。」

僕らがイタズラしても次の日には笑ってくれるこのおじさんは多分子供好きなのだ。


「ほれ、1人1つやるよ、味わって食えよ。」

「ありがとう!!」

こんな風にいつも何かをくれる。

商売が成り立つのか不安になるが、子供が心配することではないのだろう。


「お前らも2年後には16歳だろ?兵士になるのか?」

「僕はなります。」

「俺もなるつもりだ。」

「え!2人共なるの!じゃあリコも!」


僕は最初から決めていた事だが、2人はそれでいいのか?

「ライル、俺の両親も兵士なんだ。兵士の子供なら兵士を目指すに決まってるだろ。」

「リコも!」

リコは多分僕らに着いて行きたいだけだな。

「死ぬかもしれないよ?」

「そんなもん覚悟は出来てるぜ。」


そんなやり取りをじっと見つめていたおじさんの目線に気づき3人共そちらを見る。

「どうしたんだおっちゃん。」

「いや……何もない。まあ、死ぬなよ。お前らクソガキでも死なれると気分が悪い。」

「死なねーよ俺等は!行動力のリコ、身体能力の俺!それに人並み外れた反射神経を持つライルだ!」

3人共イタズラばかりしているせいか、同じ歳の子供達と比べれば身体能力に優れている。

まだ1度も侵略者を見たことがない故に、根拠のない自信が先走る。


「死に急ぐなよ、お前ら。」

おじさんはそれだけ言うと店の準備に戻って行った。


会場に向かっているといきなりリッツに肩を叩かれた。

「おい!あれ見ろよ!めちゃくちゃ美人がいるぞ!」

そう言われると反射的にそちらを見てしまうのが男だ。


長い黒髪を靡かせながら歩いていた少女は誰もが振り向くほどに美しかった。

その隣を歩くメイドの恰好をした女性も負けず劣らず美しい。

つい足を止めて見てしまうほどだった。

「あの子めっちゃ可愛いー!」

リコの大声が聞こえたのかふと足を止めてこちらを振り向いた美少女とメイド。

目が合うと少し微笑んで、また歩き出した。


「やべぇなあれ!可愛すぎか!?しかも会場に向かってるぞ!あの子も訓練見に行くんじゃないか?」

「だとしても僕らとは住む世界が違うよ。あの子の服装見た?明らかに高級な服だしメイド付きなんて。」

「もしかしたら兵士目指してる子かもしれないだろ!」

「だとしたらいずれ出会うことになるだろうね、まああり得ないと思うけど。」

「かぁー!現実主義だなライルは!希望を持てよ!」

そんなどうでもいい話をしているとリコが割り込んできた。


「ちょっと!!!ここにも美少女がいるんですけど!!!」

確かにリコもかなり可愛い。

短髪で活発な元気な女の子であり顔立ちは整っている。

まあ両親がイケメン美女の2人だ。

もちろんリッツもイケメンである。


「ああ、リコも可愛いよ。」

そう言って頭を撫でると満足したようで、むふーっと鼻息を鳴らした。



会場に到着すると溢れんばかりの人だかりだった。

人ごみをかき分けて、空いてる席を探す。


丁度3人が座れる席を見つけ腰を下ろす。

「なんとか座れて良かったな。」

これだけの人がいれば大半の人は立ち見になるだろう。


「あら、さっき道端で見つめてきた3人ね。」

急に隣から話しかけられ、驚いて振り向くと先ほど見た美少女とメイドが座っていた。


「あっ!さっきの可愛い子!!私リコ!!」

流石の行動力である。


「ふふっ可愛い子は貴方もじゃない?私はアスカ・ラインハルト。こちらのメイドさんはフィーネよ。」

お互い簡単に自己紹介をする。


やっぱりというか案の定良い所のお嬢様だった。

ラインハルトといえば誰もが知っている英雄。

人類最強と呼ばれた彼の死は、人類にとってかなりの痛手だった。


「貴方達は兵士を目指しているの?」

「ええ、もちろんです。両親が兵士だったので僕も兵士になるつもりです。」

「カーバイツといえば確か第一小隊の隊長を努めていた方でしょう?」

「ご存知なんですか?」


まさかこのお嬢様から僕の両親の名前が出てくるとは思わなかった。


「私の父上は知っての通りレオン・ラインハルトよ。だからよく兵士の話を聞いていたわ。なんでもかなり優秀な奴が第一小隊の隊長にいる、と。」

僕の両親はかなり強者の部類だったらしい。

英雄が認知しているなんて、これほど光栄な事はない。


「でも確か第一小隊は2人を除いて全滅したと聞いたけど……」

「そうですね、その生き残った2人はリッツとリコの両親ですよ。」

「ごめんなさい悪いことを聞いたわね……。それにしても世間は狭いわね。」


そう、世間は狭いのだ。

この壁の中で生きている限り。


「でもそんな優秀な方が亡くなるなんて、どんな化け物と戦ったのかしら……」

「詳しくはわかりませんが、黒い化け物だったと聞いています。」

その話を聞いた途端、目を見開き僕の肩を強く掴んできた。


「その話、もう少し詳しく教えて貰える?」

「え、ええ、もちろんです。」


その迫力に少し気圧されたが、続きを話すことにした。


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